作品

劇団駒場

地下演劇 no.2、1970年2月1日


移動と領域についてのト書き

───カフェーでのあのさわやかな混乱の原因について、ボーイとウェイトレスによる若干のテーゼ───

  1. 果して朝日は本当に部屋の無い少年達に差しこんだか。欲望の問題。
  2. 資本論は聖典ではなく、長い寓話集であったことのとまどいはバーテンだけではないという事実、非変革の問題。ミサ曲としての叛乱。
  3. 役者の発する言語はその空間の律法でなければならぬことの発見。(群集は役者ではない)言語の暴力とそのプレザンス。一人の平凡な人間が平凡なまま無限に拡大していく。
  4. 飢えた若く貧しい家族が食と酒に満たされたとき、彼等は天皇やキリストになってしまうことはやはり本当であった。血と水と愛の原理。スメルジャコフの錯乱とその舞踊。
  5. バリケードを作れるのはいつの時代もスメルジャコフ達である。カラマーゾフの父も、又、スメルジャコフの舞踊。
  6. Fictionは、秩序と訳すべきこと。存在とはアプリオリにあるフィクションである。
  7. 私達がカフェーと思っていたのは実は、国家であったことを客のうち少なくとも三人は知っていた。そして国家はいつも犯罪を一人占めしようとするであろう。父の思想。
  8. 崩壊したのは眼に見えているヨーロッパではなく眼に見えなくなったヨーロッパであった。あらゆる行為の責任はその国家が責任をとることになる。これ乱。大抵の人間は国家を放棄することができない。父を放棄できぬ理由。
  9. 気憶は否定される。
  10. 時間は距離(事物)に対するイマージの非人称形。時間は距離に変り、距離は領域に変る。「空間」とはその四つの領域のピラミッドである。
  11. バーテンの提案した時間についての告白が客の失笑を買ったのは何故か。それは時間を過去的、現在的、ゼリー状の未来としたことによる。彼は以下のように言い直すべきだった。即ち、気憶の領域、知覚の領域、化石の額域、あくまで混乱の原因は領域の問題にあったのだしそこでは空間として捉える努力が試みられていたから、ちなみにさきの混乱の原因の一つであるアポロ11号の件は化石の領域にあったものを知覚の領域に移動させたことによった。移動による混乱。すべての混乱は移動によって生じる。
  12. ボーイ三名。ウェイトレス一名が脱走した。三名のボーイのうち一名死亡。(スメルジャコフ又はカメラマン)
  13. 以下は移動による混乱問題についての報告。参考、ポートレート数枚。

A カフェーでいささかの混乱を混乱にしまいとする客達の会話

ウェイトレス(♀)それであの人達はしょっちゅうしゃべったり、歩いたりしてるわ。でも、群集(ライン:群集)(a)の中で兄弟(ライン:兄弟)(b)に出合い互いに自分の血を浴びせながらすれちがい、何処かに飛んでいって、動けなく、走れなく、声などは出るはずがない、完全な秩序(ライン:秩序)(c)の中に投げいれたのよ───吸うべき大気は炎を墳いてO2(小:2)とN2(小:2)体系の果てにかき消えちまったわ───シモンが泣かないのは空気がすでになく顔が笑い声になってしまうからなのですよ。聞こえないのです。サイクル。0です空気がないから、光よ、音はだめ。ちがうよ、俺だって、働らくさ、よく外出するし、コーヒーを飲むし、国家ビルを壊すことについてダイナマイトを探しに、ダムの工事現場にだっていったよ。捨てないでくれたのむからさ! ───嘘ついちゃいけないよ。あなたいつもベッドで素裸で汗かいて、寝てばかりいるじゃないの───それはいいかい。それだって大切なことだ。N2(小:2)と肺細胞との出合いさ。昔はちゃんと働いていた。共同の事業だ。演劇っていう演現劇芸術のことだけど、観客がいるのだ。それは風影のことなんだぜ。セールスマンじゃない、ホステスかな、ちがう。(注 a、権力のことだが、宇宙の摂理のこと。不条理の総体としても使う。一言で言えば「空間」の律法。b、人間が抹消し切った世界の営み。c、たとえば先に述べた資本論はすぐれた寓話として読まれるべきだということ。)

それでその観客(風影)とても走ったり動いたりしたの、猛スピードのセックスだった。それほどじゃない、できる訳ないよ。最初は厳重に処罰するからだ。群集を完全に鎮圧する。律法を所有している。奴等そこで何をし、何をたくらんでも、役に立つはずはない。だから、奴等国家を作らなければならない。すてないでくれ、オレはまだあいつを、裏切った訳じゃねえ。

あんまり立派な装置にならない生徒達だったの?みなそうだったの。ハンバーガーや、玉ネギや、やじったり、みなそうだったの。二DKの洞窟に住んで自分の子供を焼いて、ステーキにして食べる人達は、その部落にはいないの。子宮をけたぐり返してふるわせて、歌を唱う叫ぶ声が血になって、あの人達は血縁家族で、だから、悲愴な、当然蒸気機関車(ライン:蒸気機関車)(d) やセーラー服や、メサァイア(ライン:メサァイア)(e)が道路にはりついたまま、四つの時代(ライン:時代)(f)が、四人の兄弟だなんてことは嘘になる(ライン:嘘になる)(g)のよ。四つの連る時代があってもその一つが他の三つを支配しちまったとしたら、ホントヨ、その一つの力ある時代こそ歴史だ!って考えても少しも困らないわ。四つのタバコ(ライン:タバコ)(h)から好みで一つのタバコを選んで、他の三つのタバコをゴミ箱に捨てることとはちっとも関係がないんですのね。だから、一人兄弟が居て、そのうちの一人が他の三人を圧しきったら、そこに、政府や国家ができるんじゃないわ。それはやはり群集の長であって族長が誕生するの。でもそうするには他の三人のもつ、三人分の体系(ライン:体系)(i)を自分、自分の血と肉と骨とに移植手術(ライン:移植手術)(j) できる体が必要よ。だから、殺人は必要(ライン:殺人は必要)(k)です。だって、その四人は兄弟だし、族長(ライン:族長)(1) は父でなければならない。父はいつも息子を殺すの。私は父に犯されて、生むの、五人目の男をね。すべての子宮を政有する力は、最初の、私生児に捧げられるわ。それは息子の血は混らないから、父が息子の嫁を、姦したときしかでないの。だから四つの風影(時代)が何者かに支配されるのではなくて、他の三つを征圧している時代が“他の三つを無視して次に何をするか”にすべての危機があるんだわ。いいのこんなことでもワタシハミタサレテホシイワァ。モットナノ、モット、ミタサレタイ。強者に肉欲(ライン:肉欲)(m)以上の酒はないの。弱者には支配欲(ライン:支配欲)(n)以上の酒はない。弱いということは病気なの。その内部の病的さを殺すためにありとあらゆる卑劣な事をしなさい。それ以外に強くなるなんてありゃしない。でも、いずれ私の息子に一匹残らず殺されるわ、いいこと、殺されるのよ。これを忘れちゃいけない。日共とマクベスは魔女の予言で発狂死するんだわ。いつもいじけて混乱を待ちのぞみ、敵対するもの(ライン:敵対するもの)(0)を探す。そやつには大いなる恐怖を見せしめなければなるまい。思い知ったか。混乱はいつも地面からまい上げるのだ。地面とは私の子宮さ。私の子宮さ。ああああ、水。(混乱は混乱を呼ぶ)バーテンは昔、軍隊(ライン:軍隊)(P)に入って共同体の美を研究していましたのでこの混乱をみて、すぐバンドを結成して歌い出さねばならない。彼にはこのカフェーだけがたよりだ。だがウェイトレスは唱い出す。叫びながらセーラー服をアスファルトにつきさして、自らの性器を開放したの。夕陽の小部屋からの脱走だった。真昼間(ライン:真昼間)(q)とオルガスムスと逆転、浅水、こげる。破滅の訪れ、子宮の朝、ハレルヤの沈黙とダイナマイトに変る風影。ロゴス権力の予徴だ。あたしにはいつもあたしの肉体(ライン:肉体)(r)だけが唯一の神だった。だからあたし、あの人があたしの所(ライン:所)(s)に帰ってくるように今日は、ずっと、これからは今日なの。そしてあたし、やっぱり歌うわ。───

夏の光の中に放たれたリモートコントロールの肉片(ライン:肉片)(t)よ。落下する軌跡ね。それがあたしよ、あたしよ、来て、早く、来て、見て、私の体、見て、光って、すべすべして、早く、さわって、雑踏の中に消えていた局長の娘(ライン:局長の娘)(u)知ってる?もうね少女でもホステスでもなかった何人ものセールスマンを捨てて逃亡を開始しつづけたわ。怠けたら、セールスマンに殺される。すべて、遊裁の地獄に駆け昇った塔がくづれるの。牛が死につづける。牛が死につづける。電光ニュースはこの話でもちきりだ。牛が死んだわ。局長の娘はその現場の沈黙と危機と可能性とその属性との戦慄にわずかに興奮してすれ違い様、逃亡中のボーイと接吻する。「牛が死んだわ!」ボーイ「うっははは、知らなきゃ知らねえで結構さ、知ってんなら知ってるだけのことはしろってのよ。なあ、ガタガタ騒ぎやがって何しろな、人類って会社は無学だろうが、ちんばだろうがだれだってすぐ採用されちまう。そこで働く、働かねえはそいつの自由さ。だがな、ちっとやそっとじゃ解雇してくれねえぜ。すぐ死刑(ライン:死刑)(v)が追いかけてくらあ、こうなりゃどっちが早いか死ぬまで走りつづけてやらあ!あばよっ。」ウェイトレス「牛は死んだわ臓物がとてもきれいよ。もうあんたを追いかけやしないよ。その変りね、もっと強くて、恐しいのがあなたを狙って走り出したわ」「ねえ、ミルクはどこ?ねえミルク!ミルクは何処!」局長の娘は帆柱にのぼった。帆柱は二つに折れ、ネットがからんで十字形の結合で、マジュランの、めがけてくずれおちる。産業革命と激突したマジュランの肉体、寓話を殺して局長の娘を化石の領域へ投げ込んだ。


B スメルジャコフから客へ
(血についてのト書き)


いいかっ黙って聞け!俺のガキ(ライン:ガキ)(1)があのヨチヨチ歩きでやってきて告げる。祖国なき独立を試みよ! 何ト貴様ハ憶病ナノカ、スベテハ貴様ノ眼前ニアルデハナイカ。言葉。過去的歴史。及び記憶の維持。びっくりしたのは俺よりも俺の回りにいた連中だ。いつかは自分でわかっていること(ライン:自分でわかっていること)(2)の生けにえにされるのだから。おまえ達のバカ面には用はねえ。幼児が三千年のしわを顔につけ貴様はまるで小学生じゃねえか。成されてしまっているおまえの眼には入るすべての月影が映画が重力を失う。フィルムは見えざる手で持ち去られた。その後、あわてて気づくのは、てめえ達のバカ面。論理とはその始めにもっと無指問性だったのさ。だからよ、意識の爆発が時間だぜ。そいつをおれに告げたのではなかろう。眼前がおれの前で変りみんなをそっくり言葉(幼児)の風影の一部に変えた。記号はなかったんだ。このことが俺をガキにしなければならぬ理由さ。おまえみてえな混乱のバカ面には用はねえ、さよならだ。うっははははまはあ───
 
幼児の歩行───力ある少年はハレムを去り、己の成すべきを成せ。

ハレムとは太陽の暗さ。セールスマンとホステスの関係の暗さだ!

ボーイ───だからよお、自分の肉体の肉(ライン:肉)(3)と骨(ライン:骨)(4) とをだ、心臓(ライン:心臓)(5)を頂点にして三角関係に落ち込んだ以上、もうそいつは恋愛なんていえる代物じゃねえ、そいつはなあ大したもんなんだ。あの時はなあ、骨が肉と心臓を支配して主活と部を殺し、おれというおれ、序々に化石に変えてきやがる。石化した乳飲児なんてもんじゃあねえ、未来が一切の呪文(ライン:呪文)(6) を失い力学が逆転し出すんだ。今までおれをがんじがらめにした呪文がなあ、ぶすぶす音をたてて、燃えてきやがる。炎はでねえ、炎はでねえのだぜ。当然、おまえ達が口ばしる革命ってのは、だから、政治と文学の近親相姦(ライン:近親相姦)(7)で生まれて来た奇形児にしかならねえっうのが見えてくらあ。呪文じゃなくなった、形ででてきたからな。奇形の偶像がでてきた以上、呪文はもう効き目なんぞありゃしねえ。おれがこうなったからには、もうおめえには待つことしかできねえよ。せっせっと学問でもしてな。せいぜい待つことだ。勝負は終ったよ。ほとんど何もしねえうちにな。おれはおれの近親相姦を発明したからな。幼児の筋肉が幼児の心臓と淫な交わりを始めるとおれの骨がそいつらに反乱を起す肉と骨のすき間に年中、ものすごい痛み(ライン:痛み)(8)が走りつづける。心臓がふくれて骨という骨を中にしまい込む。だから問題なのは血だ。血(ライン:血)(9)がどこにも見あたらねえ。血がでてこねえ。問題なのは、おのれの血だ。だからよお何でできてるか教えてくれ、たのむから言ってくれ。それさえわかりゃおれはもう恐えもんなんかねえ、おれの血は背中から吹きでて全部ふきとんじまって、おれにはもうどうすることでもたのまれる。だからな!聞いてんのか、おい、聞いてんだな。おれの血を盗んだ奴を探してそいつをこの手でこの骨で殺さねえうちは、おれは死ねねえ。共同事業(ライン:共同事業)(10)はそれからだ。おれの血を盗んだやつらはおまえ達の共同の事業じゃどうすることもできねえのをおれは知ってんだぜ、もういくらおれをだまそうたってそうはいかねえよ。おい、おまえ達の共同の事業はな、おれの発明したこの近親相姦の仇討ちにはこれっぽっちの役にもたたねえのさ。おぼえとけ。コンドームめ、こっちは一万年の歴史があるんだ。おれのおれの血がおれの体からすっぽ抜けたのには、それはそれなりのフィクション(歴史)がひかえてんのが、てめえ達には見えねんだろう。売奴め。僧正め。何しろおれは今限りでさよならだ。バラバラになっちまったおれの骨と肉と心臓をおれの血を洗いながら探し出して、つなぎ合せなきゃならねえ。共同の事業からはさよならだ。殺すんなら殺せ。殺せたらの話だ。殺せるはずはなかろう。こっちは血なんぞ一滴もありゃしねえな。骨と肉が心臓と骨が血をあさって、うごめいてらあ、うっはははは。共同の「物」(A)は共同「者」(B)の全く非共同(C)による支配でなければならぬ。いつもAと、BとはCの全き非共同の前にくづれる。だからなあ、すべての芸術家はいつもその血を探し求める放浪の十字袈(ライン:十字架)(11)としてアナキストにしかなれんのだよきみ。それが共同の不毛(ライン:共同の不毛)(12)だ。共同はいつだってそれ以上に強い者に対する恐怖を敵対として維持される。恐怖がないかぎり、おれのようになあ、恐怖のないやつには、だから、共同が恐怖となり共同するあらゆる事業には一切の破壊をもって答える。それが破裂する十字架。強。くづれおちる塔(ライン:塔)(13)。歴史。おれはおれのだからそいつがおれの吹きとばされた血液だ。思いしれ!おれの血液は塔になり、十字架になり、国家(ライン:国家)(14)になり……、そしてくずれて破裂する。破裂した心臓は処女の血を探してさまよいつづける。狼の時間があれの肉をついばむ。死が恐いんじゃない。むしろおれ達は、生きてること事体が恐いのだ。なぜってそりゃああらゆる共同を拒否するからだ。生きている。モナリザも死んで、ビートルズも死んだよ。進行が、実際はないからだ。一体二つの世の中でだよ。よく見わたせ。この世の中で一体何があるかね。その進行しているものがだよ。不連続と断絶を拒否して進行しつづけているものがあるのかね。えっ何がおれをのぞいて進行できるか。そんなものはありゃしないええっ、進行しつづけるものなどありゃしないのだ。ぶった切れた進行終止のスクラップを、死の恐怖でつなぎ止めてるだけのところに、おれを抹消しきるだけの永久自転(ライン:永久自転)(15)があるかい、バカヤローウ。政治なんざあ弱い者の致者。治戦さ、バカヤローウ(ライン:バカヤローウ)(16)。おれの飛び散った血液の空間(ライン:空間)(17)はすべておれのものだ。貴様達には手も足も出るまい。おれの血が、おれの血が飛び散っているんだからなあ。おまえ達の入るすべては、おれの血で封印されてる。おまえ達が街を歩き、何かし、おまんこし、何んでもいい、おまえ達の所有できる時間内でおまえ達の目を引きつけるものはなあ。女の足から、産業、革命、軍隊だろうが、みんなおれの血がべったりくっついてるんだ。少しでもおれの血を洗ってきれいにできたら、おれだってもう少しは、おめえ達と話をするぜ。だが今はもうおまえ達の顔すら、おれの血しぶきで汚れきっちまってるじゃねえか。おれはなあこう考える。おれの血で封印されている全部をな、いいかありとあらゆる、おれの血の支配下にある全部をな、だから、おれの血を優秀な爆発に変えようというのだ。当然少しでも、おれの血を浴びてるやつは全部おれの心臓を中心にして爆発し、走り出し、流れ、動めき、心臓ではなくなり、渦巻きを起す。まぶしく、おれの世界をひっぱり出してくれるつうわけだ。当然おれには共同の事業というのはありえんよ。みんなが天皇(ライン:天皇)(18)になることがあってもみんなで天皇になることはできないとおっしゃるのですか。みんなが天皇になるなんてことはイマージの自由以外の何者でもない。みんながヤマトタケル(ライン:ヤマトタケル)(19)にまではなれるが、いつも天皇とは一人一人で現われるということを言っているのだ。バカモノメ。いつも一人でな。過去一千年の間にみんながキリスト(ライン:キリスト)(20)になろうとして、だれもなれずに、みんなでキリストになろうとして、どうしてもなれなかったのはなぜだね?えっなせだね?答えろバカモノメ! キリストや天皇が私生児である以上、みんながそいつになるとか、みんなでそいつになるとかそんなことはできる寸法じゃねえ。だから、いつもだれかを、そいつとして選び、そいつをいけにえにしてしかできねえのだ。政治が虚構なのは、このからくりよ。だれかを、そいつとして選んじまえばいいのだからな。これなら、誰だってできる。だがな、一人でこっそりやるやつがいる。そいつだって要請(ライン:要請)(21)がある。手前の飛びちった血の事物の数々の方からの要請だ。そいつを、一手に引き受けるやつが必ず出てくる。いつもそいつは人間のからくりを、そっくりひっくりかえしちまうだろう。要請、すべての行為は何らかの要請がある。そいつは言葉だ。政治(ライン:政治)(22)虚構(ライン:虚構)(23)で権力(ライン:権力)(24)の実在する、じつに言いきったテーゼ(ライン:テーゼ)(25)だ。すばらしい! ボーイの後を追いかけアスファルトを痴駆していく。ズタズタになった衣服と肉。骨は時間を殺して輝き出し、唇は金の歯車。戦車と接吻(ライン:接吻)(26)する。


こうして、このボーイには解らなかったが、政治を脱出したところでは未曽有の激しい運動が事物の背後から断えず、関係に断絶をもたらしにやってきていることを。ボーイは肉体そのものの錯乱を、錯乱として示すことで、いくらかは「フィクション」に抵抗を試みた。


(客に宣言するスメルジャコフ)


平和?それがどおした。戦争が恐いうちはそれはそれさ。そのうち、てめえの平和は戦争を欲しがるぞ。いいか貴様達。おれの前で父親ぶったりするんじゃねえ。おれはそいつらを全部ぶっ殺すからな。おれは手前で知ってるぜ。てめえたちゃいつも誰かの身代りだ。身代りにしかなれねえってな。さあわめけ! わめくんだ。わめくぐらいなら、てめえの口で、てめえの声でだまるつうもんだ。それからあとは、一生かけて、手前の足で動けるようにしろってことだ。この坊主共め! おれのくれてやった必勝だ。心臓だけは後生大事にかかえとけ。いつかはおれのいけにえにしてやるからな。それまでは大事にしとけ。政治などは官僚にまかせておけ、所詮は嘘っぱちだ。内的扶序なのね。必要なのはな、完全な秩序だ。完全な国家。完全とは何を意味すると思う。えっきさま。人間を寄せつけたりはしないまちがっても人間を寄せつけてはならぬ。これが完全なる国家の核心にならねばならぬ。後はすべて国家気取りの村々にすぎぬ。幻想と生活と利害に明けはなれ、追われておればよろしい。村なのだからなあ。貴様達はそうさ、人間をみて人間に優しさをおねだりしてさえ、いればよろしい。あるいは輪になってガミガミと、みんなでいじめておわればよかろう。完全なる秩序には戦う手も道徳の一つだ。おびえている間はきさまらは平和だからな。きさまらが、きさま達におびえなくなったら、今度は平和の方が、貴様達に戦争をおねだり出す。この時にいつも完全なる秩序は高笑いして、生の苦悩を死の苦悩に変る。死の苦悩は最も限りない秩序の営みだ。貴様達に自らの無秩序との直面を強いる。そうして、今度は戦争に平和をおねだりする。貴様達の方からな。この回転はおれのほうの一つの秩序だ。おれの方の来たるべき国家のな。そう来たるべき権力。別に金がねえと決まりゃあしないが、ものと食ってよ膣がねえ。おれは栄養失調なのだ当然そうだ。だから、すばらしいダンサーだ。ダンサーだ。舞踊家だ。生後、三ヶ月の幼児ほどのすばらしい錐空間だ。キスをしろ、権力にはキスをしろ。権力は食いちぎる。なでまわしはめこむもんじゃない!見ろおれは三十人の家族の族長だ。三人の妻、七人の息子連と三人の娘達だ。(七人の息子はボーイであり、三人の娘はウェイトレスであった。)


C 私生児のまなざしにおけるト書き


兵士も勇ましい訳ではないが廃墟に治じられれるほど、自己を棄てきってない通行人達より、はるか高位にいるのである。しかし決して、彼らは砂漠の遊牧民ではないし、彼らほどの高位を走ることは不可能である。ピラミッドの奴隷なのだもの。飢えの中で権力は行使しないかぎりは関係でしかないことをここのセールスマンは知ったのである。街は作った者が所有する。そして次に、作っている者が所有することになったが、街を作っているとは何か、街を生活することになるはずであるが、空間とは、行為が即ち、権力所有である。時間の立体化された生活はスープを所有することではなかったことを、セールスマン達は知らずに兵士達も知らずに、通行人達は街を演じることにアスファルトに頭を打ちつけることしか思い浮かばず、結局は彼等も為しうることを知らなかった。たたずみだけだ。銃声、バリケード、流血、あるいは、新聞の発行、壁に書かれたスローガン。歩行器の中で営むパラリンピックの為のおおネロとカリギュラの祭、エレクトラ。■(編注:■こざとへんに番)祭無き祭、歌を死を取り違えたがる群集達だ。人物達がいない?祭はもっともっと怠惰でなければならない。祭において死ぬベき人々ではない街々の方なのだ。時間は立体化される。権力は所有であり、所有とは行為であり、行為とは事物間の街々を逆転することであった。イメージを殺し、イメージを殺し、あらゆるロマンが途断えなければならなかった。共同の幻想はいつもロマンでありえたか。だが、一私生児によって亀裂を被む。共同のロマンはいつも革命を革命から遠ざけていた。私生児は権力を知らなかった。逆転する可能性は、水の入ったコップ、テーブル、マッチの軸さえも通行人達に投けつけはしない。私生児は投げられているものには少しは興味をもっていたらしい。しかし、それすらも彼らのトランクを開くことにならなかった。彼らの唯一の荷物であるトランク。トランク。トランク。

鉄のパイプで塔を作る人々の長い列や、輪の中にトランクを持って現われる。塔はもう少しで図面の1/4を仕上げようとしているところなのである。急に鉄バイプがひしゃげて倒れ、彼らのヘルメットを打ち砕いた。バリケードがガソリンをかけられ、火を吹いて燃えあがった。どうしたのでしょうね。タバコ屋の店員が列からかけて来て叫ぶ。きっと、何かのはずみで、ああなったのでしょう。小学生は喜んでいた赤ん坊はね、もっとすごいのだよ!いつも太陽と砂漠ではピラミッドが裂々している。ストーンサークルのままに、トランクを持ったまま立ち去る男の上を投び交う岩石、数々の破片。灰の中から発見れきたセールスマンの死体。プロタゴール液のサンプルでは弱すぎることを街々の人々に教えた。塔はくづれた、火はその後すぐにやってきた。なぜ、小学生は喜ぶのか?デパートの前をつまらなそうにうつむいて、歩き過きて来た彼女は、発行される新聞以前の情報にたたずんでいる。あの男のトランクとは何か。闘争か遊戯か。殺し屋を教育し、雇用する革命が消えてしまってから、凶器を略奪することさえ忘れてしまった。殺された記憶をたえず持ち歩くために?街々の影がむらに?では私生児には記憶は存在したか否。彼らにあってはいつも自殺する。時間を切断して回転する歯車。それは私生児の肉体をも切断しているはずではないか。皮膚を破って噴きでる血液は窒素と鉄分と共に大空に光を投げかけていた。肉体の弾振動と記憶の反復が同じ波長を供って、すベる時間によって切断され、さらに切断されつつ、時間の方を切断させんとする肉体のみが持つ。バラの花と駅前の雑踏の崩壊した時間での任務の遂行。ドレイ達の仕事。難破する喫茶店。難破するアスファルト。難破する塔。壮厳さは無い。難破する塔。ひしゃげける塔。とびちる喫茶店。難破する架空のオペラ。発狂するオペラ。荘厳さは無い。発狂するオペラ。退屈さが、退屈さそのものに変じて、爆発するアスファルト。オペラ。肉体がくづれ落ちるアスファルトを疾駆する。アラビアゴムと生理食塩水のあふれる水道と女陰。ゴムのはがされた事物のセックス。街々の発狂とギロチンの前の乱舞。教団性交のあとの無時間性の光なき光と、児の靴のちらばる空気。踊り出すセールスマン。血飲達。自立する記憶に彼壊された肉体と破片をていねいに集め、つなぎ合わせる数々の風習、生活、道徳、盲していないことの不幸。幻想と政治と、盲していいことの不幸と、盲しているための無数の慣行、呪術、あらゆる作り変えられた、物々、砂漠の発見、盲いている事の不幸とあらゆる規律と労働と数々の信仰は、再びピラミッドを作り出した太陽が存在しない今、さし当り、何を殺そうというのか?それを自分の日常生活を白骨化する光、それを恐怖する通出人はいつもピラミッドを信仰して食事する、架空のピラミッド、架空の太陽、実に架空のオペラのクライマックス。永遠に、数々のヒューマニズムと架空は決して観客に事欠くことなどないのだ。まぶしさとは無縁な暗箱はきっとせめてもの開き直おりのつもりだったのだろう。それは致命的な架空のオペラの中にさらにオペラ、ホセの死、無縁の死、今、必要なのはもっとも具体的なことなのですか、一言でギロチンと何か?労働者達が秘かに、託して自分の労働空間の所有権を握る、自分の会社の株式を全員で買占める。少なくもどちらかに近づくやり方だろう。日本演劇の死。かつての株主総会、たった食事は労働者の会食に変じて工場は部屋となる。気持ちの悪いスローガンやシュプレヒコールは一斉に消えて、最初から必要ではなった。ストライキは権力に対する沈黙などでなく権力に対するの服従がそうさせることに気づいた人間達、空間とは足らず自足していなければならない。掟の唯一の掟、架空を殺すには存在をもってすることだった。原人の宴。街々の花。街々に自殺を強いられ、架空に対処するのに発狂をもってするのに自己の架空をもってする。内部から存在が疎外をもってそやつを襲う。なぜならロマンはいつもコップ一つの値打ちもないからだった。それはいつもギロチンとは無縁だ。セールスマンは架空が架空であることに気づきながら自己の存在を架空の中で人参の種を引き換えることを知らない。株式が消えるとギロチンは再び爆発する。セールスマンの街中の無踏の光、人参の種とコップ、人間が媒介した生活よ、事物よ、しかもいつも人間の架空さを笑う、ダイコンとカブと灰皿との間にある途方もない遠方ほど遠方が人間と人間の間には無いのか?灰皿ほどに、コップほどに開放された男の肛門と女の膣陰と赤子の皮膚と、やはり人参の種の笑いを止めることはできないのか?太陽の光を浴びて、八百屋の計りに乗せられるエクアドル産のバナナとダブリンの街と私生児達の髪の毛にからみついているスプーンやフォークや、ピラミッドの破片を片づける奴隷たちの笑いは、何故からやってきたか?考えることは不毛に近い。それらに対処して心情を高揚させることは、盲いることによって光を回避するのと同じであった。認識の手はいつも関係の問で埋没する。相手と同じ速さで移動できなくてはならない。エクアドルとバナナとダブリンとローマと、髪の毛とスプーンと間断ない移動、問題なのは彼等が静止しないこと。目的は彼らを静止させること血飲児の遊戯と狼青年のセックス、少なくもコップを破壊した、人参の種の祭、アスファルトの下の人間達のかげ、かげの祭をさらにあやつるもうひとつの沈黙、その沈黙が肉体を乗り越えアスファルトを破る。目的はデマゴコスではなく静止であった。肉体は目的を遂行した。肉体は事物と同じ早さで移動し沈黙し、非在をかいくぐって、街々の陽と対面した。肉体は心情を捨てさり、その高揚の果てに心情は空間に没した。動物達はあらゆる静止とあらゆる沈黙を自らの受難として引き受ける。それは彼らの不変の非在証明だ。非在を証明しえたとき非在は存在にとってかわるだろう。通行人の数々の乱行もすべて非在の証明にしか至立ち得ぬ。彼等の疎外された心情は低みから存在を希求しつづける、終には行為と心情存在は生理的悪感を供いつつ絶望の自同律へ単振動を営みつづける。永久に満されることない存在と永久に非在を証明しつづける乱行。子宮を開いてすやすやねむるホステスの死。砂漠を走るセールスマン、中に人類というオアシスを残して限界のない逃亡と人生いづれも奴隷達の歌声ではないか。痴呆圏のドキュメンタリードラマでは奴隷達を殺すことは不可能だ。しかも奴隷達を支配しているのは私生児達であり、いつもおびえるのは政治家達である。一つのアトムボンが一つの国家を支えるのは彼等の恐怖故だ。彼等には廃墟をあげよう、そして安らかな老人ホームの一時と、セールスマンもホステスも廃墟を住み始めているからだ、廃墟には壁はない。部屋の内も外も同じ大気であった。壁はかつてあったその痕跡をとどめるに過ぎないから、廃墟で問題になるのはそこにある物の周囲である、冷蔵庫のまわりに台所がただよい出すからだ、廃墟も又空間であった。冷蔵庫のまわりに宇宙が慄い出すからだ。奴隷のまわりに街が漂い出すように、冷蔵庫のまとわりついているのは電気産業でもなく、ハム・ソーセイジの屠殺場でもなくベルトコンベアでもなく、ましてや賃金闘争でもなく、価格ラベルでもない、冷蔵庫は内外の別隈無しの、のっペらぼうな平面に置かれていることがすべてであったから輝いてこそいるだろうが、罪を開けることは教えやしない、そこに冷蔵庫が在るということはホステスに全くすべての人為関係と生活を断っていた、冷たい冬の朝のアスファルト、その上にばらまかれた道具はアスファルトの2DK、祝福せよ。内外の区別はわずか政治家達の安らかなあの老人ホームの一時だけであったろう。壁のある部屋!なんという事だ、きっと毎朝お祈りを捧げているのだ、見よ、なんとこの狭苦しい部屋、なんとおびただしい人間達の生息、数えることはのっけから無益なことだ。トイレでは革命書が読まれている、安心せよ、トイレには壁がある。玄関にはわずかな施し金をもらいに群がる、酔っぱらいと盲三匹、安らかな一時を一生とすることの唯一の信仰、彼らに淋疾のワギナを与えよ、くされたペニスもあげよう、血の出ることのない肉体。最初から、兵士であることの安吐はいづれ、族の血で、鼻袋ごとひっくりかえるのだ。(つづく)

注訳

A

a 群集……街・都市・村落共同体・セクト・国家
b 兄弟……出生の秘密を知った昔の関係。
c 完全な秩序……権力のことだが、宇宙の摂理のこと。不条理の総体としても使う。一言で言えば「空間」の律法。2 人間が末梢し切った世界の営み。3 たとえば資本論はすぐれた寓話として読まれるべきだということ。
d 蒸気機関車……産業革命。
e メサァイア……1 血縁憎怒を慎魂するの調べ。2 時ならぬ歌声。
f 時代……空間あるいは歴史。時間的かさぶた・あるいは場面。仮そめの天動説。
g 嘘……信じれば得するもの───仮像───俗に「現実」とよばれるもの。
h タバコ……三次元セックス。
i 体系……完全なる絞序の仮像のこと。実在はしない。
j 移植手術……自分の心臓を宇宙の営みと交換しようとしたりすること。サイボーグ
k 殺人……人間は戦争というルールで正当遊戯とすることも知っている。2 ぜいたくな平和。
l 族長……アブラハム。2 存在の主宰者。
m 肉欲……体内血液が肉体の外へ出ようとする無指向ベクトルで、高エネルギー化した血と肉の相関関係。別名バァトス。
n 支配欲……肉欲の道である。放出血液をもとにいそうとする。病気の一つのこと。治ゆが難しい。
o 敵…… 1 聞損異なった血液型どおしが示すありふれた現象。半島型。2 ニ元論のこと。
p 軍隊……1 闘争遊戯のためのグループ。2 恐怖からの要請によって、組織される弱者集団。3 すべての恐怖から解き放された空間。
q 真昼間……1 権力の現れ。2 革命的存在の放つ光。3 すべての恐怖から解き放された空間。
r 肉体……1 意織の有機物化。誤った使われ方である有名な例。2 肉体の地動説・意識の天動説、この双方のバットルにセックスから表現が生まれる。
s 所……1 抽象的な牢獄。2 「在る」ということは部屋。
t 肉片……無意識な役者。生成と死滅をくりかえしつづける。アジテータァー及び真昼間の人。
u 局長の娘……1 体制上部構造のからくりを知りつくした処女。2 ランボー。3 妻でありながら実は自分の娘であった場合。4 芥正彦の童貞を盗もうとしている未亡人。5 女性のオイデボス。
v 死刑……労働の反意語。それ以外の何ものもささえない。2 人類の存在の前提。


B

0 註とはあくまでも混乱を食い止めようとするものである。しかし、それも又混乱のもとになる。
1 ガキ……言葉。発狂意識。一方的に秩序から愛された場合の死、あるいはその逆。簡単には世界。
2 自分でわかっていること……過去的歴史。
3 肉……幻想総体とその生活。
4 骨……形態・権力の空間構造。
5 心臓……生成と死滅の氷久運動・即ち宇宙そのものの。
6 呪文……歴史の恩寵。存在の恐怖。
7 近親相姦……人間の営みの総体
8 痛み……拒絶反応の一つ。
9 血……言葉、そのもの。
10 共同事業……複数による変革の意志。
11 十字架……過去及び定着。幻想の総ての重力
12 共同の不毛……人間は集歩しないということ。
13 塔……高等な犯罪者(実際は体制側を犯している)の閉じこめられる風の強い牢屋のこと。
14 国家……近親相姦によってふくれた暗い関係大家族のこと。
15 永久自転……心臓の営みの一例。
16 バカヤロウ……本来笑いながら使われる記号。 
17 空間……歴史から時代をはぎとった宇宙生物体。
18 天皇……共同幻想体のその歴史の恩寵の別名。感じるか、感じないかは記憶とコンプレックスによる。
19 ヤマトタケル……自己否定した天皇の物語の主人公。
20 キリスト……ヨーロッパを作ったアジテータァ。天皇のまたの名、あるいは息子の名。
21 要請……ピラミッドを造れとギゼーやラムセスに命令した言葉。
22 政治……ルールのこと。本来、ルーラーはあってはいけない。
23 虚構……秩序のこと。
24 権力……無秩序のこと。高みからまなざしを放つ美・ロゴスの変幻体。
25 テーゼ……真理を伝える言葉・律法・人を得て肉体に変えしうる力を有する音声であり、又、一つの権力でもある。役者のセリフ・形態の暴力。沈黙そのものの時に人は美とよぶ。一方的に幻想いだきうる時間の訪れ。
26 接吻……出会いの表現法の詩的記号。


このページトップへ