鈴木創士 特別インタヴュー
◎仏文学者/作家として知られる鈴木さんですが、今回の『アルトー24時』は、その幅広い活動のなかでも大きな比重を占めるアントナン・アルトーについての作品です。そもそも、鈴木さんとアルトーとの縁はどのように始まったのでしょう?
とりわけ高校のバリケードの中で読みました。あとガールフレンドの家とか、むさくるしい街角とか、荒んだ空地とか、神社の境内とか、ローカル線の駅のベンチとか、ゴーゴー喫茶(みなさんはそれが何かはご存知ないとは思いますが)とかで。ちっぽけなバリケードの暑い夜は、高校生たちにとって、読書をするには最適の環境でしたし、後からわかったことで後の祭りですが、アルトーの亡霊からのサインがいろいろあったのです。他の諸々の思想を論破するにはこれが最適で、最も性に合うと思いました。アルトーはそんな風に耳もとで大声で囁いていました。これが間違いの始まりでした。フランス語を独学したのはそもそもアルトーを読むためでしたが、何冊翻訳しようが、のた打ち回ろうが、腹を立てようが、何をしようが、いまだにちゃんと読めません。
◎2011年に於けるアントナン・アルトーの意義とはなんでしょう? 現状認識を含めたご回答を頂ければと存じます。
アルトーは20世紀フランスが嫌々生み出した最大の詩人・思想家のひとりです。これにはなんの留保もいらないし、文学や思想に興味がある人(なんだそれは! ノー!)はよくご存知でしょう。でも私を含めていったい誰が何を知っているというのでしょう。「社会」はアルトーを拒絶したのですから、私はそういう社会を拒絶したいとずっと思ってきました。精神医学がどうのこうのと言いたいのではありません。アルトーが精神異常であろうとなかろうと、そんなことはたぶんどうでもいいことです。アルトーにはそれ以上のことがあるのです。しかしアルトーはまだほんとうに読まれているとはいえないと思います。彼の思想は同じことを言っているようでとても複雑です。もっと別の、まったく違う読み方がきっとできるのではないかとますます感じる今日この頃です。凪のなかではためいている焼けただれた旗印、あるいはさまよえる幽霊船の船長のようなものなのですから。
◎ひとことで言って、アントナン・アルトーとは何者でしょう?
わが隣人。
◎今回のお客さんたちへのメッセージをお願い致します。
僕もお客さんです。客は歓待しなければならない。ご自分が歓待されていることをよく覚えておいていただきたい。
鈴木創士:原作脚本
1954年生まれ。作家、フランス文学者、評論家。著書に『アントナン・アルトーの帰還』『魔法使いの弟子』『中島らも烈伝』、新刊に『ひとりっきりの戦争機械』(青土社)他。アルトー、ジュネ、ランボー、ジャベス、ソレルス他の訳書がある。