作品

星からの悪い知らせ(『夜の儀式』より)

ホモフィクタス劇団上演台本


プロローグ


〈1〉〈日本国〉
西歴一九四六、一月七日

青年A1は、ホモフィクタス宣言を宣し、告発を受ける。


〈2〉

そして十三年の月日は流れた、日本国。
春も終り頃、すでに青年とは言えなくなっている青年A1が「行政都市」東京のほぼ真中にある、三宅坂に辿りついた頃、すでに夕刻になっていた。


「遅れた理由はたくさんあったが直接の理由は、USAの使者の乗ったタクシーがひっくり返り、燃上し、さらに女子大学生が興奮しすぎて殺されるなど、東京中が大変歴史的な混雑を呈していたせいだ」


二人の老いた農夫が、河辺りでもくもくと草を刈り、交通標識等を磨いている。

「青年A1」は、ある裁判所への道を尋ねる、が、彼等は決して口を開とうともしない、心的につんぼなのかもしれない。


たづねられたその道は国体の秘密のそれに似て、あまりに偉大な道、というよりは大層秘密なそれで、おそらくその村の道徳として、死しても語るものではなかった──と我らには思えないのだが実際そうだった。


そこは、三宅坂ではなかったのだ。


日本国では、いたるところで、こういった、「まほろばなるもの」の、はじまり、と、そのおわり、とが泥の一粒にさえ秘されている。また、道端の草の一、一、は人間のいのち以上の重要さと威厳を「この惑星」から与えられている、その道は道自体がいのちのタブーであっりするのだ。


その後その「青年A1」がどうなったかは誰も正確には知らない。巷では、日比谷公園の中でテロリストに消されたといわれている。


〈3〉

そしてさらに我らが日本国に二十三年の月日は流れ、一九八三年ふたたび春、というよりまだ冬だった、A1は同じ三宅坂に現れ!!尋ねた、あいかわらず二人の農夫はいたのだ。A1は今度は三権分立の建前から質問してみた。

「最高裁判所に行くにはどっちへいけばいいのです?」

「(草を刈る手を休めず)わしら先祖代々住んどるが、ここいらに最高裁判所があるなんて聞いたことがねえです。天皇様が棲む宮城なら、ほれそこいらにくらくぼんやり見える森の中だ、でも今日は誰も中に入れねえだ、おいっ、わしら猿だって忙しいのさ。まあっあっちの国立劇場なら切符さえ買えば入れるだ、あっちだ、歩いて十分もかかるめえ、わしらも気休めに見に行くですよ、ずっと前自衛隊の中で腹切ったのがいたがな、ほれ、そこいらを流れる血の河の流れを変えようとしてよ、そいつのしばいもあるしな、そしてこのまえは五億円もらったとかもらわなかったとかいって国会議事堂で裸おどりしながらじゅうたんに火をつけた奴がいたろう、そいつの裁判もあるだ」

「そう……この村の……最高裁でっ」

「いやっこの村には最高裁判所なんかねえ、国立劇場しかねえっ」

「そこはひょっとすると現代演劇協会の附属裁判所じゃないのか」

「現代演劇協会が裁判所で墓場の芝居やるわきゃないだろうに」

「いや分からん、現代演劇協会にはもう力がないだけだ、ひょっとすると、きみらの芝居は墓場でやるのだろ?そこには永遠があるから」

「おい、わしらが染色体の生物学的なつくりからしても、歴史的、経済的、政治的、文化的にも農民そのもの、あるいはそっくり、だからってつまらん言葉の嘘でからかっちゃいけねえ、そんなことすると本当におまえは国立劇場行きになるだど」

「とにかく私は行かなきゃならない」

「どうしても行くの」

「どうしても行くよ」

「無いと言っているのに」

「無いと言うのは、そこへ行く道がないのか、それともそこへ行ってもだ、そこにまだ裁判所そのものがないのか」

「ないわきゃない、あんたの立ってるうしろだ」

「どこに?おまえ達しかいない」

「おれ達しかいまい、もうここまであんた歩いてきちまった」

「そして?」

「わしらに会った」

「そして?」

「そうした」

「はは、おまえらが門番だったのか」

「ちがうよ」

「ちがう事ない、ところでみるからに下っぱな様だ」

「被告よ、おれ達はけっして下っぱではない」

「上下があるうちゃ、まだ安心だな、水平なったらおしまいにちかい」

「(国立劇場と最高裁は水辺に並んで立っている、それは偶然ではなく一つくらやみの二つのそれぞれのでっぱりである。その一つのもとは水辺の向う側にある闇であり、その闇はいくつもの門を持っている。それは村の日構造であり、地下で桜田門などとつながっていることで有名である。国会議事堂なども、堂々こちら側にあるが、向う側にあるのだ)というト書を知らねえとは言わせねえ!」

「分かっている」

「あっそう」

「そのカマをひっこめな」

(三人でニヤニヤーしながら、人間達をみつめ)

「はあーあれかね」

「はあーあれだよ」

「もう春だ、猿が啼いている」

「まだはじまったばかりなのにもうあくびだ」

「それにしても……」

「それにしても?」

「生臭い建築吻だな」

「最高裁というくらいだ」

「まだ建築物じゃねえ」

「人間が建築したわけではないからな」

「それだけすばらしく優秀な宇宙構造物だと言ってもらいたい」

「バイオマスではないのか、血とくそと汗をまぜ合せてのち、精液をたれる」

「全能なる大工さんがつくったものじゃない、いわば権力上のフロクなんだ、無くてもいいのだが、なにかと、宇宙にも都合がある」

「だから今は素晴しく生臭いしぶよぶよする」

「やはりバイオマスだ」

「ああいうの見ると、まあ、ほっとするだろうに」

「まあ、やつらまだ猿と悪霊のあいの子だからな」

「猿と悪霊のつがい合った嘘つき文化はいつ完成するんだい」

「生いきいうな、この村が滅びたらすぐその日に完成するさ」

「その日迄はおまえさんとも文化の完成の生きたままの肥しにするのだ、そしてその時は」

「その時は?」

「最高裁もそれをその時と認めるよ、わしらが認めるのだ」

(三人いっしょに笑う)
(と、突然、ぱっと別れる)

「“お前達か、余の留守に、ここ、ここ、余の父のたましいの休み場を悪霊どもの棲み家に変えたのは!”」

(農夫はひょいひょい踊りながらA1をからかう、と、装置の一つが火を放つ、嬉しそうにセックスをはじめる二人の農夫)

(と、なにかが飛び出して来た)

(A1は殺害され、その死体は焼かれてしまう)

(暗転)


〈4〉

(農夫達A1のがいこつを持って道端にとしかけている、通りすがりの若い女性にぽいっとわたすと、さっといなくなる)

(その若い女性は、がいこつに、ほほずりしながら永久運動を踊る)

「おまえ、だれ?」

「……」

「そのがいこつはわたしのもの」

「……」

「それとも、おまえは、それと血のつながっていたものか」

「……そう、でも何故ごぞんじなの、あなた」

「そのがいこつの持ち主は、草深い私の庭まで私を嫁りにやって来た。この国の戦争の最高責任者であり、又、守護神なる私を妻いと使いも立てず独りでやって来た、ただ平和憲法を私のへの手みやげに、それと、これ、この放射能を滞びた小さな真珠湾のネックレスとを、だが今ではもう、一本のふるびた樹にくくりつけられたがいこつにすぎぬ。あの美しい声もない、唇もない、いくら口づけしてもCO2を吐きもしない最高の生存を主張する者はこの庭では、いつもはかない、おおよそ人間に流れている血は、血の方から私の肉体へたえず舞い逆りたがっている、もとの持ち主に戻ろうとね、それがこの庭の掟。それ故、おまえ、いまより私の家へ入れ、そしてその男の霊とまなざしとで自らを心ゆくまでなぐさめるがいい」

(この間、ずっと女は、夢遊病者の様に踊っている)

(ガイコツをうばいとり)

「この男の霊はもっとも高い所に生まれ、私の最後の頭脳となる為に、この庭にあらわれた、いま、草深いわが家の人柱となりぬ、ここを法の名のもとに最高の裁き場を建て、あれを法と正義の守護神としよう、このがいこつの、くもる事のない二つの眼して私の子孫等の万世一系のはん栄を、その最後まで見守らせよう、かつてこのがいこつの中を流れていた血はこの庭がうばい、そして、私の腹にすい込まれた、よって、この土地は私の身体と同じ尊厳と悲しみを持つものとし、我らが手づからたがやす以外、なにびとも、ふれてはならぬことにする(独白)おお、この土地を再び我が物とするのは誰だ、誰もおらぬ、この男の狐独は惑星の狐独、我らの孤独よりもはるかに、どうもうなものだというが……暗転。

(“おお惑星”の唄入る)


おお惑星 おお惑星
汝名乗れ
汝名乗れ
おまえはおれ達の勃起したペニスをおしつぶす
そのくせおれ達とそっくりなものをそこいら中にふやす


惑星よ 名乗れ
母とはなんだ
兄弟とはなんだ

惑星よ
おまえにからまっているその企業群とは何なのだ


汝名乗れ 名乗れ


おまえを包んでいるぶあつい熱病の海とは何だ
おれ達を切り裂きさらに無名な無数のクラゲに戻そうとするその海とは何だ
惑星よおまえの生み出した
あの涙の樹々達はどこで息しているのだ
何十億という夢遊病者を世界経済原理の雲にのせ
再び放射能と一緒にまき散らす
国家達だけがおまえを知っているというのか


おお惑星もう一度 汝名乗れ 名乗れ
母とはなんだ
兄弟とはなんだ

人間そっくりにかなしくもかたむき揺れるおまえを
おれは憎む
おまえの自信に満ちた沈然もおれは憎む
汝名乗れ


ひどい神経症に犯されているだろうおまえの大脳はどこだ
それをそっくりえぐりとりたい
おまえが生んだ何十億という夢遊病者があふれ出てくるおまえのぶよぶよしたその腹の中にそっといくつもの獰猛な考えをもう一度人間の言葉でおまえはしゃべれ


おお惑星よ、汝はその沈然の中でふたたび人間そっくりに生まれかわろうとしているのか
ああっそれにしてもおまえは何者なのか

おお惑星 汝名乗れ
おお惑星 汝名乗れ

おまえのつくり出した犠牲の
大いなるを 少しでも知っているなら
汝いまこそ名乗れ

AOI鉄輪(劇場放火の暗示)入る


一幕 一場 調書


放火犯A
「余の眠りは眠りではない、余の身体に仕組まれたのぞみもしないごうもんに過ぎん」

「又、みだらな死者どもと、むすばれあう夢などをみているのか、おまえは劇場に放火した、我らの財産の一つがこの世から消えたのだ、この消しようのない事実、罪深い」

A「お前達が劇場を持ち国民感情を陶冶(ルビ:とうや)し、かんとくすることは、更に罪深い、それに比べれば、村の人殺し達は子供らのそれ」

「だからと言ってナ、村の財産が滅んで村の文化が完成する訳ないだろう、しかし何故村なのだ、なぜこいつは国家と言わないのだ?」

A「余は人の道を歩く。だから素足でやって来た」

「何故、靴をはかない、どこでも売っているだろう」

A「国家とは心の「靴」それ以外を余は知らない、それとも国家はどにでも売っているのか、買う事が出来るのか、もし、売買できるなら、お前達以上の売国奴はいない、顔を赤らめたな、ハハ、だから村と言ってやっている」

「もうよい、かわろう」

(打ち合せ、はじまる、ささやき声)
(Aはふたたびうつぶせになって眠る)

「『はじめに性器あり、性器は神なりき、性器に光あっておおよそ万物万民はこの性器により生れざるはなし』この真理を奴に認めさせばよい。しょせんつまらん妄想にとりつかれている若者にすぎん」

「そもそものはじめの命を盛る器、これが奴の「靴」であり、「国家」であるというわけだ、そして、それを認めてやるふりをすると、奴はこう言う、それは「靴」でも「国家」でもなくそれこそ奴めは奴の劇場だと言い出すだろう」

「さて、そっから奴を追い込め、とにかく、奴の口から言わせるんだ、それは母であり、命の体であり、団体である、と。そしてはじめに性器あり、性器は言葉なりき、とな」

「奴め奴にでさえ奴の身体でない苦痛を味合わせたあと、奴の大脳をシュミレーションし、染色体ごと性液を交換してしまえ、ハハハハ」


二場 予審


「放火理由……ふむ、演劇が、あるいは劇場がその愛とその形而上学とを「シンボル」なしで人間達が自らのものとして取り戻すにはこの惑星か世界か、いづれかを我ら人間にふさわしくその最初からつくりなおさねばならぬというのか(Aはまだ眠っている)ふむ、(そのうち空間は序々に裁判所らしくなってくる)もしそうだとすれば、たしかにそれほど演劇的なこともあるまい(独白)が、このガンコで盲マイな業にみちた、人間そっくりなだけの化物どもの棲家にそれをどう伝えよう。そこでは言葉など何の役に立つというのか(Aじっとみすえている)おっとと私は今、図ずも愛すべき心と大脳の奧の秘密をもらした、そのすぐれた約束と肉体をおさめえた「劇場」という恥かしい、わいせつな言葉を使ったねこれでは、わいせつな君が、けげんな、恥かし顔をするのも無理はない、このいのちの器なる「劇場」、大宇宙があみだした性器達の中の性器、業火をいやす、心の種がかかげた血のしたたる性器付き、これは大変なタブーにみちた約束だ、ま、君にとって、ふむ、いかなる宇宙も二つの言葉なしには一秒足りとも存在する事はできないらしい、どうも照れるね「愛」と「劇場」、そこに彼等は生まれ、そこで、生き悩み、ちょっとばかりこすれあって自らをコピーし、あるいはコピーもできずに死ぬ、彼等ばかりでない、その両親も、その両親の両親も、そのその両親も猿と彼等が分たれたそのせつなの秘密めかしいすべての大いなる約束がそこに施される。そこには大脳の神秘がある。君の調書によれば、かつてはそれだけが人間には唯一絶対なものだった。今ではあの日以来象徴にすぎないといわれてはいるが、その約束もやはりその劇場の約束にすぎない、さて、君は、彼等の劇場がいつ生まれいつ滅ぶかを彼等が知っているから知らないでいるかを知っているかね」

(Aじっと静止、やおら立上って答える)

AI
「たとえこの世が全宇宙とともに滅んだとしても、私の劇場はその梁一つとっても滅ぶことはない、彼等は気づくものも気づかぬものをみな私の約束と、その中に入る。」

「おまえはイエスか?……イエスでないならノウと言え!知らないなら問題はない、無罪だ、おまえは単なる精神病者なのだ、一人前にあつかった我らが間違ったにすぎない、が、もし少しでも知っているというのなら、そうはいかないのだがねえ何故黙っている」

「いいか、私は出来るなら君を助けたいのだ、いいかね、もし君の「精神」が少しでも正常であり、それを我々が公式に日本国民に証明してしまったら、我々がいくら助けようとしてもそのチャンネルが変り、我々の手におえないものとなる。この国の発生以前から沈黙している恐るべき母達がおまえを取りに、そのおそろしいかまくびをもたげてしまうのだ。君は闇から闇へと消されるのだよ、あっという間の事だ。この国家の見えないもう一つの掟だ。国家と言うよりは君等のいう劇場の闇取り引きとでも言っておく」

「そこでは死体が死体をむさぼりくらい、死体がまた死を夢みつづける、死の増増殖工場とでも言う事か」

「その通り」

「では聞くが、おまえ達の愛すべき国家機構とそのすぐれて集約された美くしい法体系は、死者達をもいやす理性の輝きにみちているものである。死体がよみがえるべき世界が約束され、しるされてもいるではないか」

「その通り!」

「では、その美しい法体系が一〇%も運行されていないと言うのに、何故彼等は私を裁ぐ事もせず、ああしてチェスをしているのか」

「ははっ、チェスではない、あまれりにわいせつな君の思想に関わる思想上の法的な会話をしている」

「不思議なことに……」

「何度やっても千日手になっているであろう」

「それではあれはなにか」

(カーテンが風にゆれてうしろに一人の女性と男性が裸でいるのがみえる)

「何も見えないがね、我等には、はっは」

「母なるなにものかが息子の内なる図体を救おうとそのぶ厚い胸を死の前に差し出しているでね、その質問は難かしいと言えば難しいのだよ」

「君達はいやしくも“死の空虚”に自らの“明晰性”をみい出し、それをもって職業にたづさわっている。それゆえにすべての人的事象に客観的かつ、論理的に関与しえるのではないでしょうか」

「そう言われている」

「なら、いまはここであいまいな時をすごすべき時ではない」

「一つの生物が生物として生きているまま超法規生物となることは、少しもあいまいでないこの星を最初からつくるまでもないそれ以前の約束なことだ、そしてそれは星それ自体の正義だ、その正義は我らの仕事のはん中ではない、それを超えたものだ」

「惑星の秘密は惑星に語らせよ、我等はそれに立会うものだ。シンボルの事はシンボルに語らせよ、それぞれの胸にシンボルがのぞんでいかなるささやきをささやくかは、まことにその人のものだ。それ故、お前らに言っておく。劇場が人にのぞんで何をもたらすかはまことにその劇場が語るに任かせよ、それができぬ時お前達は、お前達の五官を棲家にしているその超法規生物の聖性をお前等自らで汚す事になり日本に二度、三度と原爆が作裂する時である、聞け、天が下のことはすべて時にかなって美しい(伝導の書の一節)(AOI通過)


第一審理


「おまえ達の国体の聖なるシンボルを一体誰がどこでどのように汚したというのか、さらにおまえ達はおまえ達の五官にそぐわないからと言って人殺しどもを私の劇場にあふれさせそれどころかおまえ達は聖なるものを他と識別する地位にありながらその五官の中心にはない聖なるなにかを感じとる力さえもない、が、それをひたすらかくし続けるために、 タブーの中にかくれているがそのタブーとされた権力の中枢にもまたおまえたちをいやすべきものは何一つとてないのだ、あるのはひたすらわいせつな無数の見えざる死体だけだ、それなら死体にそい寝しているのは誰だ。その死体をなでながら安楽な死を夢みているは誰れだ、そしておまえ達の五官と本能は一つところに集められ、小さなみどりごとなって死のゆりかごにゆられているのだ、おまえ達はに見えないのか、そのゆりかごも、小さなみどりごも、その皮膚の下にありその命はこそ、私もまた持つものである!人類の中にしのび込み「天体の運動」以外の規則をいままだその内部にも見る事をできずにいる古びた鏡、汝が国家機構よ、私を調べるひまがあれば、もう一度自らを調べてみるがいいのだ、虐げられたもの達のわずかな信仰、そしてそれに添寝しているピクピク動くおしでつんぼでめくらのみどり児が三〇万年もピタとも進化せずにひっそり生き抜いてきているというグロテスクそして誰のものとも言えぬそのいのちに対する忠誠がおまえ達を支えているにすぎず、これからもその化物は人間をしっとしつづけながら、この天体にじっと息をしていることにされている老人を幼稚化させ、こわがらせるこのおとぎ話しが法治のうらで国家機構をささえているのを自らで見る事になろうか」

「被告は言葉をつつしみなさい!みっともない」

「はっはっは、それも余の劇場のグロテスクである。日本民族の愛の名の力と名誉と輝きを象徴するみどり児のふるまいに私のふるまいがかすかに似ているというそれゆえ」

「奴の言うみどり児とはなんだ?予定にないではないか」

「我々の命を一つにしばっている力学らしいが?」

「私を非人間、非国民、非芸術、そして精神病者にしたてようというのか、それはなんのための無 か?」


「自らの命の中にもぐりにもぐって、その心のくもの巣を眼にからめているおまえ達の眼をいま一度はぎとるがいい、みえない神経、みえない血管がおまえを縛り続けているのよ、何故ってあたしがそうしているの、それがおまえにはまだ見えないのだね」

「ヨーロッパの一国家はその大半が書類とそのサインの形式パターン及びその順列組合せ移動及び記号の融合と意味、分裂、及び書き替え等でできています、だからと言って我家もそうだと」

「思ってはならぬ、幼稚園のかきねが成長して国家となりそこに張ったくもの巣が法体系となるよう、くもがその中心に生きていなければならない。私達の国家は建国一三〇年いまだ書類だけではできていません、早く気付かねばなりませぬ、くもの巣の中心、おお、そのほとんどは、私達とみどり児の息とその運動でできているからですわ、そしてそれはいまはまだ、この私がはらんでいる」


「七重八重肉のよろいに包まれし
空なるわれらを
誰にかあづけむしを」

(カーテンが開かれAOIが植輪のように裸で坐って笑っている。三人がそろう)

裁判官
「われらはその空の空なる空虚を絶対にまで高め、その人々をふさぎその内部をさらに複雑極まる絶対迷路の幾何学を形成し続けてきている。宇宙生物にすぎない巨大なおまえ達ばい菌どもが超法規生物〇〇に触れようとするその思想そのものを排除し、消毒し、聖なるみどり児に高め、いかなる犯罪にも触れさせぬためそれにそって触れようとする運動をこの世から完全に絶滅させしめねばならない。万才!」

(と同時に裁判官の発言ごとに生殖器を双手でみせびらかせしつつ、かつ、隠して正面で移動──永久運動性を滞びたムーブメントで)

「空(ルビ:くう)の空(ルビ:くう)、空(ルビ:そら)の空(ルビ:そら)、よじれて赤き血筋もつわれらを、わが身にからめこし」

「あたし達を新しく縛って、もう息しなくてすむぐらいに縛りなおして」

「(独白)おまえ達に覚醒剤はふさわしくない、 LSでもやって分裂症のままいればよい、太平洋区域に新しい神話学をネットワークする新しい雲上人なのだから、このおそるべき魔物退屈と死の禍は、どこから私達にやってきて、どこへ私達を連れて行くのか」

「でなきゃおしえて!世界平和の象徴なる交換不能なるこの命とは、いま、なんなの!」

「いずれは心で交換可能にしてあげるよ」

「(独白)おまえは、あれは次の戦争の最高責任者になるであろう、いまはまだ私の肉の中で眠っているみどり児に世界経済の光をあて、それにふさわしい靴をはかせ、「世界歴史」の上を美しくもびっこをひいて歩かせようと言うのか」


「いつも私の息の根の暗闇に、びぐびぐうごめぐみどり児のかそけき神経系がそのままもう一つの見えざる政治とその大いなる法体系になっておごりたかぶっているおまえ達をしばりにしばって、その息の根を一つと一つにしてあげているでしょう」

A
「さて母とは何だ?そのはじめは、たとえばそこは彼等のいのちを入れた劇場だ。ふふふ、余のペニス入れにすぎない、やがてそれはいくつもの子供を持つ、諸社会、諸企業、諸国家の数々となり、さて、彼等の「靴」はいくつ存在するか?一足が先の父のための一足。」

「そんなものは一つもない、いまはいらないからな」

「ははっ昔は労働組合というのがあって、そいつらを、ぶち入れていたのだ、ペニスではない」

「くそぶんぶんや、と、こがね虫が金色の菊の花にもぐり込んでは、くそから自らの子遜をつくるのは嘘ではない、エネルギィを供給するのは嘘ではない」

「ならば、すべて我等のいう国家企業はみなそのうしろで一つになって運命共同体という閉じこめの容器となっていさえすればみえざるやまたのおろちでないか。それはそれで良い。それさえ守れば我々に対して何をやってもよい。君もだよ、まだ間に合うのだ、おしいねえ」

「おまえ達はまむしのはらにはうまれた子孫か?」

「我らは国家をしる子孫とな」

A
「ではお前達の■■(編注:2文字解読不可能)がそのみどり児を不可欠な組織(死者とその過去の不可能性)であり、それが国家となるとき、そこには何足の靴が最低用意されるのか、必要数はいくつか」

「(足である)」

(おまえ達には、(天皇)=靴である)

(TA……)

A
「何故答えない、それともまだお前達にはおまえ達しか見えないのか、それ故その眼は私の身体を見る事さえないのか」

「何故答えないのか知りたいかね、訊問するのは私であってあなたではないからだ、今の被告の発言は記録するには及ばない」

A
「余はおまえ達の質問に答えている、余は国体の行動の根本原理を余の肉体の内なる国家に基づいて演じよとお前達に言っている、余とそのシンボルを汚さぬために」

「気狂いの笑い話をか?この気狂いめが」

「被告の心の奥にひそむ真相は我々の国家を上回るすばらしいものであるという事を汝はA劇場放火という犯罪によってしか示しえなかった事がそれである」

A
「(独白)すべての劇場も私が私の愛するものの為に与えた犯罪者をいやすためのそれ、心の靴にすぎない」

「一三〇年前から海辺に捨てられている靴の中には、魚の尻尾でなく人間が住んでいるのかね、猿がはく靴でないのかね」

「(誰もそれなしでは行く事ができぬ所であるただ一つの劇場だ、それが私の愛する、一風変った猿の家族だけが住んでいる事は、日本国憲法にすでに書いてある)」

「我々は美しい日本国にいる、美しい日本人は美しい性器をもっている、それを天をおさめる「靴」、劇場なる「靴」とは呼ばず、絶対にして侵すべからざるもの「ペニス入れ」あるいは、ペニスとその「母」と言っている。それにしても、お前には一体誰が日本語を教えたのか」

(チェスをしている連中によって、Aは退停させられる)

「(傍証)実際、靴はあるのです。これが証拠写真なのです、この白い所は新種のカビである、このカビを体内に入れると下痢と発熱で何人も死に至るというよりこのカビにふれたものは、必ず殺される。なお、これを収めている金庫は原水爆でも壊れない安全なものです」

(ヒソヒソ話)

この靴の起源と国家の起源とは、なぜか一致している。

「被告は自らの混乱した意識に自己を隠ぺいしてその狂気をそのまま述べているにすぎない、当法廷は被告自らの妄想の中で造り出す国家と、そのシンボルはそれはまたいかなる社会に害しなし何の興味ももたれていないと考えられる、また被告の思想はあきらかに犯罪そのものを産む闇にすぎないものであり、実際それは劇場放火という犯罪事件をすでにもたらしている」


──暗転──


(まぶしいほど明るい)小さな秘密
放火犯Aが入れられている「検閲の箱」
のぞき窓が四つ
折りたたみベッドの外は椅子と机と洗面器のみ。
(やたらうるさいパンクロック)

「自己愛はいつもグロテスクな脳味噌の計算ミスがつくり出し、それ自体のもう一つの宇宙へ人々をさらっていく誘惑だから、この星にはみんな一つの夢を見続けるためのメディアネットワーク組織が人類発生以前の宇宙から動いているというニューファシズムの悪性テオレマが成立し、人類の血と汗を吸い上げはじめすでに一三〇年、何一つすぐれた感情は人類の手もとにはもどってはこない。ただひたすら第三次大戦に参加する入場料を払い続けているだけだ。そのくせ青年達の快楽に満ちた初夢にはびぐびくしながら村々のいやしい検閲をし続け、ことごとくはレジャー化されそれに逆い抗う危険なものは利潤の外へ捨てられその根(ルビ:ルーツ)を絶やそうとする」

(ベッドからむくっと起き上ってよろよろと)

「ついに世界はグロテスクな夢に汚れ、俺と一緒に心中でもしようってのか、ははっ」

(長い“一三〇年間”というトンネルを這いくぐる)


(立って右眼を洗い)

「まぶしいおれの右眼よ、昨日の夜、そこに、太陽がおりてきて歌を歌った、すると地面がそれに合わせて踊ったのをふふっ水爆装置がおまえの愛をふやし、おまえを産み、そのエネルギィをおまえは自らあやつる不思議なエクスタシィをおれに見せた。この星の諸事物はおまえの無意識の生殖に満ちた肉体にすぎぬのか、ふふっ」

(左眼を洗って)

「おお、おまえはこの感星の地軸だ、ゆたかな磁力を諸事物の背後の運動を余の霊もて支配する、ああわが左眼(月読の命)」

「おまえはこの世の悲しみのすべてをしずまりおさめるだ。すべての水爆はいまおまえのために破壊尽した。これであの獰猛なる経済発展型の人間どもが自らの獰猛さで死に絶える。いま海は海一杯のもののけの血を吸い尽し、嫉妬に狂った天体をおさめる。おまえに人類の夜は清められる。

(鼻をかんで)

「俺の肺よ、新しい風だ、力あるO2水蒸気だ、おまえはいのちのうずまきだ。村々の風の美しいO2と“あいうえお、かきくけこ”ちぎり与え、すべての海に感情のうねりをうねり、おまえの力によって人間達にくばり与えられる(裸になって)このO2! この体!が人間のいのちのすみかだ、今洗い清めてやるぞ、この部屋にも、この床にも、窓にも、なんとも気持のいいいのちは輝き、おれの血とのっぺりと結ぼれあっていることか!(ふいに)この?生臭いみどり色の?国家への入り口か?出口か?人間か人間とお互いに出入りするだけの大きさを人間はまだ与えられてない」

(ふと眼がさめる)

「ふうっ、いかん俺は母源病(=国家=自然本能=民族に)に犯されはじめたか?おれはみどり児のようにずっと抱れていたいと思っているのか?夢、夢の夢?やつらの国?やつらの国でないふうにおれの夢がおれの夢では終わるよ、君等の性欲と夢の私有制が君等の生殖器で続くならこの星がおれの心の「ものがたり」にもその続きがあるだろう」

(ベッドから客席に手を振る)

(この一部始終を四つののぞき窓からずっと見ているX1ー4)

AOI
「あれが行方不明になっていた私の息子、おまえ達と同じ私の子供」

Aが再び眠るふりをする。
二人の姉妹がそっと入ってくる。目くばせ。
四人の男がAを縛り、ガムテープでぐるぐるの目かくしをする、さらに耳栓。
二人の姉妹がお茶を入れ四人の男をもてなしいくつかのサインを示し合せている。
四人の男に。

AOI
「私の息子も近頃はすっかりおとなしくなっていい子なんですよ」

(テープが回って前シーンが音声だけ再現されはじめる)

A
「あれはおれの声じゃない、かってに誰か合成したんだ、おれの精液を俺から盗んだ連中だな」

X1ー4
「四人の男は四人の裁判官、四人の検事、四人の弁議士などである」

係官が覚醒剤をAと姉妹に射つ、姉妹はかわるがわる縛られているAを性的に犯す、四人はじっと無言で観察する、カルテのようなそれぞれの書類を回しながら指話による会話。
体内に精液が発射される(観察者を含め部屋中のありとある物体が振動する)のを確認して四人は消える。

X1
「ともかく一〇〇時間以内にどちらかを妊娠させてくれ、奴の精液は死と国家の所有に入る」

X2
「二人の姉妹の子宮口をいまや最大に開いているし、奴の精子も日本男子の平均をはるかに上回るということは妊娠は時間の問題だ」

X1
「おっと、このプランは、奴が気づいているということが重要。奴が気付いているという、それだけ奴の夢は不完全になる、そこをつけめに、我々の最も醜い秘密を奴のとくに大脳を含む生殖器を使い奴の意志として増殖させねばならぬ」

「ふふっ」

「ともかく次の公判はそれがたしかめられてからに」

「99日後」

X1ー4
「はははっ」

(乳房をAに含ませ二人の女はいままでの強制労働からプライベートな性的安らぎをAに捧げはじめる)と。

「おまえ達の報告書には嘘が目立つね、私が息をしているこの世にはおまえ達が私の許可なく世界資本主義マーケットに商品化してはならないものが二つある。一つは天皇制(私とその子供達である)もう一つはおまえ達が子供のおもちゃを欲しがるように欲しがっている核兵器の商品化だ」

X1
「すでに二つともメディア化し、我等のニューファシズムをいい、びっくりした顔をするな、この二つともその殺人力の一方は唯心的な、他方は唯吻的な絶対性においていまだそのメディアとしての使用価値も、交換価値も未知数が大きい、おまえ達のレポートはあいまいな点が多すぎる。わたしのうしろにこそこそ隠しておくわけにはいかないわ」

(カーテン回転)

「無傷お嫁はどこにいる?このくらい家、ファッションショーがあちこちで花盛り、血のついていない嫁さんは日本中どこを探してももういない、アジアの熱病に冒された夢遊病者達にファックされ、みな気を失っているみたい、その上空を恐しい第二次太平洋戦争の暴風が吹きおろしているからか」

「一度は私はそれを殺そうと自ら一億の赤子らとともに自殺を考えて遂行しもしたがペリー提督が私のおなかに大砲をぶっぱなした日以来、私のヒフの下でいくつもの悪霊がすぐ私の卵子達に受精しました。おまえ達一億に強くしいられ私が産み落としたいまそれぞれのかまくびをもたげはじめた数々の企業たち───歩くべき靴をもたぬというあのみどり児を動かす細胞達、おまえ達はもう一度炎の地獄に落ちよ、ヒロシマの炎よふたたび私達の上をおおいつくせ、私の皮膚の下におまえらこそいまいちど生まれかわらねばならぬ。私の体、かつてはあれほどになめらかなやわらかなるに、ふくいくとしていたものをよおまえ達はすっかりみにくくかくまでゆがめさせた毒物で皮膚を汚した。それもみな一億の赤子らを守らんとしたから……私はまたヒロシマの炎以上にふくよかにならねばならぬ!吹きあげる獰猛な火の玉よ遠くこっちへ来てあたしを父さんの墓へ送ってよ、ありがとうタナトスの電磁波、大東亜の共栄圏をめぐりめぐって今一三〇年ぶりに自らの国家の中心にもどってきたのね、死ね!死ぬんだその風には新しい花粉がのっている。死の花粉だ、永田町の村々に権力者どもがおびえ、いちいち飛び交い、あの神経症の雨をどんどん降らせている。この水が人口増殖を食い止めたとしてももうだめだ、その雨しずくが頭蓋骨の中にまで流れこむ、あたしのせきついは悪い種子を産む星々にのっとられ、いままた人間の嫉妬を増殖している、あれの死のトゲが死に親しんだ私のこのやわらかな皮膚にかくもはげしくつきささる」

「アジアはGNPの悪い種を身ごもった熱帯から、その内からアジアの国々はすぐれたその母性すらうしなって、そのいまいちばんやわらかな脳味噌から滅び死んでいるの」

「GNP追求ノイローゼ患者どもが破壊しはじめるまえに企業(ルビ:ミツビシ)から企業(ルビ:ヒタチ)、ヒタチからソニーへ、ソニーからナショナルへいまいちどみえないロープをくぐらせて私の首かざりにしなくてはならぬ一つ一つがまがたまの」

「ふふっいつも生臭いおまえ達を庭の小川で血しぶきあける水車にくくりつけ新しい吸血鬼になるまでかわいがってあげようね。あたし達が骨の髄からいじめ尽してやるわ、そうしたらおまえは本当にニホンの花嫁になる。花婿はいないよ、家の中にはちっちゃな先妻のみどり児さ、そいつをつかって労働を愛する白い悪霊をおまえは国中に育てるのよ!そしたら最高裁のカーテンのうしろでおまえのための皇室典範がその暗い予言をすすませててくれようぞ」

「これが一憶の小さなエゴイズム、労働しか愛せない白い花粉の手品、出歩くための靴を失ったビクビクうごめぐみどり児、白い神経がつくりつづけるむごさなの、すでに世界中がそのドアというドアをしめはじめている、もう安心、だれもおまえの叫けびを聞こうともしない。私の過去と未来はおまえらの暗いかまどの中で決定されている焼き上ることのないパンのためのパン種、燃えない暗いかまど、それが私のとついだ家だ、おまえら一億はわたしを花嫁にしたいといいつつわたしを隠し、自分が花嫁になったのだ。もう誰れも人間の形さえしていない、私の弟はどこ!」

(カーテン反転)

「いつまでこんな悪夢を」

「現語法及び法体系下では禁止することはできぬ」

「演劇は演劇なんだ」

X1ー4
「ああ芥君、君は我らになんともむごいとを強いた」

「現憲法から直さねばならん。我欲の強い我国のメス達に言わせるようにはしている。その動機だ、内から出すか、外からつくり出すか」

「第二次大戦をとくに原爆を自らの母なるアジアで御経験の「主権の存する国民と統合のシンボル」は、ははっ」

「こんなもってまわったわいせつな言い方をしなければならぬ言語までがどうやら日本のものでなく」

「ああっお言葉ですが」

「はじめに言葉ありき、お言葉は神なりき」

「そのために国会議事堂が犯罪者どもの隠れ家となりもする」

「つばめに誰がその巣づくりを教えたか、なぜ国会議事堂に犯罪者は身をかくすを学習したか」

「(独白)言葉にその霊がある。天皇家に誰がその家づくりを教えたか」

「それを知りたいと思ってはならぬ。聞こえたか。私を犯すことになる。もはや私はおまえらの命乞いをすると思うな。私はそれを私の息子を実験物にしないで証明せよと言っている。おまえ達の科学はいまだ私の胎がつくり出すアミーバひとつつくり出せないでいるではないか、この世界はしばしば学習と錯覚の集合体にすぎなくなる。私や私の息子を実験室にとじこめるだけでは何の利益もうむまい。それゆえいまだおまえ達人類にはおそるべき夜を眠るのにそれぞれふさわしい軍事力が不可欠なのだ。大脳を枕にするな、それゆえにおびえるのだ」

「太平洋を枕にせよ」

「自分の死体に自分で添寝するように。大脳という枕にこそ安眠が必要です」

「あれで熟睡するには、いまだおまえ達は生物として完全ではない」

「自己保存のなわばり意識ばかり強い猿の辺縁系脳髄や、ちょっと興奮するとすぐ自己破滅に向って突進する爬虫類のR領域脳髄がその中心にすえられているからだ。いいか聞け、「新しい日本をつくる実験室」というにはおまえ達が自らで入るがいい」

「我らではかないませぬ、二〇才のニホン、ニホンのよみがえりと、そのとじこめ、集団のとじこめ効果を破壊する実験的青年及びその種の夢や思想の苗床には生体それ自体の消毒を怠ってはいけません。とくにあなたとベッドを共にする可能性があればあるほど」

「非合法ないけにえにことかかぬということか」

「あなたへの愛へ集約的とじこめを与え続けて集団本能そのものにすぐれた宇宙的社会進化を生物学的にもたらせようというのです。とじこめすることは良いセックスをつくり良い共同運命をつくり、利害追及国家を少しづつ良くすることなのです」

「(独白)そのためにかまどになり続けるのはあたし、いわば母のそれだ、自分の子孫へのエネルギィを融合する炉(ルビ:カマド)の現憲法下での完成をめざす。ああっ母とはなんだ!」

「もうよい個人で己が大脳のもたらす犯罪をみな受けてたら、人間存在の恩寵とその重力のおそるべき重みをその一身に背い、短いわずかな人生の中でそれに解決を見出しうる能力のある人間などほとんどいやしまい。それにいたとしても、最初からそんな人間に国家などというみじめな低能な生物どもの運命共同体など必要なはずはない。それゆえに精液だけが夜といい、昼といい、私のお胎にあふれてくるが、私を妻とするものは未だにない、あたしにはひたすらあたしの子宮のよりもさらにいまわしい囲いだ!この囲いは重一すぎる、今一度壊れよ、ことごとくは宇宙のチリにもどせ!たまらない、この業の深さは一体どこから燃え上ってくるのか!おお(胸をかきむしる)」

「いいかAOI、ここ〇ページにちゃんとAOIのためのト書がある。それにしたがえ、「女という事物はたえず女性器を運動する。その中心に他者を交配せんと、満たされぬ破滅とその増殖を閉じ込めたエントロピィの所有体である。それゆえ絶えず《ファシストとしてのまさにこの生物!》なのである。その三位一体は死と生殖と出産であり、その自己保存則を共同の事業として完成しようとする儀式が国家と呼ばれ、生物的無意識を経験するテメノスをその内部につくり出し権力のプライバシィ化をすすませる」

「おほほっそのト書は今のおまえ達の企業権力の構造と同じだわね、私の希いは太場と向じ核融合炉になること」


(X1ー4退く)

──明転──


〈庭〉(音楽入る)


「あらまた白い灰が降ってきた、灰があなたのまつ毛にこんなに、なんてきれいで白い粉、水で溶いて陰部にぬるととてもいいわ」

「あらすてきね、みんなをワーカホリックにする白い薬。世界経済の静脈に注射なさい」

「ははっそれはウラニウムのもえかすプラトニウムだ、おまえ達の死の灰だ、そのうち体中がごきぶりやうじ虫だらけになるのだ、まだ火が燃えている。余の女の体の燃えカスだ。ふふっ火がついたなGNPのメスどもめ!」

「行け、行け、行っておしまい、どこへ?ナショナルへ?」

「絶対なる天皇家へ、みんなして血を吸ってもらいにな、そして粉屋の娘から白い粉を好きなだけもらってこい、たっぷり血液をささげてこい。おまえ達に尼寺などぜいたく、行け行け、みんな行っておしまい、全能なる日本民族の聖なる精霊の棲家へな」

Aと姉がペアでおどる。


姉踊っている、物が変な動きをする。


双子
「あっ母さん、あたしのおっぱい見てよう、ちょっとへんなの」

「けしの花だ咲いてきている」

双子
「あたしのも」

「こっちにマリファナ草が咲いてきてる、もったいなくも」

「あたしのも」

「ほら母さんのお尻に!大きお菊の花。くそころがしもぐりこむ、ふとももに鳴っているおしろい花」

「あたしらの胸につがいたひとふさのつるぶどう、いいえそれはつがい合う一つがいのヘビだ」

「あらっもったいなくも、つがいあってる」

双子
「あたし達の身体があたし達の愛の劇場なんだわ」

「でも人間がいない、人間をなぐさめてあげたいのに、あたし自分の身体入れておく冷蔵庫が欲しいわ、バス、トイレと洗濯機も、いい人が入ってくるまでこのままきれいにしおれないようにしとくの」

双子
「あら、あたしも自分しか映らないテレビがほしい、自分だけでみていたいもの、自分という劇場を全部自分で」


「(プロローグの養女である)あたしあたしの体をそっくり同じつくりの精神病院が欲しいな、そうすればやつらを皆気狂いにしてやれるわ」

「(姉に)すでにあなたがたにはあげたじゃないの」

「精神病院も?」

「そうこの家の病気のひみつもすべての治愉の自由も、そこに火がつけられてしまったけど、いやらしい性器をもった劇場もよ、それに私たちの銀河系がもたらす第三次大戦という、もう出来てから四〇憶年以上もたつ、でも人類には一番新しいやつ、あれ、いらないの?ふふっ」

双子
「あたし達フライパンも、ガスレンジも、自分達の体と同じものそっくりのがほしいのよ、それも生物学的なやつ、でもすがすがしいやつをね、やすらかな怒りや、ねむり、はげしいよころびや、だから感情をもったの、TVや冷蔵庫が、それは自分の体がすっぽり入るぐらいの生物学的でどっちがどっちかわからないくらい、とてもすてきな融合ができるやつを」

「自分そっくりのがほしいの」

「そうよ、窓もカーテンもトイレもみな私と同じ感情をもってすべすべしたあたしの体みたいにみんな下着みたく体に合ったのを、そう何十億年もずっと生きている、そしてこれからもずっと生きていくだろうというくらいなじんでぐるのが欲しいのよ」

「それでこそ全アジアを一つ喜びにみちびく“アダム”“イブ”新婚の夢が実現するのよ」

「すばらしい太平洋だ」


この間、姉は双子の妹と違い、様々日常的諸事物に犯され続けている。要するにこの姉の体にはすべての事物が反逆し続けていて少しもなじまないのだ。

そうよ……トイレもバスもドアもベッドも私と同じバイオリズムをもっているの。太平洋がそうなってるみたくね、ここみたいな化物だらけの部屋なんていやよ、それに母さんあんたの体三〇〇〇〇年以上も生きているからすごく古いのよ、しらみや、ガマガエルや、トカゲ、牛、馬、ヌエ、うじ虫がどんどんふき出してくる。体中がいろいろ業という業であふれるんだ。あなたの体のくぼみ、アジアに合っているいつもくらい大東亜の熱と夢遊病の共栄圏に、あたしらの業は現代科学の企業ファシズムのメディア体に合ってるの、そりゃあたし達のパンティや、あたし達のストッキングやブラジャーみんな生きもの、でも母さんのとちがうのよ、そいつら自分のつやつやした感情をいつももってるの原子炉やコップや学習ランプが、私らのメタフィジィックな光輝く血や汗や陰液にすっかりなじんで、風が吹いても誰がさわっても気持いいテレヴィやステレオが、自分のお尻や乳房をなでてるみたいにそっくりでいる、ちかちか、まぶしくエロチックでいるドアやサイドボード自分そっくりのいつも喜びとはじらいに満ちてるテレヴィやラジオカセットやオートバイもよ、あたし達そんな国家が欲しいのよ」


乳房を互いの指でつまみ合いながら。


AOI
「よかったね……そういうテレヴィや冷蔵庫がほしいなら世界をリードするおじいちゃんに言い寄ってね、造ってもらいなさい、あの四人の、もっともおちんちんが立てばだけどね」

「あたしたましいが破裂するホンダやヤマハになりたいわ」

「そして快楽のミサイルを人類に発射してあげたい喜びのジェット機にびゅんびゅんあたしはなりたいわ」

「でもジェット機はあたしの心を噴射して最期は体を食い殺すわ、太平洋をうずめるあの獰猛なピラニア達!ジェラルミンの輝き……」

「みつびしのでいいのかい」

「いやよ」

「安くていいわよ」

「なまあったかい代議士のぬるぬるした椅子の順番を待っているグロテスクな行列が回っているだけ、回る回る、くるくる」

「回れ回れ」

「万世一系の多目的開発!同時多方向、リズムだ、セックスよりスバラシイエネルギィの核融合ができる原子炉にあたし自体なりたい! すばらしく輝く「日立」になりたい」

「あたしセックスの生き仏になってナショナルの御本尊といわれたいわ、少しじみかな」


Aが現われる、とそれまで悪意に満ちた反逆をし続けた諸事物が姉の肉と同じものになりはじめ一つのエロチックな部屋のように静まる。


「あたし天皇になりたい」

「それなら芥君に言いなさい、だかれてしまえばいいわ」

「あら、芥君はAOIさんの体にAOIさんがすっかりなぜまぜしちゃった、もうどっちがどっちかわからないくらいなじんでるはずじゃない。あたし達もあたし達の救主がほしいのよ」

「そういうけど、あれはみんなの酸素のようにオスメスわけへだてなくみんなの体を出たり入ったりあれはほんとうに何にだってなじむ救主」

「でも謎めいたウラニウムだった。ああホモフイクタス……!」


光あふれAと姉じっと抱き合う


「ほう純粋国体のじいさん達がやってきた。わたしの母さんに種づけし、わたしらにも種づけしたじいさん達が」


四人のおそろしく老いた老人がよろよろと通過しながら言うX1ー4である。


「あのものどもにまかせた一権力の経営をアジアは私の体を人質に与えておりながら少しもいやがりはしなかった。むしろ喜んだ、けれどアジアよ心は少しも私らになじまなかった」


姉が義母にすがりつく。


「たとえあばら家でも、あなたが私に嫁ついできてくれた、わたしはあにたにレズビアンしかやってあげられないけど、どんな虚無の風がふきあれてもあたしらの体中から暖まることができるわね、でもあの老人達はそれがない、私らに種づけし、わたしらなじまなかったからすると、あばら家のここかしこから情報のうじ虫やメディアのちょうちょととばして家中をうるさく監視するようになったの」

「うるさいハエ達……」

「うじ虫はその子供等だ」

「おまえはこのあばら家を通過している。宇宙の年令を考えなさい。このあばら家の年令でなく」

X1−4
「そして私らを殺しなさい、ははっ」

「いまそうしたらこれの婿マサヒコをあの世からもこの世からも殺すことになってしまうでしょう、あなた方はAOIが生きているかぎり死なないから」

「国体改造法案は原爆をくらってもちゃんと三七年生きのびた、ますますひどくなってくるみたいだ。その本議を決定する最高裁判所はどうしたのか。」

「あなたの肉体は形だけできてはいるけれども、いまだに合法的実体はないのです。あれらの未確認超法規生物にはいまのシステムはすべてが法的に無効なの」

「ははっそれは草深い我が民二六〇〇年の間の伝統なのです。そのはじめに私らを神にし、私らを死ななくしたのだからです」


うしろでみどり児がピクピク。


「(独白)娘達、お聞き、この世のすべての獣達はそのはじめ私のお胎から這い出できたがいまだその形がなくむなしかった。そこで自分で自分そっくりなものをつくり出すことにさせた。私のほとから麦は生まれ、私のへそから米は生まれ、私の乳房からアラビアのぶどうが生まれ、私の鼻からチャイナにあづきが生まれ、私の耳からインドの大豆が生まれ様々なものがあふれ、さらに私の体は性に飢えた人類をあまねくいやした。とくに極道や革命家気取りの学生どもをたっぷりいやしたが、父をいやすことはできなかった。父はそれを望まなかったが、私はそれをのぞんだ、それゆえ彼は私を殺したのだ。そのときから私の母性は彼のものになった、すると世界中の国家権力が「父」を激しく嫉妬したので、父は怒った、分らずやどもをアジアは血を噴きヨーロッパは心神がやられ精神病院に変った、闇の中に私をとじこめたニホンではついに最初の原爆が破裂したが、幾星霜を経、草がはえるようにまたしてもあの老人どもがその灰の下からよみがえってきた。そしてあの「事件」だ、父は息子をよこした。私を見捨てかつ私を激しくいやすマサヒコ!マサヒコおいで母さんのところへ、あの娘が本当におまえの嫁かどうか我らが最高裁はいまだ決定できずにいるんだ」


「母さんの体からたちのぼったエロスが母さんをはなれ、その情念は宇宙と同じ大きさと構造になった、私は母さんがこの星に放ったすべての死といのちに記号を与えそれによってすべての業という業が企画にそって働くようにしたのよ。それは経済空間、企業のはじまりなのよ」

「私の代わりに私を模倣しているのだ、かつては私ほどの大企業はなかった。そこで息子のひとりは“企業内労働者の逆搾取の権力”というあたらしい《事物》をつくり私に対抗させはじめた、その事物の中では死が死を模倣しはじめ、それまでの天体の歴史が時間を逆流させられ地球は天体に抗い、自分で自分をコピーする運動を開始し、いまでは他者を模倣する力をすべての事物に与えはじめた。おおいつもいないあなた、私はあなたのためいまいちど私の息子とベッドを共にして息子達のためのより強い理性労働者を産み落さねばならぬのか、その子供等がこの庭に真の最高裁を完成するというのか、いつもいないあなたの愛と力と勇気と知恵がそこに宿り、そこでもみなの魂がすぐれて裁きを受けたのちの休場となられ」

「でも私の人類達はまだ私をその体で息しているだろうね、こうなったら一刻も早く彼等を私の体の中で融合させなくてはならない。そして宇宙の歴史をかえねば」

「そうよ世界共通経済原理のもとに企業は母さんから母さんをはぎとり続け、すべてを無数の記号と商品にかえて私をつくり、私という空虚を世界中にうみ出し続けてきたの!」


X1ー4が実物隠蔽の仮面を脱ぐ、みんな白髪でしわだらけの九〇才を超えた顔で書類を見つつ、四台のオシログラフには解剖台のようなベッドに縛られたAの脳波の様な電波波形。


「私の性欲よ、いつくもの頭脳そもった私の本能いそげ!早く!私を処女でなくしてよ!たちどころに増進するパンツを脱いでしまった恐るべきあの新しい労働者達よここへいそげ!遅い、なんて遅いの私の精液はまだか?あれから二千六百有余年が空しくすぎた、ありとあらゆる形ならざるいのちを秘めたあたしの処女の海原はたける!ビールの空カンとともに浮かび、陰部を空しく空に向けて泣いてきた海原だ、わだつみはまだか!USよ、私は核融合の光に溶けていくひとかたまりのバターすぎないのか!私は再びそれに差し戻されたのか、かくしていのちの火、原爆を放たれたバターがこうして太平洋をさまよってるというにわれらがわだつみはどうしたのか遅い遅すぎる!黙って見てないでおまえ達はあたしのいのちのスープの受皿にでもなりこの役立ずー!(観客へ)

(尼僧ヨアンナのように)安らかな平和憲法の中の心で私は眠りたい、ああ、ふつうの浮脂のような女の子に私はかえりたい。でも獰猛な世界歴史が核融合のペニスを私の心臓につきたてるし、それがいつも私の眠りをさいなやむ、世界産業というおそろしいエゴイズムから突き出た棒が私という波間に浮かぶバターの一かけを燃えカスになるまでかきまわすわ、そのたびに悲鳴を上げる処女膜をふるわせて、ああっ明治通りから昭和通へ悪い風が吹いてくる。すめらぎのなわばりを秘めた街々はへんな光に包まれ陰気在な白い粉がシャムやカンボジアあたりら吹き飛んでくる。亜熱帯のくらい河にまで気のくるった日本人達が秘室の精霊を盗みに行くからだ。何千という人工衛星が私を空から監視している。あたし聖マルクス大通りの道ばたで赤ちゃんをこっそり産んだの、でもとてもいやな悪い風が“明治通り”から吹いてきてその赤ちゃんをひどく泣かすの、いじわるな老いたる天体の銀河系のはずれで血しぶきあげて回っている。星につかまってその血しぶきの一粒にされちゃったわ。あたし守れなかった、あたしの赤ちゃんを、だからねいつも夜空を見上げるとわたしの赤ちゃんの赤い血が人工衛星と一緒にぐるぐる回ってるのが見えるの」


「許してね、新しい最高裁判所の完成がおくれているのね、恐るべき爬虫類達が棲みついたの、それで呪われたかつかつの利権屋どもの巣窟になってしまった。世界経済原理のかまどはまえほどに燃えていない、あの獣達を私はもう一度奴等が生まれてきた地獄のかまどの中にみなくべてやるわ、もとはといえばわたしの業だ、ニッサン、トヨタはチャバネゴキブリをつくり地球上にばらまくことしかできずしていばりちらしている。それにまたあのかつては私の処女達をかどわかすほど若々しい水爆の如く気位高く誇り高かった八百万の神々もいまでは新しい革命の風一つすら送ってはこない、それどころか、私の眼を盗んで、いんちきまじない師に身をやつし、昼間から自民党会館から目白あたりをうろつき、企業から企業へ利権から利権を求めてはさまよい、一億の労働者達の利潤をねずみさながら食い散らかすことしかしないでいる!なぜ汚れた灰色のボロ雑巾の中にやつらねずみという。いのちはもぐり込むことに成功したのか!まんまと私の眼を盗んで!」

「おお、私の弟よ、やつらにおまえの核兵器のいかづちを落して!私達の父の魂の休み場を諸国家の政治的巣窟と利権のやりとりの場にしたやつらの頭上に!おまえの怒りを作裂させて!KMSなどのじじいどもを根こそぎにして萎えたペニスをひきちぎっておしまい。私の息子達を平和憲法のシーツでくるんで眠らせて資本のゆりがごで揺らしつつ、私とその私の一億の棲家を汚しい亡霊とならずものどもの陰気でみだらな悪の巣に変えてしまったのだから。さあ私の弟よ、わたしの心のペニスよ、おまえのその稲妻でやつらの脳味噌を四万に破裂させ、やつらの隠れ家のしがみつくありとある忌わしい縄張りを、暗い私の血を吸いおまえの名を語っている化物どもを皆殺し去って焼き去って灰にしなくてはならない!私の家は今一度私達の父が母の忌わしい花からその身と心を清めたように一憶は清めなければならぬ!私とおまえの新しい世界の中で労働するその労働者とその息子達とのためにも、そしてこの私達の新しい涙が川となってこの首都を洗い流してゆき、新しい世界へ入るためにも、おまえのいかづちを今は落せ!私の弟よ、あなたはどこにいるの!」


四台のテレビからの声


A
「ははっおれを呼び出しているのは誰だ、おれはここにいる、いつもな、おまえ達のその生臭い内臓の中にな、おまえ達のつくり出す脳髄の光と影の境に、はは、おまえ達もついに第三次大戦を自ら望んで今俺を呼び出しているのか、今あのすべての光と影は入れかわる。赤子は老い、老人は赤子に、死者は生者に、生者は死者に、正は負と、美は魂と、火は水と、男は女に、女は男に、形あるものは形なきものに、でっぱりはくぼみにくぼみはでっばりに、すべての宇宙がいまこの俺とセックスしているのだ。記号は記号とセックスし、さらに記号をうみ記号同志の近親相姦がさらにまぶしい記号の世界をつくり、みなを消し去るまでその光をおまえ達に浴せ続けてやろう」

Y2
「そうよ呼び出したのはあたし、赤道の熱にうなされた末に太平洋に次々と生まれてはアジアの北に走り去っては死んでいく私の弟達!心の動物(ルビ:マンモス)達!おまえ達を照らし出す大いなる水爆装置よ、よき日に祝福あれ!」

Y1
「マサヒコ!行くのはおよし、私がそこに縛りつけているのよ!ああ聖なる日本民族の精霊達よ、お願いですから私の息子をそそのかさないで、その万能なる力で今少しお守り下さい。ここにじっとしてないで、外の声など聞こえないふりしているのよ、お願いだからそうしていてちょうだいおまえは自分の妄想に自分でたぶらかされているのよ」

「母さんは黙ってて!母さんが海に生んだ日本の国々では男というものはみんなそうなのよ」

「みんな私達の最初の父さんの鼻水の中に漂っているアミーバからうまれたそうだから、血と精液で風邪ひきコンプレックスをひっそり遺伝してるんだわ!」

(ふっふっ、うんこもおしっこも煮え立つ妄想の国だ、肛門やペニスの中に大脳と互いにさからいあいながら自分の心を閉じ込めようと必死にもがいているあわれな男達!小うるさい神経の送り出す記号で蛋白質もガンウィールスに変わっていった。ついに氷づけされた私の子宮壁でしめられ窒息死をしていく無数ないのち!)

Y2
「さあ早く、私の弟よ、何をしているの、そんな暗がりで」

「分ったよ、姉さん!三〇分後に庭はずれの最初の父さんの墓でおち会おう、劇場を三〇分休憩にしておいてくれ、それまで俺を縛りつけているこの神経、白いヒモを脱け出すから」


「国引き」


老人のささやき、メフィストのように。

ヘッドホンをつけてマイクに向かって

「ふふっマサヒコ行ってはいかん、おれ達はもう誰れにも負けないほど愛し合っている。それを永久に忘れたりしないためこうしておまえの血液の組成因子とおれの精液のそれを、おれの血液のそれとおまえの血液の組成因子とを互いに交換し合っているんだ、おれ達はもう差別し合うことはないのだ、お互いすでに昭和二〇年一月十一日死んでしまったはずの人間だ、それがこうして日本企業の奇跡的発展によって引き起されたもののけのエネルギィによってよみがえり、めでたくこの家に舞い戻ることになったんだからな、アジアというのはおれ達の編みあげ靴のようにな、不思議な宇宙をいくつもその暗闇にもつ、おまえはアリューシャン列島から夜という夜をひきづり、氷山と石蹴りしながらこの家に落下してきた、俺はインドあたりからわらの舟につかまりながら朝鮮半島づたいに生暖い海流と台風の勢いにのっていくつもの生産システムをひっぱりひっぱり這い上ってきた。そして今めでたく一緒にまっぱだがで抱き合っているのだ。これこそまさしく神の国の奇跡である。奇跡でなくてなんだ、政治家ども、あの臆病で図々しい泣き虫で、ひがみっぽい、 いつもあくせく偽悪と不安におののく人間そっくりの忌まわしい動物共をおれ達二人でだまして、あの最高裁判所に送り込んでいくんだ、三五年前焼けただれたあばらやで、ぼく達の母さんが腹を空かしじっと眠っている間に、「食を奪いさらにセックスを奪え」とあのやさしくただれた陰部にとりついたあの売国奴の連中にファックしただけじゃなくヴィールスみたくに棲みついたまま居坐っているあの人間そっくりの化物連中を処刑場に送り込み、もとのチリや石ころに戻してやらねばならん。
そしておれ達の母さんの愛とその子宮の魔術ほんとうにおれ達自身のものになり、おれ達自身の精液と血液をそこでふやし、おれ達そっくりの子供達がこの新しい文化国家にあふれさすのだ、こんなすばらしいプランをおまえは捨ててしまおうというのか、あんな気狂い女と結婚してこんなすばらしいプランをふいにしてもいいのか、この世界はそっくりおまえのものになるんだぞ」


「(走りながら)ああそれにしてもなんという痛み!皮膚という皮膚の下でギリギリと恐しい電磁波が脳髄を走り回るああ激痛の海原にわたしは火を噴く死体だ、自分の血潮で溺れ死んでしまいそう、いま息子達は行ってしまった、彼等の父の墓場へ、ああ人間の眼には永久に見えない私、この私が人間達の経済学上のパンとなり、生物学上のセックスの数々となって、人間の中に産まれ代わりながら世界に人間どものいやしい悪の自己増殖をあみ出してしまった。私の感情の中にいる幼い彼等を誘い出し囚えて殺そうしている。
そう私自身がいのちを秘めた暗号となって一足先に息子達の体の中に入っていって奴等のいうように私の体はいま一度チリと石こうとどろに戻っていよう」


SONG=「秘密は空に舞い上る」


テニアンの空に 秘密は舞り上り
いよいよ約束されていた世界オリンピックだ
青い地球は世界経済原理のいけにえにされて
ついにめでたく息絶えて久しい
やがて色とりどりの栄養物がおしげもなく
環太平洋の空から全宇宙の空にこぼれていくだろう
古びた地中海はヨーロッパから環太平洋に引越しした
いい名だヒロシマ いつもいい日だ
その泡立つきまえの良さにおれは尊敬する
おまえはその初めに惑星に打ち込まれたよき釘だった
神経の縄張りもそれをひっこ抜くことができない
久万の光のどかな筑波領に核ミサイル大群がゆゆっと走る
巡礼達は富士山頂で発狂していた
おれは劇場の中でミルクティを静かにすすっている
頭上に切りとられている大空はすでに世界秘密でいっぱいあふれている
足下からふき上げるねばねばの黒体輻射を
白髪の彼が笑って待っている
錯乱
空と同じく穴のあいた人間達
すでに煙のように軽い人間達
すめらぎの手招きに吸い寄せられていく


SONG Ⅲ「NECURAーZOKU SONG 」


やさしい奴に気をつけろ
もし、近づいてきたらやさしく笑っで受け入れて最後には
けつの穴までだましぬけ
恋人のやさしさにも気をつけろ
もし、愛しているわ、あたし一緒に死にたいわなど言ったら
じっと笑って受け入れてへその尾でぐるぐるまきに売りとばせ
母のやさしさに気をつけろ
もしいい子にしてるのよ私に心配かけないでなど言ったら
じっと笑って受け入れて毎晩毎晩ファックして息子をいっぱいつくってやれ
国家公務員のやさしさに気をつけろ
じっと笑ってつばをして一銭残らずまきあげろ
何しろみんなぐるになってかかってくるんだ
いまからちゃんとやっておけ
国体は一つと言って
すめらみことのろうそく灯し
みんな暗い穴の中にすんでいる
こいつらみんな にせもののねぐら族
みな殺しのやさしさだ
気をつけよう 気をつけよう
おれ達は正当のねぐら族はみんな自分がやさしく
生まれついたことでおびえ続けて生きてきた
だからねぐら族に朝はない
だからねぐら族は正当な社会の殺人者
ねぐら族よ早く惑星の新しい住人になれよ
おれは少し心配だ
そのためにゃたまにはバカげた自殺の一つや二つも
悪くはないぜ、おっとと
鉄輪の女も 赤子を抱いたみどりに
そっと会釈しな


Capter Ⅱのオープニング


Aが青白い顔で最高裁のシンボルとされたプロローグの時の樹のようにつっ立っている。その一偶に母と双子の娘が遊び、居る。あたかも、まほろばの庭の──すべての歴史が一つ平面上に完全な調和を保つ。


ここは「父」の墓であるらしい。


「今日は太陽系宇宙の庭がとってもきれいよ!」

「空も空、花も花、ほんと何てきれいな庭でしょう。それにちょろちょろ、すごいスピードだわ」

「あらっ、母さん、どうなさったの、胸にあんなにミルクをこぼしちゃって」


「少しめまいがするの、私の息子が私の劇場に火をつけ、私の肉体から脱け出していってしまっているから」

「母さんは心配しすぎるわ、だめよ、そんなに頭の中をガス爆発させてちゃ、ここで少し落ち着いたらいいでしょう、ほらあそこ、きれいな小川が流れてる、水浴びなさればいいわ」


「あれが日本歴史、流れは小さくても獰猛な変化をみせる」

「まあなんて赤い葉げいとうがいっぱい咲いていること!」

「あれは三島由紀夫草、この世では、体中を血と、くそであふれさせていたが、私の庭では、はかなくも美しい」

「あそこにサルビアがいっぱい咲いている」

「あれはサルビアでない、焼夷弾という花、36年前に太平洋の向うから私の庭にそっと入ってきた色の白い恋盗人が白痴的にセックスあとまき散らしていった火を噴く惑星花々だ」

「なんでまた?」

「地球を半分以も回って、ついに、母さんが真裸で眠りながら海辺で日光浴しているのをおそるべき色情が見つけたの」

「そう、母さんのために真珠湾の道かざりを奪い合った太平洋戦争だ」

「私のお腹の中に自分達の精液を混ぜ合ったそれぞれが、理想の花を咲かそうと、私の父がそうさせたくなって私の国を滅ぼそうと国中に血を流し、私の息子の劇場にも御自分で火をつけたわ」

「その時黄色かったヒマワリが、みんな真赤な向日葵になったんだ」

「あれから40年、まだ庭ん中でチロチロ燃えながら、赤く身悶えしながら咲いている花」

「そうか、母さんもほれていたんだ、ほら、また燃えてきた、いんらんな母さんだ」

「いいえ、私は家を守るためにあのベッドに入った──世界経済原理もう一つの私等のベッドに」

「それで母さんは時々悲しそうに戦争否定をうたったり、主権在民によるリズムで民主主義とかいうメロディを唄い踊るのね、心と身体がどこかアンバランスなのよ」

「あいの子を身ごもってしまったっていうわけか、わたしらみたいな」

「うわっ」

「あのスピードあるちょうちょはナパームバタフライといってヴェトナムでとれたの、はがねの玉でできている不満のくすぶる心の入口をねらってとんでいる」

「あらっ青い烏」

「あれはブルーインパルス、みつびしのときどき頭から庭につっこませてやっている、私を忘れたみせしめに」

「春だ、樹の土で猿があんなにセックスしている、カマキリがオスを食べている、自民党は選挙だ、母さん!」

「私達の胸も腹も膣も足もふっくらしてきたし、台所が金次第でどうにでもなるようになったからね、猿どもは借金しほうだい」

「そのうちみんな「業の深さ」に自分自身がびっくりしておびえだすよ、いづれわたしが原爆をおっことしてやらにゃらん。この国の業の深さはすでに私の庭から人間を一人もいなくさせてしまった」

「小児マヒのサルがいるわ、ああしてまぼろばなる我らの団体の庭を自警する陸海空軍の殺人者やホモ族も大企業の名のもとに経営化されつくしてしまった、でもああ、あの子等はああしてビッコをひきながら裸足で私を守ろうというのだ。私の陰部をだれにもさわらせたくないっといって」

「すばらしいわ、まるで人間の子みたい!」

「そうね、わたし達はどっかへそっと隠しておかなきゃなんない、あの子等の脳味噌をね、いつか人間になる!ここにいたの、お母さん、あの何も生えてなかったお庭のまぶしすぎる三角形の空地でいつのまにか今まで見たこともないピカピカ光るきれいなきのこがいっぱい生えるの、あたしのペチコートみたいなかわいいのが、アジアのカボチャもいっぱいとれたわよ、まあたらしいヴェトナムのすいかも、ああいっぱい生えてるわ、それはそれはとってもエネルギィに満ちておいしそう、まぼろばのお昼にみんなでブルーメニューにでもしましょうよ」

「アリゾナとヒロシマで国粋主義者がおまえらの父さんの死体の上でこっそり栽培してたきのこだよ」

「まあ、なんてまほろばのたましいのシステム生産なこと!」

「感星空間にふわふわくらげみたいに浮いている何億というお化けをあつめてきてきのこにしちゃう」

「それは〈メタ〉きのこといって、たまらなく地球やあそこが発情してしまうのよ、食べれば極楽トンボになっちまう(──でも脳味噌はすっかりやられちまう)」

「えっのうみそが発情しちゃう?」

「おまえが食べるにはまだ一〇〇年か二〇〇年早い、とみんなの時間も空間も消えちまうからね、父と娘と息子と母、兄と妹、弟と姉、とか、つながりも消えてしまう、資本の運動も変わっちまう、生物もそのはじめから狂ってくる。あたしの胸からミルクを吸ったりするだけじゃすまないだろうよ、おまえ達はせいぜい鼻の粘膜からその胞子を吸いこんでいるだけでいいのよ」

「じゃあ兄さんはこれ食べちまったんだ。父さんと裸で抱き合ってたし、ペニスもないうち私の処女を破ったりしたし」

「いいや、あの子が庭にできているのを発見し、丹精こめてふやしたのは確かだよ、でもあの子は私の眼で見るかぎり食べてはいないよ、それはソビエトの連中に食わせるためにふやしてあるのさ。もう、少しづつは食わせている。あれが私の家を乗っとった時のためにね。もし全部食えば奴らがワルシャワ条約を捨てるだろう、核兵器廃絶を熱狂的に唱えはじめ、国民は近親相姦にふけりはじめるようになる。そして私等の《平和条約》を欲しがりはじめる。この家は乗っ取った方が実は乗っ取られるのさ、その子供が生まれる時に」

「北朝鮮は?北京は?」

「あそこらはもう輸出してあるよ」

「じゃあ誰が食べたのよ」

「アインシュタインがまず食べたよ、ついでヒッピー達も」

「日本人で誰も食べてないのにその効き目がわかるなんて変じゃないの!」

「もう食べた方が一人いらっしゃるのだよ」


「なんできれいなまぶしい庭だろうね原爆がねっとりと美しい、水爆は私達の血液をすがすがしいものにしている」

「母さんそっくり、一億匹のぼうふらまでがピカピカに光っている」

「ギンギラのかもめが、しずかの海を飛んでいる」

「怒りに燃えたかもめが平和を叫べたのも束の間、ミサイルを羽根の下に隠し、口ばしに機銃をくわえて、平和なオリーブは燃えて灰になってそしてMt.富士は頭から煮湯をかぶったまま焼けただれている。人類の秘密の方舟は空に燃え上り、私の父さんはこの庭を捨ててしまった」

「だからアララットはあんなにまで激しく噴火していると言いたいんでしょう、富士山もまた……でもお願い、私の話をそらさないで! うっ、母さんが──母さんが食べたの?!その性器で」

「……アイウエオを最後まで言わせようというのかい」

「ということは、私の父さんは誰?ね!誰なの!大日本製鉄の鉄は国家なりの鉄?」

「国土計画かな」

「まさか」

「じゃあ、ヒロシマのウラニウムがあたし達の父さんなの?」

「決して眠ったりしない、心霊修業をもった権力経営を、私達といっしょにした。あのへんな四人の老人が私達のお父さん?」

「ははっ、なんてきれいなまぶしい庭だろうね、おまえ達そっくりだ、ああ私にもかつては人間の夫がいたものを、こうなったら……そう(独白)この庭を一億のためのそしてとの惑星の四十六憶のための最高裁の庭にしよう……いろはにほへど」

「メンスほどにね」

「月の運よ人間が歩いてもまだ精密にうごいてくれているわ、ありがとう重力」

「私の指と乳房の快感あつめ母の陰部と娘の陰部がおりなすレズビアンだけじゃもういやだっていうのかい、それ以上知ってから燃え、灰になってもう一度死にたいって言うのかい、あたしのプラトニウムちゃん達は」

「なら言ってあげよう、おまえが今夜この糞と血と精液がうずまく家を出て行って、最初にこの狭苦しい私の太陽系の中で出会った人間の男にキスしてごらん。そうすれば、それがおまえの父さんということになる。ついでに言っとけば、おまえとセックスしたあと脳みそをまぜ合わせるのだ。父さんは殺される、というより私が殺しちまうんだ、死んで、その夜、父さんの死体を食いに世界中から集まってくる複数の男達のうち脳味噌を一番おいしそうに食った男がおまえのいい人になる」

「そんな気持悪い事あっさり言わないで、愛情と、閉じ込めの磁場の問題とか、血と時間の問題とか、歴史の天体的運行とその重力とかのお話しをしてよ」

「だからしてるじゃないか」

「それにこんな広いようで狭苦しく、狭いけど遠い庭をどうやってまだねんねのあたしが出て行けるって言うの!」

「私の体が持っているドアーの開け方なんて私は知りたくなんかないわ」

「でもこの子には教えてやって、この子には!この子は燃えてしまいたいんだから!(走り去る)」

「おまえはもう燃えている、昔の私そっくりだ。いいかいよくお聞き、おまえが単純にアクロバットをするんだよ、両手をおまえのおへそから体の奥深く入れ、片方の手で脳味噌、もう片方の手で子宮をつかんで、それをそおっともって肉体をねじまがった8の字のようにひねりながらひっくり返し、この時おまえそっくりのおまえが外に立っているのをおまえは気付く。だけどね、おまえはもう二度とこの皮膚感覚で磨かれたあたしの家に、この庭の片隅にだって入ることはできないよ、というのは、この家の構造がすっかり外にでると別のものになってしまっているからだ。その「きのこ」を一つだけ持ってお行き、どうしても帰りたい時はそれをお食べ」

「そんなピカピカきのこはいらないわ、わたし!」

「でもあんたは持ってかなくちゃだめよ、母さんの言う通り」

「それ以外に何か私に言いたい事あります?」

「いいや何もない、さよなら、これでおまえはもう他人だね
(独白し)おまえにいい人ができた時に、おまえは絶対戻ってくるだろう、私にはわかる。その人と一緒に父さんの脳味噌を、いいえその「きのこ」を、その人の子供を妊むときに食べるのさ、そのいい人が私のしっとにもやされ私に殺されたくなかったら、いいかいおまえが持ってきたのはきのこなんかじゃない……私の子孫には葬式ばかりがふえていく、365日に200万人もの胎児が殺されるのだ、この家の名誉を守るために、そしてその頃20世紀の文明も終わる、その後7000年続くおまえ達の世紀が来る」


「日本よおまえ私の娘の花婿におなり!」


ステージの一隅で娘はへそに手を入れてあのアクロバットを行っている。うまくいかない。

(出血多量でついに死ぬが、すでに妊娠していた。)
(──お母さんの嘘つき!)

捨てられた娘の死体に放火犯Aが息を吹きかけると娘はぴょんと生き返る。

四台のTVにAがうつっている。
スピーカーから声がひびく。

X1ー4
ちぇっと舌打ち
赤子がころげ出てきて少しづつ大きくなる。

赤子は成人に達し再び赤子にもどる。

「日本よおまえわたしの息子の花嫁におなり。」


X1ー4が見張っている。


〈2幕〉


(──ささやく)
「やつはほんとうに天皇なのか。われらの唯一の不死の力を奴はああしてすでに手にしているのではないか」

「いやどちらでも良い。私達にとっては同じことだ。その記号の意味するところは問題ではない。その記号としてのやつの不死を我等が経営できさえすればよいのだ」

「被告に質問するおまえは天皇なのか」

「ここはいうまでもない。裁きの庭であるが同時に忘れてはならぬことが一つある。ここは私の父の墓でもある。それ故おまえ達はその記号を裁き手としてここにそれを試みてはならない。かつておまえ達が捨て、ののしり、しいたげしりぞけたもの達がそれを産み育て、おまえ達の上に達さしめてもいるのだから、自らの力でわたしを試みるがいい。それが一億の血でできているのなら一億の血であがない、それがそれ自身の血でできているなら、それ自身の手で、それが平和のシンボルなら平和のシンボルどもに葬らせよと、わたしは言っている」

(──質問をまんまとかわした気でいるな。)


四台のTVから大企業のコマーシャルやら、世界経済原理の実体、ミサイルや人工衛星、などのビデオ及び、一九二〇〜三〇年代の無声映画のいくつかが映されている。


「おまえ達、家造り等が捨てた石が宮殿の隅でその頭石となる。これは我らが惑星を造り、真の愛に満ちた技法であっておまえ達権力経営者達には不思議に見えよう」

「企業経営者等が捨てた停年退職者達、若く身重の女と、落ちぶれの低能児等がその企業の土台となって再びその時にふさわしく企業を支え出すであろう」

(──なぜだ?)

「私がその力になんと名づけたかはおまえ達が不思議に思うことはない」

「そのとおり不思議はないな」

「それこそ救い主の種が幾百万とこの感星にまかれてもない。この惑星がガンとした沈黙をおまえ達に向って守り続けている理由なのだからな、そのくらいは我等とて知っている。もし我等の企む一つの企業がいかなる障害も乗り越え想像も超えた進歩をし、ついに自らの業の完成を遂げた時それはいかなるものになっているかを考えれば良い。おおよそ人間にかかわっていることごとくはその企業とともに企業の一部と化し吸収されつくし、(いまの日本はそうなっているが)ついに地球の過去も未来もことごとくを包み、支出しきった時に、人類の最終欲望と我等は一致するのだが、企業ははじめてそこに全く新しい救い主をつくり出しかろうじて一つの完成をむかえる」

「が、その時たかだかやっと人間ひとり分の道徳を実現しうるにすぎない。そしてその幾百万を集めて完成したひとり分の「人間」を企業経営者はなんという、またすめらぎと言うに違いない」

(それは誰がどう名のろうと良いのだ、我等が作り出しえたものなら良いのだ)

「企業システム全体がメニア(編注:ママ)であっても良し、ニホンではそれ故すでにニホンという記号に一憶の救済という意味を与えてある。良いか、ニホンではニホンがニホンの救い主なのだ。ミツビシでもトヨタでもない。さらにニホンというのは一億一千万が生まれないように経営している共同事業の利潤追求のための名称なのだ。すべてナショナル、ヒタチ、そういったものはすべて吸収されつくしなおそれぞれの役割になっているではないか。おまえ達のいう「愛の劇場」などではないのだからな。世界歴史を歩いていくための「靴」をどではないのだ!」

「この地球がつくり出す一切がおまえの約束とともに完成したあかつきはそれを家とみなすことにしよう」

「その時さえもなおすべての企業は余の母の「靴」の一つ一つだ。自らの不完全を隠蔽しつつ、余の父等が惑星にすでにしてまかれたメシアの種のいくつかを自らまいたものとして模倣するシステムにすぎないのだ。そのむかし余の母の胎にはらまれた《天皇制》もまたそれに付随する毒素の一粒一粒にすぎぬ」

「ヘリクツだ、全くりへリクツだ、そいつはメシアでなく、パン屋か飲屋のまちがいじゃないの?お若いの、はは?」

独白
(我等はその毒素の一粒一粒を育て、戦わせ、永久に人類などには倒されることのない権力を経営したいのだ。そのために原水爆を人類の頭の上につくり出している)

「我々が24時間、どれほどの労働に従事しているのか、おまえのような働くことを拒絶し続けている男などには分らぬ。我々はここ130年間一睡もしていない。第一われらの歴史は一秒たりとも眠らないからな。いいかね、おまえが軽蔑する家造りの仕事というのは、24時間労働なのだ。その恐るべき無の絶対と、無であることすべてを利用しきってこそはじめてこの世の一切を無でなくしてみせられるのだ。いいかえれば、我々はこっそりとすべてを一度は無に帰しこの現象をこえてギリギリの人間的良心の権力の責苦にたえるためには秘密の抜け道をつくっておく必要があった。それがおまえの言う《人間》という抜け穴だ。それはひとりで良い」

「ただしだ、この世に〈キリスト〉などというその抜穴をふさぐ十字架がなければな」

「そうとも、どんな働きをするわけのわからない民衆情念(幾百憶の人間感情を導き、24時間まっくらのなか)を観察し続け、与えられた一点に自らを縛りつけながらにそしてすべての労働者がその子やその孫はもちろんヒロヒトや天皇でさえ我々はそこにとじこめ人間をサービスするサービス業者としてきた時間という一点に縛りつける儀式を、定められた形の中で売っているのだし、我々はそれを買っているのだから。それは「神」の別名であるがやはり一労働者としてみなしていいのだ。彼には神は自己を縛りつける力である。そしてすべての労働者が一生をその一点に捧げ続けられるサービスなのだ。過去、現在、未来を通過しえる唯一の抜け穴をもった国家、そこに自分達を宿すための《共通の愛》をつくる《共同崇拝》いいかな、自分の四次元を支出できる行動体系を自身であみだし知覚しえる一大世界事業がニホン国家である。もちろんすべての労働者はこの世から労働と名のつくものをなくすために労働している。
が、なぜ労働はなくならぬのか、国家とはエゴイズムを生産する企業でもあるからな、エゴイズムがなくなればそのための労働も消える。すべての未来を犠牲にして、死に際に自己を涙の一滴に還元するためだけに生きてきたような強すぎて嫌われる連中が国家をつくってきたわけではない、国家というのは、弱くてバカでな、ほっとけば滅び去るものを集めてそのエゴイズムを高め、滅びさせないから国家なのだ。無数のこっけいな革命的英雄や、悲劇の反革命の聖人や、民主主義の名のもとの実質的な独裁者や独裁集団を出すにすぎない。感情的破産を我々とておまえに負けず、いやそれ以上に憎んでいるのだよ。ひとりでは生きていけない無数の弱い連中のためにな。そうでないおまえのように強い人間のその一生はことごとく荒野の悪魔のそれとして我々は見ているし、よしんばイエスと同じ答になろう。我々はその悪魔を否定しているのだ。ふつうの人間は33をすぎると我々と同じになるし、集団にならなければ悪魔にさえならないのだ。長生きしても、病気になっても、ふいに死んでも、ちゃんと平和であろうと、戦争になろうと、我々の世界事業としてはしっかりと利益があげられるように、我々はその集団をつくってやっている。これこそがヒューマニズムでなくてなんだというのか。(国家にいる猿をつかまえてきて欲するままの人間をつくっていくたとえばナショナル、たとえばカネボウが猿を人間につくるのだ。人間は人間が人間に人間を見せることさえできずにいる人間である。)それに逆いなおも人間でいる人間は幾百万に一人か二人にすぎない。残った無数の斉藤とか、藤沢とか、伊藤、福田とかいうたぶん〇商学部あたりの頭しかない弱く臆病で泣き虫でそのくせセックス好きの年中不安におののいている人間から見れば、そんな一人や二人は何かのまちがいで、生まれたにすぎないだろうし、まちがいでないなら自分らのためにひたすら愛を産み出し続けている《生物》であって人間じゃないと言うだろう。人間──こういった人間の精神にしてあやつりつつ我々は家造りをするのだ。この神聖さは人類不変のものだからな、我々はそういった荒野のその荒涼さだけでめいってしまう弱い卑怯なそのくせ強がりを言う助平な人間達をもこの世におおいに生かそうと言うのが思想なのだ。そして彼等こそ出世して、おまえ達のような何億に一人というこの世がしむけた悪業を身につけ〈人間その力〉をそのまま人間のまま維持している奇跡的な人間を嫉妬して監禁し、社会的に抹殺し、どんな人間よりも激しく虐げ、搾取し続け、四次元の大気に女性セックスなのように自分等のものとし組み込むだろう。そして悪魔となって権力世界を企業化する。イエスとかシャカとか、天皇とかを、暗黙のうちに宗教として法人化し、企業化さえしてしまっているのは、すばらしい20世紀的発見である」

(もう我々にはすでに単なるなつかしい惑星の名前にぎない。)

「企業は人間をつかまえて一度殺すのだ。というのは名もない〈生物〉〈引き戻し〉て後、その無名な動物は労働によって少しづつ人格なりコンプレックスなりを形成させ、やがては人間らしいものに戻るが、その時は抑圧を受けたがっている柵がなければまっすぐに立つこともできない背の低いそのはじめと全く違う人間に企業内進化してしまっているというわけだよ。そうすることで我々の利潤は増大し集団は強くなる。ふと気づくと全く別の生物がそこで生きていることを彼等は見出し、ひどく感謝するわけだ。最初の惑乱と不安におびえていた弱々しい生物はいまない。我々が不安をとりのぞいてやったのだ。まさに我々はメシアとして弱い生き物を集めてまほろばをその心身に実現させてやっているのだ。全人類に最初に悪魔が発した「世界経済原理」の中に我々を実現しえた。世界権力のすさまじい欲望のその一挙一動はシステム化されすでに我々の意思通りにしか動かないものとなったのだ。
こういうミラクルは国家と企業とが過不足なく一致しつがい合ったときにうまれくるエクスタシィです。まさに〈権力〉のみが実現しうるやさしさなのだ。たとえば村を開発する三菱電気ら、日立という不思議な救済もナショナルも絶えずおそるべき我々の過去を生きかえらせる。そして我等の国家の神秘をほめたたえ、愛撫し、権力をナイーブでしたたかなものにする。我々は人間だけを特別扱いにするわけにはいかない。おおよそいのちあるものにみなその取引価値も使用価値も与えた。天体の規則通り人間や生物を何度も何度もたたきのめし、“まほろば”を学習させ、その価値をもたせてたが、そのたびに彼等は我々を感謝し我々の手をとってその瞳を涙にあふれさせ、赤子のように我々についてくるのだ。そもそも我等は人間のねじまがった殺意や悪霊どもに餌付けを施そうところから始めたのだ。すでに我々は集団自殺した悪霊にとりつかれた何億匹ものブタどもでさえちゃんと社会にくみされ、社会人としてふつうの一生を送ることができるようにまでこの天体を改造しえた。我等は我等をそっくり蘇らせることさえできるのだ。
おまえがおまえの靴で考え発見した一切は、我々はただ伝統的エロスのみで実現しえてしまっている。おまえが再び我々の経営する社会へ出てきてもおまえが実現することはもう何一つ残っていない。人間はもうおまえなど相手にしないのだ。おまえもそのうち現代企業の容赦ない渦にまきこまれ、気が狂いひからびて沈黙するように、ひからびてミイラになるぐらいなのだ。
たとえミイラにされたミミズ達でも、おまえ達には聞こえずともかく歌っているではないかとおまえは言うだろう。

信ぜよ胸のささやきを
いまはなき一円の経済の保証も
信ぜよミミズもその本能を
すめらみことの証文も今はなければ……と、

だがな、我々にはそのミミズの死も本能もあるいはそのすめらみことの証文もみな国家を企業として経営するだろう。十分に活用している」

「右翼団体と名のるのが金をせびりにきても、ちゃんと我々は領収証もとらずに与えてやるの、そして与えた以上の働きをちゃんとそのミミズ達に働かせている。これが企業というものだ。我々はいわば彼等に権利金を払ったのだ。彼等はミミズという生命の権利を決しておまえにではなくな我々に与えささげにきている。それだからこそ、そういったミミズにもすめらみことの証文も経済の保証もちゃんとした人間にしてやるのだ。我々は自ら全能の楽しみを味わっている、おまえの権利をしっかり代行しているのだ。芝居で言えば入場料と同じものだ。要するに権利を預けあとはほんのわずかばかりの義務をのみこむだけで良いのだ。そうすれば彼等の希いはすべてかなえられるのだ。すべては彼等の眼の前で実現されているのだ。我々はおまえが退けた悪徳の一切をすべて自らのものとすることで、おまえの愛とその心の言葉をわづかばかりの弟子とともに実現した以上に我々も大きくこの世のものとして実現したというわけだな。」

「もうおまえは何もしなくてよい、何も語らなくてよい、与えられた地下室でじっとしていれば良い。そうすれば我々はおまえというミミズ一匹ぐらいはそのままそっと生かしておいてやる。観賞用人間として時々は劇場へ出ることぐらいは許してもやる。年賀の挨拶もよろしい。おまえの精液も保存し、ちゃんとおまえの子孫も現社会の中につくってさえやる。それだけで不安なら観賞用人間の万世一系の家系として法的にその子孫を保証し、サンプルとして最上位においてやることもできる。生きているというだけで我々はおまえをそっくりそのまま人間のモデルとして採用してもやれるといっているのだよ。だから我々はおまえに正月年賀の挨拶の時にでもこう言ってもらいたい。自分の理想としてきた人間愛のまほろばも我々の開発した世界経済原理空間へ全人類が参加したことによって、その大半が必ずやそのすべてが世界に先がけ実現可能となるであろうと、たったこれだけのことをその口で国民に向って言ってもらえされすれば良いのだ」

「それになおまえが知っているのはぜいぜいあの世の秘密というものにすぎないのだ。それ故にささいなことで気が狂ったり、死にもしないのに死を恐れたりする多くの弱者は、自分が属している国家企業に偉大すぎる権威を感じ、それにすがって生きてきた。死の自己責任を回避し、おまえひとりにすがって生きてきた。だがな我々はあの世というものはすでに存在しないことをすでに二〇〇〇年の長きに、全天体宇宙の全物質のことごとくを点検し続けてしまったのだ。だから秘密なものは何もないということをつい全世界に証明してしまったのだ。それゆえすべての宗教も文化も感情も死も法人化され、企業化しえることに成功した。もはやおまえは我々を無視することはとうていできない」

「そしてその気になれば我々はどんなちっぽけな石ころからでさえ、おまえなどいくつも造り出せるのだというとを知っておいてもらいたいのだ。
おまえはおまえの仲間を人間の“心”の中につくり生み出そうとしたのだ。だがそれがおまえのいつになく子供っぽい失敗だったのだ。そもそも心とはなんだったのだ。心などなかったのだ。無だったのだ。そしてその無さえもなかったのだ。そして夢から醒めてみれば眼の前はおびただしい化物の棲家!といった程度のものだったのではないか、欲望に汚れ、糞のかたまりのような人間どもしかいなかったのだ。我々にとってはその化物も単に夢を見ていたのだし、単に記号とエネルギィでできているのだった。
我々は自らの仲間をふやすことにこんなにも成功した。ほどなく幾百億の人間がこの荒くれした狭苦しい星の上にしらみのように同じ血を吸い合い、たわわにたかりつくことになっていても我々はそれを記号をいじくるように整理整頓して人工空間に変換しているのだ。それゆえ宇宙の暴変のいちいちは人類の一部始終に関わり始めてくる。それは宗教的企業にまかせている。おまえではまずいのだ。化物は自らで自らをいつも整理整頓できずにいるのだ。だから化物なのだ。我々はその中にある恋愛から夫婦ゲンカまでの犯罪の始末の仕方、隠ペイの仕方をみなパターン学習させてやるのだ。奴等は自分が化物であることを知っている。ということは国家とは何かを十分知っているということだ。国家とはやつらの唯一の自己であり、その中心であり自分を化物でなくす唯一の力なのだ。

「それにひきかえおまえは何ももってきていないではないか、ありもしない幸せをチラチラ見せびらかしたにすぎず、それをつくった時のわずかばかりの生けにえの人類の血液とその量と、わずか二人の男女とその子供のそれが感じるおとぎ話的自殺をこっけいにもしたものにすぎない」

「惑乱と不安と恐怖に満ちたこの荒涼たる世界にいる何百億といういけにえの人類の血液の吸うべきO2の量と、その惑乱と不安と恐怖の量を、重力の違いのいかばかりをその総体とドラマのもつ底なしの恐怖というものを比較してみれば良い。その何万倍かの重力はこの宇宙をひんまげ、たわませ、造った奴の息の根をおさえこんでさえいる。それをはねのけ、我々は24時前全き沈黙のうちにその見えざる十字架をうけ背負い続けねばならないのだ」

「我々はどんな血もその運動も生殖も、企業に化することができるが、そのアミーバ一つさえ我々は我々のものにしたことはない。我々ほどすぐれて謙虚な人間はいないのだ。我々の権力とは我々の謙虚の総体が支えている」

「ではもう一度この重みを私にになわせてみるがよい。おまえはこう言いたいのだろう、言わずともわかっている。まさに雲上人の大群が規則正しくそこを歩いているのだよ、わかるね、これがまほろばでなくて何か」

「たしかにおまえが言ったように、そのためには我々は記号のように軽い人間をたくさん造り出していくことにしたのだ。煙のように水蒸気のように軽い人間をだ。こうして人間の重苦しい苦しみを消し去ろうと」

「ついに地球自身が我々の企業にとっては死やいのちの我々の工場であることさえも終わり、我々の企業の中ですべての記号は消滅し、おまえのいうように一つの愛の奇蹟そのものとなって人間達を包みきる。
ついに地球上のすべての家庭はその国家が認める皇室と名実ともに同じ扱いをうけることになるのだ。これが革命でなくてなんだ」

「そんなことは我々も知っている。人民はS・0・N・Yソニー、この四つの記号のためにさえ自分のいのちをすすんで我々に捧げる。だがそんな御都合主義、予定調和が一体なんなのだ。そんなの気休めになるというのか!我々はおまえの愛を退けた。そして悲しみのあまり死ぬほどの長い長い時間に耐えてきた。我々を救うものもまたこの世にもあの世にもないのだ。我々が実現したものが我々を滅すだけだ」

「そうとも、人間が互いに相手を愛で包み合う、というならおまえのいうとおりだ。すべては神の子であり神の神たる力は企業のものとなり、企業の働きの一切は人間のものとなり、人間の働きの一切が記号化し、その記号は新しい時空を作り、そこに新しい人類をまた作り直すことだろう。そして神の力も終わる。人間の国々などはS・O・N・Y、わずか四つの文字で我々はすでにそれそっくりにつくり出し、事実実現したのだ。我々ぬきに米一粒食べることもできないのだ。我々にとっては幾百億の嘲笑の対象物でしかない人間どもがそれにとってかわったからな、我々はどんな記号をもってしても、おまえの子供っぽい純粋苦悩を救うことも、これは1㎜もしなかったとな!おまえはいなかったのだ。がそれと同時におまえもこの世で革命を実現させた我々の悪魔的な苦悩をおまえは救うこともできず、また現にそしてしなかった。
全天体の神秘はすべて隠しておく必要があったのに、おまえが人民どもに与えてしまったのだ。それゆえ、我々は急いでそれを彼等からとりあげ、記号化し、企業というものにしてから与えた。
おまえの教えを退けたというだけで我々に自らの苦悩の中で滅びようというおまえはほんとうに我々の救い主なのか、とここに正直言って最後の疑問がこれなのだ。そもそものはじめに我々の革命、いや企業の中枢にある針の穴ほどの盲点だ。この権力共同体という空洞を通ってからおまえは我々の前に生まれた、それゆえ我々はおまえを闇から闇へ葬るとともできるし、そうするかも知れぬが、おまえがおまえの純粋抵抗ゆえに我々を許さなくても良い、それが何だと言うのか、ははっ、我々はおまえの美やエロスなど平気で犯罪化もし、記号化し、商品化、物質化し、商売の対象として利潤にもどせるのだよ」

「神とうつろいやすい自然の間に、我々は一つの不変の道徳をつくった。「人間」という道徳だ。が、我らはそれを「国家企業」社会という家の道徳と呼び、実現してきた」

「我等の商品になるということはだな、たとえば空間に巣食っている磁場と重力と電場に生きものは一人で耐えられるようにはつくられていない。そこで我々は生きものにそれに耐える力を与え、全能なる世界をより全能にしてやっている。我々が共同でつくり出したその創造主の全能なる力をいつもその部品として表現し続ける忠実な表現者でいることがそうなることなのだ。完壁におまえを抹殺するというととは、おまえをそういう普通の人間の一人にすることなのだから、我々としても心が痛むが、おまえはその美しい唇を我々にささげねばならない。さあ今この場で接吻をしておくれ、そして今一度、我々の企業世界のシンボルになっておくれ。いやなら別に強制はしまい。すでにおまえのコピーを我々はつくっているしな、そのコピーもAとかBとか呼ばれるだろう。ネコやネズミやダニやトカゲのように青年A、青年Bになるか、ナの花、ちょうちょのようにたえずA'=A、B=B'であり続けるようになっていく。
おそかれはやかれ我々の企業システムはそうすることで自らを完成するであろう。テレヴィはテレヴィとセックスしてテレヴィをつくる。コップはコップとセックスしてコップをつくる。ネジはネジ、あたかもそれはかつて創造主がすみれからすみれをつくるようすみれに命じてあったように、ネジやコップさえ、我等は自らで自らをつくるよう命令を下しえるのだ。おまえもそうでなくてはならない。その時我々のこの苦しい役目も終わるのだ。そののちこの世におまえが再び現われ何をしようとおまえの自由だ。おまえはコップですみれをつくったりするのだ。そう自分で自らをつくれる、ネジやコップやコカコーラ相手に汝一ヶのコップよ、もし死なずばただ一つのコップにてあらん、もし死なばさらに愛のコップを産みもたらさん、とでも演説をしているがいい。
なぜコップやコカコーラと言ったかと言えば我々は喉が渇いたのだ。もうじきすべては終わるのだし、かつておまえという一本の大いなる樹は人類の闇にその根をはりめぐらし、天上にさまざまな花を咲かせ、実を成り繁らせていたように、それと同じことをそれ以上、いま我々は全人類のためにおまえから盗み、企業という聖なる天体にいのちを与えこの地上に樹々を植え、様々に枝をのばし、人間のすべての闘争心をかりたて、全宇宙に根を張り、欲望の花と実を咲かせた、我々はすべてを完成しつつあるのだ。
分っている、かつて我々の創造主とやらがつくり出した一切を創造主から奪いとったのだからな、それゆえ我々は創造の秘密を秘めたその闇の中に未来永劫いるのだ。おまえはそういう我々からこの苦悩をとりのぞくべきだったのにおまえは我々を見捨てたのだ」

「未来永劫、おまえの心とともに我々が生き続けるということを我々は断じて断るものだ。我々はそれを断わる、それゆえにおまえを断罪しえるのだ。これこそ最高裁の最高なるものとして受取れ、そしてよいか聞け!その最後には我々は最高最強の犯罪として人類の前に現われ、人類というこの大いなる腐れはてた恐怖におそれおののく血と糞と精液のかたまりにすぎない化物を犯罪空間に好き勝手に何度も自由に散らばし解放し、好き勝手をやらせ放題にやらせてやるつもりでいる。口先ではそれを恐れているが、おまえの言うようにたたけよさらば開かれん、求めよさらば与えられん、それがやはりやはり奴等人類の望みなのだ。それでももはや我々四人が作り出した企業はビクともしないだろう。というのは彼等が我々にもとどおりにしてくれと涙を流してひれ伏し頼みはじめるようには彼等をつくってある!これが演劇なのだ!」

「分るか、人間は我々を選んで創造主の代わりをしてくれと言い、我々はそうしたのだ。分ったか、人生はな、おまえの短いいのちをかけた口先だけのパラダイスに生きるような美しい生物ではないのだ。それを我々は我々の世界に完壁に証明してしまった。分ったらおまえはその美しい唇で身をかがめ我々のペニスを自らのペニスとに等しくおまえの心ゆくまで接吻するがいい」

「我々の世界企業を認め、万人が定めた聖域におまえ自らが入ってくるがいい。おまえの約束している最後の裁きの日が来るまでは、我々の言ったとおりにおまえもそのすべてをするが良い」

「我々は社会的記号の一つ一つとして、社会的奇跡の一つ一つであり、愛の産物たりえているにすぎない。そしてその記号のすべては我々企業の製品にすぎない。いいかもう一度言う。信ぜよ、我々を、ざすれば与えん汝等に経済とすめらぎの保証を、その生涯にわたって」

「さあ接吻せよ、我々もかつては学生だった、その学生時代に精神をもった様々な男の口にするのもおそろしい、いくつもの地獄を見てきはした。その度に食うや食わずで自腹を切った芝居をいくつも上演してきたのだ。いまおまえにこうしてわざわざ語ったのも、かつては我々でさえおまえと全く同じ自らの愛とその恩寵を生きてきたのだった。
おまえの考えるような天皇はいないのかも知れぬ。それは人類がつくり考え達したキリストがやはり存在していなかったことでも分る。なにしろそれは求めうるかぎりの最高の道徳でなければならないからだ」

「再びおまえ達に言っておく!」


「おお惑星」の歌再び入る。


「私を裁くな、すでに私はおまえ達とともに私の父の家にこうしているではないか、さらに

『人は己が愛するところを愛するところに試みてはならぬ』
女を愛する者は女を!
子を愛する者は子を!
民族を愛する者は、民族を!
国体を愛する者は国体を試みてはならぬ!
私を愛する者は私を!
それを二度と失わないためである。
人は裁かれ罰せられるために生きるのではない。
それゆえ『人は国家企業のみに生きてはならぬ』
ひたすら己が心のうちなる罪なき光によってのみ生きねばならぬ。」


X1ー4
すでにいもしないAを中央にして四人の老人は互いに接吻しながらカゴメカゴメのようにダンスをし続けている。


服の裂けた血だらけの娘があらわれ、その中央にいる。


ふと見るとAは十字架につけられた小児マヒの幼児に戻っている。

X1ー4

老人達の深いためいき。


AOI
「なにかいい気分だ。不思議な夢を見ていた風だ。なつかしいひとときだった。せつない片想いを告白していた風が何ひとつ思い出せない。それにしても我々は何か我等の秘密をしゃべったのではないか」

「もしおまえ達が正しければ、ソヴィエットでさえすべての近親相姦は国家がそれを認め奨励するであろう。シベリアにむっちりとした愛の花が咲き乱れ一斉に人民のかなしみや涙の信仰が蘇るであろう。人類の頭上の核兵器も彼等を生みし母の胎内にのみこまれ、しっとりと腐れていく。ついにソビエトで万世一系の美しい一本の樹となっていく。
X1ー4
めでたいめでたい、みんなどれもいい、レズビアン、ホモセクシャル、フェティシズム、死もいのちもお互いにいまはつがい合っている」

老人達は舞踏病にかかってしまったふう。


再び母と娘達の『まぼろば』庭


(すでにひとりの女はおなか大きい)
(母は幼児になったAを愛撫し、しっかりと抱くようす)


「まあなんてあかるくまぶしく記憶喪失になりそうにきれい、これがお庭でしょう!それぞれはみないい時間なんだわ。
広島の空にふっくらと開いたあたしのシュミーズが庭中をおおっている。
U・S・A のマリファナ水爆も、迎賓館でのU・S・S・R・風の食事もみんなわたしの体にすっかりなじんできている。
戦死者は赤道でセックスにいそしみ、南太平洋一帯では亡霊者達が私らの未来をたがやしているのが見える。
ナガサキの黄色いバナナもおいしい、まれなカボチャだっておいしい、あたしを見て!
私は日本のすみれだ、日本を超えないが、日本を生んでいる。日本は日本を身ごもった。あたし、あたしを身ごもったの、でもあたしの赤ちゃんだれ!
“日立は日立をうんでいる”
“トヨタはトヨタをうんでいる”
それはナショナルなありとある過去を蘇らせるだろう。それはソニーな天然の美のポルノは人工の美のポルノとつがっている。私ははだかのすみれだ。ああ私の発情!に幸いあれ、ヤンマーやクボタの発情器にのって絶えず自らをこえていく!私の空に祝福あれ!」

「めでたい」

「ああ、でもあたしの赤ちゃんだれ?」

「めでたい」

「あたしの赤ちゃんだあれ?」

(もう一人の血だらけのシュミーズをはいている娘)

「今日、いばらがたましいの根っ子をあれのお胎にもぐり込ませた。皮膚が破れて血を噴いたのはあたし身ごもったのあの娘、あたしの体に咲いたのは葉鶏頭。
なんてすてきな朝の庭、宿るべき子宮を失って空に浮んだホモとレズ、あの娘は花のない白い花粉をとばしてる、地球が夜空にあたし達の人類の血しぶきあげてくるくると回っている。
その水車のうしろにいるのは誰!返事をして!」


(四人の老人、すごいスピードでくるくる回っている。時々つぶやく。)


「またよみがえりがみえてきた。めでたいめでたい。
空に消えてく私達の核兵器も、今は恍惚の水に溶けてく魚たちまでめでたいめでたい」


「いまは、カーテンをあけてはいけません。無数の患者が一つ夢を見ながらおまえの父の死体につがっているから」

ビデオ
「やつらは世界経済原理の劇場を放棄してユダヤ人にそ血を吸いとられ、私達の父のたましいの休み場までをGNPの妖怪どもの卑わいなる自己コピーの棲家に変えてくれたのだ!ああすべてうつろいやすく、涙いっぱいをたたえている一億一千万人の劇場!それまでをやつらは再びアンゴルモア大王の墓場の中に入れようというのだ!
U・S・Aの悪霊どもはメスブタどものおしりから地球に入れもどるのだ。
U・S・S・R・の悪霊どもは近親相姦!にふけりながら地球に入れ、おまえ達ももどるのだ」


回るのを止めてX1ー4は悪霊にとりつかれ赤ン坊のようにAOIの胸に抱かれ、かわるがわる授乳やピエタのようにしている。
AOIの両側にはかり(傍点:はかり)と剣を持った娘達。

──暗転──


《報告》 一人の赤ン坊を囲んで


Y3〜4

「四肢、泣き声ともによし、視力、心音、異常なし、食欲旺盛、身長、体重ともに申し分ありません。ただし脳波に関しては測定結果の分析中」


(被告席にX1ー4、裁判長の席に母)


「あれは何と言っていた」

「自己の重力中心にすべての人類のたましいと感情を今一度吸い込み自分自身の外に新しい人間の銀河系をつくるべく吐きなおすというのです。そしてそれはすでにできており、“そこではすべての家々はすでに天皇家に等しく、神聖で絶対であり、何人も働かなくとも良い”と言うのです」


「TVCFのようにむかしの夢を未来に向って見ているのだ。それだけなら宗教のようなもの、害はない。子供だましのおとぎばなしにすぎないではないか。おおげさにおまえ達が騒ぐことはない」

「騒いでいるのではなく、言い聞かせておるのです」

「生まれてきて、血と汗と涙を流し、今日の生物支配体系を仕上げ、その企業管理システムを我々はあなたの名のもとに絶対不可侵な不動のものにしているのですし、それらすべてに「働く」ということを土台にしております」


「では尋ねるが、働くもの達の血と汗と涙をどこへおまえ達は流しているのだ。そんなものを国家や企業、親兄弟の歴史のために勝手に流してはいかんでしょう。それも私の名を使って」

「天皇制企業社会主義国家という宇宙の未来を開く、くらい一つのいのちの入るべく穴の中にすべては流れているのです。止めてはなりません」


「何故ですの、それがニホンという名だからですか」

「いのちの秘密をもった企業という四角い穴の中へ血と汗と涙の三角形が運動していき、また新しい使用価値をもったいのちになるのですから、誰れひとり死ぬことはなく生まれくるのです」


「そうですか」

「はい我々はすでにキリストにも勝っているのです陛下」


「しかし、人類がいかに働き続けても、働いたその揚句に頭の上から原水爆が降り注いでくるだけにすぎぬというこの世界の体系はどこかまちがっているように思える!」


「そして実際、すべてはそうなるのかも知れない。そしてその青年はほんとうに新しい四辺形をつくったのか、それを支える心を、その銀河系の新しい中に全く新しい衣食住セックスを人類にもたらしたのか、全く新しい世界に、新しい人間達を産みもたらしたのか」

X1ー4
「いいえ」


「言い方に自信がないのはどういうわけだ?」


「あれの分身どもによってつくり出される世界をおそれるんだわ、あの人を」


「おだまり、ウラニウム!」


「あたし黙んない!世界のつくり出し方がすばらしいからだわ」


「子供はいつも笑っています。かつてこの世に人間として生を受けたことのあるすべての死者が相似しているように」

X1ー4
「ははっ言葉ですな、この星では未だに多勢の子供等は腹をすかして泣いている」


「心配はない、惑星が悪い方にゆれているだけだ」


「子供はたとえいつ殺されても少しもくやしがったり泣たりなんかしないわ、それどころか、その殺人者に向っておおあなたは正しい!いまあなたは私自体になったと言って殺人者にキスしながら、なんとも言えぬ幸せそうに死んでいくわ、きっとそうよ!スイカやコーラの空ビンのように!音もなくこの天体が割れてゆく、すなわち私のお胎にもどってくるの。貴方はその胎をして神話に精液を与えて「血の国体」のなすべくをなしてる。相互エクスタシィを相互支配し合いながら相互オルガスムに達する。
「天皇」という「はりつけの位置」もしくは「絶対監禁」にあなたさまをお入れ続けることがとりもなおさず世界、心と心のコミュニケーションをひろめることでしょう」

「大丈夫だ。私ははりつけや監禁が少しも苦痛ではない。というのもこの世で生を受けたものはみな私にはじまり私に戻るからだ。私がいなくなればこの娘達がそれを続ける。この娘達がいなくなればこの娘の娘達がそれを続けていく。
信ぜよこの胸のささやきを、たとえ一円の経済の保証もなけれど、みめしみことの証文もいまはなけれど」

X1ー4
「いいかえれば我等の愛す、産みかつ奪い合い、葬うことしかできない、そのくせ怠惰で嫉妬深く獰猛な民族権力の三角形にあの青年は宇宙の光の構造をさし込ませ、我等の体制と、自らの宇宙の構造とを一緒にしようとした、あの気まぐれな、今では生きがいと赤子と老人専用の監獄とも言うべき“絶対平和制”などというわいせつなる才能と、その“自然”の渦巻がつくり出したものを人間そのものの世界にしようとしたので告訴したのです」

「その複雑怪奇な殺人正当用の宗教としておもちゃだった権力の“四辺形”が人間的になり、ますます獰猛になり、人間そっくりにできた天皇制の神秘を今ここにつくり出しました。
その神秘を守るべく我々全人民は24時間心霊修業に励んでいればこそ国家が成り立つのは言わずもがな」

「殺人業にせい出す軍人のみならず、田や畑にいるものも、刑務所にいるものも、およそ職業、学業、業と名のつくものはすべてまほろばをつくり、それに入るための修行すべくの業であり、ただひとつなる生きる精霊に同化すべく、一億は火の玉となって“心霊修行”にいそしみ続けるものであるを今一度宣言します」


「それだけでは十分でない、おろかものめが!」

「もちろん我々の心霊修業のプログラムとは一言、内においては他を支配するな!それより一歩先にすすんでエクスタシィに満ちて支配されよ!であり、外において、清らかなれば内にあって狂暴なるすべての悪霊を決して退けるな、それを霊の霊まで秘かにむさぼり食い、そのもてる力の一切を我がものとせよ!それでこそ我々の存在は心そのもの、凡人には見えない、聞こえない、触れられない、絶対相対を問わぬ、権力が静かに完成するのです。完成しなければならぬ」

「静かに!」

「権力とはいつもすぐれた被支配者の密教をそのうちに治めこむことです。たとえば我々一人一人は決して何人にも嘘をつきませんが四人一緒になると、それまでのことはみんな嘘にしえるのです。いいえどんな嘘をつくり出すことも可能なのです」

「世界を装い続ける一つの仮面を生きる嘘のやさしさです。それはあなたさまのお庭の中で養い育ててきた無類の霊の数々でなくてなんでしょう」

「なにしろその昔、あなた方の庭で発見された共同の暗号で自らを考え、他人を考え、世界を寄せつけず子孫を守り、その衣食住セックスを一億は共同で生きぬいてまいったのです」

「こうした共同嘘付きグループこそ現実をなし、自由をつくり、与え、またとり上げえるのです」

「我々のつくり出した心霊修業に一憶一千万の人間はすでにすっかりなじみ、もはや自分が美しい生物であることを知り、その国家そのものがすでに心霊とその修業そのものになっているのを知ってます」

「我々の修身共同企業がいつも恒久的な夢を見せるのはいつもあなたの庭のすばらしいながめに他ならぬのです」

「いやあたりまえのことです。シンボルが生き残ったそれゆえに歴史はそのすべてが霊とその暗号ででき上る、その運動をみな我々の永久反復四辺形の中で生の苦悩もみな記号化し、我々が暗号のもたらす“意味”を治めてやっているのですから、もちろん親以上に慕われ、感謝されいのちをかけて人民からそのパターンを愛されているのです」


「じゃなぜおまえ達、一億──は、私の庭をかきまわし、太平洋戦争であんなに恥かしい涙まで出したの、おまけにヒロシマ、ナガサキに原爆までおとされ、わたしはあの絶対三角形トリニティサイトをいいようにねじこまたのよ、あれは熱くて、きつくて、いたくて、気の狂いそうな二発だったわ、私はだからまっぱだかで露したたらす野原のメロンのように泣きながら自ら進んでUSベースからUSSRべースヘあやまりに行き、くそだらけのウジ虫のようなペキンにすらおまえら四人の命乞いを何百時間もし続けた。くらい地下室まで通れ込まれ、いつもいつも犯されたじゃないの」

養女
「ひばりのようにさえずつってもう一発こっぴどいのをちょうだい!私死にたいの!」

「そしてこの古くさいわたしの衣食住セックスをあたらしくましょうと言いつつ、あなた達は私の手足を縛りあげ、口をおさえてさるぐつわをかました。さあ富士山のてっぺんにこのあたしを縛りつけてあたしを消滅させるがいい!
おまえ達がつくる終身雇用制国家共同企業の□とすべての△をエロチックに組み合わせたつもりの四辺形は老人用のおもちゃだ。もう若く美しく蘇った私を興奮させはしない、何があたしのための原子力発電所か、何が本能をかき立てる覚醒剤か!あたしのこの乳房にできたケロイドの皮膚をあたしが集める税金で老人用に培養してるだけじゃないの!だから私がしたたらす、ミルクには危い放射能がいっぱい吹き出ているんだ。いつかおまえ達にもこっぴどい仕返しをしてやらずにおくものか!お聞き!おまえ達にはわたしがこのお胎でおさえこんでいる第三次大戦をくれてやろう。
おまえ達に私の鏡とはかりとがしまっている」

「ああ、私は自分の息子ひとりにさえ、自分を母だと言わずにいる。はっきり言って、おまえ達が維持してきた国家資本主義の四辺形には真に私達の利潤がないではないか」

「いいですか、私達のこの狂いわななく古い秘密の息の根がどこにゆれているか、我々の息とは何か、今一度考えていただきたいんです」

「あなたは2000年前聖水に包まれて青々とカビのように産まれた。浮脂のような無意識に眠っていたあなたの息の根の秘密にも我々の企業はそのネットワークをはりめぐらしたのです」

「すでに我々のサインの出しようでは緊急処理班があなたがた自体に動くようにも決定されているのでございます」

「あれの処刑はいつなされますか?」

「放火犯Aがあの「靴」をはき「あれ」が我々の四辺形の秘密を新しい理性的に人類に与え、世界歴史の上を貴女を歩かそうとした時にすべては処刑の名のもとでなされるでしょう」

「そうか
とても不思議な空と一本の樹が私に言う。
私のいのちの花咲き、実がなるとひとは言っている
その不思議な空でその樹になっているのは私と私の子孫等の死体だ。その樹の下では父、 母、等の死体が一つかがやきになって
いつも水爆のようにそこに輝いているのが見える。
とても不思議、空と一本の樹が言う。
アンドロメダ
白鳥座、みなその樹々と枝々、
いのちのすべてを吸いこむいくつもの夜と
いのちのすべてを吐き出すいくつもの昼が
あたしをなでながら過ぎてゆく
息子よそこへ歩いて行こうとしないで
その不思議な空達に殺されるから
あの不思議な劇場をもう一度おまえにあげるから
そこで待っていて
私達の集い合い鳴りひびく声達のうまれた
その永遠たちの棲家をおまえにあげよう

「お眠り良い子、眠りからさめる頃に、お前達の待ちに待った第三次世界大戦の出場資格が手に入っているだろう。そのとき私がその不思議な劇場になっているから、そのときおまえ達はみなその劇場に入るのだ」


「おまえの履く新しいく靴を一つ私は編んでおいてあげようね」

X1
「みよ、御本尊の国はそこにこそ来たれりだ」

X2
「これこそ世界は一つのまほろば、われらが八紘一宇の完成」

X3
「おお我らの企業こそ世界をその十字架に縛りつけ、成長する人類のいのちを完成するだろう」

X4
「この世にあなたの御国はなされり」


「おまえ達口々に違ったことを言うが、だれが私の子孫をあずかるのだ」

X1ー4
「ふふふっ、もちろん我々です!」


「私の子孫を四つに引き裂いてか、それだけの裁きの庭がこの家にあるとでも言うのか」

(カーテン急速反転)


《ENDING》


「兄さんは知らないのよ、130間年どころかあの黄色い顔して何億年も生きている老いたる海原、老人達がもう一度蘇えろうとして母さんを抱き、あたしを一人づつかわるがわる抱きにくる。それよりも彼等は死んだと思っても、いつも笑いながら眼の前で生きかえってくるの、あの人達は生死の間に何か秘密のルートをもっている風みたい。日本歴史がそうなっているように少しもこの庭の外を歩とうとはしない。だから彼等は「靴」をはかない、世界歴史を歩くためのあの『靴』をね」

「しっ静かに、やがてその生死にふさわしい排泄ある。見よ、すでに二つのゆっくりした渦の間を食べられしもの達の葬列が、銀河系にその死臭を放ちながら、消滅の入口に吸いこまれていく」

「すでに彼等が二度と蘇ることなく永眠する場が用意されているのだ。見るがいい、その場所とは私のことである。私の死が彼等の最初で最期の墓となる。決しておまえ達の肉体となることなく、おまえとおまえの同胞達はこの星で飢えることがないのは幸いである。その墓の草をたとえこの芝居が終わり、この天体が滅んでもなお枯れることなく与えられ、それを食べ続けられるであろう。その血の墓にいま、新しく生まれかわる約束がなされる。おまえの地球がはらまれ、その新しい母となるからだ。いよいよ甘い美しい終わりをもってこよう。準備よいそげ!」


妹に変装して、やってきた老人を一人づつ殺し、最後に自分も死る。〈血の噴水、血の湖〉
湖面をさながら日本列島のように五つの死体が浮いて次第にやがてひとかたまりに、そして沈む。
陽が差し、血は羊水にかわる。AOIは石像のようにたたずんでいる。上空から血の色をした新しい地球が昇る、次第に太陽が上にまぶしくなる。


「おじいちゃん何があったの?」

「夜中に太陽が降りて来たと、そして歌を歌った、地面はそれに合わせて踊った、海は海いっぱいに血を吐いた」


四人の老人はげらげら笑いながら生きかえる。死んだのはAのみか?


X1ー4
「我らは物質の時間を生きている。それゆえ我々の年令はおまえらの人の世のそれとは違う。肉体など失ってどれほど経ったかも忘れてしまった。おまえ達とは今歴史という壁をはさんでこうして向かいあっている」


「(赤ちゃんを抱いている)とてもナショナルなあたし達ソニーはソニーを生んでいる、
ヒタチはヒタチを生んでいる
みんな私らの空が生んだ不思議な子供達とその名前だ」

「でもあたしの生んだ赤ちゃんはだあれ!」

「女よそれは私の息子、蘇るべき人類のはじめ、人を裁くものはみなその子によって裁かれなおすであろう」

〈四台のTV〉

草苅りの農夫
「この頃は変なことが多い、国立劇場が燃えたりするのはかまわねえが、ありもしねえ最高裁の中で子供が生まれたってよ。
門をしめ忘れたんじゃねえのか、
おれ達がか?
いや女がだよ!
ふん
ふん
閉じれば開く開けば閉じる
空だ
空だな」


〈カーテン反転〉


ビデオTV
「光を裁くには光をもってせよ。新しい地球に、いわば新しい血液を注げよ、その光もてこの子達は遊ぶ」

「奥さんちょっとお伺いしますが、 最高裁はどこかね、まっすぐかね」

「いいえ」

「もどるのかね」

「いいえ」

「じゃあ右だ」

「いいえ」

「左?」

「えっ」

「ここよ」

「えっ」

「ほらそれは私が抱いている」

「ああ分った、どうもありがとう。あれだほらあそこに立っているコンクリートの建物だよ。あれはね、たしか竹中工務店が造った。あれは核ミサイルをくらっても壊れないそういう構造計算になって、いる、といいんだが」

みどり
「こうしてすべては終わる。
でも何ひとつ──終わらない。
すべてはなされてた。そしてなにひとつなされない。
ひとつだけたしかなのはあのひとは帰ってこないってこと」

「おまえのいのちほどがんじようなものがない」

(音楽、たとえばJパッションのキリエ)


(ステージに二つのガイコツと一足の古びたブーツ)


AOI、剣とはかりをもって裁きの女神として現われる。
四人の老人が現われ、静かにその後を従う。


エピローグ


テーブルを囲んでいるA、及びその家族。
(やはりAも死ななかったのか、この不思議な空)
家族の数が次第にふえはじめる。
TVから歌、「秘密は空に舞い上る」が入る。
ふと見ると、一つの芝居の上演者全員がそこにいる。
友人等も入ってささやかパーティに劇場はなる。


END

〔Ⅰ〕 研究テーマ

☆「母源病の浄化」としての「まほろば」
☆「嫉妬にくるまれた空虚なる惑星」
☆母胎から継承される諸々の「悪性感情」

(環境)
悪の宇宙学
悪の生殖学
悪の自然学
悪の地勢学
悪の経済学

など

◎ペルソナの劇的ゲームとしてのステージ化なり劇画化する。
「時間と策謀とリプリット」

「光の同時刻圏」

☆すめらぎ
シャカ
イエス
の見たビジョンと

すめらぎ
シャカ
イエス
にみる、あるいは見てしまうビジョンの大いなる落差に注意。


(母源病)
悪性感情(オカルティシズム)の言語化に成功した古典文学の例

ドストの「大審問官」など2000年の教会権力の戯画化、世界経済学。
シェイクスピアの「リチャード3世」など今なお続く権力ゲームの“ペルソナゲーム”化。
ホメロスの「オデッセイ」
ダンテの「地獄めぐり」
ミルトンの「失楽園」
ボードレールの「マルドロールの歌」など

日本霊界記
源氏物語
日本書紀
など


〔Ⅱ〕 超現実空間の“絶えず遠きいつも眼の前にある深淵なるもの”聖性の連続性とその正統性(普遍性)無意識のアニミズム世界、そこにゆらめく美の諸系譜。

◎肉体に秘む「根源的『記憶』とその浄化」、と「根源的な記憶」そのものがつくり出す、「悪徳」の様式化→国体エロス。様式化=権力

(肉の母)

古代の清められた母権勢の「記憶」とそれを犯し続けるものの実相、
マザーシップと権力のメタモルフォゼについて

◎“見えざる親方ペニス入れ”

共同幻想体(ユング)ゲマインシャフト
秘密結社
国家主義

〈神話空間の体系〉と結びついた大東亜共栄圏、
(魔窟=空気中の知性(昼)と嫉妬(夜)のペルソナ)

☆近親相姦図の暗示、四人の同い年の妹の出生をわかりやすく。

古事記とE=MC2
☆父不在とそれをうめ合わせる代償権力+「自然」の科学的代行権力。

☆いつも国の法体系がその頂点と最下層でなしくずしになってることの謎、その因果性。


〔Ⅲ〕 以上の〔Ⅰ〕〔Ⅱ〕二つの触れ合う地点に息子(蕩児の帰還)として犯罪(プロメテウス的)として二つの実相をもって侵入し、弁証法的にステージを触媒化する《青年》

青年の消滅と同時に、古びた世界は自らの情念を浄める新しい法体系と、あたらしい母、そこから生まれ落ちたばかりの息子、生まれかわる「まほろば」の世界的予徴。
『権力とは「嫉妬」のモラルである』その歴史の頭をチョン切る〈非論理、非スペクトル〉な「歴史」

〈日本人〉のプリミティブな心的コンプレックス

生物学的には辺縁系の脳と新皮質の右側偏重
言語的に母音主義
大家族性文化として国家主義


星からの悪い知らせ(『夜の儀式』より)

〈権力〉のエロスと性器崇拝=神道メタモルフォーゼとその企業崇拝、利潤のための利潤追求主義
儒学の壮子的国粋主義変化、集団としての攻撃性、非人称的テロリズム、神道の偏愛的復権、軍備崇拝


☆“ナルシズム”と呼ばれるあの「自己への過剰なリビドー的愛着」
→一方では絶えず自己破滅の危機に悩まされる。

幼児の口唇的感覚的欲求に加え、聖なる者からの、たとえば親から(甘えの充足として)の凝視の期待と、それに応答することを欲し(自己愛の反映を欲求している)絶えず自分を見つめる者と自分が見上げるべき誰かを探し続ける、その均衡がこわれた時は分裂症状を呈する。


その誰かとは自分の眼差しを返し、自分を抱き続ける状態にしてくれる者(マリア崇拝など)→すなわち、たとえ一時でも自分の不滅性を保証してくれるものである。
愛とまなざしとしての「すめらぎ」=まほろば


☆注意→〈主権在民〉のもつ普遍的聖性をせばめてついにその性器的聖性としての天皇制、象徴としての主権在民天皇の神性の宗教的ビジョン化、ネオファシズムの策動、軍事学とはいつも権力的な地位にいる老いたる者達が死の恐怖を前にして幼児期の聖性へ回帰願望によって悪徳化する、ついにタナトスへの過剰な反応とその殺人力、と死のモラルをもって民衆の上に居すわりつづけられてしまうのだ。


○ビデオを舞台装置にすることの一つのメモ


自己自身との(あるいはその無意識のうちにひそむ性的投影との)出会い=「未知との遭遇」→大脳をもった宇宙
あるビジョンの(潜在的な無意識トリックとしての共同幻想の)いわゆる不可知なものへの誘いとあらわれ。
日常の「おもちゃ」の非日常自律回転、などの前ぶれ。


いくつかの現実企業名の(権力である)ネオンサイン的な明滅。


〈子供と玩具〉

自己の(世界の)解体修理の港(病院)としての宇宙=「とても信じられない!」既知高等生物の宇宙船のビジョン「人間性の浄化」の共同幻想化=政治的──現実軍隊の兵器のおもちゃ化──未知なるものの追いかけすぎによる物理的自己破滅のいくつか。
その習慣からくる混乱をたのしむことのカタルシス
人間の闘争形式の幼児期的理性への還元。


幼児期の理性──現実的習慣の不可知


○いつどこでも応答しあえる、みつめみつめかえされ、即ちすべてが中心で周辺がない「まなざし」の全体性をおびた空間、とじこめのエントロピーとそのヴィジョン。


○「スピルバーグ」と──「エリクソン」を結ぶもの。

《おもちゃ》(が介在する)幼児=追求のビジョン=共同幻想=政治

慣習側の(国家権力)すでにできたものの共同偶像
崇拝を守ろうとする策動

(麻酔ガス)
新しいビジョンへの危険物扱い、人間の夢を監視検閲する自己投影の監視


無意識のトリックとデザイン(策謀)
筋と装置の関係としてのビデオ。


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