作品

誕生パーティー

───白いすべすべした把手のない door のために
芥正彦
劇団『駒劇』 12月公演用
ZiZiのカクテルパーティ用


誕生パーティを演じる時の注意事項

「太平洋戦争なんて知らないよ」に於て発揮されたストレートな『力』と「僕とモナリザ/まぬけ大通り」の『遊戯』更に「Oh! Yellow Submarine」で持続することに成功した『時間』力を、三本の従軸にして役者がステージの破片としてフル回転することに全力をあげる。

①「力」……「表現」そのものの存在力のこと。
現実に対応し得るだけの強さを持ち得ること。現実よりも「力」のある「虚構」が生まれたとしたら「現実」はその時何に変貌するのか───。

②「遊戯」……これは「表現者」としての存在力が歓喜として空間支配に向かうとき。①が全うされた時にしか起り得ないものである。歌舞伎の「けれん」 か、能の「花」 か。

③「時間」 力……これは表現そのものを存在させる「現場」 である。同一体が変貌する時間、「意識」 のうねり爆発。「内」 「外」 を問わず、訪れ支配する「持続平面」 そのもののこと

以上、3 つは断えず混然一体となって空間を支えているものです。──意識の噴出! ですから観客は、「物」 「空間」 「人間のネガ」 によって断えず凌辱され続けられるでしょう。

客──街の通行人がたまたま居合せたのです。表現「現場」 に於る

PASSERS-BY
LOOKERS-ON

役者──街の生活即日常性を更に日常化できること必須、換言すれば、砂漠で2DKの生活を何食わぬ顔でやりつづけるのに似ているでしょう。

自らがステージの「破片」であることからはじまり、「破片」がむくむくと変貌し、走り、止まり、「力」へ「時間」へ「物」へと転化し、空間にステージ現出させること。「自由」が「自由」そのもののまま「身体」を吹き抜ける、即ち意識そのものの気まぐれに対してあらゆるスタティークを排除し得ること。その時はじめて瞬間瞬間への対応力が生まれ、現前にダイナミズムが変貌をもたらし得る。

パーティ──「人間が集まる」ことに関して、それ「以上」 でもなく、それ「以下」 でもない日常意識そのものが現場を捉えている。

その現場性は集団意識(演技)の第一歩である。「意識」の非人称性が示される図式的な会合でもある。その意味に於いては、全員(全成員)が演技者であり、同時に観客たり得る。更にその時、パーティは一つのワギナを形成し(1)空間を空間を遊戯へと歓喜されていく(2)環が「男根」の挿入を待ったりする。──即ち、生産余剰社会へと転落していく。

(1)によって表現空間に歩み寄る、──ホモ・ルーデンスへの道(「遊牧文化」の中の高度化文明の未来)←(ビートルズ・レボリューション)

(2)存在することの曖昧さが恐怖に変貌し、他者による表現があらわれるまで救済不能になってくる。

──実存主義への道(「農耕文化」の中の高度化文明の末路)

白いすべすべしたとってのないドア(アスベスト・ドア)

──「人間の存在」そのものの全き抽象性についての記号である。(「現代の悲劇」はすべてこの「在(ルビ:い)ることの抽象性」に起因している。)「人間の抹消しきった世界」はそれ自体全く「人間」は手の触れることのできない「世界」であるからしてそれは即「絶対者そのもの存在」であり得た。今日それが「人間」個々の内的世界にも勃起されていたということ。それによって内的時間が破壊され「自我」の自立が不可能になり「在(ルビ:い)る」というこの曖昧さが(本来的な自由が)アスベストとなり、ひいては疎外と恐怖と労働を生み、すべからくその「意識」による凌辱によって人間は再び新しいルネッサンスに入ろうとしている。(是が非でも必要なのだ。その凌辱に対処して在(ルビ:い)つづけるために。)新しいロゴスによる新しい「力」と「時間」それらが、「アスベストドア」の向こうから私の体を粉砕しにやってくることを私は「幸せ」と呼ぶことにしている。おそらく「生き急ぐ」ことによって、私は、現在を過去へ転化しその行為の中で「表現」そのものの新しい「力」と「時間」を歴史(現在)から奪い取り、「現在」をいちはやく過去(化石)へと抹消する術を学んだ。それが私にとっての四年間であり、私の「東大」であった。それは更に「劇駒」が「大学」であることの証明でもある。

ホール

PM6:30 〈IN〉

4人の白い礼装のビートルズが、パーティの準備を進めている。関係者の出入りが頻繁である。ドラム缶のお風呂が出来、大きなケーキが運ばれ通行人が入り込んでくる。突然、女装した芥が「泣き叫ぶガキを抱えてZiZiの中を素通りしていく」

「花嫁が倒れる」ビートルズに抱えられてどこかへ姿を消す。

踊りが始まる。花が飛び交う。鐘が鳴って「スピッツの四頭立てベビーカーでシモンがZiZiに到着する。」

カトリーヌ・スパークがシモン連れて客にあいさつし、踊りの輪の中へ入る。ZiZiあちこちでいざこざが起こり、殴り合いがはじまる。太い柱でZiZiの窓が封鎖される。

──音楽──明かり──次第になごやかさを取り戻してくる。「芥、コンクリートの塊をもって街を走りZiZiに到着する。」

スパーク アッハハハア どうしたっていうの! こっけいね。

PM7:30 〈open〉

赤ん坊がハンモックに吊られている。

スパーク 船かしら? ギゴドゴトン ギゴドゴトン たまらなく揺れているわ。ウハハハハ……

教授 あなたは教養を身につけたいのですね、あれはコンクリートミキサーの音です。

パーク 私の母は大学の講師でしたから、おほほ……それに私は東大の美学に行っておりますわ。

教授 例えば振動というのは……

スパーク 先生 この教室はタバコを吸ってもかまいませんの? 

教授 ……揺れている状態そのものではありません、いいですね。お嬢さん。

スパーク 先生おタバコ何になさっていますの? 

教授 ですから振動といいますとき、それは状態の記号ではないわけです。

スパーク 分かっていますわ、先生。このコンクリートの塊をハンモックに乗せて ホラ(極めて無造作に赤ん坊の吊られているハンモックを突き飛ばす)振動です。素晴らしいですは、おほほほほ……*時々関係のない人間が素通りしている街角なのですね。

教授 お嬢さん、ここはZiZiです。言葉を慎んで下さい。ウハハハ……

スパーク ちがいますわ、それは違います先生。

教授 「シモン! おはよう! 」ふりこです。

(スパーク)トゥーム トゥーム トゥーム トゥーム ……
(教授)ふりこ ふりこ ふりこ ふりこ ……
(スパーク)ベイビー ベイビー ベイビー ベイビー ……
(教授)コンクリート コンクリート コンクリート コンクリート ……

(2人すれ違いに走りながら)

(教授 1Fへ) 

(外のはしごから2Fへ)

(シモンを窓から外に連れ去る)

(代わりにハンモックをお花やナベや空きカンで一杯にする)

みんな地面を匍匐前進する。

スパーク踊る ヘーイ ヘーイ フッファファ〜〜

男(○:男)(ハンモックで揺れている)
空きカン ナベ 花 etc 床にころがっている
2F窓からそれがどんどん投げ込まれる

マスター どうかね、レノンくん、もういいんじゃないかい。あ そうそう結婚式は終わったらしいよ。
(男ハンモックから落っこちる。洗面器に水を汲んできて顔手足を洗い身だしなみを整える。)

レノン おはようございます みなさん。私は夢をみていましたのですよ、思わず感激してベッドから落ちてしまいました。式にも遅れた訳です(とくとくと夢の話をし出す。)浜辺、そう浜辺でした。私の母が老機関士と恋におちいったのです。海はちっともみえない浜辺でした。ただ藻くずが点々と黒いしみをつくっているのです。 Hey Jude, 私は結婚式に遅れたのだよ。テレビやサルトル、れい子ちゃんのハイヒール、ピースの煙、アリストテレスの手までがここかしこに見えます。海の見えない砂浜です。初老の機関士がまた初老の私の母を愛撫しています。そうだ、また見えた。光が見えたのです。知らないうちにれい子ちゃんは裸で立っていました。泣いているのか、笑っているのか 坐っていないのかちっとも分かりません。また見えたのです。白い民族がやってきたのだろう。(シモンにキスしてたマッカトニ消える)私と母がネスカフェのコーヒーを飲んで老機関士はF0101の列車に白いペンキを塗り遊牧民族と戯れています。ああZiZiのマスターはもう家に帰ったのでしょう。れい子ちゃんは裸で手にドイツ製のカミソリをもって陰毛を剃っているのです。その時私は3メートルも垂直にジャンプしたくらいです。しかし私は76センチしか垂直にジャンプが出来ないのだから、私は……恐らく3メートルというのは76センチのことなのだっ、76センチのことだ! 確かにテレビやサルトル、粉ミルクのスピーンやコギトれい子ちゃんのハイヒールやピースやアリストテレスの手や、ここかしこに転がっていました。そうです、私は夢をみていたのですから、実はジャンプなどはしなかったの。風が吹いていたのでしょうきっと。テレビやアリストテレスやれい子ちゃんのハイヒールだってサルトルだって粉ミルクのスピーンだってそうだ、みんな風さ。風がカゼッ、カゼッって運んできたのでしょう。そう言った方が真実を伝えやすくなります、マイベイビー! ! ですから、空を走る白いベスには私のタバコを吸って、いえ、私が走って白いベスがタバコを走る、ちがうかなぁ、私をバスに乗ってタバコが走るの……白いベスは私の飼っている白い四歳馬で「ランちゃん」という、アラブ系の馬なのですよ。きっとそうです、海のない浜辺に打ち寄せられた藻くずを見渡して、初老の母は私の白いバスに手を振っていたのですが、モーツアルトのハ短調なのだろうと思ったのだ。そうでなければ僕は大学教師であるはずないのですよ。ホントです。だって洗面器にガキを入れて歌う歌はれい子ちゃんの陰唇には、もう少しも生えていませんのだ毛は。走れハシレットゥーム走れっ

女(入ってきて)先生、私は教養を身につけなければなりませんわ。

芥のテーゼ (プレイヤはそれ自体ステージである)

先生が外のひさしに出て

中で教授が局長の娘のはなしをしたり、入れかわる

生徒(ランボー)先生、ここに局長の娘の歩いてきた道路の描写があります。

(誰かが旧約聖書を読み出す)ですから……

サルトル 例えばハイデッガーの云う自同律から脱出するためには、まぜ脱出しようとするか、それは嘔吐であるからで、その嘔吐から脱出しようとするのでありますが──〈AはAである〉ということで支えている本来的な曖昧さ──自同律を支えている曖昧さから脱出することではありません。それは「無知」という次元からの行動でしかありません。〈AはAである〉という即自から脱出することであり、ひいてはそれを支えている、云い換えれば〈AがAでしかない〉ということの raison(レゾン)即理由、絶対的な曖昧さの中に即自そのものを追いやり、即自の意識に対する劣等性をつぶさにみる対自存在を現前化することである訳です。ですから、エーテルにもかかわらずコンクリートはその曖昧さそのものの世界の中では、治水保林の材料でしかなく、テニスをすることによって、愛が不毛になるのは、テニスのボールがないのにテニスをするから、human-relation はマージャンすることになり(ベケット作「ゴドーを待ちながら」を)その四面性は即ちテトラの関係に於いて、ロゴスの四面性はマージャンは破裂することなく持続させられ次の奴が出てきて、テトラが壊れようとマージャンはその持続が断たれ世界内存在の自由が入り込み、外国人はピストルを発射し朝鮮人は自ら死刑を志向し、相変わらず検事は検事でありつづけると思ったのも束の間、そのロゴスの四面性の前ではたちまちその検事は自らの法でもって私刑を志向するものであります。それはソクラテス的存在の曖昧さそのものを、ゲットーの中のユダヤ人の飢えたる子供は私の嘔吐を読んで感じるわけですが、私は所詮空の空なるを曖昧さの曖昧さを悲惨の明るさを知ってそれをユダヤの飢えたる子供に教え込んで、素晴らしく楽しくなり、そして素晴らしく愉快に遊ぶだけの力が、力が、瞬間に対する力が在るということの中での存在力が云い換えれば一瞬に向かっての対応力、即ち永遠に対する存在力が欠けているのであり、ですから、私の全著作はその曖昧さの描写でしかなく翻訳でしかない私の全著作は、すべて私の嘔吐のロンカンタンの一行の中に消え去ってしまい、ロンロカッタロンロカッタ、遂に私はよりよき社会へ社会を導こうとしている単なる一労働者に引きずり戻されずをえず、私はコミュニストになりならなければならなくなり、自我と状況という関係だけで生き抜いているのであり、そうしなければ生きる理由がなくなり、私は偉いのでみんな私のやり方をまねしています。自我と自我イコール個と個という関係は不毛で、それは単に心情だけの行動ではあるけれど、私は個と類へと発展しているのだ。これは発展なんだ! (悲しそうに怒鳴る)これは発展なんだ! 不毛じゃない! 芥くんは不毛だと云うが、これが不毛だったら、ぼくはもうどうしたらいいのだろう。だからこれは社会を発展に導いているのだ。これは、いっぱいいっぱい人が信じている! いる! 芥はだからエゴのかたまりだ。“即自”存在のかたまりなんだ。あいつは悪魔だ、メフィストだ。(開き直った感じ)
芥なんて、私のボーボワールに誘惑させれば、すぐれい子ちゃんと離婚しちゃうだろう。そういう奴だ、芥なんて、アクタレ小僧め、駒場のガキめ。私のボーボワールは美しいのだ。偉いのだ。私の小論文を小説にして嘔吐として発表しようといったのも彼女だ。彼女はれい子ちゃんなんかより、ずっとずっと頭だっていい。それにきれいだ。絶対そうだ。そこいくと、れい子ちゃん、もうイエロージャップの色黒のブスで、はいて捨てるほどうんといるもの、ボーボワールはいいもの

誰か サルトルくん、一人足らないのだ、こないか? 

サルトル 行こう! 行こう! 行こう! 俺は行くよ! きみ! 行くんだ、きみ!

スパーク(サルトルを後ろから殺してしまう)

カフェオレを飲む朝、11時に夫が帰ってくる。背中から血を噴き出しながら、夫が帰ってくる。カフェオレを飲む。朝11時に夫がドアの前に立っている。手にちぎれた鉄のとってを振りかざして、足からカルシウムの屑が突き出ているのが見えるわ。カフェオレを飲む朝なの。私には見えるの。夫が帰ってくるわ。背中から血を噴き出しながらカフェオレを飲む朝に、11時、私は2時間前から目を覚まして待っているわ、おほほほほ──。どうしてあの夫ったらあんなに血を噴いているのかしら。おかしいったらありゃしない。もうカフェオレを飲む時間なのに。

(ラ・マルセイエーズを歌う。朝の太陽に向かって)
(再び窓から花やナベや空カンがとんでくる)
(人形劇、ラ・マルセイエーズで踊る)(きれいだ)

ボーイ(ト書きを読む)旧約聖書風に
教授入ってくる。突っ立って街を見ている。手を挙げてガキの名前を大声で笑いながら叫ぶ。(実際に叫んでいる声が聞こえてくる。)手にペンキの缶。カトリーヌ・スパークに赤いペンキをぬる、ボテッと胸の辺りに。

スパーク 先生、夫はなぜあんなに傷ついて、毎朝カフェオレを飲む朝11時に帰ってくるのでしょう。私にはそれはが見えますよ。

先生 あなたは殺人なさいましたでしょう。教養の光があなたの視力を増したのです。お分かりですね。スパークスッ 光!

曲「カムバック ベイビー」「フォクシー レディ」「ヘイ ジュード」

コルトレーンベースにこれらがミキシングされる──? 
スパーク踊る

我々の武器はもう残り少ない。日本人達を民主主義の夢からたたき起こして我々の戦線へ投入しよう!

シモン君、きみにはたくさんの博士がいるのだねぇ……

教授(ZiZiに飾ってあるアクターの写真を一つ一つカンテラで照らして) シモン、お父さんはねえ、おまえを探しているのだよ。わかるね、お父さんはどこにお前が居るのか心配でたまらないのだ。もし、おまえが迷惑なら、一言お母さんに云ってくれればいいのだよ、お父さんはすぐおまえの目の前から消えていくからね。ホラ、シモン、ここはあまり明るくないのだよ。だからお父さんはカンテラを持っているのだよ、お父さんはねえ昔ある国の王様だったことがあるんだけど、その時、お父さんはカンテラを手に入れたのだ。街にお祭りがある度にね、お父さんは変装をして出かけていったものだよ。お父さんのカンテラがないと、暗くて街の人々は祭りを楽しめないからね。昼も夜も街の人達には同じように暗いのだよ。だからお父さんはこのカンテラを持ってよく街の広場へ出かけたものさ、街の人達は喜んだものさ、謝肉祭の日など特にお父さんのカンテラがなければ暗くて自分の子供を羊と間違えて肉包丁で切ってしまったり、自分の娘か街の女か区別が付かなくなってしまうからねぇ、現に、シモン、お前のおじさんはお父さんががちょっと遅れたときがあったんだけど、自分の娘をコールガールと間違えて、その娘を、自分の娘をだよ、お前、妊ませてしまったことがあるのだ。だからシモン、お父さんは忙しくてあまりお前の面倒がお母さんより見てあげられないのだ、だからお父さんはこうやってお前が何処にいるかよく覚えておこうと思っているのだ。お父さんはねえシモン、お前のことを憎んでいるんじゃないのだよ。確かにお父さんはお前に何も贈り物をしてあげられなかったけど、お父さんにはお前にあげるものは何もないのだよ、シモン、許しておくれ。お父さんはカンテラだけなのだからね、だけど、シモン、よくお聞き、このカンテラはお前にあげるわけにはいかないのだよ、今、理由を云うことはできないけれど、シモン、大きくなったらお母さんに聞いてごらん、きっとお前のお母さんは教えてくれる筈だよ。なぜお前のお父さんはいつも家にいないのか、なぜ、カンテラを下げていつも遠くへ(ト書き的に曲“禁じられた恋の島? ”)出かけて行くのかね。お母さんは知っているの筈だからねシモン、お父さんはお前を愛しているのだよ。たまらなく愛しているのだよ、だけどお父さんはお前にあげるものは何も持っていないのだ。もしかしたらお父さんはおまえのなのかもしれないのだよシモン、こんなことがあってはシモン、お父さんはお前の側にいる訳にはいかないかねぇ、シモン、だから今、お父さんはお前がどこにいるのか、このカンテラで覚えておこうと思ってね、明日は又、遠くへ行かなければいかないからね。お前はお母さんといい子にしていなければいけないよ。お母さんだっていつまでもお前と一緒にいる訳にはいかないのは、お父さんと同じだけど、ただお母さんはここ当分、遠くへ行く用事はないだけなのだよ。だから、実に間が良かったのだ、お前の為に。だから今日はこうやって親子三人一緒に食事できるのだものねぇ、シモン、じゃあお父さんはそろそろ出かけなくちゃあならない。少しでも遅れると大変だからね、またお前のおじさんみたいな間違いを起こす人がでてしまうからね。お父さんはお前を愛しているのだよ。お父さんはねぇ、たまらなく愛しているよ、お前を。愛しているのだよ、お母さんに負けないくらいに、シモン、お前を……。コンクリートの前でのお遊戯に似ているね、シモン、お父さんは割とお遊戯が好きなのだよ。お父さんのカンテラはカンテラは、遊戯は? 遊戯は、コンクリートの前でシモン、お父さんはねえ、お前をコンクリートと呼ぶとき、お父さんは正直楽しいのだ。お前がコンクリートならお父さんはお前の前で、シモンの前で、お父さんは死に者狂いでおまえの前で遊戯しなければね。それがお父さんの仕事なのだよ。お父さんは遊戯する人なんだ。お母さんが止めようとしたときもあったけど、お父さんはちっとも聞き分けがないのはシモン、お前とおなじだからねえ、その点お父さんはシモンに、お前に似たのだね、きっと。だからお父さんのこととお前のことを間違える人が多いのだ。そうだろう? 二人とも全く聞き分けがないのだから。だからシモン、そのうちお母さんだって僕等と同じ聞き分けのない処女になってしまうんだ。お父さんはそれを知っているから、お母さんとはワギナとペニスの出会いがないのだよ。きっとそれはいいことなのだ、いいことを言うのはねえ、シモン、いことだから覚えて置かなきゃいけないよ。お母さんの愛は処女の憎しみの表れであることはお前だって知っているのだ。でなけりゃあ、お前がお父さんの前でそんなに泣き叫ぶことはない筈だものね。そうだろうシモン、答えたらいい、お前がそこに居るのをお父さんは知っている。

(急に大シモン笑い出す! )
(白い騎士になって)

あはははは、お父さんはお前を殺しにやって来たのだ、シモン!
おはははは、お父さんはお前を殺さねばならぬ!

あはは、シモン、お父さんはお前を殺しにやってきた。お父さんはお前を殺す!
お前が風に強姦されることを少しでも嫌がる素振りをした時、お父さんはお前を殺そうと思う。お前は安らぎを求める為にお父さんの眼前に現れたのではないのだから! Let's Walking & Dancing !!

シモン! その時お父さんがシモンなのか、お前がシモンなのか分かる!
砂漠が、砂が、地が、天が、「お前がシモンだ! 」とお父さんを指すか、あるいはシモン、お前を指すか、その時に分かるのだ!

(後半、シモンちゃん、後半ですよ)───みんな私服にもどって現実化したままつづく ending へ───

「局長の娘の物語つづいている」
まだまだつづくんだ、ホラもおうこんなにも変貌してきた、今そこまで帰るからいいじゃないかレノン(「Revolution」高らかに)、ホラ、シモン、私生児のお客さん達がみんなお前を見ている。嫡出のお前がねたましいんだよ、ヘェーイ、シモモモンウッウッ(レコード『グレゴリア聖歌』)

(階段)

歌 プレバロック──(優雅なんである愛である)

(ポリプロでお風呂に入る)

男 花が足らないね、まだ。

女歌手 (カウンターの中から)①ZiZiの Nescafe のめ 花が咲いたよ、みてみろ おまえたち 外にアジサイがさいているわよ タバコを吸え とても煙がでてくるよ おまえの口から煙がでるよ いいぞ れいこちゃん メキシコはどこだろうねえ
バナナを手に取って おまんこに突っ込めば(Refrain)いいぞ いいぞ 馬のようだ 馬のようだ
ZiZiで Maxwell を飲むのかしら? 
シモンの兄貴は2万坪の団地設計をしているだろう
シモンはハンモックで吊られているわよ
空カンで埋もれ空カンで埋もれてるかなあ
シモンはハンモックでコンクリートの塊だ ウエヘヘ
コンクリートの塊なのよ ホラ シモンはコンクリート
つっつけ レモンを投げつけろ コーヒーを飲ませろよ
②コンクリートは夢見る おまえのシャンソン人形
ZiZiはふるえる お前のシャンソン人形
(因に風呂に入っている男の水音はマイクからスピーカーを通してバジャーバシャバシャーとはっきり存在を示している)

9月は走る おまえのシャンソン人形
テレビはテレビだ おまえらのシャンソンうんこ
治水保林だ シアワセ ラッキー
みどりのシャツきて カフェオレかしら? 
赤いセーターラッキーかしら
ラバーソールはコンドームかしら
コンクリートはオナニーする シャンソン人形
シモンはゆれるかしら コンクリート イズ ドール
シモンはふりこかしら コンクリート イズ ドール

男(教授)2Fから降りてきて
大根買ってきます、大根です(おどけて) テレビよ 大根を探せ! お風呂から出てテレビを見ながら天丼を食う。れい子ちゃんのテレビにかいてあるよ、ねぇ

れい子 う! うっうっうっ

女、洗面器にBabyを入れて入ってくる。2Fと1Fを往復する。(マリアであることが分かる。)

マリア この人は返辞をしようとしませんわ。

ボーイ それはその人にできる最大の善意ですよ

マスター 彼はまた何か考え出しますよ。おそらく本当にいい女(ひと)だ あんた、あてにしてるよ。

ウェイトレス 静かにしなさいよ 静かにしてくださいったら。ご覧なさいな、この人は返辞をしようとしないでしょう 私が何かこの人のためにしてあげようとしても無駄ですわ。「ポールッ」だめなんですの。(マリアに)何か言って下さい。

まあ、言って頂戴な……私が何かこの人のためにしてあげることを怠っているようにあんた、思う? 

ボーイ 善意がない場合、弁護することは不可能に近い。

マスター だからネ、この人は自分にできる一番イヤなことをしているだけなんだよ。スパークッ、スパークッなんだ。

マリア この人は返辞をしませんの……。

ウェイトレス だから私のせいなんです! (金切り声になる)

(スカートをサァーっとまくり走り出す2階・外・で、くり返し叫ぶ)

マリア (笑い声で)私は教養を身につけなければなりませんわ。

洗面器の赤子がケーキケースの上に置かれる。ウェイトレス、ミルクを作り飲ませる。ガキは飲むかどうかわからない
──ええそうですわネ、きっとそうですわ。おほほ
──善意を悪意からはっきり区別しなければミルクを飲むか飲まないかわかるものですか

カウンターの中でボーイ、ピラフかなんか食い出す。缶詰を開けてまた食う。

──今飲ませるところですわ、私たちはもっと耐えなければいけませんわ。そうですよ、私たちはものの一分も耐えるということをしないですもの……ヒィーイッ。ヒィーイッ

ウェイトレス 今、ウェディングケーキが届きました。

お客様はもう少しお待ち下さいませ、あなたさま方はお持ちなさることが結局、あなたさま方にとって一番利口な手段ですものねぇ。

ボーイ 善意の分からん女は嫁にすべきではない。

ウェイトレス 私がZiZiの仕事をなまけているとでも言うのっ、私が怠ったことがありますの? サイモーン! ! シモン! ウッウッウッヒィイィイィリィトオオース! ! 私は待っているのに、こんなに待っているのに、バースワン(Birth one)カムトゥミィ私はどこへ行くの、シモン待ったっ
(ウェイトレス唱いだす)

(ボーイ)
オレハ シモン ダ
オレハ シモン ジャナイ
オレハ シモン ダ
オレハ シモン ジャナイ
オレハ シモン ダ
オレハ シモン ダ
オレハ シモン ジャナイ
オレハ シモン ジャナイ
オレハ シモン ジャナイ

ベイビィ、
Moon is Red or Blue ?
White or Large ?
Don't thing away
Moon is Yellow or Brown ?
Tiny or Dyed ?
Don't tink this,
Don't Sing this oh, You Moon.

人形劇(卵の中の舞踏会?)

生後(サルトル) ロゴスの四面性について今日は語ります。例えば「ヴェーダ」インド=ヨーロッパ語族の古語サンスクリットで書かれたものですが、これは作品ではなく、意識を非知識の状況から賛美する訳です。ですからそれは、ラーガが曲名でなく「曲」or「楽」という非知識状況での戯れの行為であるということで、全く同じであると云ってもかまわない訳です。

ランちゃん ところが先生、局長の娘は実は局長の秘書でもあるわけで、すばらしい牝牛の乳ほどの豊富さで汚職を季節のバケツにしぼりとっているのですよ。先生。街に自分の血のしたたり落ちるのを見てから娘は、その父親の局長の秘書を辞めたのですが、警察官の孫の子守を一時して、その恐怖からのがれようとしていました、先生、ところがです、実はまたその警察官というのが局長とグルなもんですから、裁判官が城になったり守衛になったりするのに堪えられなくなる訳です。そこで局長の娘は、その警察官の息子をある夜殺してしまい、腕を後に組んで牧場から一所懸命走ってきて。街をたたずんで見ながら走ってきました、先生。ですからダイコンがないよ、いいのかい先生! その局長の娘はその警察官に追われているのです、なぜって、先生、その娘は警察官の財産を奪ったのですからね。何しろ、息子を殺したのですからね。先生、警察官はその時局長の娘の変貌に即対応して、刻々変貌し出すのです。追われる者が街をたたずんでいれば、追う者は、(背后のプラタナスか或いは、しだれ柳でもいいですが)街路樹に在る訳です。けれどこの云い方は逆転してもいい。追われる者が背后の街路樹に在れば、追う者はその街路樹の根元にタバコの吸い殻を捨てて行く。守衛の魂が自分の捨てたタバコの吸い殻の煙に一瞥を加えた瞬間そこに、そんな吸い殻からチョロチョロ立ち上る煙か、その吸い殻にも、追う者があるのです。雨でも降ればすぐ、たちどころにニコチンは溶け出し、警察官は自分の富を減少させた犯人をすぐに局長の娘をたちどころに捉えることもしろ。街路に在った追われる者が手錠をかけられるのを待つのでもあるし、追われる者が同じ場所に居続ける以上、追う者は彼を一瞬のうちに捕縛してしまいます。ですからもう秘書をやめてからずっと局長の娘は、立ち止まることがないのですが、腕を組んでたたずんで街をながめて走っているのですし、教授の授業の終わり、ドアのところでデートに誘われてスポーツカーでアウトバーンをドライブモーテルに向かう時も、教授の顔がいつ変貌して発狂の像になるか、或いは、と家の雑踏の中にいる気になっている。パントマイム師がゼミの教室の生徒でありつづけているので。決て局長の娘や女にはならないのだし、朝10時になると局長は起き出し近頃娘がいないので、女中が毎晩一人ずつ、局長のラバーになっている訳を思い起こすまいとして、鏡の前で笑おうとするのだけれど、いつも頬がひきつってしまう。だが、局長は、いつも自分でそのことに気づかないことが多い。今朝も例外ではない。でなければ、これほど太っていられないのだ。オフィスに出ると某警察官の息子の殺害事件の書類が提出されていて、追う者でない限り割と快い気持ちのままその数ページからなるネガティブへ自分のサインをネガティブなまま記し、パイプを深く吸い込む。娘は局長の雇われコールガールでもあるのだから、その変化から女中が一人ずつ夫人に……だから妻が毎朝目覚めると、毎日違う夫人が食事を作るという、全く自分の家屋敷なのだから夫人が作るのだ、女中は主人の食べる料理には手出しをしなかったし、局長の娘は女中に手出しすることを許さなかった。部屋がノックされ係長が新しい書類を持って入り、その手にしていた新しい書類を局長の大理石の大理石にかけらで出来ているかなり精巧な書類おさえの文鎮の乗っている、普通より大きめな事務机と応接机の中間ぐらいな局長の個人机、もちろんこれは普通の検察官は承認している。係長が手に書類の消滅したのを感じると口を開いた。「お嬢さんは、ですから局長の女中すべてであり、その女中一人ひとり、どれもこれもコールかラバーか、いすのクラークかでどうも処理の仕方で局長はとまどっていらっしゃるわけですね?」守衛は相変わらずビルの前で街を見つめているし、その退屈さはビルから局長の部屋に通じている。局長は、「警察官は、自分の夫人の捜索願にかなり忠実に執行している」のを感じて、じぶんの女中の集合、あるいは夫人の集合からどの個をもって自分の秘書にしようかと考えだし、遠くの船上の人となった。船の甲板で守衛にあった。守衛と局長は母親が同じであったせいかよく出会うのであるが、二人の間には局長の娘と警察官との間にあるような追われる者と追う者の関係はない、全くない。母親が同じであるということがあまりお互いに遠くへ立てないのであり、双方とも会おうと思うことは少しもないのだが、偶然が2人の間にはよく起こる。ばったりと計算の外でめぐり合うのだが、当然合う場所にあってその社会的地位は、入れ代わるものです。今日などは当然、守衛と局長とが互いに立場を逆転させられてしまう出会いで、何によって?それは同じ子宮からということ。それだけでは既に処理できぬものとなっているのを感じながら、船はちょうど正午と太陽の海原からゴーゴーという光を受けて風をはらんで舳先はなんとも涼しいまま行くのだが。守衛は一等客船でランチをとっていた局長は救命ボートの下で小間使いのヘソクリで買ってもらった駄菓子屋のサンドイッチを食べている父親だ。ヒモだっーお客様だっー、検事だっー、娘はもう街の女から声をかけられている。──「お兄さん遊んでよォー、おねがい! 」──娘は手を腰に当てたままもの凄い勢いで街を歩いている。たたずんでいる。車の影に警察官のいとこが飛び出すのを気付かないふりをして、教授のデートの誘いに付き合おうかしらとつぶやいて、局長と守衛の会話に注意を集中したので、彼のいとこはスーパーマーケットに中へ消えて、そのまま娘を捕らえずに娘は事なきを得た。既に男か女か局長の娘は自分でもわからないくらいに強くなってきているのを感じた時、喫茶店の中の話し声とその中を流れるレコード音楽とがかなり激しく交じり合ったまま、局長の娘の回りを飲もうとするコーヒーの受け皿にまで恥ずかしいほど、裸の娘を写していた手にしている本のブックカバーのセロハン紙のかすかな反射の光にも局長の娘のヌードを飛ばしているひっきりなしに飛んでくる局長と守衛は。食事を終え、守衛の方からボートの下でサンドイッチを食べ終わった局長に話し出した。「我々がこう頻繁に会うことは、君の娘を捜し出すことから互いに遠ざかることになってしまうんじゃないだろうかねぇ、君」ボーイにタバコを注文しながら、さらに守衛は、「例えば、こうしている間は君は局長という権力を放棄しなければならんのだし、私は誰が出ていったか見守る、私の仕事場から放たれてしまうことにもなる訳だよ君」一言で言えば『怠惰』なのであると局長の女は自分のヒモとそのお客の作っている状況を平面の上に置く。牧場で守衛の甥はかなり乳房をふくらませた牝牛の回りの小さな足跡が何歳ぐらいの子供──老人の──女の──男の──妻か未亡人の──学生か──幼児では──中年の──? とで忙しく立っている牧場からは確か自分のフィアンセである娘、局長を父にしている大学生が佇んでいる街がよく見渡せる。自分のフィアンセがここで乳を搾ってから、今見ている麓の町へ降りていったことを確かめ、瞳をとがらせて再びモーツァルトを聴きに局長の事務所前のスナックに戻るのである。スナックでいつも疲れた時よくホテルへ行くと小太りのウェイトレスが守衛の甥のことを忘れようとしている。子宮だけがすでに甥のことを覚えているだけなのです。とウェイトレスは感じるので、今のように甥が疲れ切った様子で現れると自分が再びだんだん一個の子宮になってしまうことが自分ではどうしようも坑し得ないエロティクスの破片だ。局長の女のいる喫茶店と、このスナックは経営者同志いつもロゴスの四面性について語る仲間なのですのに。店の経営はスナックはあのウェイトレスまかせきりで。もう一方の喫茶店は月に二、三回顔出すだけで年の若い局長のおじの次男にだいたい預けておるのです。セックスメイトの出現で再びエロティクスの片割れになりかけながら、ウェイトレスは整脈がふくれ出てくるのを気付いて甥の前なので気付かぬふりしてつかつかとプレートを手にしたまま近づき、そうっと甥に接吻する。局長の女はおじの次男がカウンターに入ったのを見てすぐに牧場に引き返して行くことにして、アウトバーンを教授のクリーム色のスポーツカーが、わりと気持ちよいスピードで走る。娘は、助手席で教授のネクタイのほこりを払ってあげようとする。教授は左手気味でカーステレオのスイッチを押す素振りをそのまま局長の雇われコールガールの右胸を撫でているのですが、局長の娘はスカートをそっとめくって目配せを送ると、急に即興で歌を唱い出すから、教授は『はっ』として、ブレーキを踏まなければならなくなった。まだ牧場までは割と遠いけれど、車はアウトバーンから出てほこり立つ石くれの道に止まった。警察官は、殺された生後9ヶ月と2週間の息子の葬儀に立ち合って、妻の作ってくれたミルクティーをフーッと息を吹きかけてすすりながらつぶやいた。「局長はこの前、街で会った時、確か守衛のように俺の顔を見てすぐいなくなった。前にも一度あったことだ」「どうしたというのだ。こっちは息子が殺された上、その葬式にも充分時間を割いていられなかったというのに」「局長自身があんなことをしていて」「いいのだろうか?」かなり純粋な疑問を持つ。もちろん局長の娘はこの警察官とはコールガールとしての関係はあるのですが、実際に性器と性器をもってしては二人は係わりがないまま、娘の方が脱出していたのでわりと気持ちよく警察官の独り言を聞いていられる筈である。ところがかなり偶然の曖昧さの生まれたての息子を殺された警察官にはその偶然を偶然と感じられぬ身の上からコップが動こうと少しも動こうとなどしない事と同じ結果で絶えず曖昧さが必然的な時間で一瞬一々向かってくるのですが、この真実性のある時間故に局長の娘の追跡という仕事を局長から任せられたので、近頃はよくホモセクシャルな行為を示すこともあります。守衛の第二の妻が火を噴くようにベッドを転げ回り、ついに輪から権力がはずれて床に落ちっこちたそのベッドから床の間の遂落にささやかな過去が流れて、局長の娘が教授の白いスポーツカーの上でしたたる血を処理している様がテレビコマーシャルの中に見えた、妻であることはいくらそれが第二号でもあり、間男の時であろうが局長の娘の立場にある程度までは切迫していることを妻自身マスコミュニケーションの雑踏の中で感知し得るのだが、局長とその地位を入れ替えてランチをたしなむ守衛の視線はかなり怠惰な光に代わり、妻に自由な権力の内部挿入を許すことになる。床に身をのばして、じっとコマーシャルをレンズのない目で聞きながら「警察官に電話してあげようかしら」「この守衛の甥に娘を結局彼のフィアンセに早く花嫁を取り返しに行かせるように……。」考えるが次にはもう考えること自体億劫になり、再び目にはレンズが入りコマーシャルはテレビでしかない。守衛の第二の妻が急にベッドから弾んで天井に向けた背中を眺める。一時的なダッチマンの筋肉には自分のフィアンセを捕らえる敏速さは消えて、ただ球のないラケットが素振りしている。アウトバーンはもう牧場へ向かって行く二人連れの目の高さ程になっている。教授は娘の殺戮を目前にしてかなり明日の教授業の予習をしなければと思うのです。夜から昼へと変わろうとして、たとえば塔から出てもその鉄仮面を焼き切らなければならならない。そうしなければ教授の暗さは変わらないのです。教授がキャンパスへ足を踏み入れたときからその鉄面は塔へと走る。教授の立っている、歩いている、見ているものが絶えず教授を抹消し出すのですが、確か数年間は、それが堪えられぬ程嫌な自分の頭脳、次々と過去へ過去へと穴のあいたソーセージの袋のまま還元されてあらゆる音が自分の立っている地面から噴き出したのだ、局長の娘を。再びコールガール化した時、この父親はこのアウトバーンの下で助教授から教授に代わった日にまい戻されたので、このアウトバーンはすでに二人の腰の程までになってきている。

──つづく───

日常だ!監獄を爆破せよ!日常を捨てろ!まぶしさの中へはいらねばならぬ!パーティから離れろ!このバカ!さあすべての窓という窓を壊せ!さあ、窓を、ZiZiをこわせ、日常だ!監獄だ!錠前をはすぜ!うすのろども、ハンガリアン革命ダンスバンザァーイ、

(はしご)
(ドアをあけて外から中へ)

足音が聞こえるよ おいっ こっちへ来いよ ギシギシいってるよ 汗がとんできて ほら at random にたわむれている。

Beatles たち
少なくとも前面封鎖に我々は耐えなければならない!ばんざーい!
(オルガンをもって一人入ってきて伴奏しだす、少しやって又オルガンを持って出ていく、次に誰か入ってきて踊る、そのうち2Fへ行く)

戦線を拡大すると同時に塹壕の突破口を見出すことが先決問題だ。
(次に誰かお風呂に入っている奴に、ペンキを頭からぶっかけ、リンゴを口の中に押し込み、その後に観客になる。)(そのうち大声で)

シモン!おはよう!ハローグッバイ!
シモン!おはよう!ハローグッバイ!
シモン!おはよう! ハローグッバイ!

まず子供より親が大事、まず子供より親が大事、餓死していくガキの前で法学入門(や北村透谷)読んで聞かせよう ばんざあい!ばんざあい!!ウハハハハ……

餓死していくガキに空の空なるを教えて遊ぼう!ウハハハハ……ラ・マルセイエーズ! (シモン、外の乳母車の中で泣いている。誰かが電話をかけている。シュプレヒコールが行われる作戦会議がなされる)

……を拡大せねばならない!!

ZiZiを否定的な媒介にし、自己保存を全うせねばならない!
外→2F→1F

順番にぐるぐるまわりながら、外、箱(リンゴ箱のようなもの)がどんどん積まれていく。

治水治林の演説を行っている(ゴトーを街ながら──べケット作)。そんなことは どうでもいいよ日本人ども! このスピロヘータのおまんこチェロ!

箱がいっぱい積まれて行く 一段落する。歌を歌っている。飛んだり跳ねたり。ウェイトレスに言う

「そりゃそうかも知れないが、おれ達は何事も慌てすぎたくありませんね」

と言って「踏切り」の方へ駆けて行く、全員後について行っちゃう

──ダカラ ワタシのセイナンデス! (スカートをまくる)

階段(ふみきり前の)

たいまつ行列をしてくる。その明かりで「人形劇」が行われる。(アラバール? )
「おいっ 爆弾が出来たぜっ」

(2階へ叫ぶ)

「我々は耐えることが必要です! 」
「テレヴィがついていますゥ! 」
「ワレワレハタエルノデス! 」

街から一人男駆け込んでくる。
外の花ばしごを一気にのぼり

局長の女がやってきましたよ先生! 先生! 牧場から腕を組んで立っています。ミルクです! 血です! たれています。先生! 一生懸命なんですよ、街を見ているのだ、あの女は♀きっとそうです。街を見てるよ。学校の封鎖のどさくさを利用しています。〈諸人こぞりて 鼻歌が入る〉

生徒、はしごから(教授が道路から2Fへ向かって要を語る)

(ZiZiの白いモルタルにスライドや映画)
ハローグッドバイ!
(2Fのひさしから隣の八百屋などに写す)

ハローグッバイと叫ぶとき
1.現在行われているあらゆる愛行為が消え
2.全く白い新しい愛がふき出てくる。

恐怖に、そうです恐怖です。これに耐えることが教養です。
おじょうさあ〜〜〜ん

♂ 行く? 

♀ いいわ、だけどちょっと

♂ ちょっと何が? 

♀ 私、今あれなの、ホラ

♂ アハハハ なんだ、そうならそうと早く云えばいい。だからさ、ボク思うんだ、まあいろいろある訳よ。今日の新聞にも出てたけど、例えばあれはなんかさ、

♀ アラ、私も読んだわ。あの「カンガルーはクサイ」「カンガルーはニオーウ」「カンガルーはカンガルー」というやつでしょ

♂ あー違う違う、その下の小さく出てたやつ、「芥正彦に子供が出来たという」記事の脇にある「新大久保の某連れ込み旅館が火事になった。だけど、客は全員無事だった。もっとも、その出火した時間は一番客の少なくなる時間だ」という記事さ、某月。某日。某時──。

♀ ああ、それえ、ナァンダ

♂ 今日はきみはアンネだから、まあ、生活的には問題ないよね。

♀ そりゃそうよ。

♂ そう云えば、デパートからベビーのポリプロとガーゼと体温計とタオルとシッカロールと脱脂粉乳とが昨日となりの女の人が届けてくれるとTELがあったのだよ。

♀ 世界内存在の中での持続に堪えられるかしら。

♂ それは大丈夫だよ。明日から法学入門を考えよう。

♀ 私にはたえられないわ

♂ 入ろう

♀ 入ろうって卵の中で舞踏会なんて私──。

♂ 僕等はピクニックに来たんじゃないか。ピクニックにダンスはつきものだ。アハハハハハ

♀ 私はもう疲れたわ。毎晩違う男とベッドするのに疲れたの。私は疲れたわ。疲れたの、疲れたのよ。

♂ アハハハ、ピクニックに目的などある筈ない。ピクニックはピクニック。いいと思うよ、楽しくやらにゃいかん。

♀ 私、疲れたの、毎晩知らない方の相手を務めるのは、つらいことなのよ、それは最初は楽しかったけど、私のフォクシーレディ、私、フォクシーレディ、私、フォクシーレディ、私、……

♂ どうしてさ、子供ができたのなら生んだらいい。

♀ おじさんがどうしても許さないのよ、オホホホホ……いとこが欲しいっていうんだから。

♂ だってきみはまだ学生じゃないか。学生なのに結婚できる筈ないだろ、おかしいね、死刑になっても一緒になりたいってのなら分かるけど、さぁー。今日はきみアンネだからタンパックスか。

♀ いいえ、あのね、おじさんと検事はグルなのよ、二人は兄弟なの。お父さんが一緒なの。おじさんは今のお母さんの子供だから。

♂ まあ、それにしたって、デパートからはベビー用品一式届くと云ってきてるのだし、不可能だぜ。

♀ おじさんのいとこは、だからちっとも聞き分けがないのよ、本当は白痴なの。そのくせ、セックスだけは強いの。もしかしたら私、失神してしまうかも知れないわ。(これを聞いて男、急に叫ぶ)もしかして……

♂ さよなら! さようならあ!
(女かけ出す、そのあとオルガンを持ってかけていく人達がいる)
(男も反対の方向にかけていく)

♀ (走りながら男に)もう11時なの、私が見えなくちゃあ

(2Fに長いロープが外から入ってきて、1F、2F、外へと結ばれる、ロープは輪になる。テレビがつく、みんなロープづたいに歩きながら歌を歌う。ロープに花や飾り物がくくりつけられる。スパークは踊っている。)

外部戦線は膠着した。疲労が襲ってくる。しかし、その白いアスベスト・ドアの前で眠ることは、即、「死」を意味する。その白いドアの前で我々はちゅうちょすることは許されていない。
(窓から乱入して、客を怒鳴りつけ、封鎖し、再びどこへともなく去る。あたかも次の目的地へ向けて去っていくかのように! )
(再びオルガンを中心にして、輪になって労働人達がやってくる、ワイワイガヤガヤ楽しく)
(外で輪になって踊る)

シモンは何処へ行ったのかな。酋長は踏切のところで女子高生と腕を組んでいたぞ。ラ・マルセイエーズ! ゼブラ ゼブラ シッモッンッ! (オルガンを道路の真ん中において踊る)

ゼブラスカート モンスカート マラレガン! でも結婚するなら早くしなきゃいかんなあ。女子高生はもうパーだし、グッドバイだろう、あれでいいんじゃないかなあ。我々は労働に従事する! いいだろう観客達! おおい、ZiZiの中に座っている奴隷たち! 素晴らしく自由なのよね。

フランドルへ奴隷を導こう、フランドルへの道をシモンのユーフラテスへ! バンザーイ! ! そうだ、日曜日はねずみを殺せ!

象牙の球でねずみをぶち殺すのよお〜! 空き家で遊ぶ奴隷たちを救うことにするべえよ。空き家で遊ぶ奴隷たちを救うことにするべえよ。

家主のいない店子たちよ、シモンの虚言に退屈をしのぐ奴隷たちに観客たちのフランドルへ追い立てよう──(と云いZiZiの1階、2階を走る)
シモンちゃあああ〜ん
シモンちゃあああ〜ん
ギャアギャア泣くコンクリートのシモンちゃん
かたまりガラクタベイビィ、シモンちゃあああん れい子ちゃんのスリップは羊水でだいだい色に染まっていたよ。破水の後でだいだい色だよ。子宮から溢れている赤いおりものさ。石の上で夜が来るまでお前を抱いていたのがれい子ちゃんだよ。

れい子ちゃんはね、シモン、カフェオレを飲む朝11時にお前を抱いて歩いてきたのだ。

白いドアの取っ手を引きちぎれるまでこじあけようとしたのだ。そおさあ、ファシスト軍がやってくるまで森の小道をお前を抱いたまま、だいだい色の血で染まったスリップで歩き続けたのがれい子ちゃんなのだ、シモン コンクリートの魂を抱いて自分の帝王を傷つけたお腹をして、おまえの振動をお前の原形質の振動を抱いていたのがお母さん。さあ、観客供の為におまえの振動でフランドルへの道を開いていてかなければいかん。カフェオレを飲む朝11時までに、花嫁のやってくる朝11時までに花嫁の許婚がお前を取り返しにやって来ないうちにフランドルの道を疾駆してくるアルバ公を向え討つために花で飾られたバスなど老いたる者が恋をする浜辺、不思議なミュージックバスが何の役にも立たないのを知って、独り眠りこけているコンクリートの塊! シモン! さあ夜はストーンサークルの上で終わりだ。ドルメンの刃で夜は、くたばる。シモン、お前がストーンサークルの中で遊ぶときが来る。

コンクリートの破片よ、ダッチワイフとダッチマンの産物よ、局長の一時の戯れの産物よ、夜はストーンサークルの中で溶ける。マアクラアなんてのはコンクリートにはいらない。メンフィスの石に、真昼だ、真昼を二つに分かつ道だ、フランドルへ、ユーフラテスを鉄と馬の砂漠へ、鉄馬の都市へ

れい子ちゃんの血はすでに夜の終わりと共に、花嫁衣装だ!
花嫁が歌うだろう、真昼を分かつ底知れぬ明るみの中で、破水した花嫁が歌う、噴き出した血でお前の子宮を洗え!
さぁ、月が再び水路にその破片を投げつけぬうちに噴き出る血でお前の衣装を洗え! 花嫁衣装を洗え!
さあ、シモンに巨石が中を走る
ああ、シモンに巨石が駆け抜ける!
お前たちの血が飛ぶ時だ。月が処女の誇りを傷つけられ、自分のシンバルを鳴らす!
さあ月よ、打ち鳴らせ、血の湧き出ることのない泉よ鳴らせ。
金属の扉が風に身を任す時だ。処女自ら憎しみを風に託すのだから、シモンお前は走られれば鳴る。巨石がお前の心臓を突き抜けるたびに処女のシンバルを切り裂けねばならぬ。花嫁の憎しみがお前の羊水になるまでに
すべての誕生するもののために!

すべての誕生するもののために!
すべての誕生するもののために!
すべての誕生するもののために!

──みんな四人組になって、外1階2階を歩き出す。(踊っている)Dancing Walk──

金属の処女をストーンサークルの岩へ注げ!
さあ真昼を分かつ旅だ!
真昼を吹きすさび強靱な風だ!
砂塵の渦巻くお前の巨石たちが歌う風だ!
巨石たちの歌い狂う風だ、熱だ!
赤く爛れた溶岩の天に向かう竜巻だ!
死体の横たわる大地を焦がす流れだ!
さあ、お前の中で交じり合う天と地を真昼の街に噴き出す時だ!

シモンちゃ〜〜ん、オルガン弾こうよ! シモンジュースだよ、お母さんは破水したの、だからねぇ、シモンちゃん

映画 宮井クン、奥村クンのトランペットのファンファーレ。オルガンで「聖夜(きよしこのよる)」


ギリシャ悲劇

──知らないうちに出演者たちがパーティーをしだす。

☆芥 数曲踊る。
○ベイビー カム バック(イコールズ)
○フリー ジャズ(コルトレーン? )
○プレイバロック(レコーダーの為の舞曲)
○恋の季節(ピンキーとキラーズ)

──この間にギリシャ悲劇が挿入され、エレクトラの場面行われる(20分)

☆エレクトラ(黎子)──花嫁衣装
☆オレステス(白いビートルズ、四人組) コロスもかねる
☆アンドロマケとクリュタイメトラ(芥)──女装

誰か パーティの時間です。パーティはパーティらしくやりましょう。

《ギリシャ悲劇》

マスター テレビだとさ。「コガネイロノタイヨウガテンノホウガクヲカエテ、カンショヲギャクテンサセ、ソレガニンゲンノフトコロトナッタトイウハナシナノダ。ソモソモハジメハシスベキモノノオカシタツミト、ソノバツノタメナノダトイウ」荒野に向けて無駄なことさ、芥くんにピースもってってやってくれ。(前座)

オレステス 云いたいことがあったら云ったらいいんだ姉さん。姉さんだって花開く権利はあるんだぜ、まして僕らはZiZiを照らす二粒のダイヤじゃないかピカッ。客たちに対する僕等の増悪には、何の協定も闇取引もない程きびしさがあるばかりだよ。

エレクトラ でもねえ、オレステス。私だって泣くことはあるのだからね。ああ懐かしいお父さま、いたわしい夫! 赤い、真っ赤なサルビアの咲きこぼれる花園! 勝利の夢だ走れメロス! になっている時間が! ああ ろくでなしのアイギストス! この客どものいやらしさ! 頭をぶち割られて、さぞ痛かったでしょうに。涙を流すのは両の瞼だけではないわ。オレステス、お父さまのやさしさをいつも感じていたおなかも、悲しみと憎しみに後から後からこの客のいやらしさの為に処女でいつづけることができない……。

オレステス だけど、僕は童貞を破る勇気があるんだ姉さん!

ビートルズ的コロス

下り階段を登れ

下り階段を登れ バビューン バビューン

オレステス エレクトラ、きっと真の意味はそこにあるのだ。敗北者の泣きの涙は、勝利者の凱旋ラッパ! と同じだきっとそうだ。だから姉さんはもっと響く声で歌わなきゃだめだよ。体を小さく小さくしながらうずくまってるなんて見栄えがしないぜ。サンセイハンノウヨやろうよやっぱり。けいこ、けいこスキダヨ

エレクトラ あたし、唄なんか知らないわ。

オレステス 嘘、嘘でしょう、どうしたんです、まるで真蒼ですよ、貴女は病身ですね。だからボクが抱く時決まって貴女の肩は揺れ動くんですね。きっと自分では気付いていない病気があるのですよ。それともボクの頬の捲毛がくすぐったいのかな? 

レエクトラ そうね病気かもしれないわ、でも多少を論議してもはじまらないわね。言葉で誰か人を、何か物を呼んだらそれは失礼というもの。実際、僅かな言葉がもとで人間がつまづいたり立ち直ったりした例はこれまでにも随分あるのだから。……二週間も同じ生活を続けていると、そんな自分がどうにも待ちきれなくなってくるの。左の肩胛骨からタバコの煙が夫のピースの煙が、不安が、上昇していって後頭部、この辺かしら、煙の粒子が結晶しはじめて来たワ、鉛でも押し込められたように鼓動が乱れてくるの。おそらく私は待つことができない、自分から待つなどということはしない女だものオレステス。

オレステス (すがるようにエレクトラに抱きついて)ああ、姉さん、あの眼が忘れられないよ、ママンの喉に刃を突き立てようとしたら、あわれにも死を前にして、衣をはだけ胸を露わに身を投げ出して……ああたまらないボクはレノンを殺すよ、姉さん。恐ろしい行為だ。つらい勝負だ、こわい任務だ、あんたは見たでしょう、あなたの乳房を。僕たちを生んでくれたオマンコは地にひざまずいて、僕を生んでくれた乳房のミルクは泥にまみれて、僕の腰に頬ずりしながら泣きじゃくって云ったあの kiss 、たった一言……それなのにやっぱりやってしまったんだ、オレは奴を殺さねばならなかったんだ、そんな眼で見ないでくれ!今日ママンが死んだ、今日、ママンを殺した。血が姉さんの花嫁衣装にこびりついてとれやしない。でも、思ったほど油っぽくない。ああ、力よ、勇気よ、知恵よ、ボクの童貞よ!

エレクトラ 私の衣装は最初から染まっていたのよ、オホホ……

オレステス 姉さん!そんなにボクを憎まないでくれよ、

エレクトラ バカ!きらいよ、あんたなんか、このマザー・コンプレックス、(オレステスをムチで殴る、蹴る)あたしという女を前にして、何がクリュタイメストラよ。

オレステス ママンにはクリュタイメストラなんて名はついていなかった。それでいいんだね、だけどボクは姉さんが怖い。

エレクトラ そうとも、ばばあは、いつも自分自身の排泄物にまみれて横たわっているのだわ。悪霊をはにやかみもせず、たらふく食い尽くして喰い足りない女よ。あんな糞まみれの孤独などどうみても高尚じゃないの。カフェオレを飲む朝11時に私の夫が帰ってくる──。

オレステス いや、それこそ完全な孤独だ。ボクには堪えられない。

エレクトラ それでも一理はあるわ。とにかく「母」のようなコールガールを見ると、私たちは同じ希望でぐつぐつ煮えたぎった愈しい殺意を共有するでしょう。

オレステス ですね。

エレクトラ 子供達に分別が付き、母親の方も生産をやめたとき、子供は母親の穴に融けた鉛を注ぎ込んで殺すのが儀式なの、成人式でしょ。自分の存在を二つの世界に排泄した存在に復讐しないことで免罪符を得ている人たちに存在証明書がないのは当たり前。このバカ面のパーティ客をごらん!原罪を後生大事に抱え込んでぶくぶく肥満したベビーフェイスが街に溢れる季節に、儀式が崩壊して、尊属殺人が、その共同幻想が、十字架にはり付けられてしまうんじゃないの。可哀想にね、この人たち。

オレステス さびれ果てた原野に向かってそんなこと云ったって、姉さん、バカらしいじゃありませんか。無駄な愛液は使ってはいけないっ、あなたの愛液はすばらしい精液のためにある。

エレクトラ 今となってはもう、やたらためらう時ではない。オレステス!遂行しなければならない。もし、ママンが、あの大きすぎる子宮が、哀切を帯びた調子で何か云ったら、こう云ってやりなさい。“オバアサン、コレデモ充分待ッテアゲタノデスヨ。姉サンガ泣キハラシタ真ッ赤ナ眼ヲシテイル時ニ、アナタワ、ビッショリ濡レタシーツニ陰毛ヲチリバメテイタジャアリマセンカ。これからクロノスのスケジュール通り責任ヲトッテモライマス。意義ガアルカモシレマセンガ、今トナッテワ、ドウアガイテモ、モウ手遅レデ、ドウスルコトモデキナインデス。イイデスネ”……さようならのキスをしてあげてもいいわよ、ごくさりげなくならね。

オレステス その手続きを経てはじめて姉さんとボクとは本当に愛し合えるんだね。僕は知っている。そうだ、いつも僕たちは一緒だったんだ、生まれた時から69の形の組み合わさっていた。西洋梨のような下腹部や葡萄色の尖った乳首、それからルージュの味のする唾液、のびかかった脇毛とのびかかったヒゲとが合致する旋律、ベイビィカムバック!

誰か アンドレからお手紙が来たゾエ、読んだのかよ、オイ。

コロス 何も知らん、パーティはパーティらしくやるだけのことだ。

オレステス うるせえな、読めばいいのでしょ、読めば。……アガメムノン王の死、それも全く不慮の死、以来2週間だ。この2週間の間に、ぼくらは3度愛し合った。お互いの胸に聴診器をあてて、愛や情熱のありもしない期待を探ってきたんだ。姉さんとぼくは確かに同じ臥床に横たわっているんだけれど、姉さんはきっと僕のことを愛していない。父を殺されて、不義密通の伯父と、その男と王として天として公然と交わる母の二人から追放されて、あなたは途方に暮れる。ヒーッイ、ヒーッイ。

エレクトラ どんな男のどんなベッドに行けばよいのかしら。

オレステス 僕は、コサック人の帽子をかぶったさっきの聖蹟桜ヶ丘生まれの奴隷の口から、破滅的なルポルタージュを聞くのをどんなに望んだことだろう!あの女の発狂穴から腐蝕していく肉、あの男の溢死、ルナの精子をまき散らす睾丸の破裂……すべては見飽きた夢だが、こんなものでも終わりし道の標べくらいにはなろう。クロノスの振り子の単振動の絶え間ないリフレインが、どこにもない場所を照らしだすまでは。……こんなに発見の会の影響を受けて、オレは全くなんて無能なんだチクショウ!

エレクトラ 大丈夫よ、クロノスは心優しい神ですもの、ただしアベベさんのように黙って走っていく人だけにしか資格はないけれど。見てごらんなさい、あの人。あの人の眼、私の夫。

オレステス あの人の求めているのは何だろう。日毎の熱い太陽か、フン卑猥な、それこそニセの太陽ではないか?それは日々の太陽の運行が空を黄色く染めて作った幻の軌道を指でなぞっていくことでしかないのだ。どうせ得られるのは、アイギストスのようなどうしようもない男の黄ばんだ精子ぐらいなものだろうよ。

アンドロマケ(エレクトラ) なんだって! もう一度お言い。

コロス 忘れられないの、ヘクトールが好きよ、退学レノン!
デッカイ楯をもってさ、城壁の彼方見てたわ。
私は裸で、売られ売られてゆく。
かわいいポリュスクネも殺されて、
恋は、トロヤの炎は、空を染めて燃えたよ。
死ぬまで、私を一人にしないと
あの人が云った通り、敗残の季節よ、芥の子供よ。

ヘカベ 売られていくの、アンドロマケ。かわいそうに

アンドロマケ あらそうかしら、私のどこがかわいそうなの? 手前勝手にポーズをとらない方が身のためよ。

オレステス ね、この人誰? 

誰か 知らないの?ダメだねぇ、もっと勉強しなよ、自分の将来のことは、ヘガベだよ。

オレステス 動物園のオウムに“あなたってすてき”って云わせたくてしょうがない人だべ、ヘカベっていう人は。ボクの個人的な考えだけど。ヘカベッカナあ。

アンドロマケ 女の代名詞だ、木馬なんか引っ張り込んでさ。かたくなに守ってた城を、ギリシャのフェイントプレーに引っかかって大股拡げたのだ。ペッティングがいいのさぁ、そうさぁ。

ヘカベ 何と恐ろしいことを。この大嘘つきめに呪いがかけられんことを。

誰か (アンドロマケに)だけど、アンドロマケさん、あんたもあんまり、褒められたものでもないでしょ、ヘクトールにとっては確かに貞操堅固な女でしたでしょうよ、でもさ、次にやったことは次の亭主のとりっこじゃないの。ヘルミオネとのね。女人の心に生まれついての悩みというものは、わけても恋仇には激しい敵意を燃やすものとは聞いているけれど。何しろ、不信のときなんて云うくらいだもの。

アンドロマケ お黙り!さあ、ダマレ、ダマレ、ダマル、ダマル時ダマレ!この売女どもめ!

ヘカベ 私をごらん、私の不幸せは、もはや私の手には負えぬ。その上ヘクトールの嫁には冷たくされるし。

アンドロマケ 自身の自堕落が招いた不幸の中で運命に身を任せようなんて科白はしゃらくせえ、卑怯者め、パーティの客よ。

エレクトラ 結果論の証明のために前科をあがきたてても何もならないわよ。

ポセイドン パラス!パラス・アテナ!時が来たぞ、ヘイ、アテナ、さあこれからはお前たちが償う番だ。戦をしろ、愚かな人間ども、学内を封鎖しろ、バカな学生ども、畑を荒らせ!街をぶっこわすのだ、神殿を犯し墓をあばけ、街を捨てて監獄ロックに入ろう、そして負けた者を拷問しろ、ウイポリラリパだ、その果てにおまえたちは死に絶えるのだ。一人残らず。キムテクッタカウンクッタッ、さあ死に絶えろ、オイディプスコンプレックスどもめ、パーティ客め!オレステスめ!

オレステス やっぱり姉さん、唄なんて知らなかったね、よかった。通り過ぎていった女たち、怒りと蹉歎の歌、失ってしまったものへの追悼と愛着の歌、失ってしまったものへの鎮魂の葬列、夢が欲しさに束の間の……ってやつがいつも女の運命だ、かわいそうに、ボクはそんな女はきらいだ、ほんとにトロイヤ、あの女たち。

コロス おっと、待った、ちょいとマチーネはないよこの芝居、オレストちゃん、酔ってはいけませぬ、詳しくは云わぬが花の吉野山、背后に寡黙の欲求を持たぬ饒舌は自足に向かう。饒舌の空転は今、さながら風俗の属性として現前している。芝山クンの如き自己権力よ、

誰か トマトジュースは燃えているかって?およしよ、おまえさん、まあ太陽は燃えているかって云うよりゃいいけどね。ああ燃えているともさ、赤い、真っ赤な血の色だ。いいかげんにしろオレステス、見苦しい。

オレステス こうやって、いつまでも姉さんに抱かれていたい

エレクトラ 甘ったれたりしないで、早く行っといで。軍勢を用いたりしてはいけない。自らの肉体をもって、自らの剣により、制裁しなければ。力と勇気とヘクトールの知恵のように。

オレステス 暗殺の美学ねえさん!そういえば姉さん、美学の4年だったかな。おれ、おれ恐いんだよ。

エレクトラ いまだならざるものの、やがて現れる、いまだ来ないものがやってくる。カフェオレを飲む朝11時に。

オレステス 誰が? 

エレクトラ お前の殺さねばならぬ、いいえ、そう云っていいのかどうかは知らないけれど、敵と呼ぶにはあまりに実体のない、そして、とてつもなく恐怖のものが。とにかく男オレステスの対峙しなければならないものが。

オレステス だって成人式は終わったのだし、へその緒だって、ほら、あんなにひからびちゃって、ザマァミロだ。

エレクトラ 勝った負けたと騒ぐじゃないぜ、あとの態度が大事というもの。

オレステス じゃ、別の? 

エレクトラ そうよ、アイギストスとクリユタイメストラではないの。栄華の夢におぼれ、名誉と権勢の囚人(ルビ:とらわれびと)となった人たち、そして不義のしとねに不忠を謀(ルビ:たばか)った。ドロスとエロス(ルビ:邪恋)の2つから妖しくも生まれ出た変化(ルビ:へんげ)の姿。よし、むごい賃借の姿と云われようとも流血は流血で返され、彼らは死んだ、でも、この殺戮を私たちの背后にあって黙って見ていた影が、翳の影が、あるような気がして……

オレステス それは神?人称の消えた、とってのとれた……

エレクトラ 神々は生まれて死んだ、それだけのこと。上空をチラリとかすめて去った日立キドカラーの旧式飛行船みたいなもの。私の云うのは、その姿をみるだけで、いや、その存在を考えるだけで、私たちが凍てついた氷となってしまうような、強いて云えば、陽光も漂白し尽くされて、白い太陽が大気を吸い込んでしまう、ああっあんなに背中から血を噴いてああ、いつも朝、私のトビラの前に立っている。ああ、あんなに……。

コロス 歌を忘れたカナリヤはレノンのキンタマなめましょう。

(以下パーティ風サロン風の会話で、たとえばの話)

オレステス やあ、きみ、しばらく

誰か(♀) ……。

オレステス どうしたの、今日はとてもお化粧厚いんだね

(別の)誰か (ひそひそ)中尾ミエみたいな顔だけど化けるとちょいと華やぐ。Fascinating Eyes by Max Factor すみにおけないものですね。

オレステス 海へ行こうよ、浜辺の砂が海の秘密を教えてくれる

誰か いつかね、いま、お仕事が忙しくてだめなの

誰か (安ドウクンに類似のルポライター)でもさ、それから8ヶ月も経ってマタニティが似合う女は少ないということを実証してしまったのか。

誰か(♂) そして彼女は他人の視線に引け目を感じる、だから、却って故意に畸型を突きつけて、NORMに挑発をかける。あの女のようにその種の劫作に慣れていればまだいいけれど、美徳と善良さんの対角線にはさまれた者たちは……(などなどとパーティですね、本当によかった)

昭和43年11月20日
文責 北村一郎

効果


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