(1989)
プログラム
6:15より《入場のパフォーマンス》
7:00〔A〕───《劇場にて》
シーン1 楽屋、インタビュー、息子の予感
シーン2 舞台、失語症の発作、葬列
シーン3 父、四っつの大いなる病、マザー
7:20〔B〕───《世界病院》
シーン4 新しいタイプの患者だ、MILK、Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳ
シーン5 花ムコ『リボン──私は婚礼に回帰する』
シーン6 エレファントマン『結ばれ──狂った惑星』
シーン7 「絵画治療室」第一のゴッホ、第二のゴッホ縛られるアニマ・アニムス
8:30〔C〕───《アルトーの廃園》
シーン8 エレファントマン『椅子とろうそく』──“我が一門は告げよ”
シーン9 『和歌心中』バリエーション──“ダキニ神の渦で”
シーン10 神学論争──『僧侶とペニス』
9:00〔D〕───《涙の木》──栄えの第一玄儀
シーン11 出産、さけびとささやき
シーン12 祝福の長い列──花ムコ第二のおどり
シーン13 “私は幸せだ”昇天
9:20 END
作品登場人物
- 女優、失語症患者、花ヨメ
- 看護婦一、二、三、 白猿一、二、三、まほろばの植物群
- 息子、医学生、世継の皇子
- 付人
- 演出家
- 医者
- ソフト帽の四人の男、僧侶一、二、三、四、患者一、二、三、四
- 公安の刑事
- マスコミ記者達
- ビッグマザー、皇太后、大地母神
- Hell Ghost of Father(声とオブジェ)老いたるわだつみ
- 蒸発した夫達一、二、三、四
- エレファントマン一、二
- 花ムコ(わだつみ)一、二
- ゴッホ一、二
《ロビーパフォーマンス》
6:00 ロビー客入れ
- モニター二台にそれぞれ草と月が映っている。他にいくつかのスタビィル
- 縛られた女性がオブジェとなっている。それを写生している画学生。
6:50 ──演出家、マスコミにつかまってインタビューを受けている。(アルトー問答のような)
〔J ・モリソンのThe ENDが鳴りはじめる。(12分)〕
ヘリコプターの音が入る。
7:00 劇場内客入れ
(音) ニコのジ・エンド
〔A〕 《劇場にて》
シーン1
客席の一角が楽屋らしきものになっていて、女優、その息子、付人がいる。舞台上には、ある公演のセット裏といった趣き。
女優は顔をパックしたまま不安に悩まされている。ときおり自ら鎮めようとして「オフェリア」かなにかを言っている。と、
息子
母さんちょっと日本史の宿題教えてよ。日本に鉄の文明が入ってきたのはいつごろかな?
女優
今から百数十年前、黒船にのったペリー提督がUSAより来航し、大砲をぶっぱなしたときからだわね。
息子
それで?
女優
それで? 熱く燃えた鉄の玉が、私達をつらぬいて、処女でなくしたわ。
息子
なんだって?
女優
夢遊病のように春の眠りにふけっていた処女達の陰裂をこじあけ、高い高い血しぶきが太平洋に上がった。それは太陽を隠し月を赤く染めたの。
息子
そして?
女優
エロスとタナトゥスの渦まく長い長い夜がきた。新しい種をめざし、嫉妬と不安と殺意がニホン国中を襲った。天皇という性の病が体中に燃え上がった。
息子
女の子達は痛くなかったの?
女優
痛かったけれど、はじめてのセックスだから、うれしくもあったのね、ともかく、ペリー提督のぶっぱなした鉄の文化を胎の奥深く身ごもった。(ヒステリックに)鉄は増殖され、きたえられ、そして私等はうみおとした。……いくつもの、戦車、大砲、軍艦、製鉄所を……新しい男達のために!
息子
「鉄は国家なり……」だね。
女優
ところがその鉄の玉は燃えつづけた。ぐるぐると母の胎をめぐりつづけ、燃えつづけ、止まろうとしない!
息子
太陽と鉄だ! 三島由紀夫だ。
女優
この偉大な母なる天体、八紘一宇の天体を! ヘめぐりへめぐり増殖し、ああっ全アジアを殺りくで支配したのだ。鉄は権力となり権力は神聖にして犯すべからずの天皇となり、天皇は神風となって吹きあれ、万物はこの神の風とともに生まれ消える神の国ニッポンが誕生したの……もとはといえばあの小さな燃える鉄の玉! それが私たちの処女の陰部でかくまで増殖した。そしてみよ、ついに、その鉄の玉は原爆となってヒロシマナガサキに落下し、爆風は放射能の神風となって吹きあれ恐れおののく殺人者を皆殺しし、ついに女の胎内を破り出た。みよ、原子炉となったその鉄玉はいまなおいくつもの核ミサイルとなり殺人用の原子炉衛星となり、この天体を飛び回っている。
息子
鉄の進化論だね。母さんの。
ああ、ぼくなんだか胸がくるしい。それにやけに体が重たいな。
付人
奥さん! 子供にそんな歴史を教えちゃいけないよ! 奥さん、そろそろ時間よ。早く衣装にきがえなくっちゃ。ぼうやはもうお家に帰りなさい。今日はお母さんの大事な舞台ですからね。10年振りのカムバックをかけた大事な舞台なんですよ。
母
ひとりで帰れるわね。
息子
うん、今夜はぼく皇居の方には行かないよ、千鳥ヶ淵のおばあちゃんなんだかへんなんだもの。ぼく今日は元赤坂の方に行く、父さんが帰ってきそうな気がするから。
母
分ったわ。道の車や草ムラの殺人者に十分気をつけてね。
付人
(息子を送りながら)ぼうや、お母さんに歴史を教わっちゃいけないのよ! お母さんには短歌のつくり方とか、植物の名前とかだけ教わるのよ……いいわね。
母(独白)
襟正し 首しめてみる渦潮の これより上にのぼるべからず おねがい貴方! どこにいるの? 助けて! 帰ってきてちょうだい!
あたしのところに……
(一ベル鳴りひびく)
息子
(ドアのところで)母さん、成功することをいのってるよ……さようなら、父さんがいなくっても、ぼくへっちゃらだよ。
監督
一ベル行きましたっ!
演出家が楽屋に入ってきてスタンバイするように合図。女優、しずかに高なる胸をおさえつつ、舞台下手のセット裏に入っていく。
女優、突然立ちくらんでゆれて、演出家の方に倒れる、必死で介抱して何とかスタンバイさせる。
女優
おねがい、……抱いて、
(とんでもないスピードでパンティを脱ぎすてる)
演出家
又おまえの病気が出たな!
(音)ヘリコプターの爆音
そして無情にも二ベルがひびく、あわてて化粧と衣装をなおして女優を舞台へと送り出す演出家。
(音)遠くのヘリコプター、かすかにひびく中で
付人
たしかにその通りよ、もう苦悩はない。劇場のそで幕のうしろで夢の毒草をかみくだく歯だけがあるのだ。
ファンファーレが鳴りひびく。幕のむこうで白猿がモニターTVと遊んでいるのがみえてくる。
A2《舞台にAステージが開く》
(音)拍手!
『浄められた夜』が実際に始まる。(あるいはカサンドラ)
4〜5分後──悲鳴
(音) ピアノソロしずかに入ってくる(高橋文子女史)エロイカバリエーション
しだいに音楽、つよくひびきはじめ舞台奥から強い光が侵入してくる。女優、プシコイドに陥っており周りに白猿が嬉しそうに寄ってくる。
付人、プロンプターとして必死にセリフをささやくがだめ。
子供の声──世界史年表を暗記している声がとぎれとぎれに入ってくる。
白猿達、花ヨメをムシャムシャ食べる。客電がつく。演出家と看護婦が押入ってきて白猿達を追い払い、客席にある楽屋まで女優を運ぶ。救急車の音。客席から楽屋へ子供が走ってくる。
息子
母さん大変だよ、昭和が、昭和が終った! 終っちゃったよ! 母さん大丈夫!
女優
そう、すべてが水の泡だったわ──貴方、でも私は大成功だった、成功よ貴方、そしていま私も終るわ。(気がふれる。息子と夫をまちがえる)
医者
応急処置して、救急車へ!
この間、白猿が舞台奥の強い光をきもちよく浴びている。そして舞台上は正式な形にきわめてすみやかにととのえられていく。
A3 《昭和の葬送》
(音) エロイカつづいている。ピアノソロが多声化してしだいにオーケストラ演奏に変わる。舞台中央奥舞台中央奥ドア。光の中から白布に包まれた遺体らしきものが入ってき、ゆっくりと直進し、客席中央から三階ヘロープで上ってゆく。ピエタである。
(声、入る)
つづいて皇太后らしきものと遺体と入れかわるが如くに劇場のくらがりの隅から四人の「父」が出現、舞いながら舞台上に合流、浄め祓いの儀式がとり行われる。又この四人は次なる「世界病院」の四つの土台の石でもあり(ゴッホ、ネルヴァル、アルトー、ニジンスキー、ニーチェ、ドストエフスキー、大正天皇等の) の亡霊的な色彩を帯びている。
声
余は幾夜も幾夜も苦しみ抜いた。ありとあらゆる天体をヘめぐった、余の額は天蓄(ルビ:てんがい)にぶち当った。金と銀の砂が余の血管をめぐっている。もう無いっもう無い!神の祭壇に神はもう無い。お前達のヒロヒトはもう無いっ!おまえ達一億の神国ニッポンの神の祭壇に天皇はもう無いっ!泣け!一億の赤子等よ!父は無し!おまえ達は余をあざむきつづけたのだ。おまえ達はアジアを喰いものにした。おまえ達は泣き虫で嫉妬深く、パンの分け方すら知らないでいた。余はそんな共喰いしかできぬおまえ達をあわれみ深淵なる虚無と理性と愛のシンボルとして、我が幼子ヒロヒトを与えた!我が子ヒロヒトを聖なるものとして与えたのだ。だが、おまえ達は裏切った! おまえ達は自らの世界支配を絶対化するために、天皇なる絶対的感情をも利用した!赤子らを呪縛するために、我が子ヒロヒトを神となし神聖にして犯すべからずものとして支配と殺害の長にしたてあげた!だから余はおまえ達に原爆を投げたのだ!それすらも気づかずに、おまえ達は原爆の爆風を神風とよんで新しい産業エネルギーに代え世界経済大戦争へと、一億を導いた。いまはただ無神論の爆風にあおられてふくらんだ欲望と性欲を記号化した商品達だけが地球を埋めている。我が子ヒロヒトはおまえ達に利用されるだけされ尽して一介の心的サーヴィス業者として、いま苦しみのうちに息をひきとったのだ。余が余の幼子ヒロヒトをいま上げたのだ。
オールデッド はっはははっ……
おまえ達一億から余は余の幼子ヒロヒトを引き抜いたのだ。泣け! 一億よ、父はもうない。それなのにおまえ達はヒロヒトの遺体までも商品として売り世界に売りさばくのだ!
(音)ヘリコプターが通りすぎる音
Big Mother(女の声)
アテンションプリーズ、私はビッグマザー、日本の皆さんチャンネルをかえましょう。平成元年の一億の皆さん、こちらはビッグマザー、私は今日の日本の経済の発展を歓迎しています。あなたがたは全人類に無神論の奇績を経済発展の名のもとに示しました。それは私のよろこびでもあります。過ぎ去った過去の不幸に心を奪われてはなりません。ネバーマインド。(フリージャズがバックになる)あくまで円は強く! 世界平和をおしすすめる本質的力となって20世紀人類の発展に寄与しています。これに反対するものは、たちまち神経症になって倒れるでしょう。さきほどささやかなサンプルとして私は一人の女優を舞台上で倒れさせてみました。世界をあざむくものは世界からあざむかれるでしょう。だが皆さんは心配はありません。あなたがたの経済力は世界の恒久的平和に寄与するとともに、たえず新しい世界の欲望を敏感に察知し、それらを増大し性欲化し、たえず新しい商品として開発販売し、マーケットの発展に寄与しつづけてまいりました。皆さん!平和と経済に国境はありません。あなたがたは20世紀人類に全く新しいナルシズムを企業という形で示し導いてきました。ありがとう、私はそういうニホンを愛し、円の永久発展にこれからも協力をおしみません。では又、平成元年のニホン皆さん、いつでも私・ビッグマザーを受信できるようにチャンネルを合わせていて下さい。又、いかなる劇場も例外なきよう、この私、ビッグマザーを受信していて下さい。私は平和を愛し不幸を憎むものです。サンキューシーユーアゲイン
(皇太后、手をふりながら花道を去っていく。)
〔B〕《入院》
B1
下手壁際にベッド、一夜明けた朝。光が溜っている。女性の白猿がベッドで遊んでいる。
(音楽) G ・グルードのパルティータ3番か。
花道から医者、四人のソフト帽の男がカルテ、及び身上書をよみながら登場。
看護婦
おはよう、ご気分はどうですか奥さん?残念でしたわね、きのうの舞台。
女優
おかげで大成功でしたわ、私の頭の中ではまだ拍手が鳴っているわ。でも変なの、何一つ思い出せないの。セリフが、思い出そうとすると目の前が白く輝いてきて。
看護婦
もう舞台のことは考えないようにしましょう。
突然狂ったようにフランス語でアルトーの神……ケリの一節をしゃべる。
看護婦、胸に女優を抱きしめて、赤子をいやすように接吻する。
(花道で)
医者あるいは助手
身上書──22歳、処女で、世継を産むべくさる高家の長男と結婚。ほどなく最初の子を出産していますが、とつぎ先を一度飛び出しています。が、すぐに舞戻り、もう一度女優としてカムバックしたところが子供が言葉をおぼえ出したころに夫が蒸発、行方不明、このときのショックで一度私のところで入院治療をうけています。
四人の刑事
夫からは手紙がときどきくるそうですな、が居場所は全く分らない。肉体を盗んだ男がよく使う手ですな。
医者
日本の経済発展圏のどこかからにはちがいないですよ。
(──あとはアドリブ)
息子、上手から下手で歴代天皇名を暗証しつつ通過、女性の白猿達がなつかしそうにまとわりつく。
皇太后らしき女性が車椅子で・ユニゾンしつつ現われ、消える。
B2《ミルクがこぼれる》MILK Ⅰ 正午 冬のまぶしい光
私が飲もうとするとミルクの方が逃げる。牛が首をグイッと振りほどくみたいに。
魚が手のひらで暴れるみたいに。だからいま私の胸は、ミルクにこぼれている。これは、赤ちゃんのにおいがする私なのだ。それに熱い。けものたちが焼かれるにおいがする。カマドの中にいるんだわ。
私はまだ息をしてる。息が私をゆする。まぶしいわ、まぶしい。このゆりかごは激しすぎる。私カマドで息する。アンドロメダ通過してるわ。子宮から脳髄へ通過していく。いや、劇場の中を、だ。
息子のナレーション(ニジンスキーの手記のように)
私は母を愛していた。テストの結果が良いときなど、母は私と裸になって、性的ないたづらにふけったりもした。恐いけれど、天にのぼるような気がしたものだ。その反対に、ベルトや何かでひどく打たれることもあった。それは母しか入ってはいけないことになっていた、父の書斎にぼくがしのびこんで、父の自画像の前でオナニーをしたり、父から母にあてた手紙を盗み読みしたりしたときだ。母にムチ打たれる、何とも言えないその感動を、私は愛する。父は、私が生まれてすぐ蒸発してしまったが、年に二、二回、外国から手紙をよこすのだ。それは、母にとっては、拷門に等しいことだ。死よりもつらい。なぜ父が家出をし続けているのか。母は多分、まるで理解できないのだから。
MILK Ⅱ
こぼれた!私はこぼれたミルクだ。青空に一杯に蒸発していく私。積乱雲のようにUFOのように、消えてしまいたい。でも、だめ! 証拠がのこるわ。けものじみたクソのようなチーズ、シュミーズにぴったりとからまり、のこるわね。私のチーズは、人間のにおいがする。いつまでも独身のにおいなのだ。いつもここで私を裸にしたがる。たましいは、青空をひらひらし、その下で身はうちふるえているの。都市という都市24時間精液を噴き上げている。なのに私の体を精液は逃げていく。あたし、そのたびにこわれるコップ。おびただしい数のコップ、音もなく、こわれていく天体のきしみにこわれていく、あたし!
MILK Ⅲ 「星からの悪い知らせ」より
“まほろばの庭”
医者
あなたは女性としても芸術家としても完壁ですが、母性にかけていますよ。そこに原因があったのです。
MILK Ⅳ (激しい会話)
私、罰を受けるのよ。ミルクは逃げるし、コップというコップが私につきささる。言葉につまづいて、天体にぶち当って、そのたび、悲鳴をあげる。そのたび、私の体は陣痛におそわれたみたくきしむわ。蒸発した夫が、その見えない永遠の力と手で私の脳ずいをつかんで、きしませるの。私の一番深いところで、基底材をたけり狂わせ、痛い目に合せている。私を、ギシギシゆさぶっている。
ほんとうに、奥さんは出産の巨匠でいらっしゃるのね。
いいえ、欲望と事物がたえずくいちがいをおこしているの。そのたびに、私の脳ずいは不意の蒸発と失踪をくりかえす。私の魂は、夫とともに世界中を旅行してるのだ。ああ、あたしの■■(編注:2文字解読不可能)。あなたはどこにいるの。私、抜けガラ。泥の人形よ。このカマドで燃えつきてしまいたい。切りとられた真黒な空に、もういちどセックスの花火になって消えてしまいたい。プルトニウムのように6倍の力で……早く。
子供が入って来る。
こんな立派な息子さんがいらっしゃるのに。元気をお出し。
私、外の力を信じない。子供はこの星の力が私を通過して生まれたすぎない。万世一系の血しぶきをあげるトンネルにすぎない私。私にあるのは、不潔なにおいよ。排泄の悲惨さだけだ!この不潔さも、消してしまわねばならぬ。
愛しているのに、何を言ってるの。あんたほどダンナを愛している人、私見たことない。
幾人もの男を盗んだ。盗んだ水は甘く、毎夜、私、野の狼のように燃え、かつ呪いつづけた。私のみだらな発情と生殖は、ついに黄泉の深淵に達した。私の色情はこの星をおおったのだ。幾本ものペニスが、月の光のように私の体にさしこまれ、けいれんし、天体はきしみ、血とクソと精液は、沸騰し、逆まき、虹色のアーチをベッドというベッドにかかげたの。
ウソおっしゃい。
ほんとうよ。なぜ信じないの。私は国家も自然も超えたんだ!私の息子は黄泉の深淵から立ちのぼった幻だ。私は、一本の発情する花火だった。この天体に、自己のセックスを証しだて、精の祝祭のオルガスムスの花火を打ちあげたんだわ。そして幾人もの男たちが消えていった。
この露出症のきちがい!あんたは世間知らずのバカだよ。あたしなら、そんな大切なたのしみはベラベラしゃべらないよ。大事にしとくよ
そして、はげしい発作。
おお、天体! おお、大いなる樹よ。おねがい。私にあなたの枝の一つを差しのべ、私があなたとともにあることを、証して下さい。おお父よ、私は私という人体の、秘密の設計図が欲しいのです。
さあ奥さん、そのミルクでびしょびしょになった下着をかえましょう。イエス様だってときどきイバラの冠をかえるのですよ。
うそつき……いや……私いやよ。ミルクって、いいにおいがするわ。それにこのにおいに誘れて、そこいらの男が発情して、私を抱きにくるかも知れないし、夫がそのにおいに乗って帰ってくるかも知れないから。私、自分のメンスのにおいってきらい。未来の息子たちが、そこで溺れてくさったいやなにおいがするからよ。メンスはミルクじゃない。
バカなことを言ってないで、ほら。
私には卵子たちだけが、私の放蕩児なの……罪深く、不完全な神。完全な天体。不完全なはりつけ。不完全な人間。不完全な国家。不完全な病院。不完全な治療。不完全な性愛。不完全な金。不完全な世界。どれもこれも不完全さを証明するだけに生きる。でも卵子は、まだ円い。無実なかがやきを放つ私の卵子から、あのバラが咲いて、すべてを完成するときがあるのかもしれない。でもそんなこと、不完全な気休めなんだ!
“なのに人間という存在の底無しの空虚さだけは、その無限さを完成している”って言いたいんでしょ、奥さんは。
私の夫は外出していますもの。完全なる外出といえる。──私の卵子は、地のけものたちの不完全な精子をふきかけられてつづいています。この不完全な不幸。もっと私眠りたい、あの黄色の部屋で……うまく眠ればいいんだわ。あのひと、夢の中で悪魔となって、私を犯しに来てくれるから。
もう秋よ。新しい時とは厳しいもの。なにはともあれ。
地軸は傾き、四季は巡るわ。あまり狂ったりしないで。音もなく私のヒフの下で、季節はめぐる。私の胸と心をかきむしりながら。ああ、ヒマワリ……糸杉……私を拷門するハネ橋……私の官能が、私の栄光。
皇室に嫁いだら嫁いだで、ちゃんと差し込んでもらったペニスを、大事にあっためて。黄泉の世界から伝わってくる、生温い海の中で、人間であることなんか忘れてね。草や木とだけ仲良くしてる以外にないんだよ。この世なんて、もうあんたにゃないのだから。人間なのかそっちからみりゃ化物なんだから、恐いだろうけど我慢をし。
医者、一服を注射する。
おとなしくなって眠りにつく。
舞台賠くなる。花道に“わだつみ”花ムコである。
B3 夜 ① 《私は婚礼に回帰する》
花ムコのダンス
声(テナー)
おお、海(ルビ:わだつみ)よお前は自ら泡立ち太陽を溶かした、我らを泡立たせたがごとくに、だが、沈黙にとざされたままでいるお前よ、いまなお、すべての原爆をとかしつつ私とともに魂帰らムとするお前よ。おおいなるいのちの数字よ! 私はお前のために蒸発した。私はすべての地上生活を放棄した。だが、私はこの失われた環の中で、いま熱烈にお前を求める。我らの婚礼は円環であり、我らが回帰する円環である。どうしてこの永遠を熱烈に求めないでいられるだろうか。私はいままで子供を産ませたいと願った女にこの星で出会ったことはなかった。私が愛しているこの女以外に! 私はこの失われた輸の中でおまえを求めている。私はこの底無の虚無の淵からおまえを愛しつづけている。私にそれ以外の希望も昇天もない。私の絶望が私を強くした! わたしの指先がおまえの額にふれれば、お前はその絶望の中で絶命する。我らに人生は無い! わだつみよ、生涯は一瞬の絶命と結ばれている。この美と力の円環の中にこそ、我らはすべての永遠を回帰させしめねばならぬ! そのときはじめてこの星に生を得たすべての人類は、かつて人間だったものもこののち人間として生をうけにやってくるものも等しく抱擁し互いに互いを祝福し合う大いなるいのちのリボンのうちにわだつみとなって結ばれあうからだ。それが婚礼である。それだけが婚礼である。花ヨメよ! ああ私の花ヨメよ。それゆえにおまえと私はすべての生活を断ち切ったのだ……断ち切り去ったのだ! わだつみの永遠のために!
B3 夜 ② 《結ばれ──狂った惑星》 M ・エルンストのように
女優の日記①
女優
(夜・日記をつけている)この病院の食事はなんとかガマンできる、インゲン豆やエンドウ豆を水藻の塩にだ……
この病院に入るまでの4ヶ日間、私は23杯のコーヒー以外ほとんど何も口にしていなかった。消化するのにとても時間がかかる。でもその間世界が止まっているようで精神がおちついている、それにここは部屋がたくさんあり、みんなで絵を描くための大きな部屋さえある。これはすばらしいことだ。その気になれば毎日でも私は光の中で夫をみつめ、幻の中でさえキスさえもすることができる、ファックさえも!それに回りにいる発狂した人達をみていると、自分からいつすぐにでもそうなれると思える。と発狂という恐怖がきえる。ずいぶんと有能な人達がこうして死んでいった。この無気力と貧困と野卑な白くデブついた薬剤のかたまりとなって。そんなこと(を)思うとがっかりする。自分がそうなるとは!でもガンやポリオ、交通事故やエイズと同じで特別私達だけがむごいというわけではない。最近、私はまとまりのない音しか出せない人とも動物のようにみぶりで話ができるようになったし、ひどく発狂して苦しんでいる人の世話ができるようになった。なんと遠くまでものが見えるようになったことか……ほんとに遠くまで見える!こんなことかつて一度もなかった! だがこわい、私が回復に向っているからではないような気がする。私のセンサーが発狂をキャッチしはじめ、深く他人の発狂と関わりあいをしはじめ、病気のみえない患部へと侵入してしまっているからにちがいない。その証拠にかつて私が演じた舞台でのカサンドラのセリフ以外は何一つ思い出せないでいる。ときおり昼夜を問わず夫の声が天井の斜め上からきこえてくるだけだ、ひどく恐しい声で!……
(蒸発した夫のささやきかけ「息子よ」が交互に入る)
息子と女性白猿が患者といっしょに戯れている。エレファントマンが出現。なにがしかのダンスアクションののち、しだいにキリスト的光景が示されてくる。
女優は夢遊病的に客席のかつて楽屋だったところへ行き客の方をじっとみている。医者が来て、カウンセリングが始まる。
医者とのカウンセリング(相手は失語症の女優・客席で)
「楽屋」(ステージではエレファントマンが踊っている)
医者
ええと貴女は貴女の民主主義的な「わがまま」から、女優になられた。だがここに重大かつ、深淵なまちがいがあった。貴女の嫁いだ「家」というものへの「法」的な調和はともかく国民の伝統、文化、非文法的な意味での心的な準備が全くなされていないのですよ。超法規的ないわば「掟」あるいは霊的なタブー、これは多分「掟」です。人間には変更不能なものと考えましょう。が、それに対しての、全くのいわば犯罪がなされた、こここれに極まったのだと考えていただきたい。
女優
私、先の陛下にはやさしくしていただきました。ですからとても悲しいのです。でも私は新皇后として世継をつくりました。
舞台で女性の院長、90歳で大地母神的な見回り、祖霊達がついて回る。
医者
サーヴィス業というものは、演劇をはじめ、これは売春から宗教、文化、学問、儀礼まですべてそうです。が、貴女自身はこの世以外のもの(傍点:もの)をとりついでいく、我が国の最高儀礼に関わる心のサーヴィス嬢であるわけです。
恐れ多くも我が神国ニッポンの民族のの恒久的「アニマ・アニムス」の恒久的平安に関しては、生死を問わぬ我国最高のサーヴィスにこれたづさわるお方でいらっしゃるわけですよ、それが── 、
女優
先生マリファナいかが? 私、先生が好きよ、ジョイントなさりたいわ、とても耳がよくなりますのよ。
ところで先生、ビオラをおひきになるそうですわね。
医者
いいえチェロですよ。貴女は最高のシンボルサーヴィスにこれ専心なさらねばならないわけです。その御体そのものを通じてです。やがては黄泉の深みから立ち上るすべてを浄め、生殖し、かつ放射するものとならなければなりません。いま貴女はいわば、まだ、霊的に最下級の存在に過ぎないのです。いくつもの門があり、一番外側の門番の顔をようやく知ったにすぎないのです。
が、これからは貴女自身、アマテラスの末えいとして自覚し、霊的にその生殖性を神霊にささげるのです。分かりましたか? それは一霊四魂の大宇宙の調和です。
女優
でも先生、私はここ10年、流産ばかりしています。それに分らない。最高のシンボルマークという意味がです。恐ろしい夢ばかりあらわれて満足に眠れないからです。
おねがい、モルヒネを射って下さいません。
B4 《絵画治療室》『ひまわり』メインステージ
(楽屋ではカウンセリング)
多勢で写生がはじまる。だんだんに異様な雰囲気が予兆としてでてくる。モデル達はデュシャンのアダムとイヴのような光景にかわり発情してくる。
花道から第一ゴッホの『種蒔く人』が出現してくる。時折何かわめきつつ、背中にいっぱいキャンパスをはっている。
音楽 マーラー「巨人」の第三楽章より
第一ゴッホステージに着くと他の患者は恐れおののいて遠巻にする。暗くなる。ダンス
声 女優の日記②
第一ゴッホはしだいにオブジェ化する。奥の鉄ドアといっしょに同一波動になる。他の患者もそうなる。
第二ゴッホの出現(声Ⅰ夫G ①)
声G ① (バリトン)
この4ヶ日間、24杯のコーヒー以外ほとんど食物を口にしていない。私は絵画にいのちをかけてまた、おかげで私の理性はすっかり壊れてしまった……妻よ、それはそれで構わない……が、一体これが何だったというのか、妻よ。今日、あの殺人者が逃げる。彼は私をけいベつして捨て、その私を抽象のクモの巣にぐるぐる巻きにし、息をできなくしたあの男だ。私は私の生の事物である自分の耳を切りとった。彼にプレゼントするためだ!私の芸術がそのようにできていることを彼に知らせたかったのだ、芸術は生と切り放せないものだ、ああ大地が熱に溶けて海のようにうねっている、それをおさえつける理性が私にはもう残っていない。どんな重い空でもこのうねりを押さえられない。私の諸器官が私の精神に反乱を起こしているのだ。これをしずめる方法はもうない。乗物にのる以外はだ、天の星に行くために。ぼくは徒歩で行くつもりだったんだ、だが、もうたえられない。
いま私の腹の中に一発ブチ込んだ鉛が動いている。苦しい、左手で血がもれている腹を押さえながら、最後の麦畑に向っているところだ。下腹が痛む、そして激痛に襲われた黒いカラスが何羽も何羽も飛び立ってくる。
その真黒なつばさがたけりくるう海のように狂ってくる大地の反乱をおさえつけてくれている!このカラス達のおかげで麦畑は完全にごうしゃなものとなってきた。精神の正確さを完壁に所有できるだろう、もうじきだ。
麦よ!カラスよ、そして美しい息子よ。
《星ずく夜》
イヴェントアート、第二ゴッホの指揮の下で、いくつかの男性的で骨格的な同時進行アクション
(・ガスバーナーによるペインティング)
・『縛られるヌード・モデル』(アニマ・アニムスの○○)
・焼ゴテとミシン
(・月はついに爆発することができた)
四人の僧侶
等、その他、けいこ中に考案すること。
声G ② (夫・バリトン)
光の中から恐しい悲しみがやってくる。余は悲しみで胸がひきさかれんばかりだ。世界中どこを探してもこの悲しみをいやすものはない。余の花ムコや花ヨメの声は全く聞かれない。彼らはあざむかれたのだ。災いだ、この地球は災いだ。かつてはあれほどの愛の共鳴器だった地球もいまわざわいの音色をかなでている。初夜の愛をかなでることはもうなくなった。おまえ達の欲望がそれを商人に売りわたしたからだ。この地上を経済悪徳の円で汚し、地球を引き裂き魔術を共鳴させる。商いの場にかえて円とドルの名において人類をあざむきつづけたからだ。
原爆が人類を焼く。それ以上に円の炎が人類を焼いている。余と余の花ヨメ花ムコがこのたましいを休らぐところをこの地上からなくした。これは災いだ。おまえ達は商人を王としてこの地上を円の炎と魔術で焼き尽くした。おまえ達の大いなる日本はこの世界を罰として背負い、ふたたび余の足もとに時またず倒れふす。これは悲しみである。恐れを知らぬものが悲しむとき、世界そのものが破滅するからである。
余の家の黄泉の術とさらに余のいのちを盗んで余と余の花ヨメ花ムコ達をあざむいたのだ、この星はわざわいだ。
女優の日記②
B3 ③ 夜 (10ヶ月ほどたってから)
今日また新しい患者が入ってきた。性的マニアだ。彼の手にかかっていたいけな幼女が何人も誘拐され、いたづらされ殺すベく殺された。切り刻まれ川原で燃され灰となってすてられた。幼女の腐臭につつまれ、犯人はこの世のものとは思えぬ甘美さに酔い痴れていただけなのだ。なぜ私がその幼女になれないのだ!犯人達の側にはかならず川が流れていた。この川だ、私に必要なのは。私には川がない。私はまだ冷えきったカマドにいる、私は寒い。ソ外され、ついに自然と同じエロスをもったものの涙は衡動のつららとなって性の深部につきささりその対象を切りひらく。切口だけが熱を滞びた現実の入り口となる。
“イクトゥス”の口が開くのだ。自然は大いなる顔を現実としてあらわす。すべての殺人は自然の権利だ!ともはや人間はゴキブリ以下なのだ。犯人を流れるその川は精液の激流にちがいない。それはやがて死の大殺戮に流れ込む。
わずか数グラムのくさった人間の腐廃物のやさしさとひきかえに、いま彼はそのイクトゥスの魔くつの中で私をひざまづかせ、チベットの千手観音のように立ちはだかっている。そのまえで彼の夢によってあばかれ裸にされた私は、裸でうちふるえる観念さながら秘密の夢をベラペラと告白してしまうかも知れない。自己の無能力を腐廃させ、その腐廃物の中ですべての腐廃物はやすらぐ権利がある。彼らをみちびき入れ人類の秘密のいけにえにしてやらねばならぬのだ!ああ私には川がない!あっても川床が干上っているのだ、こうして幼女の放つ光に気がふれて、また星くずが人間になることをのぞみながらついえていくのだ。私の嫁いだ家のため、人類がかかえた月読命の秘密の中に、彼らは入っていった。
赤とみどりとまっくろなスペクトルをはなつ渦巻きの中に!何一つ運ぼうとしない、私は物生まぬ石女だ。ただ、私自身、神という水辺で切りきざまれたあの幼児になりたがらないにちがいない。神自身の手で首をつかまれ精液の激流の中へつっこまれ、溺れ、殺され、切りきざまれ、腐廃物となって焼かれたのだ。決して、社会の手によってでなく、医者、看護婦、私のファン達の手でなく、そして、その神になるはずのもの!ああ、社会はいつもそれを自殺させてしまう!
〔C〕 《アルトーの廃園》──“大淫婦の水溜り”──
崩おれていく肉体
C1 『椅子とろうそく』
(白い女性がふたりゆっくり歩いてくる。女優と看護婦である。)
『医者の観客への口上』(ヒステリィ気味に?)日本国家がそうであるように、精神病院というものもまた淫らな淫婦のすわった『水溜り』の上に出来ているのだ。(アダルトビデオのよがり声が入る)そこに浮かんでいるのだ、我ら全員がだ!そして多分、皆んなが言うように病んでいるのはおれだっ──それにしても、なぜこの秘密がバレたのだ!バレたらバレたでそれはいい ──それでよし!この病院はまだまだ、おれの人体がおれの劇場になるよう作ってあるっ。だからおれは、おれの人体を(この不完全な代物をこの星に)創った奴をまず、おれがひっとらえねばならぬ!それからこのおれの人体という劇場をそいつの言葉で埋め尽くさねばならぬ!でなければおれは、本当に発狂だ……分ったか!この一億二千万のくそったれの日本人めら!分ったら「はい」と言え!
『第二のエレファントマン』(──臨床のヒロヒト)ひどく暗い
闇から「はいっ」と声がして臨床の床から白い手が突き出ている。
ボーカリゼーシェン
エレファントマン
パンを下さい。
声
もしお前が神ならば、この焼けた石をパンにかえ飢えた人間に与えるがいい!
ドンッと原爆に焼けた石が落ちてくる。
エレファントマン
No ! I am a God ── I am a Man(泣き声で)
ふたたびエレファントマン
パンを下さい。
声
もしお前が天皇なら、この女を引き裂き性欲に拝る一億の赤子に与えるがいい。
縛られた女がヌーッと現われる。
エレファントマン
No ! I am not an Animal ── I am Man(泣き声で)
さらにエレファントマン
パンを下さい。
声
もしお前が日本の最高シンボルなれば、この鉄を様々な機械にかえG.N.Pをさらに高めよ!
鉄の輪切りがドドッと出てくる。
エレファントマン
No ! I am not a Machine ── I am a Man(泣き声で)
病室である。が──(女優のそれとは全くちがう)
『第三のエレファントマン』
また匂ってきた。(客席に)誰かそこでセックスしているのは!?匂うっ精液が股間で焼けている匂いだ、不幸が匂っている!患者は患部をもっている、こいつは人間が性器をもっているのとご同様だ!これがすべてを不幸にする!余は器官無き身体を要求しているのだ!なのにああっ余の国家ではいたるところメンスと精液と紅茶の匂いがする。この匂いがするところに必ず人間存在がちゃっかりと存在する!全く油断できないずるがしこい母親がのさばっている!こいつのおかげですべてが不完全になっていく。なぜ余の国家に完壁なる存在は存在しないのだ!何一つ排せつしない完全なる直腸を余はここに要求する!
日本国最高の病院からしてこの悪臭だ!病院なら病院らしく、すベての人間存在の悪臭を完全消毒する必要を余は感じているぞ!そのむかし余は一億のためのパンにされたのだった!そのパンをおまえ達一億は食べたのだ。よって余は最期の命令をおまえ達に下す!余をその尻の穴からクソとして排せつするな!
これが命令だ。が、人間は排せつする、そこでもし排せつした場合はその菌を完全に所有せよ!いのちなど恐ろしすぎて所有できる代物じゃない、せめてクソぐらいは所有するのだ。そしてクソを革命するのだ。クソをすべてきらびやかな絵の具にせよ、色彩だそして音楽にだ、さらに新しい言霊を!新しい階調に合わせ、また新しい遺伝子の祭をくりひろげるのだ。そしてこの無慈悲な星に人間としてふたたび生をうけにやってくる、来るべき人類達をなぐさめねばならぬ!えもいえぬなぐさめの“永久劇場”としてこの天体を、たとえこの地球がほろびても、永久花火のごとく持ち上げるのだ!我らが存在した証にだ!それこそ宇宙は大いなるまほろばとなるだろう。それこそ我らの偉大なる精子のゆりかごだ。ものみなが愛され通過し合う思寵の劇場となるだろう!!
力尽きてへナへナとなって子供のように体がグニャグニャとなる。
ところで余のペニスだが──ああ余のはしなえている、まるで人間の存在のようにグニャグニャしている。誰か一番太いろうそくに火をつけてもってこい!そしてそれをこの椅子の上にペニスの代わりに立ててくれ……
余の肛門にではない、その椅子だ。ちょうど余のペニスの付け根の位置にだ! ああ人生などみなこのうつろいやすい影法師どもに過ぎぬ、実体のない、言葉と光にゆれて、夢の中をくるくる回ってはせんこう花火よろしく消えていくのだ! あっはははっ
“いま余の一門と一億の赤子らは聞け!そして答よ!このいのちのろうそく尽きるまでに、余の存在の一体何たるかを! ”
麻酔薬を射たれる。
祝詞入る「神武すいぜい……」
C2 《世継、結ばれ──「和歌心中」── 》
声 “余の一門はつげよ、このろうそくの火、尽きるまでに余の一体何たるかを! ”
(三島由紀夫の夜のように)『和歌心中』(別紙原稿)
ダンス(大竹宥煕)ダキニ神
嵐の中で母と怠子がラブアッフェアーに入る。
C3 《四つの言霊》
『僧侶とペニスの図』。ふたたび(昭和)
声(四つの言霊)
さあ、おまえのつとめもそろそろ終わる。
死後の世界などにはなりそうにもない、祖霊どもなどいやしないのだからな。死ぬ前に、おまえはもう一度あのときのことを思い出せ。44年前を思い出すのだ。絶対にして神聖なる神国ニッポンをおまえは自分の汚らしい涙でよごし、USAの悪魔に民主主義と引きかえ売りわたしたときのことだ。
そしてこの東京中が、米兵、売春婦と乞食どもであふれ、原爆で焼けただれた石ころを見よ、
国土を一億人がごきぶりのように這いまわっていた頃のことだ。彼らは飢えと を生存の重みに耐えたから、自らの涙でおまえの国土をすみずみまで浄めていたはずなんだ。
そもそもは、二〇〇〇年の長さにわたるキリスト教支配にかわって、絶対なる唯一神となるように我々はこの神国ニッポンをつくり上げ、おまえが全世界に、おまえの肉体を通じ、我らが神国ニッポンの聖なる天上の言霊に衣食住セックスを与え、天皇として君臨することをおまえは我らに願い出た。全世界が一つの社稷の儀に入ることをおまえは望んだのだ。だから我々は、あの泣虫で、意気地のないすけベえで、下司ばった一億匹の日本民族という生物を、万世一系としておまえが産み落したものを、おまえにかわって代理支配し、日夜きたえつづけ、セックスを教え、人殺しを教え、神の国の兵士たらしめ、我らは全世界に宣戦布告したのだ。
だがおまえは裏切った。いよいよというときになって、泣きながら、安っぽい母親のようなヒステリィックな猿芝居をしながら、かってにペコペコ命乞いをしはじめた。
西洋の、さらにはユダヤそしてUSAの悪霊どもにその身を売ったのだ。おまえは我らの許可なく我らの命を売ったのだ!
敗北などはせん、人間の出来事にすぎんし、我らは敗北の責任や人道的な戦争責任など言ってるのではない。戦車は地上の生きもののやることだ。神なるものに責任があろうはずがない。それでこそ神の神たるゆえんだ。おまえは自ら神であることを証明するために引き起こした世界支配戦略を命おしさに途中で放棄したことを我らは怒っているのだ!
おまえをはじめ一億の生き物は、我らとともに、あのとき滅び去らねばならなかったのだ。真に滅ぶことで我らはまぼろしを達成しえたのだ。そうすることで我らは、この地上にも天上にも、すなわち全宇宙に向って、神国ニッポンを型どることができたのだ。そのために一億匹のいのちをすてることなど我らは何ほどのことか。
我らは全世界に向って勝利するか、滅び去るかなのであった。我らの目的はひとつ、全世界に向った神国ニッポンを神国たらしめるということにある。勝利しようが、滅び去ろうがそれは同じことなのだ。どちらでも良い事だった。それなのにおまえは女々しくも、我々の誓いをかってに裏切ったのだ。
そのために我ら130数年一睡もせず、ありもしない神をつくり、神国ニッポンを絶対たらしめてきたのだ。
「もし、おまえが神ならば──」
これらの天から降り注いだ焼けただれた石をパンに代え、全人類をいやしてやるがいい。
それともだれかの真似をして『人はパンのみに生きるにあらず』我らに向って『我が祖霊を試みてはいけない』とでも言うのか、
「民衆は神など求めてはいない。神自身に日々のパンになり代り我ら民衆をいやせ」と、それができなくておまえのどこが神なのか、と言ってるのが民衆だということをお前も知っていよう。
そこで、おまえは例の気前の良さからかく言う気でいるのだ。「私はそのパンである。私はパンの中のパン、私は自らをふやすパン繁栄するパンである。飢えたるものは皆、民族を問わずこの私をひきちぎり食べるがいい、そしてのち全世界に自らをふやすパンの平和を唱えよ」とでも言うつもりでいるのか。
No ! I'm not GOD. I am a MAN !
何か言ったかね、私には何ひとつ聞こえない。おそかれ早かれ、ここ一両日中に、おまえは死ぬ。ガンということだ。ガンであれ、老衰であれ、徒歩で行くとも、乗物に乗ろうが、死ぬということは、死ぬのだから名実ともにおまえは神国ニッポンの神になるということだ。我らはそこで、全世界の民衆に、くだらぬ狂言及び歌舞音曲を停止させた。この非合法なる掟を破るものは皆、不意の失語症にして、精神病院に拉致させることになっている。おまえと同じ苦しみをやつらに味あわすのだ。
これは我らのおまえに対するやさしさ、では、無い。
いかなる人間も、人間の限界能力を越えた苦痛を与えつづければ、次々に神の名を呼ばわるからだ。ということは、我らが創作したおまえという神をたたえるということだ。
それともおまえが、全身全霊を発揮して、草木の精霊をふるい起し、おまえの万世一系の高祖高宗の力をも発揮して、おまえ同様ガンを患っている幾百万の絶望の苦しみにうちあえいでいる人間達をことごとくいやしえるとでもいうのか。
まず手はじめに自らで、自らのガンをいやしてみせるがいい。
いや答えずとも良い。その日が来ることを我らも知っている。この星が、我らのような自己保存力権力的な悪魔を退りぞけるべく自ら新しく生まれかわる日がそのときであるとおまえば答えるであろう。
この脳波計を見ればおまえが何を答えようとしているかはすべて分るのだ。
では聞くが、なぜおまえは我らを滅ぼさなかったのだ。我らは滅びたかったのだ。
あの日44年前の8月15日に我らはおまえとともに一つ国土にネズミ一匹残さずに滅び去ることだけを一途に願って生きて来たのだった。
なぜ、そのときはじめて我らの苦しい仕事が終わるからだ。
これはいたいけな子供が愛する父親とともに真理に生き滅び、父の名を高め、その国を永遠のものとすることを願う、のと全く同じに一途の思いであり、願いだったのだ!
裁かれの臨床がいよいよ終わり遺体は世界の果てから果てへとはげしくゆれ、夜は終わりついに一月七日の朝を迎えた。芥正彦43歳の誕生日を迎えた。平成ははじまる。音楽大合奏となる。大地は揺れ、海は逆巻き、黙示録のラッパが天にはひびきわたる。
(舞台は暗転もしくは防火シャッター)
楽屋で「息子」が一人虚空をみつめている。「鏡」
〔D〕《涙の木》(──そして10ヶ月後)
エピローグ “栄えの第一主義”
(音)ピアノ、しずかにエロイカバリエーション
D1 出産 《叫びとささやきの図》
「入院」のときと同じような光の渦
ベッドでピエロのように、大地母神と花ヨメ。陣痛がつづく──。
一条の悲鳴、そして深いためいき。無伴奏チェロNo.5の4
“奥さん男のお子さんでしたよ。息子さんもさぞおよろこびでしょう。お父さんになられて。”
診察してOK
D2 祝福の行列
花道から白の正装、父となった息子を先頭に、全員が親しい母子を囲む。
D3
歌(女性)「マリア・マリ」かなにか。(出血がつづいている)
ベッドと女優だけとなり、しだいに体が下にズリ落ちていく──夜(出血多量で死ぬ。)
ステージにしずかに死の灰がふりそそぎはじめる。
ソラリスの陽光が射している。
『花ムコ、わだつみ第2のソロダンス』入る。
しだいに優しい、濃密な死が充満してくる。
花嫁の声
私は幸せだ、私は幸せだった……
出血多量、そして絶命。灰はふりつむ。
と、しばられた両手が上空に上り、しだいに全体が空へとのぼる。
音楽 J ・パッション「事終りぬ」かニコの「ジ・エンド」か。
ビッグマザーの声
こちらビッグマザー 日本の皆さん、平成元年おめでとう。あなたがたのまほろばは永遠です!私はあなたがたの措置を祝福します。では又、さようなら、シーユーアゲイン。
客出し パフォーマンス
ニコの“The END”