結城一糸より:『アルトー24時』上演に際して
「アルトー24時」が始まる。アルトーに十代の終わりに出会いアルトーの芝居をやりたいと思ってから、気がつけばもうずいぶんと時が歴回ってしまった。
実のところ結城座をやめたのも、結城座では決してアルトーの芝居はできないだろうと確信したことが大きな要因にもなっていた。
今から3年程前、せっかく結城座をやめたのだからアルトーをやらなければと強く思い、芥正彦氏に電話をいれた。アルトーをやるのなら演出は芥さん以外に考えられなかったからだ。お会いして思いの丈を話してみたが、芥さんはなかなか首を縦には振らなかった。
私の思いは分かってもアルトーをやるには思いだけでは出来ない、つまり覚悟が、それも生半なものではない、人生を、命を賭けるほどの覚悟が、意志が、意志する力がなければ出来ないことを延々と諭された。私の中で思いだけが増大し、気持ちだけがつんのめっていたことを改めて思い知った。焦らずにもっと腰を据えなければ。それからは月に一度ほど食事をしながら色々なことを話し合った。イヤ教示を受けたと云ったほうが的を射ているだろう。それから一年ほど後、芥さんは演出を引き受けてくれた。そして作家の鈴木創士さんを紹介されて、本をお願いし、今度はその鈴木さんから佐藤薫さんを紹介され音楽をお願いした。また芥さんから舞踏家の大森政秀さん、小松亨さん、俳優の田村泰二郎さん、平井賢治さん、建築家の本間健太郎さんと、次々と関係者が網の目状に拡がっていった。総勢二十数名、愈々「アルトー24時」で巨人アルトーに挑む。
結城一糸:人形演出
江戸糸あやつり人形結城座、十代目結城孫三郎の三男として1948年に生まれる。'72年に三代目結城一糸を襲名。古典的な糸あやつり人形芝居の継承者の中枢を担いながら、前衛的な演出家と共同作業を積極的に進める。