作品

シンポジウムとしてのテーブル演劇:停滞国家 芸術の復権

地下演劇 no.3、1970年12月1日


作家秋山駿
カメラリポーター金坂健二(途中退場)
少年詩人帷子耀
演出家佐藤信
舞踏家笠井叡
俳優芥正彦
詩文家芝山幹郎
散文家夏際敏生

再現編成= 大場みつえ

地下演劇No.3 1970年12月号

太字ACT【Ⅰ】街路と文学……エロスの「屠殺」街路は隆起したか?
太字ACT【Ⅱ】演劇の街路……烽火の「進路」で季節の撲滅は成されたか?

芥 床が回っちゃっているわ! 天井が回っちゃっているわ! 何か、風景も回っちゃっているわ! すると、テレコなんか回しても役に立つはずないんで、そうすると、部分が来るということはないんじゃないかって気がしますけどね。

笠井 つまり、部分も全体もないということですか?

芥 はい! むしろ“居る”ということが、あるわけです。(太字:はい! むしろ“居る”ということが、あるわけです。)全体であるわけですけれども、それが部分になってしまう。点になってしまう。で、どこへその点を、ポンポンと置いていくかみたいなことで“パロール”という、それが初めて素晴らしい身体でやりますと舞踏になるのではないかと思いますけれども。見る動作、まあ、動く動作、獲ル、それを現前する仕事ということで。

佐藤 ぼく、それを笠井さんに現前するということでもっと聞きたいわけですよ。

芥 そうですか。

佐藤 何か、断片っていう……。

芥 それらは、まあ、断片っていう意味含んで言っているんじゃないですけれどもね。むしろ、断片にしないためにということですけれども。部分に触ってしまう。その恥辱をはらすわけで、フィクション狩り(太字:フィクション狩り)が、始まるわけですね。

笠井 だから、僕が“部分”って言ったのは一つの仮説を言えば仮説になるんだけれども。結局、ここに来た自分の肉体の部分しか語れないんであれば、どうすればその全体に自分でそれを補うことができるかという会話をしたいですね。

夏際 あなたにとって、ここに来るということが“状態”でしかないわけです。“状態”でしかないから、トマドウんでしょう。

笠井 状態でないんです。傾向なんです。“来る傾向”なんです。

夏際 傾向っていうこと……。

笠井 動いている傾向です。状態でないですよ。こういう状態は。

夏際 ここに来るということが、一つの出づっぱり形態でなければ、状態でなくて、形態でなければ、形でなければ……形には部分も全体もないわけですから。

芥 まあ、そうですねえぇ。

金坂 どうもそれこそ関係ないね。形態も何か形ですか。状態といったか? パロールだとか全然、関係ないね。部分だとか……

芥 それを幸せというやつですよ。そうやって関係ないという……いわゆるラッキーっていう……単純な方法です、全く。

金坂 関係ないの! (金切声で)

芥 そうすると人生というのは恥辱をはらせない。頭の中からかぶって、まあ、水中遊泳ですか。

金坂 恥辱っていう“ことば”は大体関係ないんだなぁ。オレには。

芥 だから、ラッキーだと、単純な方法。

金坂 つまり……。

芥 そういう人生は、ごく単純な方法は還元されたから悩みも用もありますまい。

金坂 単純って言えば単純だよ……。

芥 それで、終わりだ───つうことで、後はエンド・ゲームを楽しむだけになってしまう。それがフィルムを回すことになってしまう。また、単純な方法になる。“どうする?”ってわけです。それを。それが人類停滞というやつですからね。その停滞を食い破らなければならないっていうあたりにロゴスが出てくるのですぞ。

金坂 しかし、ちょっと言語的にいくと、アンチ・ロゴスだな。

芥 だから、アンチも何もないのがロゴスだと。つまり、それが形態という一例です。

金坂 単純が要するに前提的に何も言わないで単純が悪であるみたいな。

芝山 そういうことを言ったんじゃない。全然、違いますよ。だから、あの、数学の三分の一をずっと割っていっても、いくらやっても絶対端数ができると、そういうときには、その無限小数点みたいなものにすいて、あなたはいかにお考えになっているのか。(太字:学の三分の一をずっと割っていっても、いくらやっても絶対端数ができると、そういうときには、その無限小数点みたいなものにすいて、あなたはいかにお考えになっているのか。)いまの話だと、全くののんべんだらりに言っているだけで、部分と全体というとも、たとえばそれは、あくまで……便宜的なケースに……ですけれども。

芥 金坂ちゅうのはぁははははァ ハイエナにしかなれないと思うんですけれどね。カレ、他人の獲物を食いちらすだけど。

芝山 (金坂氏に)それはどういうことになるのか。全然いまのあなたのお話だと、はっきりしでこないんじゃないかと思う。ただシンプルなものがいいということでは、何も言っていないんじゃないか。

金坂 俺はシンプルだと思っていないよ。向こうが単純と言っただけの話だ。だから、複雑だとも別に言わない。

芝山 それはそうでしょう。

芥 何も言えないということですか?

金坂 そんなこと言っていたってしようがない。

芥 それが停滞の原因だと……

金坂 何も言えないほうがいいんじゃない。

芥 アッハハハハ、結構ですね。ですから……まあ、“単純” っていうのはか“力”ですからな。いいと思うんですよ。ところがまあ、自分が、有理数で割り切れちゃって、割り切られて、ところが無理数のほうにいちゃつくと……あとで非道いことに。

芝山 しかも、それは無限にあるわけでしょう。孔みたいにね。

芥 世界を持ってきたような気がするんだけれども。実は世界のほうは笑っていて、そこには世界の写絵しかない。その辺の恥辱をはらさなければということなんですけど……

芝山 恥辱というのは芥さん独自の“ことば”だけど。

芥 まあ、“居る”ということが恥辱以外のなにものでもなかんべってことです。(太字:まあ、“居る”ということが恥辱以外のなにものでもなかんべってことです。)ですから、ハントですよ。狩猟、狩猟っていうか、散歩じゃなくて、だから、ピクニックに行くんだったら機関銃ぐらい持っていけということです。だって、日曜日にサラリーマンが妻子述れて、カメラぶら下げて、写真を写すというのはちょっとわけが違いますでしょう。“光”をもらいに行くんじゃなくて、光のないところに光を与える作業ということにしないと映画も。ですから、機関銃と同じですけどね。カメラって。据え方がむずかしい。物を殺すには物をもってしなければならないでしょう、おそらく。肉体を殺すには肉体で。肉を殺すのにものをもってするのは政治という文明ですからね。これはもう、誰だってできるわけですからね、やらなくては。(太字:肉体を殺すには肉体で。肉を殺すのにものをもってするのは政治という文明ですからね。これはもう、誰だってできるわけですからね、やらなくては。)

芝山 だから、今言ったその辺で、その光源が存在しない光条みたいな気がするわけです。その辺がやっぱりむずかしいことだと思います。むずかしいって言うか、それはあたりまえという意味と同じ意味なんだけれども。たとえば、意志のとり方みたいなことも、やっぱりある程度は……

芥 むしろ、それがあることによって、太陽生命圏でいちゃついている人間どもが、莫大な恐怖のどん底にたたき落とされるようなシロモノを、それのみが一つの、ね! 「光栄」です。光栄というか、初めてそこで勝得るんじゃないですか? たとえば土方氏の踊りにしても“バァーン”(机をたたく)と、こっちが動けなくなるみたいな状態へぶち込まれる瞬間があって……。まあ、その辺ですけれどもね。居ないのに居るって、居るわけですね。コレ、形態ですから、部分が来ているんじゃなくて、全体が来ている。

芝山 居ないのに居る。だから光源なき光条なんて言いましたけれどもね。“光”っていう、比輸で言えば。

金坂 比喩! 全部比喩だね。

芥 えっ? ヒフ? ヒユ。

金坂 全部、比喩だね。

芥 全部が比喩?そうすると、すべてがフィクションの上にのっかかって、またまた空中にかけられたというわけですね。それはランちゃんが言っていますからね架空のオペラ……。

金坂 比喩をとらえる為に。僕は最初にそいつを回わしていたほうがいいと思ったんだな

芥 でも、金坂氏、あなたが、肘ついているその机は比喩じゃないですぞ。

金坂 それは始まりなんだ、むしろ。それで終りだとは言っていない。

芝山 比喩ですか、それは?

芥 だから、あなたはそのエンド・ ゲームになるって言っているんですよ。

芝山 僕はできるだけ、あるものに、存在しているものにできるだけことばを近づけようと、さっきから言っているわけですよ。(太字:僕はできるだけ、あるものに、存在しているものにできるだけことばを近づけようと、さっきから言っているわけですよ。)それを、まあ比喩だとあなたがおとりになるのは一向にかまわないですけれども。

金坂 それはですね。

芝山 ですけどね。だから、いま言った、いわゆるいくら割っても割り切れない三分の一みたいなものが残っちゃうと、そのいわゆる有理数の回りに無数の無理数がある。

芥 でも、比喩を楽しめないと優雅じゃないし、それは人間じゃないな、ハイエナだな。(太字:比喩を楽しめないと優雅じゃないし、それは人間じゃないな、ハイエナだな。)

芝山 いましゃべっていることを比喩だって言うならば、やっぱり、ことばの腰の強さとか、あの柔軟性みたいなことをあまりわかっていらっしゃらないかと思うんです。失礼なんですけれども。

金坂 全然、腰の強さも感じなければ、柔軟性も優雅さも感じないよ。

夏際 自分の感覚なんぞにすがりついてんじゃねえ、いい年して。

芝山 ことばに対して?

金坂 要するに……二人がなれ合いだ!

芥 人類全体がなれ合っていたら、どうです。そんな、一人や二人じゃなくて。

金坂 だからさ、人類全体が幸福なことには? ということを僕は表現したい。

芥 比喩なんていうのは現実というやつにパンチをくらった心情受難でしかない。だから、おそらく君にとって現実のほうがそびえていると。だが、われわれにそんなものはなかった。そんなもんじゃないですか?

佐藤 現実がないということは、どういうことですか?

芥 ですから、習慣化された虚構が実現ですからな、見えませんし、だから、虚構っていうのは元来、習慣化されないものなんですぞ。(太字:習慣化された虚構が実現ですからな、見えませんし、だから、虚構っていうのは元来、習慣化されないものなんですぞ。)だから、ある意味で若干、習慣化されたところが献げ物なしには、それは習慣化できなかったんですわね。もう、それから奪われた部分というところの幻想と習慣や歴史が入り込んできているわけです。いいですか? 虚構を習慣化しないヒトには政治もなければ国家もなければ歴史もない。さらに記憶もない!時間もない!ないないづくしのゴドーちゃんだっていうやつもありましたからな。(太字:虚構を習慣化しないヒトには政治もなければ国家もなければ歴史もない。さらに記憶もない!時間もない!ないないづくしのゴドーちゃんだっていうやつもありましたからな。)記憶をたどってきたら、洗濯ヒモでもひっぱっているようなものですよ。風に吹かれて断片が手元に何故か集まるだけど、これが素晴しいなんて、映画にしたり、フィルムにしたり、文章なんかにしていると、後でとんでもない目に会うだろうと。

金坂 だから、あなたには一つの習慣があるわけだな。

芥 あなた? アッハハハ。

金坂 その習慣がね、ゲームなんだ。ゲームのルールがあるんだ。ね! オレはそのルールが嫌いなんだよ。そのルールの線上でもってさ、何かおもちゃの自動車みたいにぐるぐる回ってさ、あっちこっちで衝突してね。

芥 ルールが嫌いだから、一メートル歩くにしたって千人呼んで一メートル歩くのを見せるわけですからね。それでなかったら舞踊なんてのはありませんでしょう。

笠井 そうだな。

芥 政治がルールですって言っているんです。だってそれは習慣化されたんですもの。(太字:政治がルールですって言っているんです。だってそれは習慣化されたんですもの。)

金坂 それがなければルール違反だな。

芥 それよりもお前。

手を広げ身を乗り出す。

金坂 “何とかですからなあ”───と言って手を広げる。こいつがあなたの……

芥 はっはっはははは。

金坂 それは。あたしはこうやってもいいよ。“なあー”って。
手を広げ、自己嫌悪に陥る。

芥 様になりませんでしょう。アッハハハ

金坂 ならないね、まさにね。オレはあなたが習慣といるゲームのルールが嫌いなのよ。

芥 はあ? 結構ですな。好き嫌いで生きているんじゃないですからなわたくしは。サイコロは投げられましたと、で……。

金坂 俺はね、好き嫌いで生きているんだなあ。

芥 “どの目が出ましたかな”“まだ目は出ないぜ” “何、のっペらぼうだって? ”“存在と非在”だって、ほおう、マッチ棒の軸一本で穴があくくせに、っていうやつですね。

金坂 オレは好き嫌いで生きているんだな、ところがね。

芥 ほお、寺山さんみたいですな。そんなのはシュウジ法にくれちゃまいました僕は。うっはははっ結構ですな……。その書くっうのは、たとえば書く、動く、見る、写す、トル……(こいつ等です、何となく人間と物を眼で追い)

金坂 つまり、あなたは現実ということばを使ったし、虚構ということばを使ったし、そのほか、たくさんのことばを使ったけれども、それがあなたの虚構というゲームのルールにのっているものだから、全部一枚の紙にしか見えないわけで、その紙の上に僕は(この時電球やっとつく)そういうふうなんだよ。だから今、ランプがついたのは僕は歓迎するんであって、それはどうしてかというと、僕は好きなんだよな。それからこの部屋のセメントが少し湿っていて、湿気と寒さがくるっていうことね。それからトイレがない。もし小便したければ行って、トイレなんて無い所でしなきゃならないわけだ。(ここは工事中のマンションの一室である一部営業中)

芥 習慣を受け入れる器が吟味されていないと……だったら接吻していたらよかろう、そこへ。(床のコンクリートを持さし)

金坂 えっ?

芥 抱きついて、接吻でもしていたらよかろう。好きなものに。

金坂 したい相手が居ないんだよ。ところがね。

芥 じゃ、駄目だよ。それじゃロゴスの中っていうわけです。大地に接吻した男もいましたからな。

沈黙。

帷子 ちょっと、しゃべっていいですか?

芥 どうぞ、どうぞ、どうぞ。

帷子 さっきから、いろいろ話がじゃんじゃん飛んじゃって、非常にしゃべりにくいと思っているんだけども。何か、こう、肉の部分っていうことを言っていたでしょう。でね、芥さんにちょっと。ハントというか、それが、その前の記憶ということじゃなくて、記憶だけどね、一枚の紙の。「それで、地球や太陽じゃ自分の血が赤く見えないの。大島渚の“少年” じゃ“オレはアンドロメダから来た”と言っているじゃないか」こうあるでしょう。それでアンドロメダから来たって言っているじゃなんかってたさ、(編注:ママ)それで、自分はどこから来ているわけですか?

芥 世の中のっていうのは、“世俗”という意味でなく、“初めての”という意味です。(太字:世の中のっていうのは、“世俗”という意味でなく、“初めての”という意味です。)

帷子 それで、その続きに、「アンドロメダから地球に降りて来ない限り、地球じゃ何もできない。それはだから奴隷っていうんだ。」と。

芥 “世の中の” というのは、“世俗の”とか“政治の”とか“国家の”、あるいは“日常の”という意味あいになってしまうでしょうという意味。

帷子 いや、その続き……。

芥 それが“初めての”という意味でない限り……。

帷子 ちょっと待って、「だから“愛する(輝くのミス)大地”という本がちゃんと出てくる」と……

芥 大地が失なわれた人がうぞむぞ這い出で来たから、それらに大地を与えてやらねば、やつらはウジムシでしかあるまいと。(太字:大地が失なわれた人がうぞむぞ這い出で来たから、それらに大地を与えてやらねば、やつらはウジムシでしかあるまいと。)

帷子 だから、仮りに僕がアンドロメダから来たとしてさ、それで地球が……(まじめに)

芥 はたして来られたかなあ? (おどけてみせ)

帷子 違う? ちょっと待って。だから、来たと仮定してね。来た、来られたものとして、それで、たとえば。

芥 仮定はイマージュですから、イマージュは自由で結構ですね。

帷子 いや、ちょっと待って。だから、僕がアンドロメダに居た時にね、地球、地球が持ってわいるさ、大地というものを愛していたとするでしょう。だから、その時点で。“愛する大地”なわけでしょう。そうしてね、今度地球に現れにやってきたときにね……

芥 地球は投げられたサイコロだと言いたいのだ。あるいは一つのテーブルと同じと。(手でなでる。)

帷子 いや、ちょっと待って下さいよ。終後まで聞いてよ。それで、大地へ行くわけでしょう。今度、だから……。

芥 いえ、いえ、いえ、行くなんて、とても。(芝居がかって)

帷子 「愛する大地」ってものにいくわけでしょう。だから、直に行っちゃうわけよ。そうするとね。そこにあったのはさ、自分が、昔、愛していた大地ではなくてさ、だから……。

芥 昔?

帷子 いや、つまりね。

芥 昔? 昔。愛するというのは?

帷子 一つにはね。例えば月にウサギが居たと思ったとするでしょう。それが今度、自分がいろいろ想像してさ。例えばウサギと結婚するつもりでいたとするでしょう。そうした時にさ、そこにね。だから、本当はウサギなんが居なくてさ、石ころだけしかなかったとするでしょう。そういう意味でね。だから、現に愛していた大地は……。

芥 だって、あそこは地球の一部ですぞ。(大地なんぞではどちらでもないという顔で)

帷子 いや、ちょっと待って。だから、一部だけれども、その一部、一部を全部、どんどん加えていってさ。だから、全部が全部自由の好きなものばっかりだったというふうに考えていくわけ。それでね、だから“愛する大地”って思っていたものが、実際に行ってみるとね、それは愛していた大地であってさ。それで自分が……。

芥 いや、僕は“輝く大地”って“地球”のことなんぞと言った覚えは、これっぽっちもありませんぞ!

帷子 僕の場合……

芥 だから、駄目なんでしょうな。

帷子 いや、ちょっと待って、ダメっていうことじゃなくてね。“愛する大地”っていうものがあるでしょう。

芥 いや、好き嫌いはないとしても駄目か、駄目じゃないかということは歴然としておりますぞ。(じろっと見わたす)

帷子 いや、ちょっと待ってよ。お終(ルビ:しま)いまで聞いてよ。それでね、そこに行ったときにさ、自分が愛していたというふうにとらえるかね。まだ、いまだに愛する大地として、それが残っているのかということが問題……

芥 なぜ、そう救われたいという気になるのかねぇ。

帷子 “スクワレタイ”って、どういうこと?

芥 足元がすくわれて、お終いになるんじゃないかあ?転ろんでしまう。

帷子 いや、そういうことは無いと思う。だからね……

芥 救われたいと思って、すくわれたのは足元だけで……と。

夏際 あったとか、あるとか、ないではないのです。“輝く大地”というのは、せせり出す形態の持って来たもののおかれるところだ。むしろ……。

金坂 ちょっと幕合いにしてくれねぇかな。俺はこんな近代劇、見に来たんじゃない。まあ、金は取られてないけれどさ。近代劇ならいいけど。まあ、落語家の芝居みたいで、そこに、俺の前に座っているのは、たしか“芥”(芥氏、ぽっと身をひるがえす。秋山氏笑う。)っていう名だと思うけども、何か、あれでね。大家さんのうちが長家の何んていうの……。

芥 それは“自由の家”ですからなあ。

金坂 角の隠居をさ、やっててさ。角の隠居なんてのはもう少し福々しくて、青白い顔して、変な頭の毛してさ。

芥 所詮、“ルージンの私生児”がくっちゃべるんだったら、どうですか?酔いつぶ
れてしゃべったら、マルメラードフ一つぐらいに、えっ。

金坂 だから、俺はどうするね。ここでだから、俺は絶対相手はしねぇさ。

芥 うっははははっ。

帷子 相手をしないっていうことは、どういうことですか?つまらない、っていうこと?好き嫌い?

金坂 好き嫌いって言えば嫌いだな。

芥 あっはははっ何んてことだ! 僕のほうが近代劇、見せられちゃった。(ローソクが机より落ちる)

金坂 いまにローソクが落ちてきたのは近代劇よりちょっと自然だな。君がそうやって、笑っていることはまさに近代劇で、落語の世界には出てこない。

芥 近代劇っていうのは素附らしいですな、あっははは。

金坂 だから、その部分はね。

帷子 ちょっと、そのセリフをきめてみて、

金坂 大工の熊さんで、その隣りにいるのは……ちょっと、あんまり古めかしい名前、ばっかりで、僕のセンスが疑われるから、まあ……。

芥 君とか?僕とか?話はいいんじゃないですか? 断じて近代人だから……

金坂 それで……

芥 そんな話はね、へへヘェいいんですよ。

金坂 向こうで始終笑っている人がたしか秋山シュンさんですか?(ただ、ウナづいていた秋山氏)

芥 色黒のブスが笑っただけで解放されますよ!あんたの言いぐさなんかね。ほら、人間性です。貝がらから生え抜きの痔の女が、コンドームの中から浮かんできただけで、ルネッサンスだ!そんなもの解放されるんですよ。ね、自我とか、死体とか、そんなものはすべて、解放されちゃいますからな、そうでしょう。色黒のブスが笑うんですな。腕組んでか“ニィッ”て、そうすると解放されちまうそうですからなハハハ。ボッチェルリと、生え抜きの痔を、けっぺたなんかにぶら下げてきた女が、貝がらで浮かんできたからって、まあ、コンドームが一枚破れるでしょう。 まあ、お答えしましたが。

佐藤 だからさ、焦っていることは事実なんだよね。

芥 誰が?

佐藤 (金坂氏を暗示しつつ)この観客が近代劇だった場合は黙って見ているわけだよ習慣だもん。だけど、やっぱり、焦っちゃまけちゃうわけだよ。その時、劇場って一体何なのだろう。浮き足立った観客みたいなものは、いま現実にあると思うんだ。

芥 足元がすくわれちゃったと、救われようとして、人々が……。

佐藤 そうそうそう。そして……。

芥 だから、大地が……なければ。

佐藤 そのときにさ、部分というものは在るよ、観客っていうふうな。それが劇場という構造を変えれば。近代劇でも落語でもそんなことどうでもいいのさ。とすれば、劇場ってことにやっぱり問題があるんじゃないかと思うわけだよ。

芥 だから、人に先にやられると、そのヒトを嫌いになるという人が、まぎれ込んだという話ですな。

金坂 だからさ……。

佐藤 近代劇の空想の中では、どういうふうなまぎれ込みが可能か?プロセニアムのアーチみたいなさ。つまり、バリケードだよね。あれはさ、それでもか防げたわけだよ。

芥 “狭き門”っていうやっか?アーチが。

佐藤 防いでいたわけですよ。これは実際にはね。

芥 でも、その両方の柱に血を塗るのと、鴨居に血を塗るとき、一切の雄の“子山羊”が殺されなきゃなんない、「佐藤信」という“子山羊”を。佐藤信って誰かがまた殺さなきゃならない。そのときプロセニアム・アートができると。

佐藤 ただ、だからさあ。

芥 過越しっていう問題だなあ、近代の。

佐藤 言おうと思ったのはそういうことじゃなくてさ。だがら。もうちょっとさ、金坂さんのほうはね。そういうふうな騒ぎ方は解るけど……。

金坂 俺は観客だから、観客がさ、介入すれば少なくとものこ近代劇の停滞から救われる……。(あんまりうぬぼれるなよ───他の観客)あなたは、だから、隠居の親切の役を演じるべきでなくてさ。観客にあなたもなればいい。ところが観客が騒ごういすると何か静止するじゃない。その精神がどうにも、そのさ、救われる、救われないという問題じゃなくてさ。

芥 誰が静止したわけ?ね!誰だよ、静止したのは!

金坂 しているよ。

芥 ウーン!!(ドキリとさせるような声で)

金坂 しているよ。

芥 誰だって!

金坂 あなたの、その“ウーン”っていうのがしたんだよ。

芥 オイ!

金坂 そいつがちょっどリアリティがあったけど。

芥 オイ、いいのかァ。(誰に言うのでもなク、部屋を見回し)

金坂 “ウーン”と言うのと、目の玉ギョロギョロと動かすところが、僕はリアリティあったけど、その前の芝居っていうのはほんとに近代劇で、うんざりだ。

芥 原爆の焼け跡を歩いていたとき、どうでしたか?街路は。

秋山 焼け跡を歩いていたときか。

芥 ええ、書いていましたぞ。

秋山 何もないよ、焼け跡は。

芥 なぜそんなきらびやかな事物の散文性の中に肉体が放り出されたということじゃないんですか。なすすべなく歩くと何もない。

秋山 だから……。

芥 それは散文じゃなくて、風景が一つの形態としてそこにあって、「テーブル」に入れられないわけですね。“歩く”ということは動詞になっちゃう。歩くというのをそこで名詞にしたとき、それらを一手に交字ができて、それを大地にすることができたんじゃないか。(太字:歩くというのをそこで名詞にしたとき、それらを一手に交字ができて、それを大地にすることができたんじゃないか。)大地というのはせせり出せるものですから。その辺境を文学がやらない限り、相変わらず、人間なんて雨に打たれたパンみたいなものじゃないか。

(観客) パンと同じということは?

芥 まあ強いて言えば、外から見れば形あるけど、さわるとたちまちに壊れて、食べられるシロモノじゃない。それをどうやって複活するかということで、一応、形態というか。ラザロの復活というか。

秋山 一番最初はそのようなことだったんだよな。

芥 ええ。

秋山 あなたが言っていた、書く、見る、撮る、行く、トル、何を奪うのかとか、そういう言葉はそうだったんだな。それからだけど、果てしなく広がったものだから。

芥 いえいえ、ちっとも広がっておらんのですよ。それをやらないと部屋を壊せませんでしょう、いくら騒いだところで。

帷子 芥さんがね、今言われた、だからね。秋山さんがね、だから大地は、あの日、なすすべもなく歩いていたと言うけれど、その大地っていうのはどこなの?

芥 いえ、大地じゃないです。焼け跡です。

帷子 いや、大地という言葉を使われましたよ。

芥 焼け跡が大地にならなかったわけですよ。彼の場合はね。それを大地にしなきゃというわけです。それを作れば大地じゃないですか?

帷子 そういう場合の大地というのはどういうこと?

芥 何ですか?

帷子 だからさ、そこで言う大地というものは、どういう種類?どういうものを大地って言われるわけですか?

芥 もの?はあっ!はあっ!泥酔を覚すものだ。

芝山 大地っていうのはある意味ではフィクションのリアリティなわけでしょ。架空にバラまかれはりつけられた街路を洪水としてではなく……。(太字:大地っていうのはある意味ではフィクションのリアリティなわけでしょ。架空にバラまかれはりつけられた街路を洪水としてではなく……。)

芥 新人賞ってものは誰でももらえるものです……。そういう目や耳の話。もう少し自分で焼き払わないと駄目でしょう。そこでなすすべもなく歩く、歩くということですね。状態であることをやめさせるわけですよ。状態であっちゃ、一向に歩けませんでしょ。

芝山 たとえば、“地殻”なんて言っているうちはどうしょうもないんで、やっぱり、地質学を外から視なきゃあ。

芥 なぜ、そのとき謹賀新年とでも言わなかったのかね。

芝山 だから、その謹賀新年ということを広島の原爆のあの写真の上にべったりあなたが書くということ。それはまあ別に、一向にかまわないわけだ。それはそれで、形態の虚構を持っているわけだから。

芥 だから、プレザンスの方を形態で遠避けるわけですよ。永遠に駆逐する。だって、ふつう一件、一件しか見て来なかった人間がさ、一度に全部見ろと言われるわけだ。そうすると、魚眼レンズがはまっちまうんだ。目に、そうだろう?そんなものはえぐって取っちゃえってわけだよ。その目をカメラにすりゃあ、ちっとはまあパゾリーニでも、あれでも、結局、ルネッサンスでしかないけど。でも、八百屋だとか、落語だとか、観客だとか、騒いでいるやつなんていうよりは一応、やっとると。一応、ヨーロッパ伝説というやつを蜂起したマネの街路に。ヨーロッパの街路。白日のもとにさらけ出すわけだから、でも一応、屠殺っていうロゴスの一面がありましたからな。でも一言で言えば“遊戯”っていうやつがなかった。これがないと完全に……

金坂 何か、悪役がいない芝居ってものはつまらないものだな。

芥 いなかったら自分でやればよろしい。主体性のある人は……主役を。

芝山 だってね、どうしてね。これを見てね。芝居だ、近代劇だとこだわってそれこそまさしく役立たない。あんたァバカみてるみたい。

金坂 俺の意見、俺が言ってなんでいけない。

芝山 いけないんじゃなくてさ、いくらやっても入れて来ないだけの話だ。あなたの言うこと、やること。さっきから一生懸命考えてやっているんですよ、あなたのことを。近代劇がどうとか、それこそ、あそこに居るワニのエサですよ。あんなものは。

金坂 俺もそうしたいな。

芝山 だったら、さっさと文明食いちらしにいけばいいわけですよ。ヤレバァ!

芥 そうだ!食いちらしたらどうだ。主体性があるんだろう。自分の為にならないといやなんだろう。感受性が発露しないとコケるんでしょう。

芝山 好き嫌いなんてこと。久しぶりに聞いたよ。ああ、そうか? これが昔の不調和か。

芥 続いているものは続いているんですな。悪い習慣だ、これは。物覚えが悪いやつというのは、やっぱり、悪い習慣を持つんですな。一回見たら、決して忘れない人間なんて、記憶っていう悪い習慣もないですからね。(太字:物覚えが悪いやつというのは、やっぱり、悪い習慣を持つんですな。一回見たら、決して忘れない人間なんて、記憶っていう悪い習慣もないですからね。)

金坂 毎日ね、繰り返し、お互いね……。

芥 ちょっとした言葉のイントネーションで、芝居だとか、何とか、騙されちまうんだからな。ハハハハ。イントネーションですよそんなものは。毎日生命、朝日生命、安田生命……。

金坂 芝居じゃない。芝居っていうのは騙すことができないんだよ。

芥 だから、フィクション狩りだって言っている。落し穴におち込んでははい上ってくるつもりで毎日……。

金坂 だからね。久しぶりに聞いたって言ったでしょう。久しぶりにやったって、聞く者同志が集まらないで、しゃべっておっても……。

芥 久しぶりに聞くといいもんでしょう。ありふれたことでも。

金坂 毎日しゃべり合ってね。すっかり、何か膠着状態ができるのがね。再び、それを繰り返しているということを。俺は“芝居”だと言っているわけだよな。

芝山 膠着じゃないわけですよ。だって、残濠だ。

金坂 膠着じゃないな、何かゼラチン状だから……。

芥 まだ、コンドームなんか被っているのか? のメンスのにこごりめェ。いいかげんに破いたらどうだ。何枚も被らせでいないで、毒薬が効目があるとか、ないとか……。

金坂 俺もまさにコンドームだと思うな。

芥 被らせられている。でも、オシッコしか出ないでは。

金坂 要するに、最近のコンドームというのは七色のがあるんだよ。ある日は黒もあれば、ある日は赤もあるんだよ。ところが、このコンドームっていうのは色が一つでね、しかもね、灰色なんだよ。

芥 何だ! 勘違いして。カンジ悪いこの人ときたら。誤解だけが人生だ。

金坂 いろんな色が混ざってね……。

芥 発狂だけが人生だなんて、誰がきめたんだ。

金坂 混ぜてね。あの一種の灰色になった、同じ形態の、同じ厚さの、同じコンドームがね。しゃり出ているんだよ。だから、おもしろくないんだよ。これはな。イメージが貧困だけどさ。(観客“オレハキンキロダッって言ったらあ”の声)

芥 敗北をつづっているわけですな。発狂を迎え討つのです。

金坂 イメージはさ、イメージがなかなかつくれないんだよな。やっぱりな。

芥 やっぱり、信じているわけですか?

金坂 揚に即してイメージをつくるからさ。そのうち、もうちょっとよくなるかも知れない。いまのところ、それが精いっぱいだからさ。我慢して、俺のほうは我慢しているんだ。だって、いままで座っていたんだもの。

芥 我慢しないで出したらどうです。病気に毒です。

金城 この、へたくそ芝居をさ!

芥 痔を出したらどうです。痔のほうを、生え抜きの痔のほうを、がまんしないで、ひじり出すことですよ。蜃気楼の一つや、二つ作れるものですよ。ひじり出せばね。何んだって、もっとも、ヤルとモラワ、なんか勘違いして病気にかかっているんだろうけど(芥氏、向きを変えて)芝山さんなんかは書くっていうことはどうやって、獲るってことに、あるいは……。

芝山 例えば、「書く」ということで言えば、「書く」っていうことと、こうやって「語る」っていうことはまるっきり別なわけで、つまり、あのアリババの話で、“語れ、物”と同時にものを書かないというようなことがあるわけです。その辺のことを言ってみてもいいんですけれども。その時のことを言ったって、事物の虚構性、これは、例えば「書く」ということで言えば、僕がいま引っかかったのは“空の肉声”ということで、肉声っていう言葉は砂漠の真の鳴動として、化石の肉声として現われてくるのです。(太字:肉声っていう言葉は砂漠の真の鳴動として、化石の肉声として現われてくるのです。)

芥 空の肉声?化石の肉声!

芝山 ええ、これはだから言ってみれば真に比喩にすぎないような……。

芥 血の滴る肉の旗を掲げろ(太字:血の滴る肉の旗を掲げろ)って言うわけですな。コンクリートの塔の上に空を破いちゃう。

芝山 それはだから、あなたがいかにその肉声という言葉をね。どのように理解しようと自由なわけだけれども、それに対してだから、その、空の肉声という言葉で、僕らがかろうじて言い得ているものを、いかに、空気の石化、あるいはさっきも言ったように、あるものですね。現にあるものにできるだけ近づける言葉へと……。
(観客)空の下にある、ものものに。

芝山 いや、違うんです。そうじゃないんです。空を、だから肉声というわけなんです。声なんですよね。というのは、やっぱりある程度、声という部分を持っているわけだし、それで、例えば、それを同時にさ、いわゆる謎解きというものと同時に、いわゆる、おまじないみたいにね。謎をいかに美しい形で出すかみたいなものがあって、そこで、日本の詩なんてものは、その辺がずいぶんはっきり出ていると思うんですけれども。

芥 謎を美しい形で……?

芝山 美しい形でって言い方は……

芥 美しさに形なんかはありませんから、それでいきますと、書き上がった瞬間に空のアクセサリーになっちゃうんじゃないですか?肉声じゃなくて。

芝山 だから、僕はその方法でやってないわけですよ。咒の方へは。

金坂 あのねえ、佐藤さんさ。近代劇の宿命はねえ、決められだ役者がさ、決められた役を演じて、決められたセリフを交換することにあるんだと思うんですけれど。それを破るためにあんたと話がしたい。そうすれば、少なくともシナリオの一部が破壊されたことになるんだ。

芝山 プレザンスの暖昧さみたいたものを、僕はもう一つ、突き越えるものとして、空の肉声というようなことを空気の石化、その旗というわけですよ。(太字:プレザンスの暖昧さみたいたものを、僕はもう一つ、突き越えるものとして、空の肉声というようなことを空気の石化、その旗というわけですよ。)だから、別に、これは僕はあべこべに言っていることはあんまり信じてないわけですけれど。大体はまあ自分の言ったことや、自分の感じたことは信じないわけです。

芥 そうですね。

芝山 ええ、で、まぁ、その辺で……。

金坂 しかし、やっぱり、観客がこういうふうにね。秋山氏も含めておとなしいということは。国家の停滞か……やっぱり。

笠井 観客と役者はどういうふうに違うんですか?

芥 プロセニアム・アーチを形態としてやれることは。僕はわかるわけです。むしろ、ちょうど、との逆なわけだ。その辺、ちょっと聞きたいなあ。

芝山 いかに地上すれすれで機首を旋回させるかみたいな方法でしかできない。あなたは最初から、ばかやろう!ばかやろうって、言い張ってるばかりで、一緒に地べたに落ちちゃうみたいなことしかない、せいぜい引き分けじゃないか?と、そういう言い方で、いわゆる……

金坂 地べたに落ちれば上等だと思うんだ。

芝山 違うんですよ!

金坂 いまの連帯飛行でもってさ。きめられたコースできめられた飛行機雲を。

芥 地に落ちた百姓にでもなれって言うんだ!百姓!

金坂 一台ぐらいさ。北鮮の……。

芥 だから、地に落ちた百姓だって!

金坂 一台ぐらいさ、中にな。赤軍を乗せてハイジャックでもってさ。アラスカでもどこでもいいけどさ。せめて、太陽の塔の上ぐらいに行くやつがいてもいいと思う。

夏際 太陽? へへへへ。

金坂 太陽じゃない。太陽の塔だよ。

芥 太陽が、塔だってさ!うっははははは。とうとう、(金坂氏除き、企員大笑い)そこまでペニスは。

芝山 だって、あんたさっき、太陽の塔について、少しも見せてくれなかったんじゃないですか?

芥 何か見ぜたらどうだ。うっははは、キンタマでも?

芝山 論議のヤジリばかりじゃぁ。

芥 錯乱ばっかりしてないで、村落共同体を信じているのか。

芝山 論議って言ったって、しかも実にひ弱な……。

芥 無いものを有ると、歴史のでっぱりに飛んで行ったトランクの赤軍とか?

芝山 それで、思い込むんだ。やれ、やれ。近代劇だ! 観客だとか、おとなしいとか……

芥 シナリオがあるとか、ないとか、ジェラルミンに。

芝山 きめられたみちすじとか?そんなものは僕の目に全然入って来ないし……

金坂 (悲しいのを無理に押し殺して)論議をやめたらどお。これが論議ならば。冗談じゃないよ。

芥 やめりゃいいじゃないか? 勝手に! ペニスよ。

金坂 そろそろ、やめたらいい。

芥 だから、やめりゃいいだろう! キンキロよ。

金坂 やめろって! 俺はやめるなら、帰るしかない。

芥 好きなようにすればいい。ワギナ虫め!

金坂 まだ帰りたくないんだなぁ。

芥 さみしいんだろう!

金坂 やっぱり、近代劇がいくらか好きなんだ。

芥 居させてやろうじゃないか?居さしてやろう。

金坂 いくらかでも、近代劇がぶっ壊れる処をやっぱり見たいわけです。

芥 眼や、目の話か? またぞろ。その後、どうなりました? (秋山氏に)“なすすべなかった”のが、何んとか、“すべかかってきた”のですか? 最近は?

秋山 すべてを持っている人が居るみたいだよな。

芥 いや、いや、(右手をゆるやかに振りながら)。

秋山 いや、いや、居るんだよ(再度、同科 に)。(編注:ママ)

芥 それが人であるか、人でないか、まだわからない段階ですね。むしろ、それでヒトにしようとする動きの時に、初めて、言語っていうふうな形態のマッド・マシィンの地上へ。(太字:言語っていうふうな形態のマッド・マシィンの地上へ。)

秋山 そういう話だ。それで、あなた何か、肉声かな。

芝山 空の肉声、まあ、仮りに言えば。

芥 「架空」よりの「肉声」っていうやつですな。

秋山 なぜ、それを信じたの?

芝山 信じたっていう意味じゃなくて!

芥 仮説だな。

芝山 仮説をだから、全身で進めと試みようという一種の空間意志ですね。意志が意志のままでいちゃついちゃ、どうしょうもないわけで、それをどの辺までくっていくかということは、それこそ、だからまあ、意志するという動詞、動詞を名詞にするという話じゃないんだけれども、何んていうかな。その意志をいかにすべからく現前していくか?例えば表現とか己れのと言っちゃうと身もふたもなくなるんで、僕はあえてひかえているわけです。その辺が、まあ信じている、信じていないという問題じゃなくて、仮そめの設定、その程度に留めておきたい。

芥 仮設っていうのは見るときの視点だよね。姿勢じゃなくて、視点、それがないと、やっぱりフィクションをぶっ殺して、自分の獲物にすることはできない。だから、一歩、踏み出す前の自家製の重力だと思うんですけれどね。工事中の仮事務所とか、とか。

秋山 そうだなあ! そこが、ほら……。

芝山 だから、一歩踏み出したとたんに。ものすごい幸福な存在かもしれないし、実に絶望的な……。

芥 一歩、踏み出すと未曾有の運動に取り巻かれるという。帰るところが分らないという。

秋山 俺は“声”だって言ったから、ちょっとわからなかったんだよ。“声”って言うとなあ。

芥 むしろ“旗”というべきじゃないか?

秋山 “声”って言うと、俺はやっぱり、これは自分の持っているという、何んて言うかあれだろう。先にあるものじゃなくて、こっちにあって、自然にあるものの処へいくわけだから……。

芥 自然? それこそ、大した楽天家だ。

芝山 だから、仮構することが自然であるということじゃないの。それがある程度、獲得された一つの方法みたいな。

芥 未曽有の運動を未曽有のテクニックに置き換えた時、初めてそれがなされるわけだな。だろう? すべては。

芝山 未曽有といってもいいけど。

芥 いわゆる外部の交渉に出合うわけだよ。未曽有の運動というわけだけれども。マドマシィンみたいな。だって、そうでしょう。ヒトとしてやろうっていうわけだからさ。人間じゃなくて、人間っていうのは見えないからね。人と人との間に設けられた一つの設定だからさ。(太字:人間じゃなくて、人間っていうのは見えないからね。人と人との間に設けられた一つの設定だからさ。)そんなところへ、自我だ、主体だのと置いていったから、とんでもないことになったわけです。

芝山 だからさ、自我とか、主体とか……

芥 もう、それはいいな、不調和の近代は。

芝山 うん、もう、いいと思うよ。

芥 偶然でも一致するからな。その辺、現代は。無いものを有ると見ちゃうという、一つのサンプルがあったわけだけれどさ。国家っていうものが有ると、意識なんて、無いものが有ると、気構えですからな。あいつは。

秋山 ふうん、気構えか? 意識は気構えか? ふうん、いいなあ! それは。(太字:ふうん、気構えか? 意識は気構えか? ふうん、いいなあ! それは。)

芝山 だから、ないものねだりは文学の一つのいい傾向じゃないかと思うんですが。

芥 そうです。

芝山 あのね。「肉体は文明のうちに死滅する」とお書きになりましたね。笠井さん、僕はちょっと、肉体ということはわからない。何んというか、血と骨は何んとなく、わかるんだけれども、肉体というふうに出てくると困っちゃうんです。

芥 土方氏は“肉体、そんなものは無い”(太字:土方氏は“肉体、そんなものは無い”)と言っていますよ。

芝山 ええ、土方さんは言っていますね。肉体は無いと。

笠井 だからね。その場合に、ことばに騙されるんですよ。人間というものは。

芥 “取り戻すのが舞踏だ”と、私が……。

芝山 僕はあなたの文章で思ったのは、あなたがね。

芥 奪われたものを取り戻すと。

芝山 記号では経験できないのに。

芥 だから、狩猟であると。ハントだ。記号はすべてト書きだ。

芝山 逆にその記号を方々に向けて放っているという感じがしたわけです。

笠井 記号っていうのは何んですか?

芥 僕は、だから記号っていう言葉を使わないと。

芝山 あ、そうですか?

芥 文明っていうものは肉体を殺すものじゃないのですか。

芝山 この人はだから、肉体の中に文明を死滅させちゃうというふうに言っちゃうわけです。僕の知っているかぎりでは。

芥 そうなると、肉体地質学になってしまうであろうと。すると、ダンスしかできなくなるんじゃないですか。

笠井 そういうことですよ。

芥 ダンスが役に立たなくなってきたっていう、むしろのっけから。

笠井 ダンスが役に立つわけないじゃないですか。

芥 そうです。

笠井 どうして、じゃ、ダンスが役に立つんですか。

芝山 そういうことは、血が役に立たないということだ。

芥 そこで静止すらも舞踏だと。(太字:静止すらも舞踏だと。)

笠井 あなたの中に静止があるんですか?

芥 中にも、外にもありませんぞ。そういう事はあまり聞こえませんけれども。まあ、ビールビンがあるということも、強いて言えば舞踏だと。床があり、それも又。

笠井 それは、そういうことは言えますよね。

夏際 役に立つ、何に対して役に立つ、立たないという。

笠井 そういうことになるとね。結局、舞踏の問題になってさ。つまり、宇宙は何んに向かって動いているかという、くだらないことになっちゃうわけです。

芥 だから、アンドロメダから来たと、としましょうと。

笠井 それはアンドロメダでも何んでもいいけどさ。何んに向かってという目的をね、言ってみても、それはくだらないことじゃない、そうじゃないですか?

芥 それこそ、肉体の一部が何んに向かって、他の一部が何んに向かうのかということですな。

笠井 何も向かっていないじゃない。

芥 じゃ、動けないわけですな。

笠井 いや、動けないということはないですよ。目的がなきゃあ動けないということはないです。

芥 舞踏する体つてのはどんなものがそこへ飛び込んでこようが、屠殺されない肉体なんですか。どんなものがね、襲いかかって来ようが屠殺されない。

笠井 そういうことです。

芥 肉体が、舞踏ですね。肉体が舞踏するんじゃない。(太字:肉体が、舞踏ですね。肉体が舞踏するんじゃない。)

笠井 そうです。

芥 だったら、いいです。人であろうと、これであろうか。

芝山 だから、それを……。

笠井 でも、逆に言えば意識が気構えだと、彼が言ったけれどもね。それは非常にいいんですよ。というのは、人間というのは意識を自分で持っているけれども、そう思い込むということは、やっぱり素晴しいことですね。

芥 いや、いや、それは人間の悪癖ですぞ。悪い習慣です。

笠井 いや、悪癖っていうのはいいことなんですよ。悪癖っていうのはあるわけだ。逆に言えば。悪癖以外の何があるんですか?

芥 有る、無いか。まだ、有る、無いは答えでしょう。やっと、たどりついたんだから。TO BE OR NOT TO BE.THAT IS THE……THE ABSWER っていうやつですな。

笠井 帰れるところに帰ったな。

芥 答えなんですな。それが人間の、つまり人間にはなるまい、思い込み、勘違い、それは習慣化し、国定化し、営みにはならないわけですな。ヒトになろう。そうすると日常が不安定になります。そこで初めて気づくわけですよ。じゃ、肉体で、この牢屋を出ようとか、怒りを込めないで、鉛でも込めて、それから、振り返えろうとか。(太字:じゃ、肉体で、この牢屋を出ようとか、怒りを込めないで、鉛でも込めて、それから、振り返えろうとか。)とにかく、怒りを込めて、怒っているうちにやられましたからな。そうすると、怒りを込めないで肉体を込めなくちゃならないというやつも居るわけで。込めたとすりゃ、発射しない限り駄目だと。発射してそれが展開された処を僕はステージなり……。

笠井 発射されているのですよ。あなたが“骰子”をふったというのと同じで。

芥 振ったという? だって、座るというのは、机とけつぺたの舞踏ですからな。

笠井 あなたが骰子を振ったとのと同じようにね。最初に発射されているんだ。

芥 “人間”って言う、この設定ですね。習慣化されてしまったこいつを。悪癖であると言うとき消したらどうかと思うんですけどもね。

笠井 習慣っていうのは悪癖ですね。意識にとって。

芥 意識ィ?

笠井 もし意識ってものがあれば、習慣っていうのは悪癖ですよ。

芥 気構え……。

佐藤 まあ、例えばきょうみたいな話を始めた前提としてはね。つまりプロセニアム・アーチのバリケードというのは、プロセニアム・アーチを越えてさ、観客席から、こう侵入してきたからさ。その時に……。

芥 それらに、なぜ、落し穴を造らないんだ。

佐藤 だからさ。

芥 なかに落し込められる、落ちられる。

佐藤 聞いていると、結局……。

芥 落ちることを願っている。

佐藤 芥が持っている論理っていうものはさ、発射されたとか、おのれの“生”の一つの証しみたいなものを、例えば、悪癖っていうようなものを引き受ける。僕はそういうふうに思うわけだよね。

笠井 しかしね、自分が引き受けるところがね、問題なんだよね。

芥 僕なんかにしてみれば悪癖を引き受けるよりは予感のほうを引き受けますよね。

笠井 あなたは引き受けていないよ。引き、受けているというのは……。

芥 悪癖なんかは引き受けてないよ。ありとあらゆる予感を……。

佐藤 それはやっぱり引き受けるんだろうなぁ。芥はさ。

芥 もし、悪癖を引き受けるんでしたら、ありとあらゆる覚器の濫用と、感覚の濫用と、ありとあらゆる習慣の濫用と、悪癖の濫用がない身体なんか、所詮無理だと言うんだ。そんな矛盾した人だったら、ぺちゃんこで、アスファルトの猫みたいにお喋べりになるよ。

(観客) 誰が引き受けるんだよ。

芥 引き受けるんだったら全部引き受けてくれと。

笠井 それはしかし、あなたが引き受けるんではなくて。

芥 僕は引き受けていない。予感のほうを一手に引き受けようと。

佐藤 だから、そういうのは全然……。

金坂氏ビールビンを床にまく。

芥 悪癖を引き受けたら、十字架になりますぞ! 所詮、下賤のままで。

笠井 あなたは引き受けてしまっているわけです。

芥 そうです。そんなものは口じゃ……まあ、いいですね。引き受けるっていうことはいいことですねぇ。

笠井 なぜ、そんなに引き受けるということに、こだわるのかね。

芥 だって、そうしない限り……。

笠井 引き受けないんだよ、あなたは。

芥 あなたは……あなたは……。足元を掬われるんだったら、掬われようとした人間達が……。

笠井 もう、掬われているんだよ。

芥 いや、いや、倒れてしまうでしょう。掬われたら、すべて、倒れるとする人々が、その倒れる勢いが、信君に結局。

佐藤 結局、僕の言うのは引き受ける、引き受けないっていう、そういう問題ではないわけでね。例えば、私は芝居をやっているわけでさ、芝居はそこには無いわけだよ。僕のはいつでも、そこから始まっているわけだよ。同時に、きわめて可能なものとしての芝居への技術が発動する。どういうこと、これは。で、論理が必要だと突然思っちゃうんだよね。

芥 引き受けていると、帰って来ないのはよろしくないわけですな。帰って来ないんだもの、誰も。

笠井 論理という言葉を使ったけれどもね。

芥 アルタミラの絵の処ぐらいしか帰って来ないんだ。それじゃ、まだ帰って来たうちにならない。

笠井 あなた、論理という言葉を使ったけれどもね。論理がね、肉体がすでにさっき……

芥 所詮、写し絵かメンスになるぞ! っはははは。

笠井 悪癖っていうものはね……。

芥 ビールビン・チンポコだと思ってさあ。

笠井 黙って! 悪癖っていう言葉を使ったけれどもね。

芥 見なさいよ。

笠井 その、あなたの捨ててしまった部分っていうのは、どういう処に置かれているんですか?

佐藤 どういうふうに?

笠井 論理が、つまり、悪癖っていうのはあるにもかかわらず、論理というものを構えなければならないとあなたが言いましたね。

佐藤 いや、というふうなととにかかり合ってさ、近代この約束だって……。

笠井 ……。

芥 だから、近代なんて、無いんだからさ、見えないんだから、後からの設定だからさ、だったらまだ、天からの肉声っていう設定のほうが具体的で、むしろ、それからでは帰れるんではないか。マゼランだって、フィリピンで死んだけれど、船になって、帰ってくるからさ、

芥 近代って、いうものをもっと具体的に、もので言おうっていうわけよ。ビールビンとか、机っていう言葉を使ってさ。

佐藤 そうだ。そうだ。劇場って言いたいんだよ、ぼく。劇場って言いたいんだなぁ。

芥 トーテムなんて、人類学にくれちまってさ。もう少し、トーテムをステージにするなり、劇場にするなりみたいな。そういうことだな。肉体がトーテムのようになるかならないか。ステージになるか。ならないか。最後に、街路になるかならないか。(太字:肉体がトーテムのようになるかならないか。ステージになるか。ならないか。最後に、街路になるかならないか。)

(観客)街路?

芥 街路にまで肉体がなるかならないか。だって、政治と演劇ってことやっていた時にさ、個人と文学なんてやり出したり、今は街路と文学っていう問題ですね。これをどうやるのかっていうことですね。“街路と文学、街路と実体”あの酔っぱらっちゃた街路をどう処理するのか。(太字:“街路と文学、街路と実体”あの酔っぱらっちゃた街路をどう処理するのか。)

(金坂氏、コップを床に並ベて、ロウソクを置いて火をつけ始める)

佐藤 近代じゃないですよ。笠井さんが言った場合にね。例えばトーテムという物体はさ、近代以前からある、むしろ問題はどうして、それが近代ではないかという……。

笠井 じゃ、あなた、意識の問題関係っていうことを言ったの?

佐藤 そうですねえ。

芥 街路との関係っていうのは、信君の場合、政治との関係っていうことじゃないんだものな。政治との関係って、勘違いすると、駄目だよ……。

秋山 あなた、関係の持ち方だっていったからさ。(うなづきから目ざめたように)

芥 だったら、街路と関係持ってみろ! って言うんだよ。

秋山 それをどうするのかと思ったわけよ。そこまではいいんだな。関係の持ち方まではな。

佐藤 関係の持ち方っていうのはね、いつだって、可能なものですよ。

笠井 可能、可能でないっていうよりも、あなたはね、すでに、さっきの言葉だけど、悪癖を受け入れる、受け入れないにかかわらず、そういうことを言うなら、すでに街路そのものをさ、関係意識をすでに、最初から放棄している状態を、僕は受け取る。

芥 何を放棄?

笠井 街路との関係をね。

芥 いや、いや、街路と関係を持とうとする意思が“街路と出会う” っていうわけですよ。(太字:いや、いや、街路と関係を持とうとする意思が“街路と出会う” っていうわけですよ。)

佐藤 街路と関係を結ぶことっていうのはさまざまな……。

芥 街路っていう意味合いを形態と、形態を、形態の意味を含ませて、一応、街路と僕は言うわけですけれどもね。街路、街路って言ったって、また、わけわからなくなる。一応、何かやっているのは地下鉄とか、ストリート・カーとかさ、人間国土がやっているわけです。だって、やつらはっていうものは、結局、太陽生命圏では一応、死んだものが作っているわけですからね。

笠井 しかし、そういうふうに言うならば肉体なんて無い……。

芥 一応、太陽生命圏から抜けるわけだ。そうすると、暗黒だっていうわけだ。暗黒の中で踊ってもしょうがないと、あのギラギラしたまぶしい街路をどうやって、あのギラギラを奪って各々ギラギラスに変えるか。そうしないかぎり、停滞は停滞のままだ。腐った肉体は腐った肉体にしかならない。それをやらないと、あれと同じことを街路でやっているわけだから、そうするとまた言語が出てくるだろう。これに対して何かをなさぬかぎり、またぞろ、繰り返すぞというわけです。またぞろ。

夏際 芥君がさ、街路だけがね、いかにもぎらぎらしてまぶしいようなふうに聞こえるんだけど、(芥氏、ふんふん!)そういうふうな言い方をすると、また今度、街路がイメージになっちゃうな。だから、そういうものじゃなくて、もっと、だと思うんだけれどもね。だから、佐藤さんがさっき、論理と言ったけれども、そこの処を踏まえて言ったんじゃないかと思う。

佐藤 飽きちゃうんだよね。

金坂 飽きちゃうね。

佐藤 つまり、背中を鏡みたいにして見ると、錯覚で、前方と後方が重なっちゃうわけです。遠い過去を投げかけようとするイメージとがね。

笠井 鏡に遠い過去が写るというのはどういうこと。

佐藤 飽きた、飽きないにかかわらず、背中というのはあるわけですよ。さっき、笠井さんが身体の一部と言ってた時に、僕は、そういう時、よくわかるわけだな。身体の一部、僕にとっては背中だろうね。背中だけがずっと写しているということ。そんな時、さっきみたいな話をやっていると、背中に写っている街路というものを、経験の疎外みたいなものを前に投げつけられているみたいなこと。結局、街路なら、街路ということを、いくら持ち出してきても、

夏際 背中に対する背中じゃないものを、何かあらかじめ頭に置いて言ってる気がするわけよ。

佐藤 それだったら、背中にやられてしまう。

秋山 前提があり過ぎる。

芥 いままでやってきた、すべてが。

秋山 肉体の部分で来たんなら、どこの部分なの。それなら、悪癖の塊りだ。あなた、経験の塊りだ。

笠井 しかしね。おれの口から、それを言うととはできないです。まあ、おれが、ここに来てしまっているわけ。もし、ここに来る以前だったら、そういうことはおそらく言えますよ。

芥 ありとあらゆる悪癖を集めて、悪癖を愛欲に変える。そうするとまた次に、愛欲がそれらをはりつけにしてしまう。そこで、

秋山 部分……。

芥 街路に蒼然と愛欲をはりつけにさせて、また、やったとき、未曽有の路地をテクニックに変えないと、と言いたいの。はりつけになったのはおのれのほうではなく、例えばありとあらゆる悪癖を。

笠井 あんた、よっぽど、十字架につきたいんだな。

芥 いや、いや、生死を十字架と置いただけですよ。一応、点が混わった処ですね。愛欲が放射状に噴き出しますでしょう。例えば一つの身体から同時に属性が噴き出す。……と同じことです。

佐藤 また中断しましたけれど、さっき飽きたと言うのはね。前提が多過ぎると言われたけれども。ぼくが論理という時に、背中から先の論理みたいなものにならなければ。背中というものがまだ、言葉としてあって、そこから論理というものを話すんじゃなければこれは飽きちゃうわけだよ。背中が無きゃあだめだ。任意のものだから、背中というものは。何んでもいいわけだからな。

笠井 何んでもいいけれども、やっぱり、そうしたものを受け入れなくちゃいけない。話にならないじゃない。

芥 前と背中を入れ替えるという作業はどうなるわけ?一応、背中を設定しちまったら、自分がやってきたすべて、やってることも含めて、見たものすべてを一応、また自分が見るというわけですよね。そうなんだよ。だから、こいつは過ぎ越しだってわけだよ。何かを犠牲にして、それらの獲り得たものだけをおのれの肉体として持ってきて、背中を殺すわけだよ。これは。

笠井 背中はすでに殺されている。

芥 いや、その態度のことなんですよね。彼の気構えですからね。一定しようが、おもしろい、つまらないと言っても、何も始まらないんですよ。だから、彼がプロセニアム・アーチと言う時、前と後を振りかえて、両方とも消して、再び単純に歩こうとする時、アーチができあがると。

笠井 僕は単純に、あなたが気構えというものを放棄した時から、始まっていること。

芥 ありとあらゆる気構えを引き受けようとする、それが形態だというんです。(太字:ありとあらゆる気構えを引き受けようとする、それが形態だというんです。)気構えというのは、一つの形をそこへ設定できるからです。

笠井 それなら十字架だよ。

芥 いや、いや、いや、いや。十字架もけっこうですよ。そうしたら、十字架を背負わない奴は政治と演劇には……、一応、はりつけになってやれよというわけよ。

(金坂氏、「地下演劇」第二号を破ぶいて燃やす、テープが燃えそうである。)

芝山 キリストは、はりつけという時間を経て、しかも、そのはりつけによってよみがえったという。

芥 抜けがらじゃないか。

笠井 十字架というのはキリストが好んで架ったというふうに見られやすいけれど、ありゃそうじゃないよ。

芝山 別にそういうふうには言わないわけですよ。

金坂 俺はそれを弾丸こめていく処をやりたかった。それが悪癖なんだから。

芥 だから、パロールのない奴、後で描写してやるよ、卜書きで!

金坂 バロールの悪癖はもうたくさん。ぼくは三十年つき合ってきた。その前にもう、五百年くらいつき合ってきた人が居ると思うんで、その人達の為にこらえられないね。いくらでも害があればおもしろいわけだ。害のない悪癖なんて意味がないと思う。

芝山 ぬけがら、部分。

秋山 あなたの言っているのは行為の論理なんだよ。そこで、こちらでやっているのは性的錯誤の論理であるから、話がうまくいかない。困ってくるんだな。

芥 十字架、いくつか、作れっていうことですか?だから、今、あなたが肉体に部分があるとおっしゃったんですが、それが部分じゃなくて、一個一個、ぬけがら。ぬけがらが三つあれば十字架が三本そこに立てられているわけです。十あれば十、百あれば百。

笠井 十字架の話……。

(観客、テープが燃えちゃう、)

笠井 イエスの十字架ということになれば、ユダヤ民族にまで、戻っちゃうわけでしょう。そこを政治と結びつけちゃうとまずい。

金坂 この人、徹底的に悪癖を追及しているぞ。

芥 十字架なんか、十字架に返しちゃえ。

芝山 例えば……。

芥 シーザーのものはシーザーに返し、悪癖のものは悪癖に返して、人間のものは人間に返して、人のものだけ人のものとして。(太字:人のものだけ人のものとして。)

芝山 ……まぼろし、成就しないとしょうがないわけだよ。これはいわゆる自己救済とか怨恨みたいなものを蹴とばす。共通したものとして言うわけです。

笠井 好むと好まざるにかかわらず、十字架という厳然たる事実があったからこそ、あなたの今、ルネッサンスとか、理性という言葉を使えるわけですよ。原罪がなければね、贖罪がなければ理性という言葉はないわけです。

芝山 それはそうです。

笠井 ……イエスの……理性というのは、ある意味で十字架を、常に!

芝山 それは、わかります。

笠井 そういうふうな何か? これはニーチェになっちゃうわけですけれども。救済という問題は……俺が生まれている以前にすでになされていて、俺の一つの肉体に関係なく、そういう一つの理性という伝統でもって、言葉をしゃべっているならば、これはすでに自分の言葉でないわけです。

芝山 そうかな! ぼくは理性の伝統でしゃべっているという気は全然ない……。

笠井 好むと好まざるによらず、肉体の、自分の一つの贖罪にまで折り合っていかなければ、理性ということ、言わないわけよ。

芝山 それはそうだ。

芥 イサクとアブラハムだって、イサクが居ないから、おのれをイサクにして、おのれをまた、アブラハムにして……。

芝山 実につまらない話だ。言ってるんだけど、自分では決して、そういうふうには思ってないわけだ。だから、その時ルネッサンスとか、理性とか、そういった言葉が結局、贖罪ということに由来した場合、その贖罪というものをもう一回、どういうふうにしたら媒介**(編注:ママ以下同じ)

芥 それを、パロールのみでやったやつが、キリストという**そこでイサクは**一人では駄目だったわけです。形態を持ってこなかったろ。

芝山 よみがえる問題しかないわけですよ。

芥 人間**一元論**(金坂氏愛のミサ)

笠井 **(各自自由に精子を離れ)

芝山 ** (テーブルは修羅場を)

芥 人類という会社(太字:人類という会社)を上回わる**

芝山**そういうものの中を風が吹き抜けていくと、ばらばらになっちゃう**

笠井 ぼくは、まだ風が吹き抜けるところまで、**体験してない。

芝山 そうですか。そうですか。

佐藤 ちゃんと丸くなってやろう。

(「地下演劇」を焼く煙が部屋いっぱいこもってくる。)

芝山 風が吹き抜ける瞬間というのはありますし、なにがしかでも、よみがえりということに、ぼくは話をしかけているんじゃないかという気がするわけだけど。

芥 よみがえりなんて、次々に形態だけ、そこに置いとけばいいじゃない。キリストの抜けがらだけ、はりつけになったんだからさ。キリストは一個きり、ぬけがらしかつくらなかったけれど、もっと作ったらどう、それが形態だぞ。

芝山 贖罪という意味、本当は僕、わからなかったから、笠井さんと。

秋山 でもさ、この話、ちょっとあいまいな処があるだろう。

芥 そうだよ。よみがえるなんて。

芝山 だから、僕、贖罪という意味よくわからない。笠井さんが贖罪というふうに。すべてが由来しているっていうこと。

秋山 単に十字架。

芥 贖罪は物だぞ! イマージュかなんかじゃないぞ。だから、街路を贖罪(太字:街路を贖罪)にしちゃえと言ったんだ、おれ。人権とは蹂躙する相手が居ないと存在しないんだ。

笠井 贖罪という言葉を使うなかには、ある意味で歴史的な感じを持っています。それで、切ってしまうことができるかというと、理性を持ってきた限りは切ってしまったら、まずい。

芥 理性っていうのは結核だぞ。病気を直したら。

芝山 直すのは難しいという話を、今、彼が……。

芥 希望という病気もそうだよ。

芝山 希望と言うほうが、絶望と言うよりも難しいと思うのはね、まあ、それがまるっきり、裏切られちゃう可能性だってあるわけだけれど、百も承知で希望ということを言う。

笠井 理性っていう言葉を使うのはね、キリストに対する一つのサドというようなもの。我々はすでに知っているわけですよ。サドという人物が居たということを理性で判断するわけですから。

芥 それは病気による判断だって言うんだ、俺は。もっと、健康な身体を判断しなきゃ。

笠井 ああ、そうですか? どんな健康がありますか? 理性以外に。

芥 絶望のすがすがしさ。不毛の輝き。これが初めてのすばらしい、身体なんです。理性というのは病気ですからな。(太字:絶望のすがすがしさ。不毛の輝き。これが初めてのすばらしい、身体なんです。理性というのは病気ですからな。)

笠井 理性が病気というのは、僕、わかるよ。

芥 理性という結核にかかった肉体が喀血した時、それを芸術だと呼ぶんでしょう……。

笠井 俺は芸術だと呼んでないよ。

芥 十字架が、よみがえりと結びつくなんてことはあり得ないよ。

笠井 それはあなた、イエス・キリストをでっち上げる、あなたが作ったわけではないですよ。

金坂 俺は帰るんだぞ。

芥 ただ、返すものを返しただけだ。

笠井 俺は返せないな!芸術に……復活の……。

芥 じゃあ、背負った悪癖をどうする? 処理する? 引き受ける?

笠井 背負った処まで、いってないわけだよ、まだ。

芝山 だけど、ね!うん。

笠井 背負えれば問題はない。

芥 問題を背負うんじゃなく、答えを背負いたいな。

笠井 おお、俺は答えなんか背負っちゃってるんだよ、先に。悪いけど、「十字架」という言葉を使うのがすごく嫌なんだ。

芥 俺も、嫌だよ。

笠井 なぜなら、答えを背負ってるから、嫌なんだ。

芥 転回しないからじゃぁ、目的を持とうとしたんだっら、すべて……。

笠井 目的なくても転回は転回よ。あるよ、最初の動機があば……。

芥 なぜ、転回するかと言ったら、そこで一つの地平を拡げない限り……。

笠井 地平? 水平線かい。

芥 地平、ステージとか劇場という意味合いですわな。

笠井 いや、俺は、ステージとか言ってるんじゃない。

芥 開かれた地平が劇場(太字:開かれた地平が劇場)だから、ありとあらゆる予感を引き受けると、それがすべての予感に対して、地平を拡げるとき……。

佐藤 ちょっと、幕間にしようや。

INTERLUDE
幕間狂言

(ニ人が残り、他の人、工事現場 小便をしに出ていく。散乱した椅子。)

金坂 僕は椅子が燃えないことを発見した。

芥 あんたの番だ。幕開狂言やれよ。ほら! もっと、主役をつづけていいんだろう。

(芥氏、イスに座る)

金城 (一人)幕間狂言なんて言葉あるのかよ。(回りを見)

芥 それしかできかいんじゃないかよ。ほらやれよ。(コンクリートの敷石、テーブルに変わる)君はやるんだよ。もっと、もっと。

金坂 これが幕間狂言かよ。(立ち上がる)それじゃ、今までのはオカマ狂言だろ。(速記者レディ達の冷声)

芥 (灰皿の残り灰を集めながら)幕開(太字:幕開)だよ。ここは、あんたの出番だよ。

金坂 (テーブルの上を歩きながら)俺はでずっぱりじゃないか。帰ってもよかったんじゃないか、でも、珍らしいからな! マイクロカセットの回転、抱きかかえる女性)

芥 幕開だ! 幕開狂言だから、幕間にやれよ。マックッマッにな! (灰、吸い残り、片すみに集る)いちゃつく相手が居ないと何もできないんだな。君という役者は本番がないといちゃつけないのか? 近頃の幕間狂言役者はスターが居ないなあ、君。(テーブルを見回す)

帷子 (小用を足して戻り、ちょっと見物して後に)帰ります。

(全員、戻り、それぞれ勝手な所に席をきめる。すると、再び金坂氏、「地下演劇」二号を破ぶり、火をつけようとする。シテ、見つめる)

金坂 マッチはないか? (テーブルを見わたす)

(観客)自分をマッチにしたら!(太字:自分をマッチにしたら! )

芥 そうだ! 自分をマッチの軸に、敷石にでもこすりつけろ!(ワキ、雑誌を破ぶる)やめろっ!(立ちあがる)お前、幕間の時やらないで、幕間狂言役者は幕間の時やればいいんだよ。(ワキ、壁をさがす)主人
がやめろって言っているんだよ。主人が帰るってきたんだ。この部屋に!

金坂 俺が居ると、(ワキ、壁から離れる)機動隊呼ぶんだから、俺は帰る。(ワキ、歩き始める、テーブル向転する)

芥 機動隊って何んだよ!機動隊って何んだ!何んだよ、機動隊って!(シテの右手、ワキの顔面へ行く。のけぞるワキ、うらめしき面のワキ)

(観客)……。(じっと見つめるだけ)

金坂 (かろうじて、精神を持ち直し、余裕を保とうと務め)よし、機動隊が来る前に帰りますよ。

芥 機動隊って、他の足が機動隊かいっ。(シテ、ワキのケツの割れ目に泥靴で蹴り込む。ワキ“キドウタイダ!キドクタイダ!”と叫んで、ドアの方へ。テーブルに戻らず、屋上にいた夏際氏、トボトボした歩行者が、離宮ハイムから出て、四ツ谷方面へ行くのを目撃。ワキには生活が戻りつつあったのです。屋上からは向かいのアバルトマンの生活がそっくり見えています。テーブルはしばらく変ぼう(傍点:ぼう)を止めたが車、再び、序々に暴力を発揮。

(《会渋谷に向けて》狂ったのだけれども)(太字:(《会渋谷に向けて》狂ったのだけれども))

(《会六本木に向けて》は若干の平静を保った)(太字:(《会六本木に向けて》は若干の平静を保った)

シンポジウムに街路があったから当然女供は狂い咲きしたんだ。(1)「全身これ『クリストス』でふるえるソプラノ。全身これ(2)『膣壁』でふるわすソプラノ。(3)バルトリ『白痴小陰唇』これ赤みの風に吹かれる肉片の……ソプラノ」

女優はみな淫売婦であったから男優はみんな村々の淫売夫で祭に活約を結ぶから、淫売以外の遊ギは一人のヒトにはなかったから狂る腐鉄はひしゃべて紅く土器のコンクリとつがってペニスの形力を台なしにしちゃったからエロス劇団の(4)喫茶店のママは質屋の姿さんでありその妹は(5)ウェイトレスで年中バーテンの子供を肉内に種をふくらましてたから、東京に行きたくて行きたくてたまらない流れ者の(6)時計を忘れたから厚脣(ルビ:あつくちびる)のニューフェイス 妻はフィルムに燃焼して不妊症を宣言して(7)ブタエバの宿命を背負ったから 競馬場と職業安定所を兼ねそえた集団組織は実にバルトリ腺の(8)生理器発生史にみあった運動であることに気付いたからでは、エロスの二階には何があったか?  発展は期待されたか。果してエロスの二階まで前記のソプラノは響いたか? エロスは二階の期待にそむきはしなかったか? 地下の主人はガラス屋であったということは本当か 復興むなしいエロスは己れに鍵をかけて、優位を保つのに必死だったのはなぜか マァスターがいつもそこに居つかないのはそこにソプラーノがとどかなかったからか? ガラス屋の主人は地下のエロスに向けて演劇を志向したか?  否 全然。川口市の全トルコ風呂嬢達の中で何人が受持ちの小部屋をステージに変えようと努力しているか? 全員。処女地で父と子の戯れ父を殺したの何か? そこで例の処女地の狂乱は如何なる武器を保ちえていたか。テーブル コップ 灰皿 ナプキン 椅子 床 コップ スープ 皿 フォーク テーブルのクロス 三本から四本のナイフ 水差 マッサージ台 シーツ 湯気 のぞき窓 パンティ ビニールタイル ポケットの五枚の千円札 ワギィナ ティッシュペーパー タオル各種 初めて 常連 メガネ ネクタイ 便のしみついた水色縞のパンツ 汗 馬上位置転落 子宮 系列支配 漫画コミックの数ページ マジックインキ赤 スティーム噴射口 小学生の長女 小陰唇バリトンは咳として声あるか無 か?  分らずという風評を よそに哀変らず行 なわかつづげて いた いづれ その輝きは ありとある物をたづさえ 浮上するのだが/計/停滞/復活/測量/受形/歩行

タバコはたっぷり時聞がかけて吸われた。

気持はそれと裏腹に外向け 内にて燃え進軍していったことについて。
最後に供笑の破裂が引き起されて若くして愚かさに目ざめたことについて。
部屋を取りはづす決意を秘めて行われた。

1 空家を見つけることは不可能というよりは不毛なのだということについて何故って空家をしかも豪華なそれを造り出すことこそが復活の芸術であり見つけ出すことは国家の停滞であるから。勿論不毛を輝き(傍点:輝き)と呼ぶことは芸術にとって良いことである。

2「論理が無い」と口にすることは不自由な出席であることの表れであってテーブルのマナァではないことシンポジウムというテーブルは会食であり それこそ 「論理」であるからである。

3 ソニーテープを回すことなどさして問題ではないのはそれ以上に回っている「風景」という分厚いテープがあるからである。たとえば“歴史”“生活”“国家”“滞在”“街路”……。

4 会食とは各自がそれぞれのテープに座ることから始まり、それから獲物を卓上にさらけ提示し合うことの吟味 奪い合、楽しみ合い、殺し合うことで集り離れ進行は屠殺されていくものであるからであります、数々ある成功からまず一つ確保しようということです。

5 予感が全員に感知されそれに向って様々な立ち上り方が表れ 最終楽が向えられますでしょう、予見に対して起立し、予行を試みんとして退席するのでなければならないことを我々が必死に守るもの としてシンポジウムのルールと呼びシンポジウムの論理が果されますのでしょう。
(太字:上記1〜5まで総て)(太字:)

なおちなみに この部屋では二週間後 形態都市の一部 カフェテラス=コンミューンが芥氏によって上演された 毎晩即興で五時間も六時間も たまに夜が明けるまで行れた日も二三度あったのである 夏際氏は「進行中の作品」とでもいうように三号への街路屠殺へ踏み出したことを加えて この“テーブル”の在る部屋のドアにカギ後手報告がなされるにしたって「幕」はしずかにいつも一人で。

THE 2nd CURTAIN
第二幕

ライトの輝き、

テーブルの上にある、

芥 もう少しいいでしょう。

秋山 結構ですな。

芥 演劇とエロスということで始めてみましよう。一言だけ先に言っておきます。エロスを焼き殺すのが演劇だと。(太字:エロスを焼き殺すのが演劇だと。)

笠井 じゃ、ぼく言っておきましょう。エロスというのにないと。(太字:エロスというのにないと。)悪癖の部分に属してしまうわけですよ。なぜないのかと言えば、少くともエロスというものを存在させるためには、人間の意識というものがなければならないわけですよ。

芥 エロスは悪癖だと。悪癖を引き受けるのがあなたの仕事ではないですか。

笠井 いやそうではなく、ぼくは悪癖を十全と受け入れた肉体です。受け入れるということばに固執するならば、既に悪癖そのものだと言う。

芥 エロスというものを引き受けて、予感として、予感ですからね。あるなしに関係なく、あることばです。だったらそれを引き受けよう。しかし、それはないからないようにしなければならない。それを殺すわけですね。屠殺です。エロスを屠殺する(太字:屠殺です。エロスを屠殺する)のに。

笠井 エロスをここに摑みたいとするにはここに方法論が必要でしょう。

芥 だからエロスを消してみせればいいわけですよ。証拠を持って来るわけです。

笠井 じゃエロスを消すということは、もともとある場所にエロスを返すということでしょう。

芥 むしろ、封印かもしれませんしね。あるいは全くなかったのかもしれないし。しかし歴史があり、国家があり、平和があったりするんですからね。一応あると規定している人々がいるわけです。だけどやはり予感としてあるわけだ。それらを如何にエロス殺しに転回するか。それを見せなければ。

笠井 じゃあね。少くともエロスの予感があると、少くともその予感を感ずる限りはね、ある一つのイメージなり、どんな形であると想像されるわけですか。

秋山 あなたの言うエロスというのは人間にくっついているものだろう?

芥 だから人間を殺そう(太字:人間を殺そう)と言ってるわけです。

笠井 そうだな。

芥 そして人を生かそう(太字:人を生かそう)と。その、人には人権を。

笠井 悪癖とか、それとは違ったみたいだったな。エロスが。

芥 だから又、世紀末的伝説みたいなエロスがまた来るんじゃないのかと。人間を育てに。

笠井 世紀末的伝説なんでいうのは人間のつくり上げた神話ですよ。

芥 もう一度、エロスの逆噴射みたいな戦争(太字:エロスの逆噴射みたいな戦争)が起こるんじゃないか。十年位経てば。ヒトを得るために。

笠井 先に宗教の国家がこなきゃだめだな。

芥 例えば宗教というのはエロスの習慣化ですからね。一番ヒワイだ。

笠井 しかしエロスの国家が到来するのはここ一、二年、十年先には、ちょっと無理でしょう。そう歴史は簡単に繰り返さないんですよ。

秋山 あなたの言ったエロスとは宗教の原動力になるのかえ?

芥 エロスを虚構化するのが宗教です。そうすると日常というのが牢屋になってくるだろうと。だって空気を幻想と勘違いするわけですからな。だから肺が痛いと。その肺の痛みで肺に何かを言わせようと。テクニックもあるわけです。(太字:エロスを虚構化するのが宗教です。そうすると日常というのが牢屋になってくるだろうと。だって空気を幻想と勘違いするわけですからな。だから肺が痛いと。その肺の痛みで肺に何かを言わせようと。テクニックもあるわけです。)

笠井 おれたち日本人はそういう考え、無いような気がする。

芥 日本とか日本人というのもある意味ではエロスですからな。そこで一つのエロスになったらそこに一つの十字架が立つだろう。

笠井 エロスと十字架を結びつけたら、一晩中話してもきりがないですよ。むしろ十字架のないエロス。これを話した方が有益ですね。

秋山 それを殺すって言ってるんだよ。

芥 焼き払おうとか。

笠井 どのように焼き払うのか教えてもらいたい。

芥 そんなこと聞くわけですか。それじゃぼくも聞いていいですか。

笠井 ぼくが先に聞いたんだから一応答えて下さい。あなたはぼくに何が聞きたいんですか。

芥 ぼくはエロスを焼き払うということですね。肉体で、あなたは。

笠井 ぼくにそういう質問は非常に無理ですよ。ぼくは無いと言ってるんだから。あなたが少くも殺すと言うからには、どういう方法論をもってやるか。

芥 エロスがないという証拠を出さなければなりませんな。保証人の方です。書式が不完全だと言いたいんです。ぼくは。

笠井 十字架の無いエロスというのは可能ですか。

秋山 これはエロスという言葉が問題でね。エロスというものはあるわけですよ。交通整理をするあの人の言ったエロスはそういうエロスじゃないんだよ。千夜一夜のエロスじゃないんだよ。だから日本人とか何とか言ってるわけだな。それを殺すということを求めているわけだからな。

笠井 彼に聞きたいのだ。どういう風に殺すのかと。

芥 人を殺すとは言いません。人を生かそうと。人間を殺そうと。人間というエロスを殺し、人を人として輝かそうと。人間は形ではないですからな。

秋山 ただ、ちょっと限定された意味のエロスというのを言ったわけだな。

芥 だからこそ、血の滴る肉を空高く掲げるみたいな。それはエロスが焼かれる一つの例ですね。ランボーの例ですけれど。無いと呼んではいけないんじゃないですか。

笠井 いやぼくは無いとはっきり言っちゃった方が。

芥 言ってみたい気持はわかりますがね。それでまたぞろ、日本人かなんか持ってきちやったら、エロスは今度はあなたに対して牢屋になりますでしょう。

笠井 エロスそのものが牢屋。

芥 だって牢屋を焼き払うのがパリ・コミューンじゃなかったんですか。

芝山 ぼくはある意味ではエロスなんて、あってもなくてもいいと思うのです。つまり、例えば神秘主義とか、そういうことを言いますね。それからジョルジュ・バタイユは万難を排してとかいう言集を使うわけだ。結局、無秩序が日常みたいなところまで根を下ろしていけば、エロスなんていうのは所詮あってもなくてもおれはあんまり関係ないなという気がするわけなんですよ。

芥 物について語ればエロスになっちゃうんだな。物そのものはエロスじゃない。オマンコもそれ自体はエロスでない営みだ。だがそれについて語るとエロスになっちまう。

笠井 それはそうです。

芥 だけど、みんなエロスにしちゃうわけですよ。コンドームかぶせますからな。

芝山 だから、エロスというのは実に都合が良い。

笠井 かぶせるのはエロスじゃないんじゃないかな。

芥 日本人というコンドームかぶってますでしょう、あなた。それを言いたかった。自然というエロスとか。コンドームかぶっちゃってる。太陽の、生命とか。でも、今生きているのは、太陽生命圏から死を宣告されたものが、蘇ってきているわけですからな。アスファルト。コンクリート。鉄。プラスチック。ビニール。一応太陽生命圏から除外された、またぞろ一つの営みを行なってきたわけですぞ。日が暮れちゃいましたから。日を暮すことについて考える必要はなくなったわけです。何がなくなっても生きているわけです。

笠井 それとエロスを殺すこととどう結びつくわけですか。

芥 営みの総体がエロス(太字:営みの総体がエロス)ですからな。

笠井 じゃあ、仮説じゃなくて実体なんですね。

芥 例えば物になってしまうことは、死であったわけですけれども、物々が集って一つの営みという生命を始めた。これまたエロスですからな。その予感も引き受けるわけで、それを焼き払った時、おのれを除外してそれらが営みをしていたんじゃあ、またぞろ牢屋の中に入るわけです。ですから己れがいるということから始まって、人に人権を与えない限り駄目だと。

笠井 わかった。

秋山 わかった。

笠井 あなたはエロスをつくりたいんだよ。(太字:あなたはエロスをつくりたいんだよ。)どうも。エロスをつくりたくってしかたないんだ。

芥 ぼくを殺しに来る奴がいるはずですよ。エロスは殺されるためにあるわけですからな。

笠井 自分が殺されたいのは自意識でね。

芥 例えば太陽が二つあると、片っ方はエロスだから殺すわけだ。そうすると、いわゆるエイハブになる。だから肉体は文字の領域に対してエイハブでなければならぬ。文字は肉体の連中にとってエイハブでなければならぬ。との熾烈な戦いから一つのものを持ってこようと。そうしない限り救われない。足をチョン切られる。

秋山 街路で、ぎらぎら太陽が照っているわけだろう。ただ照っていてもしょうがないわけだろう。そのぎらぎらを自分がどうとりつけるかということ。ただし、一点殺すというバネがあるわけだよ。

芥 屠殺ね。殺意抜きの屠殺。それが遊戯の総体だろう。殺意抜きに行なわれた屠殺が遊戯そのもの。(太字:殺意抜きに行なわれた屠殺が遊戯そのもの。)いわゆる人類という誰でも採用される会社を更に上回った、もっと大きな劇場があるだろう。

秋山 その通りです。

芥 すると、カフカは転落し、ランボーは足切られ、ジョイスはくたばり、まどろみも消え、ドストが癇癪を起さず。カフェテラス。それが劇場のもとではないかと言いたい。(太字:カフカは転落し、ランボーは足切られ、ジョイスはくたばり、まどろみも消え、ドストが癇癪を起さず。カフェテラス。それが劇場のもとではないかと言いたい。)

(秩山氏 嬉しそうに笑う)

夏際 なぜ人の言うことに相づちを打つのかな。

笠井 だって、おれ、彼の言うことわからなかったもん。

秋山 でも、これからはうなづくかどうかわからないぜ。ぎらぎら持ってくるのか、暗い所つくりたいのかわからんだろう。

芥 暗い所つくったら、いつでもそこへまぶしさの断片をドンとぶち込んでくるということもいいですね。それがないと。

秋山 そうだよ。殺すといいうバネがあるからな。そこからもう一つあるわけだな。

芥 キリストがありとある予感に対して過ぎ越しをしたと。まあ人類という会社の利潤を報告をしただけですな。ところが、民衆というものは盗賊の方が好きだったわけ。本当のことを言われるというのはあんまり気持の良いものではなさそうです。バラバラというわけ。街路がひょっこり顔出しますし、空虚だとか不条理とか言ったり、あるいは居もしない人間について、長々と文章を書いたり。いやしないんです。それこそ肉体の一部です。

夏際 それだって、例えばあとになって今度それを街路とか何とか言ったものだから。

芥 まあ“過越し”しましょうというわけです。そのテクニックがプロセニアム・アーチと言うわけですな。

佐藤 所詮向うにあるのは可能なものなんだからね。つまりこっちのことを不可能なものだと思ってさ。まあいいんだ。ぼくは最初から可能なものになりたくないんだから。向うの世界、虚構の世界……ってさ。

芥 それを乱用したら、領域が広がってくるの?だって不可能なことをしたって死ぬだけだからやりたくないでしょう。

佐藤 どうしてそこに満足できなくなってきたかっていうことだね。他をさわってみたくなったということが……。

芥 そこで信さんに一言言いたいんですけれども、才能というものがあるとしたらそれはテクニックだろう。おそらく九九・九九九まではテクニックが占めている。(太字:才能というものがあるとしたらそれはテクニックだろう。おそらく九九・九九九まではテクニックが占めている。)

芝山 思考と類推みたいなものを、結婚できないと思うけど、ちょっと結婚させてみようという気がするわけです。

秋山 話に合わしていろんなものを展開しようと思ったんですが、そこに殺すという契機がどこに入るかと思って質問したわけよ。

芝山 結局、殺すということを言う場合に死者に甘えることもできない。現実のものにも甘えることもできない。

秋山 あなたは、ここに来たというのは、肉体の部分が来たというんだから、やっぱり殺すという形式かもしれない。では居るということは何か始まるのかどうか。ちょっと聞こうかと思ったんです。

笠井 始まらないですね。

芝山 ある意味で始まりも終わりもないんだ。

芥 椅子が舞踏しちゃっている。(太字:椅子が舞踏しちゃっている。)

笠井 演劇とは、どうなんですか。演劇とは舞台のこと?

佐藤 ぼくにとってはそうですね。舞台。劇場。

芥 いや、違いますぞ。労働の反対が演劇ですぞ。(太字:労働の反対が演劇ですぞ。)ありとあらゆる労働はテクニックになり、それらを駆使して行なう営みが、つまり労働を焼き払うということですな。

秋山 ふうん。「演劇」は労働の反意かあ(太字:「演劇」は労働の反意かあ)……。こりゃ、いいっ。うん、いいよ。(太字:こりゃ、いいっ。うん、いいよ。)

笠井 労働を焼き払うには、すぐ肉体の中に入ってしまって……。

芥 労働というのは一種の機械的作業ですから、テクニックですよ。

笠井 テクニックと言ったって。

芥 それを使うわけです。テクニックは肉体のあらわれだと。それも一つのテクニックだ。機械を消しておのれの手を機械にしちゃえばいいわけですよ。

笠井 びんをこう口に持っていくのは機械なんだよ。

芥 じゃない。じゃない。指先からだんだん事物に肉体が変っていって、形が生れて……。(太字:じゃない。指先からだんだん事物に肉体が変っていって、形が生れて……。)

笠井 しかし、そんなことまで意識できないもん。おれは舞踊家だもん。

(観客)ソレが芸術家の自滅だ。(太字:ソレが芸術家の自滅だ。)栄光のクタバル時だよ。

佐藤 おれはこういうことも演劇だと思うけれど、それは無名のものとしての演劇だよ。つまり、笠井さんも、それ演劇になるでしょう。でも「ぼく」の演劇ではないです。多分あなたのおっしゃった意味でね。

夏際 無名と言わないで非人称と一言言ったらどう。(太字:無名と言わないで非人称と一言言ったらどう。)

秋山 非人称か。それだっ。

佐藤 ぼく、非人称っていう言葉の意味、よく知らないから。

夏際 おれが、びんを取って飲むのが機械だというから、おれがということを言わなければならない。

芥 そうしたら、事物の舞踊という問題が出てくる。

夏際 意識しないからな。あなたが言ったでしょう。

笠井 あなたは意識してないかもしれないが何を意識しているわけだよ。

秋山 まあ、気に入ったよ。演劇が労働の反対だというのは。破壊するんだよ。労働というのは肉体の部分だよ。

芥 もしそうでなかったらイデオロギーになるからな。演劇、ドラマトウルギー。イヤだよ、そんなの、大衆じゃなくて一人称が反乱したんだ。

笠井 循環なものを感ずるわけでしょう。ぼくは感ずるわけですよ。たとえば、ぼくがここに来るということは死んだ行為で。ぼくが機械であるとかなんとかは大した問題じゃないですよ。ということになれば労働を破壊するんでは───労働とは何かというととになっちゃうわけです。シモーヌ・ヴェーユみたいな労働こそ真理であるという女もいる。

秋山 単純に考えると、労働というものは機械的になってしまう。こうやって機械的にビールを飲むということに。労働というのは、それを成立させるものだから。

夏際 おれの範疇に入れて、機械とか言うわけでしょう。自分の領域の中でしか何もできないのかっ。

笠井 ビールをここへ持ってくる間まで、ずっと意識してる人間なんていないですよ。

夏際 意識してるか、していないかわからないじゃないですか。機械か機械じゃないか問題じゃないですよ。そんなことは言語のメカニズム。

佐藤 ぼくはどっちでもいいと思うわけだけれども、すっぱり反対概念みたいなふうにはならないと思う。演劇と労働というのは。仮りにそういう仮説をたてるのは可能ですね。でも、労働が演劇におかされていることの方がずっと多いわけです。機械的とか、そういう側面から見ちゃうと、一方の演劇というものは一つのそれこそ人称を与えなければ成り立ち得ないものということになると思う。

芥 一つのテクニックになりさがってしまう。機械は運動をしないからね。運動を行為の力に変えてしまっているから。

佐藤 機械という具合に切り取れる水準というのはどういうところなんです。

芥 そこが劇場があるかないかだ。劇場がなかったら機械的な労働になっちゃうだろう。演出がつき、物書きがいて、稽古して、むしろ機械的な労働の方にやられるわけですからな。それは演劇じゃない。むしろ習慣化された虚構だから、演劇という宗教ないし政治だと、様式を受け継ぐという伝統だとか、またまたエロスになっちゃう。

佐藤 それはエロスに流れ込まないと。

芥 エロスにとっては壁。ヒトにとっては入口。すうと来て流れ込み過ぎちゃう。それがプロセニアム・アーチ。ラクダと針。

佐藤 断ち切られているというふうなことあるわけですよ。たとえば、今やっているこれは非人称の演劇であろうけれども、それはやっぱり断ち切られているわけだよ。どこかで。今。

夏際 だれが断ち切られると決めるわけ?

芥 人称にこだわっている連中がられちゃうわけだろ。

夏際 だけどね。行為と言葉は相反するものじゃないでしょう。だとすれば、内部からではなく外部からやってくるわけですね。

芥 カフェテラスだろ。

(観客) 内部がせせり出、外部が入り込む。

佐藤 出会わないカフェテラスがいっぱいあるわけだよ。カフェテラスから論理たてるんなら、そこから始めるなあ、ぼくは。

芥 出会った時、そのエネルギーをどうして奪わないんだ。歴史がですな、一つの部屋としであったわけです。そこに突然外部の光がさし込んだ。部屋の壁一個所、穴が破れて。肉体という部屋があって外界と触れてそこに一つのカフェテラス(太字:一つのカフェテラス)が起るだろう。舞踏だ。劇場がある。(太字:舞踏だ。劇場がある。)時間でそれを切ることもできないし。習慣でそれを切ることもできないし、政治でも切ることができない。芸術でも切ることができない。そうしたらそれは言語だろう。あるがままだ。その証拠が出たという時、その時人権、非人称をですな、外でもなく、その身体のものものとなる。一つ一つの人権が得られるということですな。

夏際 外部からやってきたものに決してコンプレックスを持つことはない。

芥 むしろ、己れがやって来たとみればいいんじゃないか。

佐藤 まるっきりそういうんじゃなくて、コンプレックスを持っているんだということを、逆に、実際には持ってないけれども、あるがままに、しかし持っているんだということを仮に核にして行なわれているみたいなことに対して、それにどう対処していくかという、それが断ち切られているという意識になるわけだな。ぼくが断ち切られているわけじゃないんだよ。

夏際 断ち切られているというのは、何者かによって、とか何かそういうふうなもの?

佐藤 だからそれはコンドームでもいいわな。するとさっき芥が言った才能というのは技術だと。技術というものはどちら側に存在するものか、もう一つ聞きたかったわけだ。

芥 そんなの存在する?しないじゃない。たとえば技術のある奴は同じ鉄砲を持っていても獲物が多いし、技術を持つてない者は一個もなかったりするわけだよ。どこにある?ないじゃないよ。これは、使うか使わないかだよ。

芝山 劇場というのは、いろんな意見の違う人が共存共栄するということとは全く違うと思います。出会いのロゴスの力みたいなものがあって、やっぱり要請されるわけだよ。まあその話じゃないかと思うんですけれども。だから、エネルギー転換の信管がどこにあるかみたいな。

夏際 強いて転換させるということは必要ないと思う。

芝 そのままということではない。

芥 錬金術みたいなことになるよ。そんな言い方。

佐藤 もっとパワーがかかるみたいな言葉でそういうことが語れないかということが問題なんだよ。

芝山 悪い癖かもしれないけれど。

佐藤 悪癖という習慣だよ。

芥 敗北という習慣だよ。

芝山(佐藤氏に)あなたがよく言う、キワモノ説とか速度というものだけが武器というわけではないでしょう。

芥 書くということに弾丸を込めろ(太字:書くということに弾丸を込めろ)というわけだよ。どうしてもおのれが入り込んでくるから、エロスも入り込んでくるわ。

夏際 芥はね、弾丸のイメージくさいな。非常に。

佐藤 使わないというのは、あなたの言葉を拒むことではない。

芝山 ことぼに内面なんて持たせるということ、これはことばになっていないということですよ。内面というのはまさに逃げ口上ですよ。だから、ぼくはたとえばエネルギー転換なんてよろしくない言葉を使うわけだけれども。つい使っちゃったみたいに使うわけです。とやかく言われると逆にこういうことも言ってみたくなる。

芥 領域と領域を。

芝山 だからいわゆる街と街を。

芥 これっなければいい。

芝山 だから書式を整えるということばも、保証人とか、つなぎながら、あるいはいさかいながら、合わしてやっていくわけでしょう。

芥 印鑑証明、一つとった人間がいないじゃないですか。地獄の場合、劇場なんでありはしないぞ。観客のいる場所ないぞ。ところがいつの間にか人間が落し穴に入るようになってしまった。出会ったものをとにかく落し穴に落しているわけだから。原則だったんですね。落し穴。テクニックであったものを落とす。大地に穴を開けておくんだから、コケンと。おれにとって大地であったものが、マンモスにとって大地でなくコケン落し穴になった時、それを劇場と呼ばないで何ができるというんです。その大地を原稿用紙と呼ばないでどうして文字が書けるか。いくら書いてもみんな剝れちゃうだろう。鋼鉄の糸杉出てきて破けちゃったじゃないか。ヒマワリ・ヴィンセントにしても、いまや落し穴、政治だって落し穴がある。演劇だって同じ。つくる時のテクニックなんだよ。スコップなんだ、みな。だから才能はテクニックだっていう。おれとかお前とか言い訳は要らないんだ。おれは十分だよ。勝手にあなたって呼んでくれるからね。普段準備しておかなくたって、そんなことはいい。十分すぎるくらい準備されているんだ。

佐藤 非常にきわどいわけだね。こわばるという瞬間を感じないからわりといいけど。もうひとつ先に行くという触れ合いと思うわけですよ。落し穴という意識だけれども、そとにひっかかってくる時緊張みたいなものを置かないと。

芥 落し穴というのは椅子だって。ぼくは百人なら百の椅子を一個一個並べてから、肉体というものを落し穴にしている。そこにいるということが、要するに椅子になっちゃって。ぼくの劇場に椅子があるわけだ。誰が坐るんだろうと思うよね。すると、ことばが坐りに来るから、それを選り好みしているだけで客がビール瓶になっちゃったりする。今度は椅子じゃなくて坐る奴がいないからね。こっちだってやっているんだから何か飲まなきゃあ、やっていけないわけだ。みんな飲んじゃう。劇場の中でのおれだな。普段は何もやってないんだから。予感だけは年中引き受けていないとまたぞろ地面が床になってしまうから動けない。こうやって宙ぶらりんでやってるわけだ。これをテクニックで使わしてもらう。

佐藤 笠井さんがホール劇場でやられていることは、つまり何ということになるんでしょう。

笠井 布教です。ホールの舞台でやるのは布教しか意味がない。

芥 マンモス見ると殺すわけだよ。営みきりやっていないから。今日ぶん殴ったのもマンモスぶん殴るのと同じだからさ。オクラホマじゃなかったかな。でも持ち場を離れた、あいつは。

芝山 マンモスぶっ殺す時は、もっと非情になると思うよ。

芥 マンモスは太陽の博物館なんだよ。太陽生命圏は博物館だからな。その中で生きようとするからエロスになっちゃうんだ。

笠井 相手に対する責任でもって、一つの布教の行為が成り立つわけじゃないし。

佐藤 観客が自家取引したら。

芥 自家取引。どういうことを取引といえ言えるのかな。

笠井 自家取引なんでいうのは、演劇なんか一番ぴったりですね。

芥 そんなにナショナリズムなんて大きいですか。たとえば演劇という中で私というのがあるとしたら、それはグリラ戦でしかないな。だって言語の語らいだって人間たちがやっている。戦争と同じこと。厳しいんですから。“私”というのはゲリラ戦ですよ。生活というゲリラ戦。ところがゲリラ戦だけで制覇は難しかろう。“コンキュスタドール”の敷石。(太字:“コンキュスタドール”の敷石。)征服者がカフェテラスでおいしそうにコーヒーを飲むところまではいかないわけだから。やっぱり物量と物質的恍惚なんていちゃついていないでもっと自分のテクニックに、精神と肉体をぶち込んだテクニックにそれらを置きかえる。結局ロケット一つ打ち上げるんだって九九・九九九%までテクニックですからな。人間の感覚なんて月へついてからやっと役に立つわけです。そこはここに居たって見えるわけですからな。人間なんて行っちゃいない。ヒトは一人もまだ行っていない。ものが移動しただけですよ。(太字:ものが移動しただけですよ。)つまり最初はもともと地球の一部だから、それはマジェランまでいかないだろうし、せいぜい喜望峰ぐらいです。マジェランというやつもいましたからね。地球というやつは幸福と同じだと言ったやつ。本人は帰って来ないで船だけ帰ってきて、その船を見たやつが全員マジェランになった。一人やれば全員やったことになるから。だったら焦ることはないじゃないですか。どんなことでも誰かにやらせればあたりまえのことになる。ところが船というやつが難しい。マジェランの肉体は船だったんです(太字:マジェランの肉体は船だったんです)からな。船の中ではゲリラ戦をやるわけですよ。マジェランは。反乱も起こる。鎮圧しなければならない。食料調達に行くと毒薬なんかであたっちゃう。でも船の方は毒なんか平気ですからね。毒薬の効き目はないですな。だからエロスのように人をたぶらかそうとしても、やっぱり駄目なんじゃないですかい? マリファナなんかケツメドへ差し込んでおきゃいいんで、マリファナ吸って吠えていたってだめです。(ギンズバーグのこと? 観客)

夏際 そうペラペラやるとさ、フェティシズムみたいな感じがしないでもないけどさ。

芥 いや、時間がないから時間つくっている。

佐藤 ああそうか。

芥 しゃべるということは時間を供給するということですからな。この時間割の中へ。時間が経つうちには誰か必ずしゃべり出しますよ。いらいらすることだってギラギラしてきで、ものの方がね。さて、時間の補給がついたとこで、又、プロセニアム・アーチというのを聞きたいんだけど。ただアーチにする時、先端と壁がぶち当って火が出るわけだけれどもね。だがプロセニアム・アーチに火がつくかよ。肉体とフィクションがぶつかり合ってさ。火がつかなかったら何も照らし出せないだろう。見たものより見えるものだから、劇的とはいかに獲得しようかと考える必要はないだろうと言いたい。

秋山 そんなこと言ったって……。

芥 ものだけはな。だってしゃべることだって劇的な舞踊じゃないですか。時間を殺しながら、しかも全く違う時間と言えない代物をそこへ持って来ちゃうんですからな。今まであった時間を殺して、それを獲物にしてやるわけだから。必ず観客が来ることを前提にしで芝居を行なうことはおかしいだろうと思うんだ、近頃ぼくは。観客という人間たちが来ることを前提としてさ、稽古したり、振り付けしたり、来るか来ないかそんなものわかったもんじゃないと思うんです。だって芝居というのを全く知らない「世の中の」ってことが、「初めての」という意味合いの人間か来たら、それだって一生懸命するだろうし、口開けるだろうしさ、「何やってんの」(太字:「何やってんの」)と役者なんかに肩叩きながらやり出すわけだから。すると今までやっていたのが演劇じゃないということですよね。それも一つのエロスを焼き払うやり方だ。習慣化されたものを習慣でなくする。そこに虚構のみがあらわれてくる。だって虚構のない演劇なんてあるはずありませんぞ。

秋山 おれも困るんだ。君の言うことわかってきちゃって困るんだ。喧嘩やっていかなくちゃいけないだろうな。

芥 いままでの人生が怠惰であった。自分の人生を怠惰という簡単な方法にしちまったと。もっと冷たく言えば、テクニックが何らなかったと。あとは行末の悲惨。

夏際 怠惰でなかったら、おれたちものなんか書けなかっただろう。

芥 書こうとする人が、なす術なく歩いていたなどと。火傷を負っちゃっているんですからな。少し治したらどうです。ぼくたちが生れて来ないとしたら安心だったかもしれないよ。しかし、生まれるものは必ず生れますからね。たとえば農奴しかなかった時代、耕作機械というのが大地に使われていなかった時代だったら、なす術なく歩いていたなんていうのもよっぽど勇気のある仕事だったかもしれない。なすことの方が日常だったわけですから。農奴という空間は一つの耕作機械だったわけで、役者も板張りのステージを、なぜおのれの耕すべき田畑にしないのか。それを一生懸命口走っていたけれども何にもやらなかった男がいましたよ。バローとか。いい役者だなと思っても、ハムレットやっちゃって、おれはキーンだと言ったりするんだから。「おれはもっともっとハムレットだ」と言えばいいわけだよ。前のハムレットが消えるから。だから皆人間というものは自分のいい所を見損っちゃったまま死んじゃうんじゃないかという気がするわけですよ。初めにあったのがロゴスだった。なぜそれを自分と呼ばないんですか。指さして。だってカッコイイ言葉あったわけだからさ。そうすると、ありとあらゆる人生というのは見損われたものということになるわけだからさ。見損っちゃいけないと思うわけだよ。そこで又演劇ということが蘇って来るわけだ。あるいは開かれる書物という感じ。開かれるですぞ。閉じたままじゃないんですぞ。閉じたままだと最初にロゴスがあったということになりますからな。

秋山 そうだよなあ。うーん。

芥 現に聖書というのは開かれる書物じゃなかった。あれは「閉じたままあるという書物」だった。原爆の方が先にやっちゃうわけですよ。「大地が開かれた」って。恥球に割れ目(太字:恥球に割れ目)ができたんですな。そこに指なんか突っ込んで良い気持になっているととんでもない地丘になりますぞ。地球ですからな。まあ「恥かしい丘」とでも考えた方がいいんで。そして恥しめの中に「奪われた肉体」を取り戻すのが舞踏だ(太字:恥しめの中に「奪われた肉体」を取り戻すのが舞踏だ)と言うんですけれども。笠井さんは一応どうやってそれを呼びますか。

笠井 つまり「奪われる」という言葉を使う中にはね、ぼく自身じゃなくて奪われるものがあったわけですよ。

芥 あるいは肉体がないからそこへあらしめるという意味合いだったんですか。

笠井 彼の場合にはおそらくそういうことが意味合いでしょうね。つまり最初に奪われるものがあったわけじゃないんです。彼の場合、だから獲得しなければならない一方的な行為の方が先行してしまうわけです。

芥 そこには力と勇気が要りますね。そいつが肉体だと呼びたい人です、ぼくは。

笠井 だから逆に言えば、肉体というのは無いという一つの仮説の中からしか自分のものにすることができない。

芥 でも身体があるというのは、これは疑えませんからね。肉体はなかったとしても。

笠井 いやいや、身体と肉体という言葉は違いますよ。

芥 違いますよ。身体があるということになったらこれは恥辱でしょう。

笠井 しかしね。あるということと、身体を所有するというととは別のことですよ。

芥 いやいや所有するもない。これは投げられたサイコロですからな。骰子一擲ですから。だっているっと気付いちゃったんですから、いますわなあ、身体は勝手に。

笠井 それは、だから感覚の領分の話。

芥 ところが、勝手にやられちゃ困るって思いませんか。

笠井 感覚の領分にならなくちゃいけないの。たとえば殴られることは感覚の領分だと言っているんでしょう。

芥 いえ、いえ、身体がなければ何もやれませんでしょう。

笠井 殴られたこういう傷一つの痛みがつの虚構だという説もあるわけでしょう。

芥 まあ、それは何と言われてもぼくは結構ですっ

笠井 ぼくにとっては虚構ですよ。この殴られるというのは。

芥 虚構のみがあるわけでしょう、そうしたら。政治も戦争も。

笠井 いや虚構のみではないですね。虚構というのは何か別のものがなければ……。

芥 虚構に対するイマージュの寄り集ったものが現実ですぞ。強いて言えば。

笠井 だから、それは悪徳の現実ですよね。

芥 だって殴られれば痛い。殺されれば痛い。戦争へ行くと殺される。恐い。平和の方が良い。こんな現実もありますからな。皆だからそうした虚構に対するイマージュが現実ですな。だってそうでしょう。これから何年か生きなくちゃならない。それに対してイマージュを抱く。すると未来というものが出てきて、そうするとどこへ就職しようかとか、不安と恐怖が訪れ、イライラとか頽廃だとかって、現実に勝てないというわけでしょう。結局、自分に身体があるということに勝てないわけですな。

笠井 そういうことですな。

芥 そんなものは。

笠井 それは肉体じゃないわけでしょう。たとえば二年先に就職しなくちゃいけないとか、殴られたとかは、肉体ではないです。

芥 イマージュに支配されちゃう身体だど。

笠井 だからイマージュに支配されるのは身体であって……

芥 イマージュの正体がエロス(太字:イマージュの正体がエロス)ですからな。

笠井 だから駄目なんですよ、エロスというのは。

芥 だから駄目だと言っていないで焼き払わないと。その時身体が肉体になる。その時身体に人称がなくて、非人称というものがあって。錯乱を鎮圧する方法。

笠井 焼き払う行為は必要ですよ、しかしね、ものをしゃべるということは、焼き払ったあとでしかしゃべることはできないんです。

芥 だから秋山さん、しゃべれないでしょう。

秋山 しゃべれないことは……。ははははっ。

芥 ちゃんとここに実例はありますが。へへへへっ。

秋山 ぼくも口をさし挟むけれども、あなたは一遍存在とか現実を焼き払おうと言っているんだろう。どうもそう聞こえた。

笠井 だからほんとうの意味で彼は焼き払わなくては言葉をしゃべることはできないんですよ。焼き払ってしまわなければ。

秋山 そうだよなあ。

笠井 だからどうしても虚構に聞こえちゃうんです。彼の言っていることは。

芥 だって虚構以外の何があるんですか。虚構以外の何がって聞きたいですな。

秋山 そういう行為を持たなくちゃいけないということを言っているわけだけれども。まあそこまでは。

芥 何があると言っているんですか。

笠井 虚構を殺すとか、エロスを殺すなんて言っているうちは、非常にある意味でセンチメンタルなんですよ。

芥 だって人類が何をつくったって。何もつくっていないから虚構だよ。

笠井 違う。何もつくっていなければ虚構じゃないんですよ。

芥 エーッ!

笠井 虚構、壊すことができないもの。

芥 それはねえ、あれだ。虚構の多様性というやつでしょう。だって名付けえぬものですからな。

笠井 壊す対象というのは一体あるのかね。壊してしまった人が。

芥 壊すなんて言っていませんでしょう。勝手にあなたがそうおとりになっただけで。

笠井 殺すとか。

芥 だって焼き払うというのは、燃えるものが燃えるだけですからな。燃えたい、燃えたいと言っているのを燃やしてやるだけのことです。

笠井 ではエロスを壊すというのは何なんですか。

芥 むしろ壊れないものを壊したんじゃないかなんて言うのが進歩論じゃないんですか。文明が進歩するとか。だって何もつくっていないのにつくった……トね。

笠井 そう、それはそうだよ。何もつくっていないよ。文明なんでいうものは。

夏際 古い話だ。

芥 古い話です。JJ爺さんのアイルランドだ。昔の不調和というわけです。

笠井 つくっていないでしょう。

芥 調和しない? 調和したままやったらどうか。いわゆるバランス・フォワードをね。たとえば音楽もそうですね。あらゆる音という音がバランスを保ったまま前進してくると、これらとスゴイ。

笠井 音というのはちょっと別だな。

芥 あなたはコルトレーンで踊ったことなかんべえっ。「オーム」で踊りましたか。(太字:「オーム」で踊りましたか。)

笠井 何て言ったの? 「オーム」というのは何? 聞いたことない。

芥 「オーム」と呼ばれるところの一つの音楽です。ありとある音がバランスを保ったまま前進してくると。コルトレーンの奴も窓から入れてやれと。

笠井 音楽なんでいうのは日常感覚の持続みたいなものでしょう。

芥 音楽を通さんとするその時、身体が肉体ですから。元来音なんてないわけですから。元来なかったところへ返しちゃうわけです。元のものは元へ返せ。

笠井 そうそう全て戻してしまえばいいですよ。

芥 それをやらないと舞踏する肉体だなんて言えませんな。

笠井 だから、全部戻してしまって一体何があるの。

芥 じゃあ、あんたまだ強い敵をやっていないんだ。見張りを倒した位だ。これから攻メルんだ。だって未曽有の運動がもしあるとしたら。その後にわれわれ乗っかっているとしたら。未曽有の運動が、一つ一つの運動がありとある音になって、ガーッと出て来ていいわけです。あるいはそれがバーッと文字になって出てきたっていいんです。未曾有の運動が。人間の側からやったことなんてあんまりないわけです。人間の側からこれをやるなんでいうのはてんでないわけだ。たまにポチョン、ポチョンとやるだけでね。歴史というテーブルを展げてみても……。

笠井 そうかねえ。たまにポチョポチョもないんじゃないか。

芥 いや、若干ありますよ。やっぱりヒトというのは何処にでもいるものです。

笠井 ないね。ないよ。声は死んでいるというんだ。ポチョポチョもないよ、実際に。

芥 果してそうでしょうか。

笠井 ポチョポチョなんである一つのものがあればだ。ここから、ばあっー と幾何級数的に全て始まっちゃうよ。歴史も文明も。

芥 ありとある運動が。架空へ……。

笠井 ポチョポチョもないよ。

芥 悩みの正体となってあらわれたり、原則の正体となってあらわれたり、またまた歴史と呼んだり、まあ舞踊がないということを言いたいわけですよ。ここに到れば。

笠井 舞踏なんてないよ。

芥 これこれのものがこうやってあらわれた時、それを名ざして舞踏と呼んだ。人類はまだテーブルを囲んでいないんじゃないかと言いたいんです。(太字:人類はまだテーブルを囲んでいないんじゃないかと言いたいんです。)自分の肉体を見つけて、それをそこで殺して、それでまた自分で食っちゃうんですからな。それが一同に会するテーブル、これが人類という芸術です。あるいは会社。

笠井 しかし、欲望の問題だな。これは欲望だよ。

芥 一つの欲望を一つの他人としてつき合おうというわけですよ。

笠井 それも欲望なんだな。つき合いたいという。

芥 それはそうだ。欲望というよりも、むしろフィクションであり虚構の芽生えね。

笠井 しかし、欲望もある意味で虚構だと言える。

芥 見えないけれども実際のことだから。

笠井 それでね。実際あったことに騙されやすいんです。虚構というのは。

芥 見えるものだってみんな観念ですからね。このことビールビンと呼んで疑わないんだから観念以外の何物でもない。だってそうでしょう。見えるものもそうすると観念なんです。見えるものなんか信用しては駄目なんです。

芝山 そうして見えるものに騙されて。

芥 身体が霊に支配されちまう。

笠井 おれは見えることを信用するよ。ビールビンでも信用する。

芥 その時そこから抜け出さなければ駄目だ。それらは親衛隊だ。信じるよりコキ使うのだ。

芝山 なるほどね。

芥 すると原稿用紙一枚ということになるわけだ。どうやって原稿用紙を手に入れるかが問題点だ。未必の地よってやつ。舞踏家がどうやっておまえのステージを手に入れるか。

笠井 瞬間論ですよ。おれのは。

芥 その点を爆発させないと。やってきたことが全部定期預金になっちゃうんです。人類の場合。それを当座預金にしようと。利息はつかなくてもいいから、勝手にいつでも使えるようにと。時間なんていうのがあるとまた定期になってしまうからやめようっていうわけですな。だってこちらが運用次第では幾らでも殖やせるわけです。繰り越し金。そこで過ぎ越しというわけです。バランス・フォワードだと言うのは繰り越し金をいう意味ですから。三井銀行の通帳に書いでありました。そうすると過ぎ越しというのはやっぱり柱にちゃんと血を塗って、鴨居にも血を塗ってということになるわけです。やはり自分の手元にあるとね、その過ぎ越しにプロセニアム・アーチをくぐれないと。かってにその門前で営みをやるわけです。たとえば目の前で火を燃やしたり、ガアガア騒いだり……。結局はいちゃついているわけです。マケてくれ、デキてくれって。そうすると人権のある者があらわれて屠殺される。オマエにはふさわしくないとね。全く理由もなく。しかも大勢はちゃんと現在という舞台で生きていますから。機動隊と呼びますからねェ、ぼくの靴を指して。ぼくの靴をですぞ。もう少し居る以上現在というやつの方の気持ですよ。そいつを何とか処理してあげなくちゃ。「現在」というやつに「私」という気持をくっつけちやったら、もうたちまち過去になりますからね。「私の現在の気持」なんていうのは役立たずの過去なんですからね。ありはしません。「現在の方の気持」そいつをこうやって吸い出して来なきゃ。これはバランスを保っていますよ。あらゆることが同時に行なわれてバランスが保っていますからね。そのことなんですけれどね、恥(ルビ:ち)しめの丘(ルビ:きゅう)で。アフリカという大陸が一つの舞踊なんですよ。

笠井 あんな原始林は駄目ですよ。

芥 アフリカという大陸。草や木が生えているところ。草や木が葉や芽をつけなくて生のままでやっている。脳外科のメスの光から目を付けて、ジャングルを殺しているわけですね。ちゃんと焼き上っているわけです、あれはもう。

佐藤 シンポジウムは終ろうか。そろそろ。

芥 そうですねェ非公開で? まあ……非公開も公開もない。

佐藤 今日のシンポジウムは、集中がちょっと足りないね。全体の。そろそろ終ろう。

芝山 全然乗らなかったね。言い訳にもならないけれども。

芥 そこで苛立つとやられちゃうんだよ。

佐藤 苛立たないよ。苛立たないけれどもさ。もう終りにしよう。

(END GAME)

芥 終りまでゲームにしてほしいんじゃないの。「おお美わし」かったと言ったりね。不調和の時を。

芝山 気の遠い時期だった。

芥 そこで待つからいけないんじゃないか。あらゆるものが調和を保ったり、バランスを保ったりする状態を待っているから。昔そういうことを経験しているから。最初に会ったことのあるゴドーという奴を。

佐藤 そうかもしれないわ。

芥 それを待っちゃったら駄目だよ。

芝山 書いてみたい、と思っているんです。どうしても一回ちゃんと……。

芥 自分が一瞬たりとも閉じ所に居続けないのに居たと思う。それで初めてその正体が居るということになった時、非人称になっちゃうんだ。あらゆる覚器の濫用というわけね。あなたの中にこれになったり、あれになったり。習慣も濫用し、方法も濫用し、ありとあらゆる……。そうしなかったらバランス保てないんじゃない? のあいつら凄いよ。だって保たれちゃっているもの持ってくるんだから。それを保たれなくなると集中力が足りないとか愚痴ル。

佐藤 そう、全くそうなんだよ。

芥 だからいいんじゃないのか。首でも吊れば。

佐藤 ただ……。

芥 だって自分でちゃんと自分の事に終りを付け加えられるとしたら、もっと簡単なものじゃないよ。問題というのは。

佐藤 付け加えられないんだな。付け加えるというのは馬鹿らしく思えるな。自分で付け加えるのはね。

芥 だったら付け加えだけで芝居をやっていかなきゃ。芝居しか武器がないんでしょう。一応選んだんだから。全部付け加えたわけよ、ベケットは。それで全部やっちゃったら他人はもう付け加えられないよ、そいつに対して。

秋山 それはそうさ。

佐藤 そうは思うけれども。わかってんのかな、本当に、ぼく。

芥 どこまで行けったってもう付け加えられちゃって。もう全部付け加えられているもの。それでも内容がどうのとか、スタイルがどうのとか、文体が、なんてやっているから駄目なんだ。付け加えだけで。だから形態がと。

佐藤 やっぱり、打ち切ろう。

芥 じゃ、国家の方も停滞したままで芸術の方も停滞したままだったんですか。“ラザロ”が死んじゃうってのに。今日のこの観測は、腐るか腐らないか、天気予報をやったわけですから。あるとしたら、シンポジウムというのはいつも天気予報ですよ。でも全共闘が停滞するということ(太字:全共闘が停滞するということ)になりますでしょう。そうすると何かバランスがあるわけですからね。そうしたら演出家はこのバランスをちゃんと役者と役者間のバランスに置いたり、観客と舞台のバランスに置いたりしなければなりませんね。

佐藤 あんまり新しい観測は出なかったね。はははあ。いろいろよくわかったけれども。

芥 そこで国家というのはありとある停滞だろうと。共同幻想論なんてやっていないで共同発狂論(太字:共同発狂論)をやらないと。ヘヘヘヘぇ。国家は消せないと。それを個人に当てはめると磔になるわけだよ。だって一度に幾千の愛欲が飛び出てくるわけでしょう。それを殺すのが気構えだよ。ごく軽く。手なづけ兵士に。肉体の部分と呼ばないで、全身を次々とあるものの部分に変えていく作業。そうしたらその人間を誰も殺せなくなっちゃう。何も殺せなくなっちゃう。そうしたら人間には七〇年あたりがちょうどいい長さだと。もう長さじゃないですけれども。これはものを見る時のそのものと私が対峠した時、私と物々の間に七〇年という私の人生の距離があるわけです。百年生きる人間は百年という距離があるわけだ。物を視るときに。

佐藤 秋山さんにまとめてもらおうよ。芥の言ったことを、うんうんこううなづいて聞いてたし、今日はあんまり喋ってもらえなかったから。

秋山 芥さんの言ったのはよくわかったよ。おれは。ところがこれは言葉がちょっとだらしなくなっているから。せっかく言ったことをことばが正確には受けとめていないということだろうな。おれの理解したことはそういうことだよ。ことばがだらしなくなっているよ。だからあなたの言ったことをおれはかなりずっと聞いててね。論理的に───それも
おれの理解する限りでははっきりしてるしね。そういう風に何かやらなくちゃ駄目だということは、そこまではわかったけれども。それを取り巻いていることばがだらしないから、これだけの話になったわけだ。ほんとうならそこから一々が発展しなくちゃいけない。でもしなかったね、とにかく。

芥 これがあったおかげで二年後位には正しい評論家ができ上る。はははっ。

秋山 あなたが言ったようなことをのせることばというのは今はないよ。

芥 だからこそ、それにふさわしい劇場があるはずだと言いたいんです。

秋山 劇場がね。

芥 時間でもないですからね。地面でもない。

秋山 それはそういうのを受けとめて、ことばや何かがあって、表現があればそれで世の中はもっと変っていくだろう。ないよ。

芥 でも世の中変らないんじゃないですか。いつだって「初めての」ですから。たとえば精神が一万年生きるんだったら、精神は物と対峠した時一万年の距離を持っているわけです。肉体の方も一万年に生命を置きゃ、そこへ言語が出てくるよ。

秋山 そんなものは何ですか。それを殺したらことばがないんだ。そのあとに出てくることばがないんだ。もう一遍時間ということばを使ってみても、大体堂々巡りを繰り返すほかないわけだ。ことばはね。時間というものがあって、そんな時間なんていうものは何ですかって。時間を殺したら、そのあとに出てくることばはないんだ。

芥 だから距離(太字:距離)というんです。視ルことは力だ。

秋山 だからそういう言葉になるわけだ。距離という言葉なんか、今思ったなんかからずいぶん遠いわけなんだ。

芥 距離がある以上、そこで何かが測量(太字:測量)できますから。どの程度広さがあるとか、そうしたら劇場ができる。

秋山 だから、あなたが何かあるとか、劇場ができるとか言っているけれど、今それをもっと直接に指す言葉がないんだよ。

夏際 そんなに言葉が欲しいですか。

芥 「ことばが欲しいか」とイワ……レテ……沈黙が……オトズレル……ニ・三度ウナヅイテ……イテ……何ヲ言ウカト……我々ハ……一瞬期待スル……ガ相変ワラズ……状態……ハ同ジデソノ……ウチニ───これでベケットだ。やらないでやろうというんです。

秋山 一方で停滞したというもう一つの題目があったな。

芥 今ここにベケットという劇場があったわけです。ここに。だが劇場がなければできない人間にはありとある劇場を一手に次々展開してやろうというわけです。文学がなければものが書けない連中には、ありとある文学が通過していくような一冊の書物を見せてやれ。来るべき書物ということはないでしょう。開かれるのか。開からるはずのものがみんな開かなくなっちゃったと一言言えば良かったんです。それができなかったら、みんな同人誌に書いておけばいいんですから。いろいろありますから、同人誌請負企業が。講談社とか、新潮社とか、みんな同人誌ですぞ。

秋山 それはそうだ。だから、ことばの世界、そういうのがないじゃない、あそこいらには。

芥 そういうのだけで詰まっているのが、むしろことばの世界だと。もしあるとしたらです。

佐藤 だからいいんじゃないの芥の場合だったら「時間がないんじゃないか」と言えば、それでことばがなくなんないだろうと思うわけだ。ぼくは。

芥 宇宙から物々がなくなってしまったら宇宙でもないよ。

佐藤 秋山さんのは、だからちっともまとめになっていないし、受けとめていないよ、全然。

芥 こういうのをさして近代と言えばいいんじゃない。(秋山氏を指さし)

佐藤 まあどうでもいいや。

芥 近代乗り越えていないんだから、そんな愚痴言わないで。センターは消えたわ!

佐藤 ぼくはまあ飛び飛びにあるわけだよ。時々、乗りこえてものを見る時がさ。

芥 現実というのであるとか、虚構は現実に勝てないとか、それイマージュだよ。

佐藤 終ろう。

芝山 たとえば、今さっき劇場ということばがそれほど正確に抽象されたことばじゃないと。もっともっと良いことばがあると。こういう言い方悪いけれども。

芥 なんかやっていなくちゃいけないよ。やろうと思った時やれなくなっちゃうもの。

秋山 まあそれよりも劇場と言ったろう。ことばがだらしないんだよ。

芝山 抽象できるはずですね。

秋山 劇場ということばじゃないかもしれない。

芥 するとやっぱりみんな燃えちゃうよ。椅子もテーブルも……だから彼(金坂氏)がやっていたのは物についてだから、椅子を燃やそうと。

芝山 あんな思い上がりもういいよ。

芥 君、苦虫噛みつぶしていたのになんにもやらなかったじゃないの。

芝山 別に苦虫つぶしてもいなかった。

芥 一概に言えたものじゃないぞ。皆が会話というゲームを楽しもうとしている時、一人楽しまないと宣言するわけだから。あれだって力と勇気があるわけだ。ただ知恵がなかったというわけ。そうしないとヘクトールにだってなれないよ。ヘクトールだってやられちゃったんだ。わかった? ぼくが居るからいけないんだ。終らないんだ、これは。

佐藤 そう。はははっ。だからそれを受け止める水準があまりにも違い過ぎるからなんだよ。彼は自分のことすら受けとめ損ねた。別に芥が居るということ、それ自体は居る所に居るんだから。

芥 じゃ受けとめる水準が速記者だけだったら?

佐藤 それだったらもうくたびれたろうから。

芥 同じ人間だよな。一方は機械的な労働だよ。機械的な労働の方がより遊戯の地位にあるということはどうするということだよ。すると君は現実と言うわけだよ。習慣化された虚構に戻ろうとする期待。そんなのないんじゃないか。一回出ちやったらないよ。もう。

佐藤 だから終ろうと言っているわけだ。

芥 じゃ終りを君が持ってこなくちゃ。

佐藤 いいんだよ。終ろうと言ったら終るわけで。始まりをぼくは持って来なかったからね。誰かが始まりと言ったんだ。

芥 そうすると自分が仮定であるという負け惜しみのベケットへ行ったところで終わるということは、再び停滞のまま個人が国家と同じ大きさになったということの証明で終るぞ。それはよくないんじゃないか。

佐藤 おれはわからんな。

芥 たとえば椅子が正式な車のついたイザリの椅子になっちゃうのはいけないということ。歴史というイザリ車の上に座っているとかね。

佐藤 いけないというのは「いけない」というクサビ(傍点:クサビ)だからね。

芥 たとえば秋山某を文学という車椅子から引きずり出すということは一応やったかもしれない。しかしこの話は書物に載るけですから、それを読んだ人間を、現実なら現実という車椅子から立たせるということも必要なんですよ。これは空間の要請でこれをやるのが出版という営みですから。

佐藤 ぼくもそう思うよ。シンポジウムというのは……。

芥 どうやって立たせるかということ。それをやらないでやめると又怠惰ということになるぞ。くっちゃべるということかも何にも出て来ないことを自ずから証明しちやったら演劇やったって何にも出てこないということになるぞ。明日からあなたが演劇をやめるならいいよ。自由劇場をやめて彷徨うとか。そうしたら終りにするよ、おれだって。だってそうじゃないのかなあ。おかしいよ。だって、くっちゃべることから何にも出て来ないなんて。君だってくっちゃベる奴何人も集めてそれを演出するわけでしょう。演出家というのは。で、出て来るものを出さすわけだから。だったらぼくがこうやってくっちゃべっているんだったら、演出家になんなくちゃならない。これで演出家にならなかったら、実際演出家じゃなかった。関係代名詞がくっついた「演出家と呼ばれるところのもの」という。実態がない。実用がない。同じ元老院の仲間になっちゃうし。

佐藤 おれも良くわからない。

芥 状況がそうなると、信君も一転して暴君になるわけだ。違いますか?

秋山 そうだよなぁ。

佐藤 ちょっとおれも迷い出して来たぞ……。

芥 それをいかにやるかということで、今……。

芝山 つまり、今結局みんな、なんだかんだ言ったって、積極的にやろうみたいなことが一つあるわけだから。「積極」という言葉あるわけでしょう。

芥 こうやって見ると、その積極というやつがつくっている肉体、あるいは意識と言ってもいいかもじれない。同じようなものだから。そういうものがあったか、ないか。むしろこの天井の方が積極的だよな。ぼくがしゃべるなんでいうことは、落し穴をつくるだけなんだ。スペードのジャックにハートのジャックを面会させなきゃみたいなものあるぞ。(しばしの沈黙)エンドレスでなくするのがやはり作品だと思う。人生という、人類という人生がエンドレスじゃないかということで、皆ビビッチャウわけだから、実はね。そうすればベケは結局駄目だということになるし、人類がいなくなっちゃってもそこにちゃんとあるようなものを持って来ないと、一応作品というのはやれない。いつでも開いているものだけれども。ところがいつでも閉じちゃって。勝手に決めちゃって、それが蔓延しちゃったから。今ではそれがイデオロギーにすらなっている。それで一つの効果すらつくっちゃっているわけだ。だってこんな停滞を目の前に見て、芸術家がなんかこう相変らず昔の不調和をまたぞろやるということは許されないと言いたい。そうしたら皆金坂と同じだよ。むしろ金坂の方が正直でよかったみたい。

佐藤 焦りだよ。あれは。ぼくはつまらないことだと思うけれども。

芥 彼だって非常につまんなかったかもしれない。

佐藤 そういう意味でならつまんなかったろうね。だからあんなことやったんだよ。

芝山 つまんないからあんなことやるなんて、所詮自足に過ぎないなけじゃない。だからいくら正直にやってみたからって別にどうのこうの言うことないと思うけれども。

芥 たとえば君の詩が彼を殺せるかという問題はどうする。

芝山 少なくともあいつの下劣さは殺せるよ。

芥 下劣を殺しても駄目だよ。身体が残っているんだもの。

芝山 それであなたがあいつのケッペタを蹴とばすわけだ。それほど差はないと思うんだ。一々区別してみる必要も。まあ、あなたも本気でそんなこと言っているとは思わないけれども。

芥 主人になりたい人間がいたとする。しかし主人になれるはずはないとする。そこへ主人が帰ってきちゃった。そうしたら主人になれない人間が主人になろうとしていた時に何が起こるかということだ。

芝山 だからああいう甘ったれたことをやるわけでしょう。

芥 主人の靴を呼んで機動隊と呼んだりするわけだ。証拠が出たと。あれを機動隊と呼ばなきゃ話そうとするだろう、主人は。

芝山 しっぽを出しているわけです。

芥 一応身体を与えてやりたいことをやらせているわけだから。才能があるけれども、それをテクニックに変えられなかっただけだ。才能あるけれどもテクニックに変えられない。これを価値判断の原因にすれば、皆さん金坂君と同じじゃないですか。軽蔑してはいけないよ。むしろ彼の靴に跪いて接吻でもしておいた方が良い。

芝山 違うぞ。おれはしないぞ。

芥 おっ、「しないぞ」と言ったな。じゃ、そのうちに「しないぞ」と言ったその宣言が顕在となってあらわれるわけだな。君のいうところでは。

芝山 ああそうです。そうやって積極性と呼ぶわけです。だから自分で言っちゃ値打ちないけれど。

芥 すると、いない人間が二人居たわけだ。それを次々殖やしていかなくちゃ。

芝山 しかも別の船でね。

芥 そういう意味なら、やっぱり彼は駄目だったということになるんですよ。しかしまだ決着がついたわけではなかろう。もうつきかかっているわけだが。

夏際 全共闘の集まりみたい。

芥 そうすると国家が活発になりますから、風景が活発になっていいじゃないですか。最初の一歩というやっで、二歩目からそれを持続しようとするから駄目なんで……。企んでいることを話して終りを引き連れる。最初の一歩として計画とか、抱負……企みというか。じゃ、秋山さんから。今日の出会いをきっかけに何をやるか。それを言い合いましょう。

秋山 おれは受けとめたいわ。帰っていった人何と言ったつけ。金坂───あの人とわれわれの話が同じだと言ったんだろう。おれはその通りだと思うよ。それははっきりそう思うよ。だからおまえと喧嘩やろうと思っているんだよ。さっきから頭で一生懸命捜していてさ。時間があるのかないのか知らないけれども。君は劇場とか何とか言った。そこで君が何をやろうとするのか聞いておこうと思う。

芥 今月二十二日過ぎにもう一度ここへ来ていただければわかります。二十二日から十日間の猶予をこの部屋に与えます。あなたがいらっしゃる。その時あなたは目撃するだろう。じゃ、次は信さん。

佐藤 これから何をやるかと言えば、秋に演劇センター68/70の移動劇場の計画の実行その他やろうと思うことは沢山あります。

芥 芝山さんどうぞ。

芝山 ぼくはここで最後まで誰も否認しなかった「愛と自由」ということばがどこまでフィクションを殺せるか。所詮それは消せるかもしれないけれども、あなたがそうやって言っていることばの隙間から「愛と自由」ということばがさっきからずっと燃え続けているかもしれない。それはもうあなただけじゃなく、ここに居る人は「愛と自由」という火
花が……思うんですよ。

芥 それは座っていて言える代物かよ。

芝山 だから座っていて言えるか、言えないかはわからないけれども、まあやってみようじゃないか。そうなりゃ希望なんでいうものを開く時も、傷を開くようにしてしゃべらなければ。そこで言ってみようじゃないかと、まあそれだけのものでしょうね。何でもないことかもしれないけれども、逆に何でもないからこそやってみようじゃないかという気がするわけです。ぼくは結局最初から当り前のことしか言わない。

芥 笠井さんは?

笠井 もっとしゃべろうよ。これを終りにするのはやめて。でもここは駄目になったんだろう。だからあなたと二人でしゃべろう。

芥 夏際さん、どうです。

夏際 家に帰ってショウベンでもする。

芥 アクタ君?諸君が感じた、ぼくに対して感じたありとあらゆる予感を諸君は実際に見ることになるであろう。かつての予感が目撃するところとなるのだ。

ACT3タバコのト書き終末の供笑(太字:ACT3タバコのト書き終末の供笑)

銹(ルビ:さ)ビタ……(煙車を取る)「なっ」あの窓開(ルビ:あ)いてんの? へっへっへぇ煙瓦色ノ……(唇(ルビ:くち)に銜(ルビ:くわ)える) どうもそうじゃ 肌ヲシタ……(燐寸を擦る) ないみたいだけど ソノ建物ハ……(火を点ける) それにみんな 窓枠ノ……(煙を吐き出す) 眼閉じて 部分ダケガ……(右手を伸ばす) 冥想かなんかにへんっ一定ノ……(煙車を一本抜き出す) 耽ってるみたいじゃないか 間隔ラ……(唇に運ぶ) 外は真昼(太字:外は真昼) 置イテ……(銜える) だってのに 僅カニ……(左手を伸ばす) テーブルを(箱にとどき)あんな薄暗い外部へト……(燐寸を一本取り出す) 所で 突出シテ……(擦る) 非幻想だとかイルノデ……(焔を近づける)カーテンを何だとかさ 両翼ノ……(煙を吸い込む) 止しなよ外廓ハ……(吐き出す) ねえ止しなよ、把手 ギザギザトシタ……(右手を伸ばす) 止しなよぉ 微細ナ……(煙車の結を掴む) 止せ  凸凹ヲ……(左手を伸ばす) どっちみち 呈シテ……(箱に添える) 幕開狂言 オリ……(右掌で一本抜き出す) じゃないのさぁ ソノ為ニ……(唇に運ぶ) イマージュじゃ 稜線やハ……(銜える) アスファルトも 剃刀ノ……(定手を伸ばす) 溶けないぜ 刃ノ……(燐寸の箱を掴む)コンクリートの 鋭利サト……(右手を伸ばす) 切れっ端でも 非情サトヲ……(箱に添える) ぶち込んでやれ 帯ビテ……(持ち直す) HE〜Y!  背後ノ……(右掌を箱に突っ込む) COME ON!  空壁ヲ……(軸を一本取り出す) 出といでよぉ 切リ裂キ……(擦る) そんなとこでぶつぶつ 全体ハ……(焔を煙草に近づける) 寝言云ってないでさあ 恰モ……(顔を焔に近寄せる) まごまごしてると 裁チ鋏デ……(焔と照草の先端とを接着させる) 手遅れになるよぉ 刳リ貫カレタ……(煙を吸い込む) もうすぐみんな ボール紙ヲ……(吐き出す) 行っちゃうよぉ ベッタリ……(右手を伸ばし) THE CAMERA EYE(1) なんてんじゃ 貼リ付ケタ……(煙草の箱を摑み) 追っつかなくなんだからぁ ヨウニ……(持ち上げ) 窓硝子なんぞ疾っくに 立体感ヲ……(左手を伸ばし) 吹っ飛んでるのが 喪イ……(箱に添え) 見えねえのかあ(太字:見えねえのかあ) ソノ……(右掌で一本を撮(ルビ:つま)み出し) 見えねぇわけだ 中央部ハ……(唇に運び) 眼なんかくっ付けてんだあいつら 安定シタ……(銜え) 事物(ルビ:たから)探しの ズッシリト重イ……(左手を伸ばし) 見者どもめ!  量感ヲ……(燐寸の箱を摑み) HI!  保ッテ……(右手を伸ばし) 何が見えるぅ?  イナガラ……(箱に添え) ええ?  外廓ハ……(持ち直し) また永遠かぁ?  弛(ルビ:たゆ)ミナク……(右掌を箱に突込み) ばっかばっか 打チ寄セル……(軸を一本撮み出し) またぞろ虚空ノ……(擦り) アビシニアくんだりまで 脅威ニ……(焔を煙車に近づけ) 遠乗りでもする積りかぁ?  栖サレテ……(顔を焔に近寄セ) 脚やられちまうぞょ(太字:脚やられちまうぞょ) 激シク……(焔と煙草の先端とを接着させ) お祈りしたって 震動シテイテ……(煙を吸い込み) 遅いぞよ コノ……吐き出し) あのなぁ 両者ノ……(右手を伸ばし) 見るってのはなぁ 閲(ルビ:せめ)ギ合イ……(煙の箱を掴み) 眼閉じることじゃないよぉ 漫蝕シ合ウ……(持ち上げ) 眼抉ることでもないよぉ凄ジィ…… (左手を伸ばし)眼球が勝手に 重圧……ハ(箱に添え) 飛び出ちゃうことだぞおっ 稜線ヲ……(右掌を箱から離し) 外の方がいいって 打チ拉(ルビ:ひし)ギ……(親指と人差指とを触れ合わせ) 出て行っちゃうのっ 絶エ間ナク……(箱の中に突っ込み)もっひとつつ 膨脹サセ……(採り) 叩っ込んでやれ 収縮サセ……(一本を撮み出し) お情けだ 放射状ニ……(指を離し) いいかぁ 拡散スル…… 人差指と中指とで夾み取り) 眼球の遁走(太字:眼球の遁走) 帯磁性ノ……(抜き出し) こそが 波状運動……(唇に運び) 眼の夜明け ガ無数ノ……(銜え) でありまあす 亀裂ヲ……(左掌から箱を落し) 聞こえたぁ?  描イテ……(右手を伸ばし) どうだっていいけど 壁面ヲ……(燐寸の箱を摑み) それにしても 這イ……(持ち上げ) 何て明るいんだ 窓々ヲ……(左手を伸ばし) ここは 鳴動サセ……(籍に添え) 街路も既に ト……(右掌を離し) 火を噴いた 突如……(小指を除く全ての指を突っ込み) 稜線は飛翔し(太字:稜線は飛翔し) 左端ノ……(探り) 窓々は疾駆する(太字:窓々は疾駆する) 最上階ノ……(親指と人差指とで軸を一本撮み上げ) トレーンの奴も 窓枠カラ ……(中指と薬指とを添え) 呼んでやれ 一ミリ……(擦り)モツアルトだって ヲ距テタ…… (焔を煙草に近づけ) 晶えている ぜ下方ノ……(顔を焔に近寄せ) オーディオどもの 辺リニ……(焔と煙草の先端とを接着させ) 大火災だ 鋭イ……(一息吸い込み) 装置という装置が 罅(ルビ:ヒビ)割レガ……(吐き出し) 炎上し 生 (右手が伸び) 雪崩を打って 忽チ……(煙草の箱が摑まれ) 焼け落ちる 次ノ……(持ち上げられ) さぁありとある密室を 階ノ……(右手が伸び) 引き摺り出せ 窓枠ノ……(箱に添えられ) 路上の火刑に 上部ニ……(右掌が箱から離れ) 鎮魂歌(ルビ:レクイエム)なぞ要らぬ 達シ……(親指と人差指とが触れ合い) あらゆる貼紙を 留マルコトナク……(箱の中に突込み) 引き剝せ ジリジリト……(探り) 風景なんぞ 下降シテユキ……(一本を撮み出し) 折り畳んで 同時ニ……(指は離れ) 醜男歌詠みどもの口に ソレ迄……(人差し指と中指とが夾み取り) 捻ぢ込んでやれ 囲繞スル……(抜き出し) 遺症の中は 鉛ノ……(唇に運び) 真近い 虚空ヲ……(銜えさせ) 内ゲバ労働者どもに 領シテ……(左掌から箱が落ち) 構ってる暇はねえ(太字:構ってる暇はねえ) 異様ナ……(右手が伸び) ジェラルミンの囲いに 光彩ヲ……燐寸の箱が掴まれ)  絵具箱でも 放チナガラ……(持ち上げられ) 放り込んどいてやれ 恰モ……(左手が伸び) あの喫茶店で 砂漠ニ(太字:砂漠に)…… (箱に添えられ) 踊っているのは 揺ラメキ立ツ……(右掌が離れ) 誰か?  陽炎ノヨウニ……(小指を除く全ての指が突込み) あ奴に電話を掛けて 打チ罐エテ……(探り) 罐詰の在庫調べを イタ…… (親指と人差指とが軸を一本撮み上げ) 監督させろ コノ……(中指と薬指とが加わり) 店じまいだ 建物ノ……(擦り) それが済む頃には 至ル所ニ……(焔が煙車に近づき) 海も到着しよう(太字:海も到着しよう) 連鎖反応的ナ……(煙車が焔に近寄り) 星々も裂けよう 歪(ルビ:ひず)ミガ……(焔と煙草の先端とが接着し) 鮪フレーク五七個 生ジ……(一息吸い込まれ) 同味附け三一個 壁面ノ……(吐き出され) 鯖味曽煮二四個 コンクリートハ 鰯味附ニニ個 ソノ 同蒲焼三二個 表皮ヲ 鰍味附六四個 剥ガサレテ 同水煮ニ一個 ジワジワ ト いか二七個 下方へ 蟹一一個 ズリ落チ 赤貝七個 建物全体ガ 平貝九個 ユックリト 鯨一二個 崩レ落チル 牛肉大和煮一四個 街々ノ 同野菜煮五個 白昼ノ ビーフシチュウ六個 睡(ルビ:まどろ)ミノ タンシチュウ九個 上ニ カレー(SB) 大四個 (SB) 小一九個(サンタ) 同(サンタ)大七個 同(サンタ)小一六個 アスパラガス五個 グリンピース六個 蜜柑大三二個 同小五一個 白桃ニ九個 黄桃一九個 パイナップル六個 焼林檎五個 チェリー一四個 マスカット オブ アレキサンドリア三個 アプリコットジャム七個 スウィートコーン一三個 阿呆 一覧表造るだけが能じゃねぇ バルザックなんぞトイレットペーパーにもなりゃしねえ デパート行きゃドストだって売ってるぜ ビニールの袋入りだぁ それより素っ裸でスーパーマーケットでも一廻りしてきな全力疾走でかったるうくな デルヴォの機関車突き破って煙突から裏を覗け 金属が皮剝がされる爆笑が聞けるかも あの連中はまだ踊ってるのか腰なんぞ振って汗垂らしてねぇでちったあこの火に炙(ルビ:あぶ)られてみたらどうなんだ 火傷位じゃ済まないぜ 稜線たちもそろそろ空に突き入ってる頃だ ストーンサークルに小便かけながら風に吹かれるのもいいぜ それとも岩風呂で一汗流すか 鉄柱どもがタ餉の仕度をしてくれるぞ 空家なんぞ何処にもありはせぬ 空に鋼(ルビ:はがね)の絨毯敷き詰めて墜落する迄踊りまくれ セシルの親爺がピアノで洞穴掘って篝(ルビ:かがり)火でも焚いてくれよう 鳩の心臓を彎曲して高速道路に放ってやれ 榴霰弾が商店の幟をぶち抜くぜ 瞬間瞬間と砂利みたいにほざくんじゃねえ そんなものは番号付けてベルトコンベアで押し流せ 銀河系ぐらいは一周して氷河の塊でも運んでこよう 表現なんざ責鍮の弓で砂漠の真中へ野放しにしちまえ 蜃気楼のひとつぐらいは放(ルビ:ひ)り出すかも知れぬ 意識は石で仕切って街々の精の餌食とせよ 鉛管どもが祭壇の生贄を物色中だ 賓辞の魔力なんぞにうつつをぬかしをるぶうたれ爺さんにはコンクリの政治学でも叩き込んでやれ それにしても何という熱さだ肱しさだ! 旅立ちの支度はまだか 海鳴りが聞こえるぜ あの夕焼が帆柱だ さぁ 発条(ルビ:ばね)を外してあらゆる寝台を空に放て ありとある蝶番を叩き毀し扉(ルビ:ドア)という扉を宙に舞い上げろ 解剖台からミシンと蝙蝠傘を引き摺り下ろせ 終ったら捻子(ルビ:ねじ)を外して自働販売機にぶち込んどけばよろしい 課長代理がハイライトにして銀座八丁目で灰にしてくれよう 煙は鋼鉄の楔となって顎をぶち割り隊商どもを引き連れて夜という夜を血で染めよう 女どももそうそう順三郎のきんたまばかり食ってるわけにもいくまい 真男のちんぼの匂いも松屋の水洗トイレじゃ形無しよ プラスタイルがゲッセマネを焼き払った 街々は遁走する 喉が渇くぜ 血はもう残っちゃいないか さぁ流せゆっくりとだ 最後の一捕まで呉れてやれ 連中には勝手に吠えさせておくがいい そのうちに厭きるさ ランだって萎んだ さぁ空気の表皮を引き剝がして虚構の火焔を噴きかけろ 路傍の鉄屑が城になるぜ 冷蔵庫の三個もあれば充分絵になる 焼け残った捻子(ルビ:ねじ)釘拾って文士どもの尻に捩込んでやんな 鉄のパイプはギターの弦にでもするといい 全ての持続を蚕食できる あっは 窓硝子の破片は横浜のホステスに捨てられた餓鬼に呑ませてやれ いずれはスナックのマスターよ ほぉら街はもうすっかり血の海じゃないか!  罅(ルビ:ひび)割れた眼球どもでいれっぱいじゃないか!  身が軽いわけだぜスティックも跳ぶぜ 血管を切断されたコンクリートが群を成して飛び交ってるのが見えないか!  この韓犇めき合う鉱物たちの放つ透明な閃光が!  櫛比する全ての家々が爆発し崩れ落ち ありとある事物どもの大群が街路に殺到し右に左に水平にジグザクに放射状に螺旋状に上昇し下降し疾駆し夢遊し擦れ違い衝突し離散し抱擁し性交し殺戮し大挙して引き揚げて行くのが!  外部へ!  更に!  一切を蝉脱して彼方へ!  OH! STREETS! FIGHTERS ! 街路は急速度で海に向う!  稜線も既に蒼穹をぶち抜いた 地平線は両断されて飛散し太陽は射落されて地に番(ルビ:つが)った

AHO 〜 Y!  この原野の鳴動が聞こえるか 物体たちの修羅場のこの狂燥が この未曽有の帰還の地響きが 街は既に遙かを浮遊している あの砂塵が死の国の伝令だと云うか?  おおらい そこはまた馬鹿に暗いじゃないか いつ迄そんな穴ん中で燻ってる積りだ そこにはもうお前たちの物なんぞ何もないじゃないか 血塗られていない一本の柱でもあったら見せてみな 床も階段も血だらけじゃないか灰皿だってもう飛び立ったぜ そこに在るのは藻抜けの殻よ テーブルも既に張子の虎だぁ そんな所で人類なんぞ相手にぶうたれてたって埒はあくめぇ アルタミラひとつ見たって分るじゃないの 最初から絵しか画けねえ猿だったんだからさぁ 人類なんぞ所設は暗い穴よぅ せいぜいが太陽一個で埋っちまわぁわわ外部に属する(傍点:外部に属する)わわわわわ哄笑を(傍点:哄笑を)! わわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわ


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